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第10話:
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昭和十九年六月上旬東京の某邸宅にて
内閣総理大臣兼陸軍大臣の東条英機は頭を抱えていた。
戦況は日が変わるごとに悪くなっていき側近から入る情報も全てが悪いものであった。
しかも反東条勢力が暗躍しており何か切っ掛けがあれば倒閣に向けて一斉攻撃されるのは火を見るより明らかで対策として東京憲兵隊長・四方諒二に命じて不穏分子の発見に務めさせる。
「……戦況は悪くなる一方だな。絶対国防圏のマリアナ諸島だけは死守しなければならない! もしマリアナ諸島が陥落すればアメリカの最新爆撃機B-29が進出してくるのは確実だが……」
そう呟くと東条は外の空気を吸う為に窓を開ける。
東条の心とは違う春の風が優しく彼の体を包む。
「今月に米軍は必ずサイパンに攻撃を仕掛けてくるはずだが海軍の方は大丈夫なのだろうか? 聞けば折角の戦力集中配備していた航空隊を分散させてしまい大被害を被ったと聞くが愚かな事だ。兵法の何たるかを知らなすぎる」
東条の心は憂鬱だったが取りあえずは、たまりにたまっている各書類を片づけるために机に戻ろうとすると突然、光が彼を包み込む。
第五十八任務群旗艦重巡洋艦インディアナポリス艦橋にて
「何だと!? 第四群の”エセックス”隊が全滅?」
総司令官スプルーアンス大将は副官から手渡された電文を見ると”エセックス”隊の二機以外は敵の攻撃により数分で壊滅したことが書かれていて最後にはロケット弾攻撃を受けたとの事。
「リー提督や最新鋭戦艦を失ったばかりか空母一隻分の艦載機が全滅だと? 一体全体、日本海軍はどんな最新鋭兵器を所持しているんだ?」
今回の作戦に現時点での最大戦力を集中させて一気に小沢機動部隊を叩きつぶして制海権を握ろうとしていたが未だ戦端を開いてない状況なのに既に戦艦三隻、リー提督を失なったばかりか今度は空母一隻分の艦載機を喪失してしまった事に動揺したのである。
スプルーアンスの性格は石橋を叩いて尚、石橋を叩くという非常に慎重すぎるので一部からは有能では無いと言われていたがミッドウエイ海戦で大逆転的な勝利を手に入れたために評価は逆転する。
その評価は勇猛果敢だと言われたが簡単に性格が変わるという事は無いので深い根っこは慎重すぎる性格である。
「そのロケット兵器を装備している艦は放っておく訳にはいかないな。一週間後に控えているサイパン上陸作戦の援護と小沢との決戦も控えているが天秤に掛ければロケット装備の艦を先ず仕留めなければ不意をつかれてしまう。ニミッツ提督に打診してみるか、ロケット装備の艦を重視するかどうかを……」
スプルアーンスは参謀のハリス大佐に、ニミッツ提督に指示を仰ぐことにするので電文を送って欲しいと頼み込む。
ハリス大佐は敬礼して艦橋を退出する。
「……一体、何が起きているんだ……」
機動部隊の天空は快晴状態であったが彼の心は曇り空であった。
タウイタウイ泊地沖の装甲空母”大鳳”艦橋にて
「小沢司令、現時点での訓練報告ですが日々の猛訓練の結果、離陸と着艦は全員、問題はありませんが敵艦に向けての攻撃体制がまだまだ未熟で不十分です」
アメリカ潜水艦の脅威が完全に無くなったので小沢機動部隊は連日連夜、激しくて厳しい猛訓練を課していた。
常識超える激しい訓練だったが全艦隊の乗員及び航空隊員はこの戦いで日本の運命が決まるという事で士気は前代未聞に高かったのである。
