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15話 咆哮
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弁当を食い終わった俺と松原は、平本と徳丸とかいうスクールカウンセラーが消えた旧校舎へと向かった。
旧校舎は3年ほど前に改築工事とともに廃止され、今は合宿などで使う宿泊棟となっている。が、泊まれる場所は一部だけで、残りのほとんどは瓦礫が積み上がっていたりしてとても人が住めるような状態ではない。
「なんで旧校舎なんかに?」
俺が独り言を言うと、松原が答える。
「──、昔ここで女子生徒が暴行を受けたの知ってる?」
「ああ、あれだろ?3年が1年をナンパしてあしらわれたから殴ったやつ」
去年、この学校ではちょっとした事件が起きていた。入学したての1年生が迷っていたところ、3年生の男子生徒数名が不埒な目的で近づき、旧校舎へ連れ込んだ。1年生は怖くなり逃げようとしたが、激昂した3年生に暴行を受け、結局女子生徒が見つかったのは夕方だった───という噂が広まっている。
「あれ、噂じゃなかったのか?」
「ああ」
「じゃあでもなんで噂なんだろうな?あんな大きな事件だったらもっと知られてるだろうに」
俺が言うと、松原は少し悲しそうな顔をした。
「・・・消したんだよ」
「は?」
「消したのさ。権力を振りかざしてな」
-------------------------
バン!と、大きな音が居間に広がる。
反射的にビクッとなってしまう。見ると、おじさんが顔を真っ赤にしてテーブルを叩いていた。その目は怒りに満ち満ちている。
「じ・・・冗談じゃない!こんな端した金で娘の傷が癒えるとでも思ってるのかあんたらは!!!」
おじさんが叫ぶ。今まで何度も怒られてきたが、こんなおじさんは見たことがなかった。
先週、マナ姉がボロボロに泣きながら帰ってきた。学校で何かあったらしい。話しかけても嗚咽を漏らすだけで、一言も喋ってくれない。友達と何かあったのかな?と思っていたけど、おじさんもおばさんもすごい剣幕だったから、多分そんなことじゃないのだろう。
おじさんが怒っているのは、何やら怪しい雰囲気の大人たち3人。見るからに悪そうな柄をしている。
「まぁまぁ、落ち着いてください。お金ならもっと盛りますよ」
「金の話じゃない!」
おじさんが吠える。おばさんは隣でずっと咽び泣いていた。
こんなやり取りが延々と続いた。結局話は纏まらず、次回(がいつなのかは知らないけど)に持ち越しとなった。
「愛美・・・」
おじさんのつぶやきが耳にこびりついて離れなかった。
ある日、学校から帰ってくると、マナ姉が自傷行為をしていた。いわゆるリストカットだ。
最初、それを見て声が出せなかった。
穏やかな微小を浮かべながら、ゆっくりと手首にカミソリを近づけていく。まるで何回も練習してきたかのような洗練された動きは、もはや美しく妖艶ですらあり、不覚にも見惚れてしまった。恐らく、今まで見てきたマナ姉で綺麗な瞬間だった。
ハッとなって気づき、慌ててマナ姉を止める。すると、マナ姉は急に泣き出し、抱きしめてきた。
「ゆう・・・」
嗚咽混じりにわんわんと泣き出したマナ姉の体は、いつもよりずっと小さく、儚かった。
「何が、あったの・・・?」
マナ姉にそう問うと、マナ姉はゆっくりと首を振った。
「ゆうだけは・・・ゆうは、知らないでいて・・・」
マナ姉が言い、さらに強く抱きしめてきた。
マナ姉の体はなんだかふにふにしていて、頼りなかったけど暖かかった。
それから5日後だった。
マナ姉が学校で飛び降りたのは。
-------------------------
「それは…ひどいな」
俺は松原から話を聞き、いたたまれない気持ちになった。
「にしてもお前、なんでそんな話を?」
俺が疑問に思って聞く。
「っ、それは───」
