歪められた日本の歴史改竄を正す為に大東亜戦争時にタイムスリップした戦闘艦の物語

蒼焔の提督

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第2話:出航!! そして過去へ

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 翌日の〇六〇〇時、出渠しゅっきょ準備に入った乾ドックでは、作業員達が徹夜で清掃を行っていて間もなく終了するとの報告が富嶽の元に入る。

 富嶽と東郷は前部甲板でこれからの事を話している。




「よし、〇七〇〇時にドック内に海水を入れ始めるが東郷副官、満水までどれぐらいの時間がかかるか?」

 富嶽の問いに東郷は懐中時計を取りだして答える。




「〇八〇〇時には満水になり海面と水平になります。ドックから出て一旦、岸壁に接舷して一〇〇〇時に離岸して出港完了です」

 東郷の答えに満足した富嶽は雪風の艦橋を見上げながら呟く。

「いよいよだな、正直言って俺も不安だらけだけど賽が投げられたからには全力を尽くさねばならないな、この艦乗員達の為にも」

 富嶽と東郷はお互い無言で目を合わせて頷く。

 それは何かを決意して目標に立ち向かう男の目である。




「艦長、ここにいましたか」

 第一分隊長兼砲雷科長の榊原が小走りで富嶽達の所に来る。

 右手には電文らしき物を持っていてそれを富嶽に渡そうとするが何やら顔が青ざめている。




「艦長、大変なことが起きました!! 中東でV国がイスラエルに……核攻撃を……」

 榊原の言葉に富嶽と東郷は数十秒間、無言状態であったが我に返ると榊原から電文を受け取ってその内容を確認する。




「戦術核兵器か……幸いにも都市では無く機甲師団に向けてか……しかし、これから中東は大惨事に陥るな、アメリカを初めとする世界各国も自国で背一杯だし……ハルマゲドン……」

 富嶽は電文を片手に持ちながらドック内の天井を見上げながら呟く。

「人類は何処から間違えたんだろうね……」









 〇七〇〇時の定刻通りにドック内に海水が注入される。

 既に全乗員が乗り込んでおり各持ち場に配置している。




 〇八〇〇時に満水状態になり海面と同じ高さになるとドック前部の観音扉がゆっくりと開放されていく。

 タグボートにより雪風が曳航されてドックから出てくる。

 それから一旦、接舷して最後の点検及び一時間のみであるが自由時間となる。




 一〇〇〇時、遂に出航の時がやってきたので富嶽は東郷と共に艦橋内に入り定位置に立つと号令を発する。

「出航準備! 錨を上げよ」

 富嶽の言葉を復唱して東郷は、伝声管を通して各部署に伝える。


 核融合炉機関の全責任者である市岡道利が機関室の端に備え付けられたPCモニターを見て確認する。

「よし、絶好調だな! 炉心の機嫌もとてもいいな。新見、艦橋に報告してくれ、オールクリアと」

 副責任者の新見義隆が頷いて艦橋に異常なしとの報告をする。


 数隻の曳航船に押されて雪風の船体が岸壁から離れていく。

「ラッパを鳴らせ! 及び手暇が出来た乗員は甲板に整列!」

 富嶽の号令が艦内に響き渡っていく。


 甲板上でラッパ手の荒川武彦は一瞬だけであるが自分のラッパで場を支配する感覚に痺れている。

「(母さん……見てて欲しい、俺の初めての晴れやかな舞台を)」

 五年前に亡くなった母を想い出しながら思い切りラッパを吹く。

 彼のラッパから発せられた音は空を透き通るような迫力があり涼やかな音が辺りを支配する。


「両舷前進微速、右五十度、ヨーソロー……雪風、出航!!」

 富嶽の号令に市岡がスクリュー起動のボタンを押すと四基四軸のスクリューがゆっくりと回転し始めて自力で雪風の船体が動き出す。

 手が空いている乗員は甲板上に整列してドックの整備員達に敬礼をする。

 艦橋内で富嶽が号令をかける。

「両舷前進原速赤黒なし、進路そのまま」

 雪風はゆっくりと一定の速力で沖合に進んでいく。

「航海長、操艦」

 富嶽の言葉に榊原航海長が返答する。

「頂きました、航海長」

 富嶽は榊原に後を託すと艦長席に座り前方を凝視する。



 出港二時間が経過した所で富嶽は各艦内状況を知らせるように艦内無線で放送する。

 各部署からは問題なしとの報告を受けて富嶽は安堵したので少し休憩する為に自室に戻ろうと考えて東郷に後を任せて艦橋を退出する。

「……後はステルスモードと光学シールドのテスト、レールガンのテストだが何か良い方法がないかな?」

 富嶽が艦長室に入室した同時に電話が鳴ったので受話器を取ると滅多に何事にも動じない東郷が大声かつかなり動揺している声で富嶽に叫ぶ。


「艦長!! 前方左四十度から見たこともない巨大な光が!!」

 その瞬間、雪風は光に包まれると同時に富嶽の意識も途絶える。

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