小柳参謀の報告に小沢は頷くが憂鬱な表情である。
「小柳君、ここだけの話だが正直、私はアウトレンジ戦法でも勝利できないと思っている。例の彼からの情報でVT信管という新兵器があり我が軍の三式弾と同じみたいだがVT信管の特徴は機体を感知すれば自動的に爆発する仕組みだとのこと。それが弾幕となって艦隊の上空を護るのだ……」
小沢の言葉に小柳も何も言えずに考え込む。
彼も馬鹿ではないのでそんな新兵器に無駄に突っ込んでいく無謀な攻撃には賛成できないと思ったが戦争はそんな状況でも戦わなければならない。
「もしもですよ? 機動部隊の安全を図ってここから撤退したら恐らくサイパンは陥落するでしょうが再び奪還できる可能性はないでしょうか?」
小柳の言う事は小沢も考えたがそれは絶対、出来ないと確信している。
「無駄だ、敵には長距離重爆撃機B-29を投入している。その上、最新鋭戦闘機P-51ムスタングと言うゼロ戦以上の性能を持つ戦闘機が完成しているという。最終的には来年の八月には原子爆弾という殺戮兵器が広島と長崎に投下されるとの事……。それだけは絶対に阻止しなければならない、だから今回の作戦である敵機動部隊を必ず撃退しなければならないのだ。だからぎりぎりまで足掻いて足掻くのだ!」
小沢は艦橋から離艦していく航空機を見ながら新たに勝利する事を決意して対策を考える。
護衛艦”しらなみ”を撃沈した”雪風”は各シールドを展開して一路、日本近海へ向けて航行していた。
六月十四日、”雪風”は小笠原諸島硫黄島沖でシールド展開しながら停止してドローン全機を飛ばして情報を収集している所だった。
「ふむ、映像を見る限りだがやはりサイパン島の防衛は水際でするみたいだな。だが、戦艦三隻を仕留めたとはいえ未だ未だ絶大な火力があるから史実通り上陸されるだろうな」
富嶽はCICルーム内の艦長席に座りながらドローンから映し出される映像を眺めながら呟く。
先日の十一日、アメリカ軍艦載機約一千機によるサイパン島に対する奇襲的な空襲が行われ、十三日からは戦艦五隻、巡洋艦十一隻含む六万人の上陸船団を伴った艦隊がサイパン島に接近、砲弾合計十八万発もの艦砲射撃が開始された。
これにより水際にあった日本軍の陣地は壊滅してしまう。
「艦長、サイパン上陸は明日ですよね? 何とかこの”雪風”の力で上陸部隊を少しでも叩き潰した方がよろしいのでは?」
東郷の言葉に富嶽は首を横に振る。
「いや、我々の目的はあくまでも数日後に行われるマリアナ沖海戦で小沢機動部隊を圧倒的勝利を収めさせる事だ。マリアナ沖海戦に勝利すれば上陸した海兵隊も退路を絶たれるばかりか同時進行でフィリピンから栗田中将率いる戦艦部隊がサイパン島砲撃をするはずだ。戦艦"大和・武蔵・長門”と言った伝説的な艦による艦砲射撃を拝めるかもね」
そう言うと富嶽は地図を見ながら何かを考えている。
富嶽はこの”雪風”を囮に使おうかと考えていたのである。
現在、スプルーアンスはこの艦を無視できる程、大胆不敵な行動は取れないと思っている。
石橋を叩いても又、叩くと言った性格のことだからこの艦の存在をはっきりと確認すればきっと半分か全ての戦力をこちらに向けるだろうと確信する。
「だが……問題はニミッツ提督の判断だろうな。恐らく彼はニミッツ提督にお伺いをする筈だが果たしてどんな判断をするのだろうか?」
富嶽の呟きに羽柴が答える。
「艦長、日本に協力するのならこういう方法はいかがでしょうか?」
羽柴の説明を受けながら富嶽は頭の中でその方法の成功確率を計算していき、高確率で成功すると結論して彼の説明が終了したときに了承する。