松原が口を開いたときだった。
旧校舎から、男の怒号が聞こえた。
旧校舎は3年ほど前に改築工事とともに廃止され、今は合宿などで使う宿泊棟となっている。が、泊まれる場所は一部だけで、残りのほとんどは瓦礫が積み上がっていたりしてとても人が住めるような状態ではない。
「なんで旧校舎なんかに?」
俺が独り言を言うと、松原が答える。
「──、昔ここで女子生徒が暴行を受けたの知ってる?」
「ああ、あれだろ?3年が1年をナンパしてあしらわれたから殴ったやつ」
去年、この学校ではちょっとした事件が起きていた。入学したての1年生が迷っていたところ、3年生の男子生徒数名が不埒な目的で近づき、旧校舎へ連れ込んだ。1年生は怖くなり逃げようとしたが、激昂した3年生に暴行を受け、結局女子生徒が見つかったのは夕方だった───という噂が広まっている。
「あれ、噂じゃなかったのか?」
「ああ」
「じゃあでもなんで噂なんだろうな?あんな大きな事件だったらもっと知られてるだろうに」
俺が言うと、松原は少し悲しそうな顔をした。
「・・・消したんだよ」
「は?」
「消したのさ。権力を振りかざしてな」
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バン!と、大きな音が居間に広がる。
反射的にビクッとなってしまう。見ると、おじさんが顔を真っ赤にしてテーブルを叩いていた。その目は怒りに満ち満ちている。
「じ・・・冗談じゃない!こんな端した金で娘の傷が癒えるとでも思ってるのかあんたらは!!!」
おじさんが叫ぶ。今まで何度も怒られてきたが、こんなおじさんは見たことがなかった。
先週、マナ姉がボロボロに泣きながら帰ってきた。学校で何かあったらしい。話しかけても嗚咽を漏らすだけで、一言も喋ってくれない。友達と何かあったのかな?と思っていたけど、おじさんもおばさんもすごい剣幕だったから、多分そんなことじゃないのだろう。
おじさんが怒っているのは、何やら怪しい雰囲気の大人たち3人。見るからに悪そうな柄をしている。
「まぁまぁ、落ち着いてください。お金ならもっと盛りますよ」
「金の話じゃない!」
おじさんが吠える。おばさんは隣でずっと咽び泣いていた。
こんなやり取りが延々と続いた。結局話は纏まらず、次回(がいつなのかは知らないけど)に持ち越しとなった。
「愛美・・・」
おじさんのつぶやきが耳にこびりついて離れなかった。
ある日、学校から帰ってくると、マナ姉が自傷行為をしていた。いわゆるリストカットだ。
最初、それを見て声が出せなかった。
穏やかな微小を浮かべながら、ゆっくりと手首にカミソリを近づけていく。まるで何回も練習してきたかのような洗練された動きは、もはや美しく妖艶ですらあり、不覚にも見惚れてしまった。恐らく、今まで見てきたマナ姉で綺麗な瞬間だった。
ハッとなって気づき、慌ててマナ姉を止める。すると、マナ姉は急に泣き出し、抱きしめてきた。
「ゆう・・・」
嗚咽混じりにわんわんと泣き出したマナ姉の体は、いつもよりずっと小さく、儚かった。
「何が、あったの・・・?」
マナ姉にそう問うと、マナ姉はゆっくりと首を振った。
「ゆうだけは・・・ゆうは、知らないでいて・・・」
マナ姉が言い、さらに強く抱きしめてきた。
マナ姉の体はなんだかふにふにしていて、頼りなかったけど暖かかった。
それから5日後だった。
マナ姉が学校で飛び降りたのは。
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「それは…ひどいな」
俺は松原から話を聞き、いたたまれない気持ちになった。
「にしてもお前、なんでそんな話を?」
俺が疑問に思って聞く。
「っ、それは───」
松原が口を開いたときだった。
旧校舎から、男の怒号が聞こえた。
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