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◇後日談&番外編
俺Tueee!!!
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◆本編後日談
その日、小雨が降りしきる薄暗く生暖かい空気の朝、エベレント大陸にて、とある小さな街が存亡の危機に直面していた。
激しく街中を響き渡る半鐘の音と、街中に何カ所か設けられている避難所へと走る人々の慌ただしい足音、それを誘導する軍属の者たちの怒号のような声。
その全てを打ち消すほどに大きく、鈍く軋むように響き渡る音が幾度も、閉じられた街の城門がある方角から上がる。
「畜生ッ!なんだってこんな所に突然あんな大群が出るんだ!?」
「口より手ぇ動かせッ!!魔法士の配備を優先して手伝え!!こっち向かってる奴に騎獣を出せ!」
「魔法士総動員したってありゃ無理だろ……大型がいる……資料でしか見たことねぇってのに……」
魔物の脅威とは長年縁遠い生活を送っていた幸運な街、その老朽化した城壁の上を行き交う多くの兵士たちは、次第にその足を止め、雨の向こうに見え始めた光景に息を呑む。
街へと伸びる街道を埋め尽くし、その周囲の雑木林をもなぎ倒しながら、まだまだこちらへと押し寄せてくる赤い魔物の波。
既に城門や城壁へ殺到した小型の魔物がけたたましい鳴き声を上げながら、その爪や牙を結界に突き立てる音がギリギリと小さく響き、数体ほどの中型魔物が鎌のような腕を振り下ろした途端、また鈍く軋む大音量が生まれる。
その中で悠然と一歩一歩、後方から近づいてくる大型魔物の姿に、兵士たちの目に映った未来は希望の一欠けらもなかった。ただ、それでも
「っさっさと迎撃態勢をとれ!!一体でも仕留めんかッ!!本国に救援要請は届いているのだ!!一分でも一秒でも持ち応えろ!!街を守るのは我々だぞ!!!貴様らは!愛する者を守りたくないのかッ!!!」
そう声を張り合上げた一人の言葉に、ようやく兵士たちはまた戦うために足を動かし始めた。そうして攻撃魔法専門の魔法士を中心にして、絶望的な防衛戦を一秒一秒積み重ねていくなか、遂に大型魔物が城壁へと肉薄したその時―――
「んー?こんな大きさだったっけ、大型魔物って。」
ただただ純粋な疑問に首を傾げるような、そんな呑気な声が雨音と魔物の鳴声の合間を縫うように、空から響いた。
それに気づいた数人の幸運な兵士が見上げた先には、宙に佇むように浮かぶ、鮮やかな空色の外套に頭からすっぽりと包まれた小柄な人影の姿があった。
さぁ今日も一日終わったし、後は夕飯もらって風呂入って寝よっかな。と、いつもの部屋でソファーに寝そべってゴロゴロしながら、ぼんやり世界を眺めていた時だ。
どこかの街が、魔物の群れに呑まれそうになっているのが見えてしまった。
「カナタ、どうした?」
少し離れたテーブルで書類仕事をしていたロイに声を掛けられて、ようやく自分が眉を顰めていたことに気づいた。
「んー……ちょっと、まぁ大したことじゃない……」
そう誤魔化すように応えながらも、色々と頭の中で考える。
俺は、《魔導の頂点》だ。
その記憶を大体取り戻すことができたせいか、こんな光景が見えてもすぐに足が動こうとしない。むしろ、ある程度なら人間が減ってくれた方がその分、負化魔力の生産も少なくなるよな、なんて昔の俺みたいな思考までしてしまう。
ちょうど、この危機に陥っている街の近くには魔術師が誰もいないし。それでなくとも、ここ数か月ずっと魔術師連中で世界を駆け回っているのだ。負化魔力の浄化、その為だけに。
小さな街一つ救うために、これ以上弟子たちをこき使うのは流石に躊躇われる。
(俺の魔力なら、今日も十分過ぎるほど余裕はあるし、俺なら行って帰ってくるのも簡単だけど……)
色々思い出した結果、俺の魔力はこの世界になかなか溶けないことがわかってる。俺が魔力を使えば、その残滓がいつまでも世界を漂うのだ。
そして俺は、その残滓を起点に様々な魔術を発動することが出来る。
ちょっと得意になってしまうが、コレ、出来るのはこの世界で俺だけなんだよなぁ。だから、バカスカ魔術を使っても見た目以上に魔力の消費は少なくて済むのだ。ってまぁ、それは置いておいて……
(小型って言っても、馬ぐらいある狼だもんなぁ……。あ、中型……あの蟷螂タイプか。それに、大型も一体いるなぁ……。一体、一体かぁ…………俺が行くほどかなぁ……?)
