上 下
8 / 89

7.多分慣れる前に止まる

しおりを挟む


 誰だよ、年上だからってちょっと調子乗った奴……。数十秒前の俺だよ!
つい頭カーっとなったまんま勢いでキスしたまではいいよ?俺だって男だ。好きな相手にくらい、自分からキスする度胸はある。
ある、ことにはあるんだけど、ちょっとこれは待った!なんで俺の事まだ離してくれないの?あれ?俺がロイの顔を捕まえてキスしたよな?いつの間に逆になったんだ?!なんで俺の後頭部がっちり掴まれてるわけ!?あと、そろそろ首が痛い!!

そーれーかーらー、なんで即ベロチューになってるんでしょうかねぇええぇ!!?

「うんぅっ……!むぅ…んんっ……!!」

 思わず逃げを打った舌先を吸い上げられたかと思えば、上顎の内側を舐められたりと、経験値が違いすぎて固まった俺はろくに反応できない。そのまま散々好き勝手されるうちに、背筋が小さくぞくりと粟立つ感覚が…。
ちょ、ちょっとコレ一旦タイム。もう心の中だけでも年上ぶりません、情けなくていいんで、ほんとちょっとたんまッ!
 そう胸の内で泣きを入れながら、ロイの肩口にしがみついていた手を伸ばして金色の尻尾をグイグイと引っ張る。そこまでして、ようやく長いキスが終わった。

「ぷはっ……ロィイ?初心者にえげつなっ

「カナタ。愛している。すまぬ、もう無理だ。」

俺だけ乱れていた呼吸を整えつつ、そう抗議しかけたところで、ひょいっと膝を掬われ手本のようなお姫様抱っこをされる。そのまま常にない早足でロイが向かう先は、俺の巣と化しているあの天蓋付きの大きなベッドで。

「え?ちょ……?え?……えぇえ??」

 俺だって別にカマトトぶるつもりはない。男が好きな相手をベッドに連れ込んだら、やることは一つだろ?でもな、ちょっと待とう。
告白して速攻この展開ってどうなんですかねぇ!!?ロイにしてはがっつき過ぎじゃないか!?あのいっつもスマートに、人の気持ちの一手も二手も先を読んでくれる男がだよ?!
 あわあわと言葉にならない何かに俺が口を開けたり閉じたりしてる間にも、あっという間に背中からベッドに降ろされてしまう。

そして、閉じ込めるように俺の顔の横へ両腕をついたロイに、見下ろされる。

「お前がいいと言うまでは何もしない、と言ったが撤回する。嫌でないなら、カナタに触れたい。」

「…あぁ確かにそんなこと言ってた皇帝陛下がいたよな。でもその前にもキスされた気がするんですけど。」

自分の鼓動の音が、頭の中から聞こえてくるような状態を誤魔化したくて、そんな茶化すような受け答えをしてしまう。それでも、ひたと見据えてくる深い紫色が湛える光は、剣呑なほど強くて。
 彼の眉間に刻まれた深い皺は、きっと俺が「嫌だ」と言えばこの場を流す覚悟のためだろうか。皇帝だなんて偉い立場にいるのだから、少しくらい強引になったって不思議ではないのに。

こんな時まで、俺の事を優先して考えてくれているのかと思ったら――……


「頼む、カナタ。許すと言ってくれ。」

「…っ……ロイなら、いいよ。好きだって、言ったじゃんむぅっ!」


羞恥を乗り越えて、なけなしの度胸で応えた俺の言葉は最後まで続くことなく、あっという間にロイに飲み込まれていった。


 それからの事は、色々ぐちゃぐちゃになって覚えていない、と俺は主張したい。
 いや、本当信じられないことにあの後キスだけでわけわかんなくなって、動揺からマジ泣きしかけたところまでは覚えてる。
魔力の相性がどうのこうのというロイのファンタジー説明を受けてやっと、あ、ならこれでいいのかと開き直ったら…………うん。

な ん か す ご か っ た 。

 ロイの色気は半端ないし、素肌で何度もぎゅってされるのが気持ちいいし、最初から最後まですんごい優しくしてくれて、俺初めてなのにもう脳みそ溶けてんじゃないかというくらいふわふわのどろどろで…………と昨夜の記憶を覚えている限り反芻している俺は今、ロイの横で頭からシーツを引っ被って丸まっている。だって、だってな?

