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5.異世界でした
しおりを挟む本日はお日柄もよく、引き続きロイ所有とかいう端が見えない立派すぎるお庭を、これまた四阿というにはしっかりした綺麗すぎる建物から、昼御飯を食べながら眺めております。ついでに言うなら、これも高そうな大理石っぽい白い石材でできた丸テーブルを囲み、俺はロイの膝の上で、この異世界を実感しております。
やったね、支えてもらってたら座位でも痛みは強くならないみたいだ。うん、順調に回復中かな!
さーらーに!
この抜群の安定感を誇るロイ椅子!自動餌やり機能までついております!!丁度いいタイミングで口に運ばれる一口サンドイッチのお味はどれも絶品です。中身は絶対知らないけど、味はイケるから問題なし!
おっと自棄になって食べ物に逃避してた。そろそろ食べるのも飽きてきたし、いい加減直視しよう、異世界を。
そう思って俺はテーブルの向かいに座る二人と、その背後に控える一人を改めて観察してみた。
はい、この三人、俺が目を覚ました時点で俺たちからちょっと離れた同じ四阿内に控えてくれてました。ロイしか見えてなかったから気づかなかったね!俺の馬鹿アホ間抜けぇええぇえ!!こうなったらロイと額こっつんこなんて見られてない!!見られてないことにするッ!!!!
っと、だから集中集中。
まず、俺とロイのあれな接触を声掛けによって阻止するというファインプレーをしてくれた彼。ロイにファイと呼ばれていた人だ。
紺色の燕尾服みたいな服をきちっと着込み、一人だけ直立のまま控えている彼はロイの侍従とやらをしているファイラル・エヴィンス。短めの白髪に、穏やかな茶色の目、白いちょび髭を蓄えた好々爺然とした上品なお爺様だ。多分執事的な人なんだろうと俺は理解したんだが、大きく間違ってはいないだろう。
先ほど紹介された三人の中では一番背も低く見た目はお爺ちゃんだが、背筋はピンと伸び、矍鑠としている。
そして何より、頭の上に白く長い兎耳がある。耳まで入れると、三人の中でも一番長身だ。…………異世界で身長測定に兎耳が考慮されれば、だが。
次は俺とロイの向かいにいる二人のうちの一人、蒼穹のローブを身に纏う、見たまんま魔法使い系なお兄さん。魔法省という魔法技術関連の部署で長官を務めているそうで、名はサリアス・メル・イングレイド。
ロイほどではないが、どこの海外映画スターですかというくらいには整った顔をした細身のイケメンだ。年はロイと同じか、雰囲気的に少し下に見えるのはそのたれ目のせいかもしれない。ずっとにっこにっこした、いい笑顔で顔が固定されている。
ちなみに三つ編にして背中に流されている彼の長い髪の色はピンクで、瞳の色もそうだった。あと、顔の横から長い耳がぴょんと飛び出ている。うん、尖ってるな。……エル…うん、何でもないや。
最後、サリアスさんの隣に腰かけている大男。がっちりとした体躯を深紅の軍服に包み、背には黒のマント…いや、サー・コートとか言うのだろうか、それを纏った凄みのある軍人さんだ。三人の中で縦も横も一番大きい。
そんな彼は皇国軍元帥バルザック・ウォード・ジルス。年は丁度ファイさんとサリアスさんの中間くらいに見える。燃えるような鮮やかな赤の髪を短く刈り上げ、睨みつけるような金色の三白眼と、への字にきつく結ばれた口元は野性味溢れるイケオジだ。ちょっと顔が怖い、なんて思ってないからな。
…………うん。これ絶対ロイの国の中でも、トップクラス間違いなしの重要人物さんたちだよな?普段絶対仕事が忙しくて、暇なんてない人たちっぽいんだけど?そんな人たちに俺の相手させるの?マジで?ロイってもしかしてアホなの??