どうしよっかなぁ、と兵士たちが絶望したように佇んでいるのを視ながら、考える。
はっきり言って、これはこの街が所属する国の管轄だ。この程度のことに、一々俺が手を出していられない。ただ………今は、手を出せる状況なわけで。
昔の俺なら、絶対に動かなかった。近場ならまだしも、ほぼ世界の裏側で起きている小さな街の危機なんて、例え気がついたとしても「あ、そう」で流して終わる人でなしだから。
(ん~……でもなぁ……今はなぁ……多分、このままだと寝覚めが悪いよなぁ……。普通の救援は、絶対間に合いそうにないし…………でも、俺が動くとまた何か余計な事も起きそうだし…………)
何かあれば《魔導の頂点》が助けてくれる、そう思われることだけは昔の俺も、今の俺も絶対に嫌だ。
俺にだって出来ないことの方が多いし、そりゃこの世界を守ってやるって決意はしてるけど、それとこれとはまた別の話だし。
なんて、俺がうだうだうだうだ考え込んでいると、いつの間にかすぐ傍に腰を下ろしたロイに顔を覗き込まれた。
もうさらりと音を立てる長い金糸の髪が顔にかかることもないけれど、その分ロイの寸分の狂いもなく完璧に整った秀麗な面立ちがはっきりと見える。
穏やかに眇められる深い紫水晶の瞳と、薄く形の良い唇がゆっくりと音を紡ぐ様も。
「カナタ、お前の望む通りにすればよい。迷うくらいなら、行動してみるのも案外良いものだぞ。」
…………ほんっと、なんで俺が考えてることがここまでわかるかな?本気でこの人、心を読む魔法か魔術をこっそり開発してないか?
「………また、すごい大迷惑かけるかもよ?」
「構わぬ。それに迷惑ではないと何度も言っておろう?退屈しなくて済む上に、カナタの助けになれるのだ。喜ばしいこと、この上ない。」
あーぁ、そこまで言われちゃ仕方ないよな。
寝転がったままロイを見上げ、俺は降参したとばかりに笑った。
そうだよな、うだうだ理由を並べて見殺しにするより、ちゃちゃっと行って人助けした方が、気持ちいいに決まってる。
「わかった。じゃ、ちょっと行ってくる。すぐ戻るからな。」
「――っカナ」
ようやく重い腰を上げる気になった俺は、でも寝転んだままソファーの背もたれに掛けていた外套を引っ掴んで、ロイに手を振ってから転移魔術を発動させた。
何かロイが言い掛けてた気もしたけど、帰ってからゆっくり聞こう。ちょうど軍人さん?の一人が良い啖呵をきってくれてたし、これなら更に気持ちよく人助けできそうだし。
そして俺の魔力の欠片である、とある黒砂ちゃん目掛けて世界の反対側へと跳んだ。ら、目の前には映画で見たような有名な肉食恐竜サイズの、赤いナメクジがいた。
確か俺の記憶にある大型魔物って、もう少し小さかった気もするんだけどなぁ。
まぁいいか、そろそろ街の防衛結界も耐久限界が来そうだし、雨が降ってるから長居するとビショビショになりそうだ。風邪でも引いたら、またロイに完全介護されてしまう。
目の前のナメクジの体から何本もの触手が、宙に浮かぶ俺とその下にある城壁へ向かって叩きつけるように飛び出すのを眺めながら、さっさと片付けるために周囲の黒砂たちに意識を伸ばした。
その直後街の城壁に沿って、地から空へと、無数の光が立ち上った。