「では、作戦を開始する! 作戦名は『釣り野伏』、核融合炉起動! 目標、第五十八任務機動部隊」
翌日、サイパン島に米軍上陸の報を受けた大本営は直ちに『あ号作戦』の発動を命じる。
この命令を受けた小沢中将率いる第一機動部隊は直ちに出港準備に入る。
「小柳参謀、いよいよルピコン川を渡る時が来たな。正に興国の興廃この一戦にありだ! この日の為に猛訓練を耐えた若者達の初陣だ。気持ちよく送り出してあげようではないか」
小沢の言葉に小柳は頷く。
今、正に日本の運命を決める最後の機動部隊が出港しようとしている。
サイパン島上陸を援護射撃したスプルアーンスは無事に上陸作戦を成功させたが気は晴れていなかったのである。
それは、例のロケットを積んだ戦闘艦の存在であり超長距離魚雷を所持する陽炎型駆逐艦の存在に頭を悩ませていたのである。
「ニミッツ提督も事の重大性を認識していない! あくまでも日本機動部隊を第一に殲滅せよとの事だがあのロング魚雷を奇襲されれば大損害を食らうのに」
先日、ハワイのニミッツ提督に例の艦を優先的に探索して全兵力を以て撃沈するべきを具申したが提督の答えはNoであった。
どの組織にもいえることであるが、日本もアメリカもドイツも同じ事だが戦は現場で常に変化しながら動いている生き物である故、現場のその時点での状況を知らない後方では正確な作戦も立てなくなる。
スプルアーンスがやきもきしている所にハリスが血相を変えて突撃してきたのである。
「閣下!! 偵察機から入電! 例の陽炎型駆逐艦を発見したとの事」
この時点より、歪曲された歴史の修繕が開始される……。
水素魚雷射程距離内まで敵機動部隊に接近した”雪風”はステルス及び光学迷彩シールドを解除する。
シールド解除する前に総員戦闘配置をかけていた為、直ぐに次の動作に素早く移れる。
「羽柴、ドローンを全機出動させて敵機動部隊の監視をするのだ」
既にレーダーも作動していて直ぐに敵機動部隊をキャッチする。
富嶽の命令を受けた羽柴は直ちにドローンを全機(五十機)発進させるとCICルームから全機に指示を出して展開させる。
ちなみにこのドローンにはステルス塗料を塗っており、超小型ジェットエンジンを搭載している為に色々な場面で活躍している。
「艦長、米軍の偵察機がこちらに向かっています。一機だけですので間違いありません! 後、十分で相手にも我々を目視出来ますがいかがなさいますか?」
レーダー監視員が富嶽に尋ねると富嶽はじっと少しだけ何かを考えていたが冷静に答える。
「特に何もしなくてもいいが見張り員に偵察機を現認したら直ぐにこちらに知らせるように伝えてくれないかな? それとドローンが間もなく敵機動部隊の直上に展開する頃だろう」
レーダー監視員『稲垣信二』は復唱して富嶽の命令を艦橋後方に設置されているマスト上部の監視塔に伝えると再び、レーダースコープを凝視する。
マスト上部の監視塔で双眼鏡で空を凝視していた『遠藤悦司』は先程、連絡を受けた航空機を捉える。
「艦長、こちら監視塔の遠藤です! 間違いなく偵察機です」
裸眼視力2.5を誇る常識超えた目が敵偵察機を捉えた瞬間である。
富嶽は甲板上に設置されている魚雷発射管コントロール室オペレーターの『柳口次郎』と『日高信夫』に水素魚雷に情報を入力するよう命令する。
「この距離であれば第四機動群が射程距離内に入っているので今から言う通りに入力してくれ」
富嶽の指示に了解との返事が来る。
「No四十四ドローンの映像が映っている艦隊の内、八隻をランダムに入力して欲しい。それぞれに一本ずつでいいがダブらないように」
二人から了解の連絡が来ると次に東郷に顔を向けると悪巧みしている顔を向ける。
