歪められた日本の歴史改竄を正す為に大東亜戦争時にタイムスリップした戦闘艦の物語

蒼焔の提督

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第18話:

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 小沢機動部隊旗艦装甲空母”大鳳”にて
 友軍の大戦果の報告受けて機動部隊全体は正に狂喜乱舞状態であった。
「やりましたね、長官! ”エンタープライズ”は取り逃がしましたが他の正規空母を撃沈させましたし航空機もほぼ全滅状態です。暫くは太平洋方面は安泰だと思います」
 小柳参謀の嬉々とした言葉に小沢は頷くが完全に手放しで喜ぶことは出来なかった。
 確かにアメリカ機動部隊は壊滅したがその代償として我が方の艦載機も百機近く失ってしまう被害が出たのは痛かった。
 聞けば対空砲火も直援機も殆ど上がっていないばかりか完全な奇襲攻撃だと言う事だがそれでも訓練不足の結果、百機も失ったことにショックだったのである。
 これが完全な体制で待ち受けられていれば……その様子を想像したとき、小沢は震えた。
 パイロットの養成は一日にしてならずで生き残った人員で再び訓練を課して精鋭に育てなければならないのだが小沢にはそれに関して心配なことがある。
「長官、軍令部総長から連絡がありました」
 丁度、その事を考えていたときに嫌なタイミングで軍令部から電文が来て苦い表情をする。
「読んでくれないか?」
 小沢の言葉に小柳参謀は頷き読み上げる。
「貴官の勇戦に敬意を評すると共に内地帰還後、大将に昇任させると共に豊田連合艦隊司令長官辞任に伴い貴官を連合艦隊司令長官に任命する事を決定した。それに伴い、最低限の護衛艦と全空母と艦載機を内地に引き上げて補充と静養と訓練を実施せよ。尚、それ以外の艦船は栗田艦隊と合流してサイパン島沖にいる戦艦部隊及び上陸部隊を叩き潰す事に専念すること」
 小柳が読み上げる内容に小沢は???の状態で暫く無言状態であった。
 と言うより何が何だか訳が分からなくなっていたのである。
「長官?」
 小柳の言葉に小沢は我に返ると小柳から電文を受け取って熟読するが確かにその内容である。
「おめでとうございます!! 連合艦隊司令長官とは……大出世ですね。いや、当然の結果ですね? この内容を他の艦船に流します」
 そう言うと小柳は敬礼して艦橋から出ていく。
 小沢は連合艦隊司令長官の役職や昇任の事よりも別の事を考えていた。
「……何が起きた? あの軍令部が空母を全て引き上げさせて訓練・静養に専念? 今までなら引き続き、全航空機を集結させてサイパンを攻撃せよと言ってくるのが事例だったんだが……」
 ミッドウェイで失われた航空隊を再建させた時にでもその艦載機を分散させて陸上基地に配備して各個撃破されていきベテラン搭乗員が失われていったのである。
 それが全く別の指令が出たので???状態であったがせっかくの命令なので軍令部の気が変わらないうちに空母を内地に引き上げさせようと決意すると同時に栗田艦隊と合流する艦船を選ばなければならない作業が出来たなと小沢は思う。
「さて、旗艦をどの艦に移そうかな?」
 小沢は艦橋の外へ出て水平線を眺める。
 何故か分からないが希望が見える雰囲気な青空と水平線であった。