音も風もない。ただ光だけの、なんちゃってレーザー砲だ。別に、あのエリューティア第二形態に触発されたわけではない、断じて違う。…………でもやっぱりかっこいいよな、レーザー砲。
一撃で城壁に押し寄せていた魔物を一掃した後は、上空から眼下の魔物へ周囲に浮かぶ全ての黒砂から小さな光弾の一斉射をしてみた。
中型程度であれば一撃で消し去れる威力だから、面白いほどにあっという間に魔物が消えていく。これは流石に無音というわけにはいかず、地を雨のように抉る大層派手な音が響いたけど。
「うんうん、省エネって大事だよね。」
先程のレーザー砲のせいか、街の周りだけ雲が晴れ暑いくらいの太陽の光が降り注ぐ中、静まり返った眼下にはもう魔物の姿は一体もなかった。
やる前からわかってはいたけれど、ただの魔物程度なら俺の敵じゃないな、やっぱり。でも、思えばこれって俺が記憶を取り戻してから初めての単独実戦だ。
(なんだっけコレ、確かなんか言葉が………そうそう、俺Tueee!!!ってやつだ。)
なーんて一人納得して頷いていると、足元の方から何か聞こえてきた。
「あ、あの!貴方様が、《魔導の頂点》であらせられまふっ?!」
静寂が支配していた城壁の上で、多くの兵士たちが一様に無言で俺を見上げている中、そう声をかけた挙句、舌をかんだのは必死に周囲の兵士を鼓舞し戦うのだと喝を入れていた、あの軍人さんだった。
鈍色の鎧を身に纏いこちらを見上げている顔は、何処からどう見ても若い女性で、その頭の上にある黄色い三角耳とショートカットの髪を眺めながら内心で呟く。
(猫……よりは狐のイメージだな。狐の獣人さんっていたっけ?…………あれ、記憶にない。)
昔の俺、その辺り全っ然!興味なかったからな。帰ったらロイに聞いておこう。
そう脳裏にメモをしながら、俺はフードをもう少しだけ深く被り直しながら彼女に伝えておく。
「これは気紛れ、二度目はない。」
その声音が思ったより冷淡になったのは、多分雨に濡れた不快さのせいだ。
また何かあっても助けてくれるのでは、という応えられないかもしれない期待を自分から背負いに行った自己嫌悪ではない、はずだ。
そして、次の瞬間には夜を迎えた皇国へと舞い戻った。
「ただいまー…………ってど、どしたの、ロイ?」
直接いつもの部屋へと戻った俺を出迎えたロイは、ソファーに腰かけたまま、片手で自分の額を抑えたまま俯いていた。傍から見れば、頭痛を堪えているかのように。
「あぁ、お帰りカナタ。よく頑張ったな。…………さて、食事にしようか。」
「う、うん。でも、え?なに?なんかあった?なぁ、なぁなぁ?」
顔を上げたロイの、どこか疲れた笑みに食い下がった俺。しばらく、なぁなぁなに?なに?教えてよー、と駄々をこねる子供みたいに繰り返した結果、ようやく白状してもらえた。
「すまぬ、まさか街の救援に行くか行かぬかで悩んでいるとは思っていなかったのだ。」
「え?じゃあ何であんな的確なアドバイスをっ?!」
「…………すまぬ……その、今日の夕食のメイン料理についてかと……」
「………………………………」
「悩むくらいなら今からでも料理長にリクエストを出せばよい、と……」
「………………………………」
「それにしても、カナタの魔術は鮮やかであった。次は私も連れて行ってくれるな?」
「………………うん。」
なぜだ、なぜなんだこの敗北感は!!俺Tueeeしてきたはずなのに!!!