「敵偵察機が見ている前で一斉に水素魚雷を発射する様子をみせてやるんだ。その後、回れ右をして全速力で逃走する」
敵の偵察機が”雪風”発見の報告を入れた後、詳しく様子を見ようと高度を下げたが一切の反撃はなかったのでパイロットのウルック准尉はもう少し近づく。
「結構、でかいぞ? 巡洋艦並のおおきさだな」
「おい、見ろ! 奴の魚雷発射管が動いているぞ!」
後部座席に座っているカーク准尉が大声で叫ぶ。
二人のパイロット達が見ている前で八発の魚雷が発射される。
「おい、今ここで発射するのか? おい、写真は撮ったか?」
ウルックの質問にカークは撮ったと返答して帰投することにする。
「残念だがこの飛行機には攻撃能力は一切無いから悔しいが逃げるぞ」
「そうだな、急いで逃げよう! しかし何故、攻撃してこなかったのだろうか?」
「おい、例の艦が急速反転して西に向かって逃走したぞ」
魚雷を放った ”雪風”は一路、急速反転して機動部隊から距離を離すために逃走する。
「さあ、餌をまいたぞ」
富嶽はポツリと呟く。
第五八任務任務機動部隊総司令官スプルアーンス大将に陽炎型駆逐艦発見の報を入れたのは、第四機動群ハリル少将率いる空母エセックス、軽空母カウペンス、ラングレー、軽巡ビンセンス、マイアミ、防空巡洋艦サンディエゴ、駆逐艦十四隻からくる部隊で軽空母カウペンスから飛びだった偵察機である。
エセックス隊は先の交戦でほぼ全滅に等しい被害を出していたが後方基地からの補充で数は合わせていたが普通の技量を持つパイロットである。
「司令、偵察機から例の陽炎型駆逐艦発見との事! 既にスプルアーンス提督にも連絡をしています」
旗艦である防空巡洋艦サンディエゴで指揮をしているハリル少将に電文を渡す。
電文を受け取ったハリル少将は直ちに三隻の空母から艦載機を出撃させるように命令する。
「それと追加ですが敵から魚雷が放たれたとのことです」
ハリルが何か喋ろうとしたときに凄まじい轟音が響いて外を見れば”エセックス””ラングレー”の空母二隻と五隻の駆逐艦、軽巡”ビンセンス”に巨大な水柱が艦を覆っていた。
水柱が収まると五隻の駆逐艦の姿は無く、多数の残骸と死体と負傷者が海面に漂っていた。
”ラングレー”は急速に傾いていき命中から一分も経たないうちに甲板上に整列していた艦載機と共に海面から姿を消していった。
軽巡”ビンセンス”も又、喫水下部の中央船体を吹き飛ばれて急速に海面に引き込まれて沈んでいく。
正規空母”エセックス”は機関室を含む後部船体が吹き飛ばされて航行不能になったが沈没は免れて戦線から離脱することになった。
ちなみにこの二日後、日本潜水艦から攻撃を受けて撃沈されたのは又、別の話である。
「司令! ”カウペンス”から攻撃隊発進の許可を求めていますがいかがしますか?」
参謀の問いにハリルは出撃命令を出して撃沈命令を下す。
”カウペンス”から次々と攻撃隊四十機が離艦していく。
ハリル少将はこの戦、我が軍の壊滅で終わるのでは無いかと身震いしたのである。
内閣総理大臣兼陸軍大臣の東条英機は頭を抱えていた。
戦況は日が変わるごとに悪くなっていき側近から入る情報も全てが悪いものであった。
しかも反東条勢力が暗躍しており何か切っ掛けがあれば倒閣に向けて一斉攻撃されるのは火を見るより明らかで対策として東京憲兵隊長・四方諒二に命じて不穏分子の発見に務めさせる。
「……戦況は悪くなる一方だな。絶対国防圏のマリアナ諸島だけは死守しなければならない! もしマリアナ諸島が陥落すればアメリカの最新爆撃機B-29が進出してくるのは確実だが……」