 サイパン島日本軍基地内にて
 未だ激戦が続くサイパン島であったがある日を境に敵の攻撃が鈍くなってきている事を防衛部隊は感じていたのである。
「何が起きた? 我が軍をおびき寄せる為の罠か?」
 地下作戦室内にて中部太平洋方面艦隊(司令長官:南雲忠一中将)が横にいる陸軍総司令官の小畑大佐に尋ねると小畑は少し考えて頷く。
「おそらくヤンキー共は一気に片をつけようと思っているに違いありません。ここは慎重に動かなければならないと考えますので防衛に重点を置くことが大切かと思います」
 小畑大佐の言葉に南雲長官は頷く。
 考えてみれば中部太平洋方面艦隊といってもお飾りだけで軍令部の本心は死守して玉砕せよと言う事であろうなと南雲は思う。
 それでも軍人として最後まで戦い抜こうと思っていたがやはり海の生活は懐かしくて出来れば海で死にたいと思っていたが敗北続きの司令官ではそれも叶わない事なんだろうなと思う。
「山本閣下、私ももうすぐそちらに逝きますがせめて胸を張ってお会いしたいと思います」
 南雲がそう思ったときに無線室から伝令員が血相を変えて飛び込んでくる。
「貴様、落ち着け!! ここを何処だと思っている?」
 小畑大佐が怒鳴ったが伝令員は興奮していると共に涙を流している。
「こ、これを……」
 伝令員が持ってきた文面を小畑大佐がひったくって南雲に渡すと同時に読む。
 文面を読んでいくに従って南雲と小畑はみるみる内に顔が破顔していくのが分かる。
「し、信じられない! アメリカ機動部隊が壊滅……”エンタープライズ”以外の正規空母を撃沈と同時に敵艦載機も全滅させただと……」
 この文面が直ちにサイパン守備隊全体に知らされると一気に士気が増大したばかりか軽い精神を犯されていた者も完全に復活するという事態が起きる。
「さすがは海軍さんですね? 敵の行動が鈍ったのはこの事だったんですね。よし、これから反攻作戦のシナリオを作りますので南雲さんも参加お願いします」
 小畑の言葉に南雲も頷くと同時に心の中で小沢に礼をする。
「よくやってくれた、どうやら私も生き残ることが出来そうだが……貴官の下でもいいからもう一度、空母で指揮を執りたい」

 栗田艦隊旗艦”大和”にて
 世界最大の攻撃を誇る日本海軍超巨大戦艦”大和”と”武蔵”……。
 世界最強の四六センチ主砲を持つ戦艦が二隻、海に浮かぶ鉄の城の如く海上を進んでいる。
 小沢機動部隊によるアメリカ機動部隊壊滅の事実が伝わると艦隊全体が狂喜乱舞の状態になる。
「長官、小沢さんは見事、やってくれましたね? 聞けば大将に昇任と同時に連合艦隊司令長官に就任するとか……。流石ですね」
 参謀の言葉に栗田は黙って頷くが彼にとっては嬉しくない内容だった。
 元々は水雷屋でここまでのし上がってきた彼は、水上艦同士の戦いこそ本来の戦闘と思っていたがいつのまにか航空母艦による艦載機に主力の座を奪われてしまったので面白くなかった。
「ま、聞けば艦載機も百機近く失ったみたいだね? しかも何の反撃も受けなかったにも関わらずに」
 やはり最後は戦艦を初めとする主砲の打ち合いや魚雷戦こそが海軍の主役となる事を信じている。
「さあ、サイパン沖のアメリカ戦艦部隊を叩き潰すぞ! 聞けばフィリピン方面のオルデンドルフが率いる真珠湾亡霊戦艦も合流したみたいだからこれをもって撃滅する!」
 栗田艦隊は、全速力でサイパンに向かっていく。

