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8.こんな日常
しおりを挟む晴れてロイと、うん、まぁ、そういう関係になってからも、俺の日常は特に変わりはない。
むしろ俺の日常はというと、朝ロイに起こされて朝食。庭の散策、または誰かとお話。昼食後、読書または庭の散策、または誰かとお話。夕食後ロイとお話しながら入浴、ロイと就寝。場合により……まぁその、夜更かし。
…………俺、何もしてないと言うなかれ。
これでもすっとばした記憶にあったはずの、この世界での常識?とか色々学んでいる。ちなみに俺、この世界の文字は読めた。これはラッキーだったね!長年生活の一部になってたことは、無意識でも覚えているらしい。
そうそう、俺が話している言葉は多分、日本語だと思う。というのもこの世界、意識して伝えようとしている言葉にはそれだけで微量な魔力が宿り、相手側にはっきり理解できるように伝わるらしい。だから外国語とか異言語を学んで習得する、という認識はないそうだ。母国語、つまり脳内で思考する言語がありさえすれば異種族コミュニケーションもばっちり、というのがこのウルスタリア仕様らしい。
不思議だね、魔力!なんかもう万能っぽいけど、これもまた複雑らしい。全ての生物には多かれ少なかれ体内魔力があり、それを世界に満ちている自然魔力に干渉させることで起こす現象が、魔法及び魔術、というそうだ。
結局、地球でいうところの空気の要素の一つが魔力のようだと理解することにしたが、これで正しいかどうかは不明。
それで、その体内魔力を干渉させるには必要な手順を踏まなければならない。その手順通りに行えば、誰でもある程度同じ現象を起こすことができる。それが『魔法』。材料を設計図通りに組み立てれば、良し悪しは多少あれど誰でも同じプラモデルができる、というのと同じか?
では『魔術』とは何か。これは手順を踏むことなく、現象そのものを即座に起こすことができる。『魔法』で必要な手順が排除されるだけでなく、なぜかその力は強大化されるらしい。
…………結局説明だけではよくわからなかったので、実際目の前でやってもらいました。
用意するもの、ヴェルメリア皇国皇帝と魔法省トップの二人。立ち合い兼、お茶用意の侍従長。
まだ詳しくは聞けてないけどこの皇帝陛下、魔導のアレさんの弟子で超希少らしい魔術師だからな!
場所は、万が一何かあってもいいように整備途中の庭園の隅っこが用意された。
俺は、ロイもサリアスもこんなことにつきあわせてごめん、と言いつつ、初めて実際に触れる魔法や魔術にわくわくしながら見学した。
結果、とても満足しました。
まず魔法省長官のサリアス。彼は自分では専門は魔道具関連で根っからの技術職だと言っているが、皇国軍元帥の某マッチョなイケオジ様曰く、三大陸でもトップクラスの魔法戦エキスパートだそうな。時と場合により、魔術師とも短時間なら互角に渡り合えるほどの強者魔法士らしい。
そんな彼に、指先に小さな炎を一つ出してもらった。不思議なことに炎が生まれる前、その指先には小さな円形の幾何学模様が淡く赤い光となって浮かび上がった。そう、これはあれだ!ファンタジーお馴染みの魔法陣!!
人間が魔法を使おうと体内魔力を動かした場合、その属性や込められた魔力の大きさに従った魔法陣が勝手に浮かび上がるらしい。そしてその陣が強く発光した瞬間、望んだ現象が世界に顕れる。
これが『魔法』における"手順"らしい。
では『魔術』は?と、続けてロイにお願いした。そうしたら、なぜか非常に珍しいことに能面のような顔になった皇帝陛下、自分の右手を頭上より高く掲げ、上を指さしたと思ったら………
轟ッ!!!
と何の予兆もなく人差し指の先から、盛大な火柱が吹き上げました!!二人分の胴体は優にありそうなほどの横幅で、高さは3mは軽く超えていた気がする。その炎は瞬時に消し去られたが、辺りにちりちりと熱気が漂う中、淡々と皇帝陛下は言い訳した。
「私は制御が苦手だ。《魔導の頂点》も匙を投げたほどな……」
完璧超人にも弱点があることがわかりました!なんだ、ロイもやっぱり人間だなぁうんうん。
そうほっこりしていたところで、サリアスが解説してくれた。その話によると、『魔法』で魔法陣が浮かび上がるのは一応解明された事象ではあるらしい。(体内魔力素と自然魔力素の干渉値を視覚化した場合の云々、と専門用語オンパレードな詳細は悪いがパスさせてもらった)
だが『魔術』についてははっきりと解明されておらず、何らかの理由によって体内と体外の魔力の干渉そのものが『魔法』とは違うプロセスかもしれない、らしい。
だからこそ『魔術』を使える者、つまり『魔術師』は歴史上極少数で半分御伽噺とされていた時代もあった。
《魔導の頂点》が表舞台に出てくるまでは。
ただかつての俺も、感覚的なものが大きくて弟子であるロイにも、なぜ、どうしたら魔術を使うことができるか、という具体的な説明はしなかったらしい。
では、どうやってロイに魔術を教えたのか?
死んだ魚のような眼をした想い人に「知りたいか?どうしても本当に知りたいのか?後悔しないか?」と言い募られたら、小心者の俺は首を横に振るしかないだろう。
そうして、大まかに魔法と魔術について教えてもらった俺は、その翌日から魔法関連の書籍をロイやサリアスから借りて読書する時間が多くなった。
まだ俺の怪我、魔力回路とやらの損傷は簡単に完治するものではないらしく、例え幼児が使うような簡易な魔法であろうと決して試みるな、ときつくロイに約束させられてはいるが。
それでも、またいつか使えたらいいなと思って、知識だけは手にしておこうとしているわけだ。
神に近しい存在として認められていたくらいだ。力があった方が、ロイの役に立てる事があるかもしれないし。それになにより、なんだか落ち着かないんだ。
頭の奥が、ざわざわするというか。
そう、魔術が使えないと、全ての意味が無くなるような…………
あぁ、うん。それ、もう知ってる。でも、だけど、だから、俺は、傍にいたいから、力を―――
「カナタ」
「っ……?あれ……?ロイ?」
気が付いたら、夕日の光でオレンジ色に染まったいつもの部屋のソファーに横になっていて、心配げに覗き込むロイに髪を梳かれていた。読み込んでいたはずの『誰でも簡単!クッキング魔法 巻の3』は、ローテーブルの上にきちんと置かれている。
「…少し、魘されていた。また痛みがぶり返してきたか?」
「えと……なんか、夢?見てたみたいだけど、起きたら忘れたな……。だから、もう平気だ。起こしてくれてありがとな、ロイ。」
体を起こしてそう感謝と共に笑えば、ほんの少し不服そうなロイが小さくため息をつく。
「ならば良い。だが、何かあったなら必ず私に言え。私を頼ると、約束しろ。」
俺はその言葉に、思わず吹き出してしまった。
「もう最初から毎日ずっとロイに頼りきりだって。これ以上頼るんだったら…そうだな、自分で歩く必要もなくなりそうだ。」
「それはいい。カナタの事は私が何処へでも抱いていくことにしよう。」
「ちょっ!?本気にするなよ!?絶対するなよ!?足の筋肉なくなるからな俺!!」
愉し気に笑うロイに、俺が慌てて言い返して。
俺たちの声に気づいたファイが絶妙なタイミングで現れて、流れるような所作で美味しいお茶を入れてくれて。
夕飯までの一時をこうしてどうでもいい話をしながら、とても穏やかな思いで過ごす。
これもまた、ここで出来た俺の日常の一つ、だな。
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