そう呟くと東条は外の空気を吸う為に窓を開ける。
東条の心とは違う春の風が優しく彼の体を包む。
「今月に米軍は必ずサイパンに攻撃を仕掛けてくるはずだが海軍の方は大丈夫なのだろうか? 聞けば折角の戦力集中配備していた航空隊を分散させてしまい大被害を被ったと聞くが愚かな事だ。兵法の何たるかを知らなすぎる」
東条の心は憂鬱だったが取りあえずは、たまりにたまっている各書類を片づけるために机に戻ろうとすると突然、光が彼を包み込む。
第五十八任務群旗艦重巡洋艦インディアナポリス艦橋にて
「何だと!? 第四群の”エセックス”隊が全滅?」
総司令官スプルーアンス大将は副官から手渡された電文を見ると”エセックス”隊の二機以外は敵の攻撃により数分で壊滅したことが書かれていて最後にはロケット弾攻撃を受けたとの事。
「リー提督や最新鋭戦艦を失ったばかりか空母一隻分の艦載機が全滅だと? 一体全体、日本海軍はどんな最新鋭兵器を所持しているんだ?」
今回の作戦に現時点での最大戦力を集中させて一気に小沢機動部隊を叩きつぶして制海権を握ろうとしていたが未だ戦端を開いてない状況なのに既に戦艦三隻、リー提督を失なったばかりか今度は空母一隻分の艦載機を喪失してしまった事に動揺したのである。
スプルーアンスの性格は石橋を叩いて尚、石橋を叩くという非常に慎重すぎるので一部からは有能では無いと言われていたがミッドウエイ海戦で大逆転的な勝利を手に入れたために評価は逆転する。
その評価は勇猛果敢だと言われたが簡単に性格が変わるという事は無いので深い根っこは慎重すぎる性格である。
「そのロケット兵器を装備している艦は放っておく訳にはいかないな。一週間後に控えているサイパン上陸作戦の援護と小沢との決戦も控えているが天秤に掛ければロケット装備の艦を先ず仕留めなければ不意をつかれてしまう。ニミッツ提督に打診してみるか、ロケット装備の艦を重視するかどうかを……」
スプルアーンスは参謀のハリス大佐に、ニミッツ提督に指示を仰ぐことにするので電文を送って欲しいと頼み込む。
ハリス大佐は敬礼して艦橋を退出する。
「……一体、何が起きているんだ……」
機動部隊の天空は快晴状態であったが彼の心は曇り空であった。
タウイタウイ泊地沖の装甲空母”大鳳”艦橋にて
「小沢司令、現時点での訓練報告ですが日々の猛訓練の結果、離陸と着艦は全員、問題はありませんが敵艦に向けての攻撃体制がまだまだ未熟で不十分です」
アメリカ潜水艦の脅威が完全に無くなったので小沢機動部隊は連日連夜、激しくて厳しい猛訓練を課していた。
常識超える激しい訓練だったが全艦隊の乗員及び航空隊員はこの戦いで日本の運命が決まるという事で士気は前代未聞に高かったのである。
小柳参謀の報告に小沢は頷くが憂鬱な表情である。
「小柳君、ここだけの話だが正直、私はアウトレンジ戦法でも勝利できないと思っている。例の彼からの情報でVT信管という新兵器があり我が軍の三式弾と同じみたいだがVT信管の特徴は機体を感知すれば自動的に爆発する仕組みだとのこと。それが弾幕となって艦隊の上空を護るのだ……」
小沢の言葉に小柳も何も言えずに考え込む。
彼も馬鹿ではないのでそんな新兵器に無駄に突っ込んでいく無謀な攻撃には賛成できないと思ったが戦争はそんな状況でも戦わなければならない。
「もしもですよ? 機動部隊の安全を図ってここから撤退したら恐らくサイパンは陥落するでしょうが再び奪還できる可能性はないでしょうか?」
小柳の言う事は小沢も考えたがそれは絶対、出来ないと確信している。
