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第11話:
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六月十五日、米軍がサイパン島上陸に伴ったあ号作戦の決戦発動を受けて、小沢中将率いる第一機動艦隊はタウイタウイ泊地を出撃する。
かつての歪められた歴史とは違って、付近海域に米潜水艦が皆無の為、出撃を敵に知られていないという幸先が良い旅立ちである。
歪められた歴史上では、六月十五日には第一補給部隊において油槽船”清洋丸”と駆逐艦”白露”が衝突事故を起こし、”白露”が沈没したが今時間軸では発生していない。
「司令、何とかここまで来ましたね? ここまで厳しい訓練を耐えたのです、彼達は必ずやるでしょう」
艦隊参謀の小柳が艦載機の整備作業を見ていた小沢長官に言うと彼は頷くが未だ敵との圧倒的な戦力の差を気にしていたのである。
「富嶽殿のお陰で逐一、敵機動部隊の位置は分かるのが幸いだね? 真珠湾攻撃時の練度を誇る搭乗員達ならば大戦果を期待できるんだろうが……」
小沢長官の言葉に小柳は確かにまだまだ不安的要素はありますがここまで来たからには迷いは捨てないといけませんというと小沢は、はっとした表情をすると小柳に微笑む。
「そうだな、確かに指揮官が不安な顔をしていれば部下達にも悪い影響が出るか。所でこのまま行くとどれぐらいの時間で発艦できるか?」
小沢長官が苦心の末、考えついたアウトレンジ戦法を発動する絶妙なタイミングを質問すると小柳は三日後の十八日の昼頃に発艦すれば敵が油断する時間である日没直前に攻撃を仕掛けることが出来るとの事。
「攻撃隊はそのままグアムや硫黄島といった各飛行場に行くことを伝えております」
この日没直前の攻撃は危険が伴いすぎて反対の意見が多々あったのだが小沢はそれを退かせて自分の決意を優先する。
小柳の言葉に小沢は、ふと”瑞鶴”に搭乗している『亀山真路』少尉の事を思い出す。
彼は、真珠湾攻撃時からの数少ない古豪の一人である。
歴戦の空母”瑞鶴”甲板上では、整備兵達がびっしりと甲板に並べられている艦載機の最終チェックを実施していた。
この時点での日本海軍の急降下爆撃機、雷撃機は世代交代をしていて事実上、この戦いが次世代航空機の初陣でもある。
艦上戦闘機は残念ながら次世代戦闘機”烈風”の生産が遅れていたのでまだ零戦である。
雷撃機は”天山”・急降下爆撃機は”彗星”といった性能も格段に優れていたのである。
その甲板上で作業している整備兵の邪魔にならない位置で一人のパイロットが海を見つめていた……。
歳は三十代で日焼けが激しく年季が入った表情をしていて誰がどう見てもパイロットであると分かる。
「亀山少尉、ここでしたか。飛行隊長がお呼びです」
伝令員と思われる少年が亀山の元に小走りに走ってきて飛行隊長の『近藤幸夫』大尉が探していることを伝えると亀山は頷く。
亀山がブリーフィング室に行くと近藤隊長は黒板とにらめっこをしていたが亀山が入ってくると黒板から目を話してにこやかに声をかける。
「おう、亀山! いよいよ出撃だな、必ず八〇を敵空母の甲板にぶつけてやるわ!」
八〇というのは八〇〇キロ爆弾という意味で直撃すれば大破させるぐらいの高威力爆弾である。
近藤隊長の言葉に亀山は初めて笑みを浮かべると負けずに言い返す。
「隊長、それなら私も敵空母のドテッ腹に九三式魚雷を食わせてやりますよ! ”エンタープライズ”なら大歓迎なのですが」