【後書き】
カナタの無双が本編で出来なかったので、ちゃんと強いんだよってことをやろうとして…して…やりたかったなぁ(;^ω^)
その日、小雨が降りしきる薄暗く生暖かい空気の朝、エベレント大陸にて、とある小さな街が存亡の危機に直面していた。
激しく街中を響き渡る半鐘の音と、街中に何カ所か設けられている避難所へと走る人々の慌ただしい足音、それを誘導する軍属の者たちの怒号のような声。
その全てを打ち消すほどに大きく、鈍く軋むように響き渡る音が幾度も、閉じられた街の城門がある方角から上がる。
「畜生ッ!なんだってこんな所に突然あんな大群が出るんだ!?」
「口より手ぇ動かせッ!!魔法士の配備を優先して手伝え!!こっち向かってる奴に騎獣を出せ!」
「魔法士総動員したってありゃ無理だろ……大型がいる……資料でしか見たことねぇってのに……」
魔物の脅威とは長年縁遠い生活を送っていた幸運な街、その老朽化した城壁の上を行き交う多くの兵士たちは、次第にその足を止め、雨の向こうに見え始めた光景に息を呑む。
街へと伸びる街道を埋め尽くし、その周囲の雑木林をもなぎ倒しながら、まだまだこちらへと押し寄せてくる赤い魔物の波。
既に城門や城壁へ殺到した小型の魔物がけたたましい鳴き声を上げながら、その爪や牙を結界に突き立てる音がギリギリと小さく響き、数体ほどの中型魔物が鎌のような腕を振り下ろした途端、また鈍く軋む大音量が生まれる。
その中で悠然と一歩一歩、後方から近づいてくる大型魔物の姿に、兵士たちの目に映った未来は希望の一欠けらもなかった。ただ、それでも
「っさっさと迎撃態勢をとれ!!一体でも仕留めんかッ!!本国に救援要請は届いているのだ!!一分でも一秒でも持ち応えろ!!街を守るのは我々だぞ!!!貴様らは!愛する者を守りたくないのかッ!!!」
そう声を張り合上げた一人の言葉に、ようやく兵士たちはまた戦うために足を動かし始めた。そうして攻撃魔法専門の魔法士を中心にして、絶望的な防衛戦を一秒一秒積み重ねていくなか、遂に大型魔物が城壁へと肉薄したその時―――
「んー?こんな大きさだったっけ、大型魔物って。」
ただただ純粋な疑問に首を傾げるような、そんな呑気な声が雨音と魔物の鳴声の合間を縫うように、空から響いた。
それに気づいた数人の幸運な兵士が見上げた先には、宙に佇むように浮かぶ、鮮やかな空色の外套に頭からすっぽりと包まれた小柄な人影の姿があった。
さぁ今日も一日終わったし、後は夕飯もらって風呂入って寝よっかな。と、いつもの部屋でソファーに寝そべってゴロゴロしながら、ぼんやり世界を眺めていた時だ。
どこかの街が、魔物の群れに呑まれそうになっているのが見えてしまった。
「カナタ、どうした?」
少し離れたテーブルで書類仕事をしていたロイに声を掛けられて、ようやく自分が眉を顰めていたことに気づいた。
「んー……ちょっと、まぁ大したことじゃない……」
そう誤魔化すように応えながらも、色々と頭の中で考える。
俺は、《魔導の頂点》だ。
その記憶を大体取り戻すことができたせいか、こんな光景が見えてもすぐに足が動こうとしない。むしろ、ある程度なら人間が減ってくれた方がその分、負化魔力の生産も少なくなるよな、なんて昔の俺みたいな思考までしてしまう。
ちょうど、この危機に陥っている街の近くには魔術師が誰もいないし。それでなくとも、ここ数か月ずっと魔術師連中で世界を駆け回っているのだ。負化魔力の浄化、その為だけに。
小さな街一つ救うために、これ以上弟子たちをこき使うのは流石に躊躇われる。
(俺の魔力なら、今日も十分過ぎるほど余裕はあるし、俺なら行って帰ってくるのも簡単だけど……)
色々思い出した結果、俺の魔力はこの世界になかなか溶けないことがわかってる。俺が魔力を使えば、その残滓がいつまでも世界を漂うのだ。
そして俺は、その残滓を起点に様々な魔術を発動することが出来る。
ちょっと得意になってしまうが、コレ、出来るのはこの世界で俺だけなんだよなぁ。だから、バカスカ魔術を使っても見た目以上に魔力の消費は少なくて済むのだ。ってまぁ、それは置いておいて……
(小型って言っても、馬ぐらいある狼だもんなぁ……。あ、中型……あの蟷螂タイプか。それに、大型も一体いるなぁ……。一体、一体かぁ…………俺が行くほどかなぁ……?)