「無駄だ、敵には長距離重爆撃機B-29を投入している。その上、最新鋭戦闘機P-51ムスタングと言うゼロ戦以上の性能を持つ戦闘機が完成しているという。最終的には来年の八月には原子爆弾という殺戮兵器が広島と長崎に投下されるとの事……。それだけは絶対に阻止しなければならない、だから今回の作戦である敵機動部隊を必ず撃退しなければならないのだ。だからぎりぎりまで足掻いて足掻くのだ!」
小沢は艦橋から離艦していく航空機を見ながら新たに勝利する事を決意して対策を考える。
護衛艦”しらなみ”を撃沈した”雪風”は各シールドを展開して一路、日本近海へ向けて航行していた。
六月十四日、”雪風”は小笠原諸島硫黄島沖でシールド展開しながら停止してドローン全機を飛ばして情報を収集している所だった。
「ふむ、映像を見る限りだがやはりサイパン島の防衛は水際でするみたいだな。だが、戦艦三隻を仕留めたとはいえ未だ未だ絶大な火力があるから史実通り上陸されるだろうな」
富嶽はCICルーム内の艦長席に座りながらドローンから映し出される映像を眺めながら呟く。
先日の十一日、アメリカ軍艦載機約一千機によるサイパン島に対する奇襲的な空襲が行われ、十三日からは戦艦五隻、巡洋艦十一隻含む六万人の上陸船団を伴った艦隊がサイパン島に接近、砲弾合計十八万発もの艦砲射撃が開始された。
これにより水際にあった日本軍の陣地は壊滅してしまう。
「艦長、サイパン上陸は明日ですよね? 何とかこの”雪風”の力で上陸部隊を少しでも叩き潰した方がよろしいのでは?」
東郷の言葉に富嶽は首を横に振る。
「いや、我々の目的はあくまでも数日後に行われるマリアナ沖海戦で小沢機動部隊を圧倒的勝利を収めさせる事だ。マリアナ沖海戦に勝利すれば上陸した海兵隊も退路を絶たれるばかりか同時進行でフィリピンから栗田中将率いる戦艦部隊がサイパン島砲撃をするはずだ。戦艦"大和・武蔵・長門”と言った伝説的な艦による艦砲射撃を拝めるかもね」
そう言うと富嶽は地図を見ながら何かを考えている。
富嶽はこの”雪風”を囮に使おうかと考えていたのである。
現在、スプルーアンスはこの艦を無視できる程、大胆不敵な行動は取れないと思っている。
石橋を叩いても又、叩くと言った性格のことだからこの艦の存在をはっきりと確認すればきっと半分か全ての戦力をこちらに向けるだろうと確信する。
「だが……問題はニミッツ提督の判断だろうな。恐らく彼はニミッツ提督にお伺いをする筈だが果たしてどんな判断をするのだろうか?」
富嶽の呟きに羽柴が答える。
「艦長、日本に協力するのならこういう方法はいかがでしょうか?」
羽柴の説明を受けながら富嶽は頭の中でその方法の成功確率を計算していき、高確率で成功すると結論して彼の説明が終了したときに了承する。
「では、作戦を開始する! 作戦名は『釣り野伏』、核融合炉起動! 目標、第五十八任務機動部隊」
翌日、サイパン島に米軍上陸の報を受けた大本営は直ちに『あ号作戦』の発動を命じる。
この命令を受けた小沢中将率いる第一機動部隊は直ちに出港準備に入る。
「小柳参謀、いよいよルピコン川を渡る時が来たな。正に興国の興廃この一戦にありだ! この日の為に猛訓練を耐えた若者達の初陣だ。気持ちよく送り出してあげようではないか」
小沢の言葉に小柳は頷く。
今、正に日本の運命を決める最後の機動部隊が出港しようとしている。
サイパン島上陸を援護射撃したスプルアーンスは無事に上陸作戦を成功させたが気は晴れていなかったのである。
それは、例のロケットを積んだ戦闘艦の存在であり超長距離魚雷を所持する陽炎型駆逐艦の存在に頭を悩ませていたのである。