 ハワイ島統合作戦本部にて
「……もう一度、言ってくれないか?」
 執務室に座っているニミッツ提督が信じられないような表情をしている。
 参謀長が再度、報告書に上がってきた内容を伝えるとニミッツは持っていたペンを落としてしまう。
 ペンはテーブルをコロコロと転がって床に落ちるがそれを拾い上げることはしなかった。
「これは確かなのか? いくら何でも凋落の一途を辿っている日本海軍に我が精鋭機動部隊が壊滅させられる程の戦力を持っているのか? ここに書いてあるが敵の未知の兵器だという事だが我が潜水艦全てを撃沈した例の艦船か?」
 ニミッツ提督は報告書にあった内容を何度も熟読したが信じられないような感じである。
 一瞬で数百機を撃墜した謎の砲弾。
 日本海軍が持つ三式弾では違うし我が軍の最新兵器であるVT信管でもあんな威力はでない。
 得体が知れない日本という国を改めて認識する。
「しかし、スプルアーンスが戦死するとは……何たること! 空母より彼を失ったことが大きすぎる」
 ミッドウェイで劣勢であった米海軍を空母四隻からなる日本海軍を叩きのめした手腕は見事でそれ以降も猪突猛進ハルゼーと共に活躍してここまでの勝利を祖国に貢献してくれた。
 ニミッツ提督は暫く彼の業績を思い出していたが参謀の言葉に我に返る。
「提督、今日の臨時会議の出席者全員が到着しました。第一会議室におられます」
 参謀の言葉にニミッツは頷くと今までの時系列を記した書類を持つと会議室に向かうべく執務室から退出していく。
 彼の頭の中ではこれからの行く末が分からなくなっていたのである。

 ホワイトハウス大統領執務室にて
「これは……何かの間違いではないのかね? スチムソン国務長官」
 アメリカ合衆国首都ワシントンDCにあるホワイトハウス内の大統領執務室にてルーズベルト大統領が手元の書類を見ながら喋る。
 鋭い目をしていて正に老獪と言って良いほどの雰囲気を出している。
 対するスチムソン国務長官も鷹の目をしていて正に政治の世界で生きている人物である。
「して、この史上最大と言って良いほどの大敗北だが君はどんな風に考えているのかね?」
 ルーズベルト大統領の言葉にスチムソンは薄笑いをしながら答える。
「確かに空母を初めとする艦載機の消耗、そして優秀な提督を失いましたが最終的な勝利は我が国にありますので私は何の心配もしていません。問題は世論ですがそこはうまく誘導して厭戦気分等おこらないように処置する所存です」
 スチムソン国務長官は民間出身で弁護士であった経歴を持つが非常に冷酷な性格をしていて日系人を強制的に収容所に連行した中心的な人物である。
 真珠湾攻撃をあらかじめ知っていた節があり、真珠湾攻撃の報を聞いたときに大いに喜んだという噂があるがそれは戦争参加にあまり協力的ではない国民を一致団結させるという目的であった。
「我が国の生産能力ですが工業や産業界に発破をかけさせます。税収の三割を兵器製造に充てるつもりでしてそれによって一週間で二隻の護衛空母を建設させて一月に二隻の航空母艦を建造させるようにしますので半年間はにらみ合いになるでしょうがこれも先の海戦で負けたために出来る処置です」
 淡々と喋るスチムソンにルーズベルトは満足そうに聞いている。
 彼も又、最終的には日本の敗北は必須でありその戦後を見据えていたのである。
「所で原子爆弾の方はどうなっているのかね?」
 原子爆弾……人類にとっての未知の兵器であり、これからの世界のパワーバランスをひっくり返すもので政府を挙げて取り組んでいるマンハッタン計画である。
「順調に進んでいます。とてつもない強力な兵器でこれを黄色い猿のジャップの都市に落とす事を考えています。それまで降伏をしてもらったら困るので今回の日本の勝利は有り難いことかもしれません」
 スチムソンは楽しそうな表情をしながら喋る。
 彼の言葉に頷くルーズベルトは車椅子を執務室の窓の方に移動して外を見る。
「欧州の方もアイク達は順調にやっているとの事だ。間もなくオーバーロード作戦が発動される事になるがそれに成功したら来年の四月にはヒトラーを倒すことが出来よう。そしてソ連と一時的だが手を組むが仮想敵国としてやっていかなくてはならない」
 ルーズベルトは次の選挙で当選する気でおりその為の方法を考えていた。
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