「カナタ、この三人だがファイが兎の獣人、サリアスは精人、バルザックが半獣半精人だ。皆、亜人種とくくられる人間だが我が皇国は実力主義故に、忌憚なく登用している。」
俺が食べ終わるまで名前と所属の紹介だけで待っていてくれた彼らを眺めていれば、それに気づいたロイが俺の口元を丁寧に繊細な力加減のナプキンで拭いつつ、そうぽんぽんとファンタジー用語で説明してくれる。
うん、そっちもちょっとお腹一杯だからとりあえず置いておいていい?それよりも、
「…えと、ロイ……この人たちは、俺の相手してもらうほどお暇じゃないと思うんだけど?迷惑すぎるんじゃ……」
「まさか。カナタの相手以外に優先度の高いモノなど、公私ともに存在するはずがない。お前たち、そうであろう?」
「ふぉふぉ。《魔導の頂点》直々にお気遣い頂けるとは、いつお迎えが来ても満足ですな。」
「僕はお迎えはまだまだ困りますが、《魔導の頂点》とお話しさせて頂くなんて二度とない幸運だし、むしろ他の奴らに自慢しちゃいたいくら……ってしませんから、冗談ですから、陛下その目はやめてくださいって!」
「《魔導の頂点》の御前に侍ること、恐悦至極。」
やんわりとロイにお話相手としては相手のグレードが高すぎますよ、と意見してみたら、ばっさり却下された挙句ファイさん、サリアスさん、バルザックさんの順でそう言い切られる。
ちらりと頭にパワハラの文字がよぎった気もしたが、それよりも格段にヤバイ事象に、腕に鳥肌が立った。
「ちょっ、そのレグナントカって呼ぶのだけはやめてもらえますッ!?恥ずかしすぎるんで!黒歴史量産を目の当たりにしてる気がするんで!!」
ちなみにだが、元の世界で俺は普通の中学生活を過ごした。暗黒面に囚われることもなければ、右腕や片目が疼いたこともない。だというのに!なぜ異世界でこんな中二病臭のする呼び名を!連呼されなければならないのか!!
「ぶふっ!!」
誰だ吹いたのは!?って、口元を片手で覆っていたのはまさかの大男軍人、バルザックさんだった。なんだよ、仏頂面が標準装備かと思ったら、笑いの沸点低いオッサンだったのか。
笑顔消したサリアスさんが、すんごいジト目で隣見てるし。
「ふむ……ただの敬称のようなもので、カナタが恥ずかしがる必要は一切ないのだが、心苦しいなら別に呼ばせよう。なんと呼ばれたい?」
「え?普通にカナタって名前でい
「カナタと呼んでいいのは私だけだろう?」
おぉっとぉ!?名前呼び別にいいよ、って言い切る前にロイがなんか言ってきたよ。しかも、そのお綺麗な顔は微笑を湛えているけれども、紫色の瞳に宿る光がいつもより強いような気が……。
まぁでも……いっか。ロイに名前を呼ばれるのは、嫌いじゃない。むしろ、低く柔らかなその声で呼ばれる自分の名前は、慣れ親しんだものなのにちょっと特別な気がして、気持ちいいし。
「うーん・・じゃぁ苗字のシンドウ、で?」
「承知いたしました。それではシンドゥー様とお呼びいたします。」
「ごふっ」
微笑むファイさんの台詞に思わず咽た。どこかで似たような宗教があると思った俺は、結局ロイ以外の人にはシン様と呼んでもらうことになりました。
様付けもちょっと背筋がむず痒いが、これはロイも仕方ないと言うので。あと俺から三人への敬語も、なしにされた。ロイの方が上位の立場なのに、その臣下である三人には敬語ってのもおかしいなと、俺も納得したからそれはいいんだけど。
(そういえば俺、初対面以外でロイに敬語使うの忘れてるな。おっかしいな?俺、日本では年上には絶対敬語だったのに、ロイには違和感なく今まで話してるし……)
俺が知っている今までの自分と、今の自分との間に齟齬のようなものを覚えて少し考え込んだが、今更ロイに丁寧に話しかけるのは逆に違和感しかないし、まぁ気にしないことにしよう。
こうしてロイの他に、異世界での話し相手をゲットした俺の療養生活は、少し賑やかになったのだった。
だがこの時の俺は、当然まだ何も知らない。《魔導の頂点》という存在を。
ロイを含めたこの四人との日々折々の雑談の中で、それをちらちらと知っていった結果、見えてきた正体に俺が声を大にして叫んだのは、この庭園での顔合わせから約2週間後のことだった。
「それ絶対俺じゃないからッ!!人違い!人違いを主張するッ!!!でなけりゃこれは夢だッ!!はい夢オチ決定―――ぃッ!!!」
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