「では、お食事はまた後程こちらにお持ちしましょう。イングレイド閣下、ジルス閣下には、本日の御茶会は非開催とお伝えいたします。」

「それでよい。残りの執務は全てセネルへ回しておけ。」

「承知いたしました。それではごゆるりとお休みくださいませ。陛下、シン様。」

 そう、所謂いわゆる朝チュン、美しく言えばザ・後朝きぬぎぬの朝。
 同じベッドに寝そべるロイの綺麗な顔のドアップと、甘く蕩けた紫色の瞳が寝ぼけ眼に飛び込んでくるという強すぎる刺激に、心臓がまた大きく飛び跳ねた。だというのに、それが落ち着く間もなく侍従のファイが「おはようございます」とやって来たわけだ。
 いつもなら、俺を起こしに来るのはロイだったからな。何があったかはわかってますよ、という優しい微笑みで降臨した兎爺様と目が合った瞬間、俺はベッドの中に逃避した。
俺が寝落ちした後にロイが色々してくれたのか、体もシーツもさらりとはしているが、だからと言ってこの状況で「ファイおはよう」と言えるほど俺の心臓は強くない!!まだ素っ裸なんだよ!!それになんかファイの声がいつもより愉し気だしな!?

 そうして俺が羞恥に悶えている間にも、さっさとファイは退室していったらしい。パタン、と俺に聞かせるように扉が音を立てて閉められてすぐ、ロイの低く心地良い声が頭上から降ってくる。

「カナタ、そう愛らしいことをされると、このまま貪りたくなってくるのだが?」

「っっそれはなしッ!ご飯、朝ご飯来るってファイ言ったッ!!」

 不穏な言葉に思わずガバッとシーツを被ったまま上半身を起こすと、そこには彫刻のような均整の取れた美しい半裸を晒す皇帝陛下が腕をついた横臥で、もう昼近いがなと微笑しておられました。

…………明るい所で見ると破壊力半端ないわ鼻血出そう。同じ男なのに……。

なんなの?ロイって着やせするタイプ?脱いだら凄いってファンタジーじゃなかったのか?あ、ここファンタジーな世界だったわ。
解かれた長い金糸の髪は寝ぐせとは無縁らしく、白いシーツにさらりと流れるのがやけに目についた。

「あぁ、もう薄れてきているな。これは少しばかり、惜しい気になる……」

 ちろりと纏う光を変えた紫色が、俺の首元や胸元を眺めていることに気づき、昨夜散々吸われたり甘噛みされたのを連鎖的に思い出した瞬間、ほぼ無意識にバッとシーツで首元まで覆ってしまった。俺は乙女か……!自分の行動がキモイんだけど!!!
 おそらく首まで真っ赤になってあたふたしている俺に、喉の奥でくつくつと笑ってから、ロイもようやく体を起こす。剥きだしの肩口を滑る髪がキラキラと光って、本当に俺なんかよりよっぽど神様っぽいんだけど。

「こうして恥じらうカナタを堪能できるのも今のうち、かもしれぬな?」

これからどうせ慣れる、とそうのたまう綺麗な笑みに俺は絶句した。まさか、もしかして、これが日常になるのかと。

「なぁ?カナタ。」

 わざと小さな音を立てた触れるだけの接吻キスに、俺はようやく昨日の自分がかなり早まったことをしでかしたのではないかと思い至った。
 目覚めた最初ときからただでさえ俺に甘かったロイが、ここにきて更にどろどろの甘々になっている。こんな状態が通常運行されたら、俺の心臓はそのうち止まるんじゃないか?事実、昨夜から酷使されていた心臓は、今もまた早鐘を鳴らすように動き続けている。

これ、慣れる日なんて本当に来るのか?




しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...