異世界で記憶喪失になったら溺愛された

嘉野六鴉

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1.異世界ですか

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 異世界ウルスタリア。

 海に隔てられた3つの大陸を一つの太陽と、二つの月が照らす世界。
 魔法技術を主体とする文明を持ち、ヒト及び亜人種が敵対と融和を繰り返しながらも、共通の強大な敵である魔物と生存競争を繰り広げている。

―――らしい。


 そんな世界に俺、こと新堂奏多しんどうかなた君はひょっこり迷い込み、いつの頃からか魔法の才能に目覚め、魔法の上位技術、神の領域とも呼ばれる『魔術』を行使できるようになったらしい。

そして、色々暴れまくったそうな・・・・。


 例えば何やっちゃったの?と聞けば、連合軍が大型魔物の討伐隊を組んで現地到着、さぁ討伐!って時にはすでに俺が討伐してたとか(むしろ人助けなんじゃ?)、敵対国を魔物の大群に襲わせようと画策していたある国に逆にその群れを誘き寄せた、とか(これはまだそんなヤバくない、よな?)、俺を隷属させようとした国家群のトップたちを一夜で纏めて暗殺したとか(……はいヤバいヤバすぎる、てかそれほんと俺?どこのテロリスト?)、他にも真偽不明、ついでに動機不明の物を含めれば更に更に色々と物騒なエピソードに事欠かないようで・・・・。
 そりゃ500年も同一人物生きてたら嫌でもエピソード増えるわな。と俺は思った。他人事みたいに思った。だってそうだろ!?俺はこの世界で生きてきた記憶なんて、何にもないんだから!ただ普通の日本の一般人として17年間生きてきた記憶も、ちょっと曖昧なところが多いんだけど、それでもまだ覚えている。

ということで、つまり!


「新生、新堂奏多として生きます。よろしくお願いします。」


 天蓋付きのキングサイズベッドの上に正座して、俺は深々と頭を下げた。勿論、ベッドサイドの方向へしっかり体を向けて。そこにいるのは、いつ眠ってもいつ目覚めても俺の傍にいる、金髪紫眼の美丈夫。もしかして暇人なのか?と思っていたらなんとこのお綺麗なお兄様、3つある大陸の一つ、ここユーレンシア大陸で屈指の強国であるヴェルメリア皇国という国の皇帝陛下だそうな。
 わぉびっくりだね!いきなり国で一番のお偉方に介護されてる俺!もう頭はオーバーヒートしてるから笑うしかないよね!hahahahaha!!!!

 と現実逃避に逃避を重ね更に逃避していた俺も、皇帝陛下直々に俺の事を説明してもらってから二日もたてば少しは腹をくくるというもので。…ほんのちょっとな!
 そう、身の振り方、という奴を考えなければならない。黒の何たらや魔導のうんたらな誰かさんは、俺ではない!断じて違う!!よって新しい生き方を模索するのだ!というわけで、過去との決別を皇帝陛下に宣言するとともに、あわよくばなんか支援してもらえないかなーと今日、この太陽も登り切った真昼間に目が覚めた俺は起き抜けにお願いしてみたのだ。体の痛みも大分平気になってきたしね!

「…そうか。ならば、私がカナタの全てを預かろう。何がしたい?何処へ行きたい?
 元の世界への帰郷だけは叶わぬが、それ以外ならカナタの望み、その全てを叶えるために死力を尽くそう。」

 とろりと蜜が滲むような甘さを湛える紫水晶アメジストの瞳も、穏やかな笑みが刻まれた口元も、端正な顔立ちをこれでもかと更に彩るから、同性だというのに鼓動が速くなる。赤面だけは避けたい、と視線を外しながらも、俺は当初から気になっていた疑問をようやく口にした。

「えと……陛下は、なんでそんなに良くしてくれるの?俺、もう何にもできないよ?全部忘れちゃったから、ただの一般人だよ?しかも異世界の。
 なんか怪我してて、最初っから迷惑かけっぱなしだし…。」

「あぁ……そうか、まだ話していなかったな。カナタが負傷したのは、皇軍が主体となった多国籍討伐軍と魔物の戦闘に介入し、その身を……盾として手助けしてくれたからだ。
 つまりカナタがこうなってしまった原因の一端は間違いなく、私の責任せいだ。」

だから遠慮なく私を利用しこき使えばいい、なんでも言えばいい、と男はさらに続けた。ほんの少し、苦い微笑に口元を歪ませて。

「え?いや、それって俺が過去バナみたいに勝手につっこんでいったんじゃないの?全然陛下のせいじゃ・・・っ」

びっくりした。喋ってる途中で口に人差し指押し当てられたら流石に俺も黙るって。でも思わず、皇帝陛下に視線を合わせてしまった。

 そこで少し後悔した。その紫色の双眸に宿る光に、その強さに、なぜか少し逃げ出したくなるほどに、気圧された気がして。

「いけないな、私はまた間違えそうになった。こんな言い訳を建前にしてもう一度……いや今度こそお前を喪うことになれば、全て意味などないというのに……」

自嘲気味に嗤ったその人の大きなしっかりとした手が、ゆっくりと頬に添えられ、確かめるように親指で目元を撫でられる。しっかりと感じるその体温は心地良いが、突然のことに体は緊張して瞬きしかできないなか、ゆっくりとその言葉は紡がれた。



「カナタ、私はお前を愛している。

 記憶があろうとなかろうと、魔法が、魔術が使えようと使えまいと、どうだっていい。だから、傍にいさせてくれ。

 それから――――」


私のことは、ロイと呼べ。

 至近距離で囁くようにそう告げられた直後、唇に柔らかな感触の何かを押し当てられ、思わず目を閉じた。


……もうマジこれ夢オチ決定でよくね!?何がどうなってんの俺ぇえぇ!!?






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