真珠湾攻撃時から戦ってきた亀山にとって”エンタープライズ”は宿敵と言っていい存在である。
亀山の言葉に近藤隊長は頷くと亀山に何気ない質問をする。
「なあ、亀山? 貴様はこの戦争を生き残ればどうするんだ?」
近藤の言葉に亀山は少しだけ考えると喋り始める。
「この戦争が終わったら私は田舎に帰って晴耕雨読の生活を楽しみたいですね」
亀山の言葉に近藤は本当の事を隠しているなと思ったが何も言わずに彼に合わすことに決めた。
「いいな、晴耕雨読か……。今の俺達にとっては最高の贅沢だな、俺の生家はしがない神社なんだが生き残ることが出来れば靖国神社に関わる仕事をしたいなと思っている」
この後、二人はたわいもない話を終えると近藤はブリーフィング室を出て行くが部屋から出る一歩前で止まると振り向かずに亀山に伝える。
「死ぬなよ? あいつらの元へ行こうとは思うなよ」
そう言うと今度こそ、部屋を出て行くと亀山は目を閉じながら呟く。
「……俺は又、生き残るのだろうか」
亀山はこの数年間を思い出していた。
昭和十六年十二月八日、南雲中将率いる機動部隊は、アメリカ海軍太平洋艦隊本拠地である真珠湾を攻撃する。
その時、亀山は空母”飛龍”に搭乗していたのである。
真珠湾攻撃では、戦艦アリゾナに魚雷を命中させる勲功をたてる。
その後、インド洋作戦にも従事するが運命のミッドウエイ海戦前に盲腸の手術を受けるために内地へ帰る事になり参加できなかったのである。
ミッドウエイ海戦は惨敗して”飛龍”は最後まで戦い抜いたが最終的には海の底に沈んでいった。
その事を聞いた亀山は、目の前が真っ暗になっていき自然と死に場所を求めて休息を一切、とらずに戦い抜いてきたのである。
彼にとっては”飛龍”が自分の家であり他の搭乗員全てが家族と思っていたのである。
それほど、肌に合っていたのである。
南太平洋沖海戦では空母”ホーネット”に魚雷を命中させる勲功をたてる。
その後、ラバウル航空隊に所属していたが再編された機動部隊に招聘されたのである。
かつての歪められた歴史とは違って、付近海域に米潜水艦が皆無の為、出撃を敵に知られていないという幸先が良い旅立ちである。
歪められた歴史上では、六月十五日には第一補給部隊において油槽船”清洋丸”と駆逐艦”白露”が衝突事故を起こし、”白露”が沈没したが今時間軸では発生していない。
「司令、何とかここまで来ましたね? ここまで厳しい訓練を耐えたのです、彼達は必ずやるでしょう」
艦隊参謀の小柳が艦載機の整備作業を見ていた小沢長官に言うと彼は頷くが未だ敵との圧倒的な戦力の差を気にしていたのである。
「富嶽殿のお陰で逐一、敵機動部隊の位置は分かるのが幸いだね? 真珠湾攻撃時の練度を誇る搭乗員達ならば大戦果を期待できるんだろうが……」
小沢長官の言葉に小柳は確かにまだまだ不安的要素はありますがここまで来たからには迷いは捨てないといけませんというと小沢は、はっとした表情をすると小柳に微笑む。
「そうだな、確かに指揮官が不安な顔をしていれば部下達にも悪い影響が出るか。所でこのまま行くとどれぐらいの時間で発艦できるか?」
小沢長官が苦心の末、考えついたアウトレンジ戦法を発動する絶妙なタイミングを質問すると小柳は三日後の十八日の昼頃に発艦すれば敵が油断する時間である日没直前に攻撃を仕掛けることが出来るとの事。
「攻撃隊はそのままグアムや硫黄島といった各飛行場に行くことを伝えております」
この日没直前の攻撃は危険が伴いすぎて反対の意見が多々あったのだが小沢はそれを退かせて自分の決意を優先する。
小柳の言葉に小沢は、ふと”瑞鶴”に搭乗している『亀山真路』少尉の事を思い出す。
