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13話 欠けたピース
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俺の視界の端には、窓に水滴がポツポツと付着していくのが見えている。傘持ってきたっけ。天気予報は雨が降るなんて言ってなかったな、と頭の中で考えた。
と、そんなどうでもいいことを考えないと、今すぐこいつを殴ってしまいそうだった。
「あの、逃げって、どういう、こと、ですか」
体が震えてうまく声に出せない。恐らく俺は今とてつもない形相をしているだろう。顔を俯かせておく。
「はい?いやだから、そんな風になるくらいなら誰かに助けを求めればいいじゃないかってことですよ。記憶喪失になるくらい溜め込んで、自分で発散できなくて、なんて自業自得の何物でもないじゃないですか」
多廻が言った。
最前列にいる浅田が俺と多廻の会話に気づいたようだったが、俺が顔を俯かせているからか、こちらを見てニヤニヤと嘲笑していた。
つくづく幸せな奴らだと思った。
「逃げられない、だったら、どうするんですか」
俺は己の怒りを抑えるのに必死で、日本語が変になった。
浅田は流石に俺と多廻が何の話をしているのか理解したようだった。多廻を思いっきり睨みつけてくる。単純な奴だ。
多廻が顔を顰めた。
「はあ?逃げられないって。そんなの──」
と、多廻が何か言いかけたところで、話し合いを終えた中田先生が戻ってきた。
「あ、多廻先生。ありがとうございます」
中田先生が多廻に会釈した。多廻は胸を張り、
「いえいえー!」
と快活に返していた。
俺の理性がよく頑張ってくれたと、後から思うのだった。
-------------------------
平本が復活したというニュースは瞬く間に学年中に拡がり、しばらくの間1組はお祭り騒ぎだった。おかげで全然寝れやしなかったが、平本が楽しそうで何よりだった。
俺もいくつか平本に聞きたいことがある。でも毎時間女子が集ってるから話に行こうにも行けないのだ。陽キャじゃないから一部の男子に混ざることもできないし、やっぱりまだ浅田達は俺を目の敵にしているようだったし。印象操作って怖い。
まあ、なんというか、10ヶ月前に失われた1組が戻ってきたって感じだった。欠けていたパズルのピースを偶然見つけて喜んでいる子供のような、そんな雰囲気だった。
ただ、俺以外にクラスの誰が気づいているのだろう。
パズルのピースは見つかっただけで、まだはめられてはいないことを。
と、そんなどうでもいいことを考えないと、今すぐこいつを殴ってしまいそうだった。
「あの、逃げって、どういう、こと、ですか」
体が震えてうまく声に出せない。恐らく俺は今とてつもない形相をしているだろう。顔を俯かせておく。
「はい?いやだから、そんな風になるくらいなら誰かに助けを求めればいいじゃないかってことですよ。記憶喪失になるくらい溜め込んで、自分で発散できなくて、なんて自業自得の何物でもないじゃないですか」
多廻が言った。
最前列にいる浅田が俺と多廻の会話に気づいたようだったが、俺が顔を俯かせているからか、こちらを見てニヤニヤと嘲笑していた。
つくづく幸せな奴らだと思った。
「逃げられない、だったら、どうするんですか」
俺は己の怒りを抑えるのに必死で、日本語が変になった。
浅田は流石に俺と多廻が何の話をしているのか理解したようだった。多廻を思いっきり睨みつけてくる。単純な奴だ。
多廻が顔を顰めた。
「はあ?逃げられないって。そんなの──」
と、多廻が何か言いかけたところで、話し合いを終えた中田先生が戻ってきた。
「あ、多廻先生。ありがとうございます」
中田先生が多廻に会釈した。多廻は胸を張り、
「いえいえー!」
と快活に返していた。
俺の理性がよく頑張ってくれたと、後から思うのだった。
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平本が復活したというニュースは瞬く間に学年中に拡がり、しばらくの間1組はお祭り騒ぎだった。おかげで全然寝れやしなかったが、平本が楽しそうで何よりだった。
俺もいくつか平本に聞きたいことがある。でも毎時間女子が集ってるから話に行こうにも行けないのだ。陽キャじゃないから一部の男子に混ざることもできないし、やっぱりまだ浅田達は俺を目の敵にしているようだったし。印象操作って怖い。
まあ、なんというか、10ヶ月前に失われた1組が戻ってきたって感じだった。欠けていたパズルのピースを偶然見つけて喜んでいる子供のような、そんな雰囲気だった。
ただ、俺以外にクラスの誰が気づいているのだろう。
パズルのピースは見つかっただけで、まだはめられてはいないことを。
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