「ニミッツ提督も事の重大性を認識していない! あくまでも日本機動部隊を第一に殲滅せよとの事だがあのロング魚雷を奇襲されれば大損害を食らうのに」
先日、ハワイのニミッツ提督に例の艦を優先的に探索して全兵力を以て撃沈するべきを具申したが提督の答えはNoであった。
どの組織にもいえることであるが、日本もアメリカもドイツも同じ事だが戦は現場で常に変化しながら動いている生き物である故、現場のその時点での状況を知らない後方では正確な作戦も立てなくなる。
スプルアーンスがやきもきしている所にハリスが血相を変えて突撃してきたのである。
「閣下!! 偵察機から入電! 例の陽炎型駆逐艦を発見したとの事」
この時点より、歪曲された歴史の修繕が開始される……。
水素魚雷射程距離内まで敵機動部隊に接近した”雪風”はステルス及び光学迷彩シールドを解除する。
シールド解除する前に総員戦闘配置をかけていた為、直ぐに次の動作に素早く移れる。
「羽柴、ドローンを全機出動させて敵機動部隊の監視をするのだ」
既にレーダーも作動していて直ぐに敵機動部隊をキャッチする。
富嶽の命令を受けた羽柴は直ちにドローンを全機(五十機)発進させるとCICルームから全機に指示を出して展開させる。
ちなみにこのドローンにはステルス塗料を塗っており、超小型ジェットエンジンを搭載している為に色々な場面で活躍している。
「艦長、米軍の偵察機がこちらに向かっています。一機だけですので間違いありません! 後、十分で相手にも我々を目視出来ますがいかがなさいますか?」
レーダー監視員が富嶽に尋ねると富嶽はじっと少しだけ何かを考えていたが冷静に答える。
「特に何もしなくてもいいが見張り員に偵察機を現認したら直ぐにこちらに知らせるように伝えてくれないかな? それとドローンが間もなく敵機動部隊の直上に展開する頃だろう」
レーダー監視員『稲垣信二』は復唱して富嶽の命令を艦橋後方に設置されているマスト上部の監視塔に伝えると再び、レーダースコープを凝視する。
マスト上部の監視塔で双眼鏡で空を凝視していた『遠藤悦司』は先程、連絡を受けた航空機を捉える。
「艦長、こちら監視塔の遠藤です! 間違いなく偵察機です」
裸眼視力2.5を誇る常識超えた目が敵偵察機を捉えた瞬間である。
富嶽は甲板上に設置されている魚雷発射管コントロール室オペレーターの『柳口次郎』と『日高信夫』に水素魚雷に情報を入力するよう命令する。
「この距離であれば第四機動群が射程距離内に入っているので今から言う通りに入力してくれ」
富嶽の指示に了解との返事が来る。
「No四十四ドローンの映像が映っている艦隊の内、八隻をランダムに入力して欲しい。それぞれに一本ずつでいいがダブらないように」
二人から了解の連絡が来ると次に東郷に顔を向けると悪巧みしている顔を向ける。
「敵偵察機が見ている前で一斉に水素魚雷を発射する様子をみせてやるんだ。その後、回れ右をして全速力で逃走する」
敵の偵察機が”雪風”発見の報告を入れた後、詳しく様子を見ようと高度を下げたが一切の反撃はなかったのでパイロットのウルック准尉はもう少し近づく。
「結構、でかいぞ? 巡洋艦並のおおきさだな」
「おい、見ろ! 奴の魚雷発射管が動いているぞ!」
後部座席に座っているカーク准尉が大声で叫ぶ。
二人のパイロット達が見ている前で八発の魚雷が発射される。
「おい、今ここで発射するのか? おい、写真は撮ったか?」
ウルックの質問にカークは撮ったと返答して帰投することにする。
「残念だがこの飛行機には攻撃能力は一切無いから悔しいが逃げるぞ」
「そうだな、急いで逃げよう! しかし何故、攻撃してこなかったのだろうか?」
