上 下
2 / 25

第1話:出発前日

しおりを挟む
「全乗員に告ぐ、私は艦長の富嶽だ! この艦は予定を変更して明日一〇〇〇時に出航する事になった故、各自の持ち場を再度チェックするように! 以上」

 マイクを切った富嶽は東郷に各分隊長を三十分以内に大会議室に集めるように指示を出す。
 東郷は敬礼をして富嶽の命令を復唱する。
 富嶽はそのままCICルーム内にあるメインPCの所に行きPCを起動させる。
 起動したPCの画面にMENUが表示されると富嶽はマウスでクリックする。
 そのメニューの一覧表から“巡洋駆逐艦 雪風”の項目をクリックすると画面いっぱいに沢山の情報がモニターに表示される。
 富嶽は改めてモニターを見つめながらこの艦の性能に息を呑むのである。


 基準排水量:12,000トン

 全長   :200メートル

 最大幅  :20メートル

 喫水   :6.6メートル

 機関   :熱核融合式核融合炉タービン四基四軸

 速力   :45ノット

 最大速力 :65ノット

 航続距離 :最大速力及び無補給で三〇年

 主要兵装 :二〇センチ二連装砲塔二基四門(電磁加速砲”レールガン”)

      :令和三式六一センチ水素魚雷発射管四門二基

 防御装置 :光学迷彩シールド・完全ステルスシールド

 乗員   :345名(男性331名・女性14名)


「核融合炉に電磁加速砲、それと水素魚雷……にレーダーにも一切表示されない完全ステルスに直視では一切見えない光学シールド……正にチートだな。我が日本という国は何という凄い物を生み出したんだ」
 富嶽は画面に表示されている雪風の詳細を読みながら感嘆の声をあげる。 

「本当に凄いですね……我が国の底地からは。しかし、こんな凄い物を作り上げた朝霧会長はただの人ではないんでしょうね? 初めてお会いしたとき、背筋がゾクっとしましたからね?」
 いつの間にか東郷が後にいてモニターを眺めていた。

「そうだな、何でもこの船はM資金で造られたと言うがそれでも全体の数%だと言っていたが……謎だらけだ」
 富嶽が画面を見ながら東郷の言葉の後を繋げる。

「艦長、各分隊長が会議室に集合しましたので御報告致します」
 通信士の言葉に富嶽は頷くとPCモニターから眼を離してPCを閉じる。
 そして、CICルームにいる乗員達に、引き続き最終チェックを怠らないように命令して出ていく。





 艦橋下の大会議室に五人の仕官が集合していて各自、椅子に座っている。
 富嶽が会議室に入室すると椅子に座っていた全員が起立・直立不動の状態で富嶽を迎える。
「皆、最終準備中に申し訳ないが各分隊の現状と乗員の士気等を知りたいのでこうして集まって貰った」
 富嶽の言葉に五人の分隊長は大きな声で返事する。

「では、各分隊長から現在の状況を明瞭簡潔に教えてくれ! 先ずは第一分隊長からだ」
 富嶽の言葉に先ず右端に座っていた人物が立つと報告する。

「第一分隊長の榊原祐二です、現在、電磁加速砲”レールガン”の最終チェックですが全てオールクリアです。水素魚雷を八〇発積み込み終了しています。射撃管制レーダー、ソナー、探照灯、錨、短艇、クレーンの操作も問題なく動いています、いつでも戦闘態勢に移行できます」

「第二分隊長の杉本保昭です、船務科・航海科を担当しています。CIC(戦闘情報中枢)の運用及びレーダーや無線通信等の電子機器の操作、整備作業は終了しています。航空管制員・艦内の電気象士 気象員の配置も既に終えています。光学シールドにステルスシールドも完全に作動します」

「第三分隊長の橋山秀志です、機関科を担当しています。核融合炉は順調に稼働しています。そのエネルギーで
発電機、油圧、空調の管理及び火災や浸水に対してのダメージコントロールの防御も担います。後、応急長 応急士 電気員、応急工作員、潜水士、艦上救難員の配置も完了しています」

「第四分隊長の内田一美です、補給衛生科担当です。先ずは食料と水ですが水は海水濾過装置のお陰で無尽蔵に美味い水を飲み放題です。食料も真空圧縮パックのお陰で一日三食デザート付きで五年分を積み込み完了です。勿論毎週金曜日にはカレーが出てくるので安心して下さい。後、衛生関係ですが内科・外科衛生士 歯科衛生士、看護師、准看護師も充実しています。以上です」

「第五分隊長の羽柴信長です、飛行科担当です。各種ドローンの積み込み完了しています。性能チェックも終えており結果は非常に満足な仕上げです。哨戒ヘリコプターの整備も完了しており各種整備員も配置完了です」

 各分隊長の報告に満足した富嶽は頷くと簡単な訓令を言い解散を命じる。
 富嶽の言葉に各分隊長は席を立ち上がって会議室を出て行く。
 それを見送った富嶽はそのまま椅子に座ると東郷にも勧める。
 東郷が椅子に座ったのを見計らって富嶽はこの船の乗員について喋り始める。

「この船の半分は自衛隊出身だが残りの半分は民間出身で前職も多々ある多職籍の集まりだね……それに人材の選出も朝霧会長が直々に選んだわけだが何故かこの俺が艦長の任を任せられたけど俺は元々、警備会社のしがない何処にでも居る一警備員だったんだけどあの方と出会って何故か気に入られていつのまにか退職手続きが成されていたんだ。狐に化かされた気分だった」

 富嶽の言葉に東郷は苦笑いしていたが当の自分はある組織から密命を帯びて乗り込んでいるのだが富嶽にも言わないでおこうと思ったが初対面から僅か二日で正体が見破られてしまったのである。

「各分隊長は自衛隊出身ではありませんがその道のプロですので艦長は大まかな命令にとどめて現場の事は彼達に任せて権限を強化しないといけませんね?」

 東郷の問いに富嶽は、既にその件は各分隊長に伝えているので何の心配もないし彼達もとても張り切っていたから全然心配していないということを喋る。

「さて……と、世界情勢を改めて確認する必要があるから私は部屋に戻るけど東郷はどうする?」

「私も長老に色々と報告しないとうけませんのでこれで失礼します、明日の出航……うまくいきますよね?」
 富嶽はにっこりと微笑むと軽く頷く。
 全く安心する笑顔だなと東郷は思うと富嶽に敬礼して会議室を出て行く。
 一人になった富嶽は天井を見つめながらこれから起る一寸先の闇に立ち向かっていこうと決意したのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

1514億4000万円を失った自衛隊、派遣支援す

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一箇月。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 これは、「1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す(https://ncode.syosetu.com/n3570fj/)」の言わば海上自衛隊版です。アルファポリスにおいても公開させていただいております。 ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈りいたします。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

処理中です...