どうしよっかなぁ、と兵士たちが絶望したように佇んでいるのを視ながら、考える。
はっきり言って、これはこの街が所属する国の管轄だ。この程度のことに、一々俺が手を出していられない。ただ………今は、手を出せる状況なわけで。
昔の俺なら、絶対に動かなかった。近場ならまだしも、ほぼ世界の裏側で起きている小さな街の危機なんて、例え気がついたとしても「あ、そう」で流して終わる人でなしだから。
(ん~……でもなぁ……今はなぁ……多分、このままだと寝覚めが悪いよなぁ……。普通の救援は、絶対間に合いそうにないし…………でも、俺が動くとまた何か余計な事も起きそうだし…………)
何かあれば《魔導の頂点》が助けてくれる、そう思われることだけは昔の俺も、今の俺も絶対に嫌だ。
俺にだって出来ないことの方が多いし、そりゃこの世界を守ってやるって決意はしてるけど、それとこれとはまた別の話だし。
なんて、俺がうだうだうだうだ考え込んでいると、いつの間にかすぐ傍に腰を下ろしたロイに顔を覗き込まれた。
もうさらりと音を立てる長い金糸の髪が顔にかかることもないけれど、その分ロイの寸分の狂いもなく完璧に整った秀麗な面立ちがはっきりと見える。
穏やかに眇められる深い紫水晶の瞳と、薄く形の良い唇がゆっくりと音を紡ぐ様も。
「カナタ、お前の望む通りにすればよい。迷うくらいなら、行動してみるのも案外良いものだぞ。」
…………ほんっと、なんで俺が考えてることがここまでわかるかな?本気でこの人、心を読む魔法か魔術をこっそり開発してないか?
「………また、すごい大迷惑かけるかもよ?」
「構わぬ。それに迷惑ではないと何度も言っておろう?退屈しなくて済む上に、カナタの助けになれるのだ。喜ばしいこと、この上ない。」
あーぁ、そこまで言われちゃ仕方ないよな。
寝転がったままロイを見上げ、俺は降参したとばかりに笑った。
そうだよな、うだうだ理由を並べて見殺しにするより、ちゃちゃっと行って人助けした方が、気持ちいいに決まってる。
「わかった。じゃ、ちょっと行ってくる。すぐ戻るからな。」
「――っカナ」
ようやく重い腰を上げる気になった俺は、でも寝転んだままソファーの背もたれに掛けていた外套を引っ掴んで、ロイに手を振ってから転移魔術を発動させた。
何かロイが言い掛けてた気もしたけど、帰ってからゆっくり聞こう。ちょうど軍人さん?の一人が良い啖呵をきってくれてたし、これなら更に気持ちよく人助けできそうだし。
そして俺の魔力の欠片である、とある黒砂ちゃん目掛けて世界の反対側へと跳んだ。ら、目の前には映画で見たような有名な肉食恐竜サイズの、赤いナメクジがいた。
確か俺の記憶にある大型魔物って、もう少し小さかった気もするんだけどなぁ。
まぁいいか、そろそろ街の防衛結界も耐久限界が来そうだし、雨が降ってるから長居するとビショビショになりそうだ。風邪でも引いたら、またロイに完全介護されてしまう。
目の前のナメクジの体から何本もの触手が、宙に浮かぶ俺とその下にある城壁へ向かって叩きつけるように飛び出すのを眺めながら、さっさと片付けるために周囲の黒砂たちに意識を伸ばした。
その直後街の城壁に沿って、地から空へと、無数の光が立ち上った。
音も風もない。ただ光だけの、なんちゃってレーザー砲だ。別に、あのエリューティア第二形態に触発されたわけではない、断じて違う。…………でもやっぱりかっこいいよな、レーザー砲。