彼は、真珠湾攻撃時からの数少ない古豪の一人である。
歴戦の空母”瑞鶴”甲板上では、整備兵達がびっしりと甲板に並べられている艦載機の最終チェックを実施していた。
この時点での日本海軍の急降下爆撃機、雷撃機は世代交代をしていて事実上、この戦いが次世代航空機の初陣でもある。
艦上戦闘機は残念ながら次世代戦闘機”烈風”の生産が遅れていたのでまだ零戦である。
雷撃機は”天山”・急降下爆撃機は”彗星”といった性能も格段に優れていたのである。
その甲板上で作業している整備兵の邪魔にならない位置で一人のパイロットが海を見つめていた……。
歳は三十代で日焼けが激しく年季が入った表情をしていて誰がどう見てもパイロットであると分かる。
「亀山少尉、ここでしたか。飛行隊長がお呼びです」
伝令員と思われる少年が亀山の元に小走りに走ってきて飛行隊長の『近藤幸夫』大尉が探していることを伝えると亀山は頷く。
亀山がブリーフィング室に行くと近藤隊長は黒板とにらめっこをしていたが亀山が入ってくると黒板から目を話してにこやかに声をかける。
「おう、亀山! いよいよ出撃だな、必ず八〇を敵空母の甲板にぶつけてやるわ!」
八〇というのは八〇〇キロ爆弾という意味で直撃すれば大破させるぐらいの高威力爆弾である。
近藤隊長の言葉に亀山は初めて笑みを浮かべると負けずに言い返す。
「隊長、それなら私も敵空母のドテッ腹に九三式魚雷を食わせてやりますよ! ”エンタープライズ”なら大歓迎なのですが」
真珠湾攻撃時から戦ってきた亀山にとって”エンタープライズ”は宿敵と言っていい存在である。
亀山の言葉に近藤隊長は頷くと亀山に何気ない質問をする。
「なあ、亀山? 貴様はこの戦争を生き残ればどうするんだ?」
近藤の言葉に亀山は少しだけ考えると喋り始める。
「この戦争が終わったら私は田舎に帰って晴耕雨読の生活を楽しみたいですね」
亀山の言葉に近藤は本当の事を隠しているなと思ったが何も言わずに彼に合わすことに決めた。
「いいな、晴耕雨読か……。今の俺達にとっては最高の贅沢だな、俺の生家はしがない神社なんだが生き残ることが出来れば靖国神社に関わる仕事をしたいなと思っている」
この後、二人はたわいもない話を終えると近藤はブリーフィング室を出て行くが部屋から出る一歩前で止まると振り向かずに亀山に伝える。
「死ぬなよ? あいつらの元へ行こうとは思うなよ」
そう言うと今度こそ、部屋を出て行くと亀山は目を閉じながら呟く。
「……俺は又、生き残るのだろうか」
亀山はこの数年間を思い出していた。
昭和十六年十二月八日、南雲中将率いる機動部隊は、アメリカ海軍太平洋艦隊本拠地である真珠湾を攻撃する。
その時、亀山は空母”飛龍”に搭乗していたのである。
真珠湾攻撃では、戦艦アリゾナに魚雷を命中させる勲功をたてる。
その後、インド洋作戦にも従事するが運命のミッドウエイ海戦前に盲腸の手術を受けるために内地へ帰る事になり参加できなかったのである。
ミッドウエイ海戦は惨敗して”飛龍”は最後まで戦い抜いたが最終的には海の底に沈んでいった。
その事を聞いた亀山は、目の前が真っ暗になっていき自然と死に場所を求めて休息を一切、とらずに戦い抜いてきたのである。
彼にとっては”飛龍”が自分の家であり他の搭乗員全てが家族と思っていたのである。
それほど、肌に合っていたのである。
南太平洋沖海戦では空母”ホーネット”に魚雷を命中させる勲功をたてる。
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