「おい、例の艦が急速反転して西に向かって逃走したぞ」
魚雷を放った ”雪風”は一路、急速反転して機動部隊から距離を離すために逃走する。
「さあ、餌をまいたぞ」
富嶽はポツリと呟く。
第五八任務任務機動部隊総司令官スプルアーンス大将に陽炎型駆逐艦発見の報を入れたのは、第四機動群ハリル少将率いる空母エセックス、軽空母カウペンス、ラングレー、軽巡ビンセンス、マイアミ、防空巡洋艦サンディエゴ、駆逐艦十四隻からくる部隊で軽空母カウペンスから飛びだった偵察機である。
エセックス隊は先の交戦でほぼ全滅に等しい被害を出していたが後方基地からの補充で数は合わせていたが普通の技量を持つパイロットである。
「司令、偵察機から例の陽炎型駆逐艦発見との事! 既にスプルアーンス提督にも連絡をしています」
旗艦である防空巡洋艦サンディエゴで指揮をしているハリル少将に電文を渡す。
電文を受け取ったハリル少将は直ちに三隻の空母から艦載機を出撃させるように命令する。
「それと追加ですが敵から魚雷が放たれたとのことです」
ハリルが何か喋ろうとしたときに凄まじい轟音が響いて外を見れば”エセックス””ラングレー”の空母二隻と五隻の駆逐艦、軽巡”ビンセンス”に巨大な水柱が艦を覆っていた。
水柱が収まると五隻の駆逐艦の姿は無く、多数の残骸と死体と負傷者が海面に漂っていた。
”ラングレー”は急速に傾いていき命中から一分も経たないうちに甲板上に整列していた艦載機と共に海面から姿を消していった。
軽巡”ビンセンス”も又、喫水下部の中央船体を吹き飛ばれて急速に海面に引き込まれて沈んでいく。
正規空母”エセックス”は機関室を含む後部船体が吹き飛ばされて航行不能になったが沈没は免れて戦線から離脱することになった。
ちなみにこの二日後、日本潜水艦から攻撃を受けて撃沈されたのは又、別の話である。
「司令! ”カウペンス”から攻撃隊発進の許可を求めていますがいかがしますか?」
参謀の問いにハリルは出撃命令を出して撃沈命令を下す。
”カウペンス”から次々と攻撃隊四十機が離艦していく。
ハリル少将はこの戦、我が軍の壊滅で終わるのでは無いかと身震いしたのである。
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歴史・時代
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それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
転生少女は大戦の空を飛ぶ
モラーヌソルニエ
ファンタジー
薄っぺらいニワカ戦闘機オタク(歴史的知識なし)が大戦の狭間に転生すると何が起きるでしょう。これは現代日本から第二次世界大戦前の北欧に転生した少女の空戦史である。カクヨムでも掲載しています。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
よあけまえのキミへ
三咲ゆま
歴史・時代
時は幕末。二月前に父を亡くした少女、天野美湖(あまのみこ)は、ある日川辺で一枚の写真を拾った。
落とし主を探すべく奔走するうちに、拾い物が次々と縁をつなぎ、彼女の前にはやがて導かれるように六人の志士が集う。
広がる人脈に胸を弾ませていた美湖だったが、そんな日常は、やがてゆるやかに崩れ始めるのだった。
京の町を揺るがす不穏な連続放火事件を軸に、幕末に生きる人々の日常と非日常を描いた物語。
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