一撃で城壁に押し寄せていた魔物を一掃した後は、上空から眼下の魔物へ周囲に浮かぶ全ての黒砂から小さな光弾の一斉射をしてみた。
中型程度であれば一撃で消し去れる威力だから、面白いほどにあっという間に魔物が消えていく。これは流石に無音というわけにはいかず、地を雨のように抉る大層派手な音が響いたけど。
「うんうん、省エネって大事だよね。」
先程のレーザー砲のせいか、街の周りだけ雲が晴れ暑いくらいの太陽の光が降り注ぐ中、静まり返った眼下にはもう魔物の姿は一体もなかった。
やる前からわかってはいたけれど、ただの魔物程度なら俺の敵じゃないな、やっぱり。でも、思えばこれって俺が記憶を取り戻してから初めての単独実戦だ。
(なんだっけコレ、確かなんか言葉が………そうそう、俺Tueee!!!ってやつだ。)
なーんて一人納得して頷いていると、足元の方から何か聞こえてきた。
「あ、あの!貴方様が、《魔導の頂点》であらせられまふっ?!」
静寂が支配していた城壁の上で、多くの兵士たちが一様に無言で俺を見上げている中、そう声をかけた挙句、舌をかんだのは必死に周囲の兵士を鼓舞し戦うのだと喝を入れていた、あの軍人さんだった。
鈍色の鎧を身に纏いこちらを見上げている顔は、何処からどう見ても若い女性で、その頭の上にある黄色い三角耳とショートカットの髪を眺めながら内心で呟く。
(猫……よりは狐のイメージだな。狐の獣人さんっていたっけ?…………あれ、記憶にない。)
昔の俺、その辺り全っ然!興味なかったからな。帰ったらロイに聞いておこう。
そう脳裏にメモをしながら、俺はフードをもう少しだけ深く被り直しながら彼女に伝えておく。
「これは気紛れ、二度目はない。」
その声音が思ったより冷淡になったのは、多分雨に濡れた不快さのせいだ。
また何かあっても助けてくれるのでは、という応えられないかもしれない期待を自分から背負いに行った自己嫌悪ではない、はずだ。
そして、次の瞬間には夜を迎えた皇国へと舞い戻った。
「ただいまー…………ってど、どしたの、ロイ?」
直接いつもの部屋へと戻った俺を出迎えたロイは、ソファーに腰かけたまま、片手で自分の額を抑えたまま俯いていた。傍から見れば、頭痛を堪えているかのように。
「あぁ、お帰りカナタ。よく頑張ったな。…………さて、食事にしようか。」
「う、うん。でも、え?なに?なんかあった?なぁ、なぁなぁ?」
顔を上げたロイの、どこか疲れた笑みに食い下がった俺。しばらく、なぁなぁなに?なに?教えてよー、と駄々をこねる子供みたいに繰り返した結果、ようやく白状してもらえた。
「すまぬ、まさか街の救援に行くか行かぬかで悩んでいるとは思っていなかったのだ。」
「え?じゃあ何であんな的確なアドバイスをっ?!」
「…………すまぬ……その、今日の夕食のメイン料理についてかと……」
「………………………………」
「悩むくらいなら今からでも料理長にリクエストを出せばよい、と……」
「………………………………」
「それにしても、カナタの魔術は鮮やかであった。次は私も連れて行ってくれるな?」
「………………うん。」
なぜだ、なぜなんだこの敗北感は!!俺Tueeeしてきたはずなのに!!!
【後書き】
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