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11.ようやく確認した
しおりを挟むこの世界ウルスタリアにおける、人間たちの種族特性と平均寿命について。
まずヒト。人族とも呼ばれ世界の総人口の約半分を占める種族で、種族間で最も個体差が存在するのが特徴。大きな魔力を持つ者がいれば、腕力に秀でた者、全てにおいて平均的な力しかない者、等様々らしい。
平均寿命は80年程。最も出生率が高く繁殖しやすいので数が多いとのこと。ただし、他種族との混血化が進み、純粋なヒトというものは実は希少らしい。
次に獣人。身近なロマンスグレー兎様を見ればわかるように、獣の特性を身体的特徴に持つ種族で、人族の次に人口が多く総人口の3割を占める。一般的に腕力や俊敏性などの身体能力に特に秀でるらしい。
なかでも純血種と呼ばれる極僅かな獣人は、身体の全てを獣に変化させることができ、能力も桁外れとか。
彼らは同じ獣人族の間でも、それぞれの血統によって国単位で纏まったり、他種族混合でも気にせず暮らしたりと色々らしい。このユーレンシア大陸でも多くが生活しているが、イルレンキ大陸という別大陸に大多数の獣人族が暮らしているそうだ。
平均寿命は120年程。同じ系統の獣人同士であれば問題ないが、他系統や他種族との間では出生率が少々落ちるらしい。
最後に精人。総人口残りの2割を占め、イルレンキ大陸奥地の深い森で大多数が暮らす…ぶっちゃけファンタジーでお馴染みのエルフだエルフ。身体能力は低いが、代わりに人族や獣人では到底かなわない程の魔力を持って生まれてくるそうだ。
平均寿命は300年から400年と突出して高いが、代わりに出生率がどん底らしい。精人同士はおろか、混血でも無事生まれれば国を挙げてのお祭り騒ぎになるとか。
……どこかで聞いた気がするんだ、その精人の混血。確かさ、半獣半精人って誰か言ってなかったっけ?
まぁそれは置いておいて、人族以外の獣人・精人・混血をまとめて亜人族と呼ぶこともある、と。
「よし、では大事な大事なこと!確認していこうかな―――!!まずはロイッ!!」
「人族。歳は今年で………………あぁ、132歳になる。」
「初っ端からツッコミ所満載ですがスルーだッ!!!あとファイに耳打ちされるとか自分の歳覚えてなさすぎッ!!流れで次、ファイっ!」
「ふぉっふぉ。ご紹介預かりました通り、兎の獣人《ビース》で歳は92になります。老い先短い身ではありますが、まだまだ耳は良い方でございますよ。」
「不吉な事は言わないでいいからッ!?しんどい時はほんと無理せず休んでよ!?えっと次っ…そこのエルフッ!」
「僕のことですかぁ?シン様の世界では僕みたいなのをエルフとお呼びになるんです?ちょっとそこ詳し…あ、はい、見た目通りの精人で、85歳のまだまだ若造ですよ~」
「見た目通りにファンタジーだわッ!!……っあー…息切れしてきた……次、ちょっと聞くのがなぜかドキドキするんだけど、バルザック様。」
「なぜ自分だけ敬称を……ごほん、以前陛下よりご紹介頂いた通りだが、半獣半精人で、歳は32。」
「ま!さ!か!の30代!!!レア中のレアがそこ!?どこにそんな貫禄漂う30代がいるんだよ!!あとこの国トップで全種族網羅してるのがなんか怖い!!
あぁもうついでに聞いとく!そこの鳥ッッ!!」
「はっキタッ!!!大冠鷲の獣人《ビース》!32歳!名前はペネリュート・ラインド・カロディールッス!!」
「あ、一番見た目と一緒だわぁ……顔はな。」
「ごっご期待に沿えずッ…………!!」
くっ!と苦し気に胸を押さえている爽やかな男前は、今はもう白銀の鎧ではない。
代わりに、ビジネススーツに似ているが胸元や袖周りをこれでもかとレースや飾り布で派手にした、目にも鮮やかなオレンジ色の服を纏っている。
ただばっさばっさと羽搏く背の黒翼と、頭髪のように頭部から生えている黄味の強い茶色の羽根がこれまたファンタジーだった。髪、いや羽根の長さ的におかっぱに見える。
「カナタ、疲れたろう?ほら。」
そう言ってストロー付きの赤い液体が入ったグラスが、すぐ傍から差し出された。ただし決して手渡そうとしないので、俺はちらりとその紫水晶を一瞥してから仕方なく口元に固定されたストローを咥える。なんで皆の前でこんな事やってるんだろうと思いつつ。
あ、これ初めての味だけど美味しい。すっきりとした甘みと絶妙な酸味の冷えた液体が、叫んだ喉にも丁度いい。
そうして多分ジュースのような飲み物をごくごくと飲み干しながら、ようやく一息をついた俺は改めて室内を見回した。
庭園での騒動―空から羽の生えたお客さんの突然の来襲―で、一触即発だったロイとこの鳥獣人を黙らせた後、俺は実はぶっ倒れた。らしい。おたくどちら様?とか言った覚えはあるんだけど、そこから真っ暗になったような、気もする。
まだ昼時だったと思うが、そこから寝て起きたらいつもの部屋にいた挙句、既に一晩経って朝だった。
そして俺のベッド脇では、ロイがかなり憔悴した様子で椅子に座っていた。目覚めた俺と目が合うなり、一瞬泣きそうなほどに酷く顔を歪めた人が。まぁ、美人がいくら顔を歪めても、綺麗なモノは綺麗だったけど。
どうやら調子に乗って魔力を使ってみたのが、いけなかったらしい。言葉に意図的に魔力を乗せるというのは、高等魔法に近い。だから体に負担がかかったのだろう、と横になったままの俺にロイが教えてくれた。
そして、「私がいながらカナタに魔力を使わせるなど」とロイが自分自身を責めているのが申し訳なくて、慌てて言いつくろったのがまずかった。
「俺が焦っちゃったんだ、あのままだとロイが怪我するかもって!だからロイは悪くないから。
俺こそごめん。あれだけロイは注意してくれてたのに、軽々しく魔力使おうとして……」
「……私を心配して、か?」
隠しきれない嬉しさが滲んだ声音に、俺もつい苦笑で応えたのだ。
「そりゃ当然だろ。す、好きな相手に何かあったらって…んぅうッ!!?」
うん、朝からがっつり深いキスはだめだな。ファイが気を利かしてくれなかったら、今日も一日ベッドの住人確定だった。
ロイはとても不服そうだったが、昨日の訪問者、例の鳥さんたちの事も気になり、こうして深奥宮殿の応接室の一室で会うことにしたのだ。
俺が寝ている間に色々話も終わっているらしいが、口ぶりからして昔の俺の知り合いのようだし、誤解はあれど今の俺を心配してここまで来てくれたみたいだし。
ただロイの過保護なのか、政治的な理由かよくわからないが、その席にはサリアスとバルザックも加わっていた。ファイは当然、同じ室内で隅に控えている。
俺が遊び心で壊してしまったアレについては、目覚めて落ち着いた後に早々にロイに自己申告はしている。だが、もう一方の当事者である白銀鎧にも迷惑をかけたのだから、そこからまずは謝ろうと考えながら皆が集まっている中、ソファーに腰を下ろしたのだが。
見慣れない羽根状の髪が彩る、若そうな青年の緊張した顔を見つめた瞬間、思い出してしまったのだ。外見年齢が同じかほんの少ししか年上に見えないロイが、彼を、若輩者扱いしたことを。
そして彼もまた、同年齢にも見えるロイを、圧倒的な年長者呼びしていたことを。
「話の前に、ちょっとごめん。内輪の話させてください。誰か俺に種族毎の平均年齢教えてくれ。あと皆、歳いくつなわけ?」
そしてファンタジー要素にダメージを受ける俺の常識が、冒頭の出来事というわけだ。
あのさぁ、どうして誰もあらかじめ歳の話をしてくれないんだ?俺が本当は500歳オーバーで最年長者だから?歳の話NG扱いにでもなってたのか?でも記憶全部すっ飛ばしてるって、このメンバーは知ってるよな?
先に教えてくれていれば、こんな所でいらないツッコミに体力使う必要なかったんだよ。あぁ、でもまだツッコミ所が残っていた。
「平均年齢80歳の人族のロイさん。なんで?なんで生きてるの?」
「カナタと結ばれるために、と言っておきたいところだが、体内魔力の大きさに比例して肉体を最善な状態へと自己再生・修復する力が強まる。長命種が理論上は不老不死も可能と言われている根拠で、500年以上その姿で生きているカナタと同じだ。」
「…ロイって…まさかほんとに神様だったのか……」
あれ?なんか室内の視線が全部俺に集中したぞ?え?何?「お前が言うな」的な視線なんだけど。
「体内魔力も通常はなぜか老化しちゃうんですよ。だから僕たち精人もやがては老いて死にますし。
ただ異世界人のシン様はともかく、陛下はヒトとしては異例ですね。これは以前《魔導の頂点》がおっしゃったそうですけど、なんでも陛下は"滅びた古代種の先祖返りだろう"と。それもあって《魔導の頂点》自らが当時皇位継承権第一位だった陛下を浚って弟子になさったのは有名な話なんですよ。」
「あ、ちょっとこれ以上の要素は今お腹いっぱい……でもその話また後で詳しくッ!!」
なんでこんな時に更なる爆弾をにっこにこでぶん投げてくるんだ、サリアスは。絶対なにか愉しんでるだろう!?このお兄さん、実は笑顔が黒いんじゃないか??
「カナタ、お前が望むなら今からでも話してやろう。私とかつてのカナタとの大切な思い出だ。何ならゆっくりベッドで……」
ソファに隣り合って座っているせいで、すぐに腰に腕を回され密着する体に加え、そう耳元に唇を寄せて囁かれると、否応なく背筋に小さなぞくりとした感覚が走りかけ……って、
「~~ッだから!後で!!詳しくって言ったッ!!もう話進まないじゃん!!
改めまして!新堂奏多ですよろしくお願いします記憶は全部ぶっ飛んでるんで《魔導の頂点》呼びはなしで!あと昨日は迷惑かけてすみませんでした何か壊したのは多分俺です!」
そう一気に言い終わり、強引にでも昨日の白銀鎧こと、今日のオレンジスーツへと話を向けた俺、よくやったと自分で自分を褒めてやりたくなった。
そこ、隣で「流されにくくなったか?」とぼやかない。こんな大人数の前で誰が流されるか。
多分。
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