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第一章 パンダにされた弱小戦士

勇者パーティーとの戦い(前編)

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「はっ!ほっ!」
 シェリアはボルスと戦っていて、お互い距離を取りながら激しい攻防を繰り広げていた。蹴りと蹴り、拳と拳がぶつかり合う度に激しさを増している。
 ボルスは幼い頃から格闘技を叩き込まれていた為、多くの敵や相手を倒して神童と呼ばれていた事も。その為、勇者パーティーとしての活躍は十二分にあり得るのだ。
 一方のシェリアは魔術は天才的だが、格闘技を習ったのは最近の事。しかし、門下生達をあっという間に倒し、格闘技術もすぐに取得した。まさに文武両道の鏡というべきだろう。
(なるほど……シェリアはどうやら格闘技術を存分に学んでいた……手強いのも無理はないな……だが、俺だって負けられない理由があるからな!)
 ボルスは心の中で自身をつけながら前を向き、シェリアに対して左ストレートを放つ。しかし、彼女は背中を曲げて回避してしまい、そのままミドルのキックを彼の腹に当ててしまった。
「がっ!」
 ボルスは痛みで悲鳴を上げるが、すぐに間合いを取って態勢を立て直す。すると、シェリアは接近してきて、ボルスにローキック、ハイキック、更にはパンチを次々と浴びせ始める。
 ボルスは攻撃する暇もなくガードに徹していて、反撃する暇もなく追い詰められていく。天才的な格闘家が始めたばかりの格闘家に追い詰められていく姿は珍しくも無いが、この様な展開になるのは予想外としか言えないだろう。
(シェリアの奴……そこまで強くなっていたとは……だが、俺だって負けられない理由があるんだ!)
 ボルスはすぐに前を向き、シェリアに狙いを定めて拳に力を注ぎ込む。同時に拳に炎が宿り、そのまま纏わりついたのだ。
「紅蓮羅刹拳!」
 強烈な拳はシェリアに襲い掛かるが、彼女は片手で手首を掴み、不発に終わらせた。
「と、止められた……」
 自身の技がシェリアに止められてしまった事にボルスは驚きを隠せず、同時に冷や汗も吹き出てしまった。
 この技は威力が高く、一撃必殺もたまに出てくる技であり、止める事は不可能とされていた。しかし、シェリアは冷静に判断し、ボルスの手首を掴んでその威力を封じただけでなく、炎まで消してしまった。
 ボルスはこれなら倒せると過信したばかりなのか、冷や汗が止まらなくなっている。自身が天才だというおごりは脆くも崩れ去りそうで、どうすれば良いのかとガタガタ震えてしまうのも無理なかった。
「今度はこっちの番よ!」
 シェリアはすぐにボルスの右にボディーブローを当てる。強烈な一撃が炸裂し、彼は思わず顔を歪める。
「まだまだ!」
 更にシェリアはボルスに対して追い打ちを続け、彼の手首を放したと同時に左右のジャブ、左フック、ミドルキックを繰り出す。
 ボルスはシェリアに次々とダメージを受けてしまい、防戦一方の展開に。ガードしようとしても次々とパンチや蹴りのダメージを受けまくってしまい、更には服を掴まれてしまう。
「それっ!」
「うおっ!」
 そのまま勢いよくシェリアに投げ飛ばされてしまったボルスは、地面に打ち付けられてしまう。
 残り体力も少ないボルスだが、素早く立ち上がって戦闘態勢に入り、反撃の一手をぶちかまそうとしているのだ。
「よくも俺を馬鹿にしやがって……俺のプライドをズタボロにする気か……」
 ボルスは怒りでシェリアに視線を移す中、彼女は冷静に前を向く。かつての仲間が相手でも、冷静に戦う姿こそ、彼女の真の強さなのだ。
「あなたのその傲慢さ……私が全て打ち砕いてやるわ!」
 シェリアはボルスを指差しながら宣言し、そのまま拳に力を込めて彼に狙いを定める。過去とは決別する覚悟で拳を強く握りしめ、そのまま止めを刺しに駆け出した。
「小賢しい!」
 ボルスは右足を真上に上げて踵落としの態勢に入ったその時、シェリアはすかさず左に回り込み、そのまま彼に急接近してきた。
「何!?」
「煉獄螺旋拳!」
 シェリアは炎の螺旋が纏った拳に力を込め、そのままボルスの右頬を思いっきり全力で殴り飛ばした。
 ボルスは悲鳴を与える隙もなく、かなり飛ばされてしまい、地面を2、3回転転がりながら、仰向けに倒れてしまった。
「ふう……」
 シェリアは安堵のため息をついた直後、倒れているボルスの方を見る。彼は既に失神しながら倒れていて、起きる事も不可能。
 この時点で既に決着は着いていて、勝利したのはシェリアとなった。
「ボルス……確かにアンタの格闘技術は天才かもしれない。けど……あなたみたいな心の汚れた人に……私は絶対に負けられないんだから!」
 シェリアはくるりと踵を返し、その場から歩き去る。しかし、ボルスは既に失神しながら倒れていて、その言葉は彼の耳に届いていなかった。

     ※

「この!」
「ふっ!」
 フローラとオットーの戦いはより激しさを増しながらぶつかり合い、剣と斧がぶつかり合う度に火花を散らしていた。
 体格差ではオットーが有利だが、武器を使う腕前は互角。まさに一歩も引かない駆け引きとなっている。これはどちらが勝ってもおかしくないだろう。
「お前……いい加減にくたばれよ!俺達がどれだけ死ぬ思いをしたのか分かっているのか!?」
 オットーは悪態をつきながらフローラに叫んでいた。彼等は1週間もフリキントン森林に迷い込み、散々酷い目に遭っていた。
 モンスターも襲い掛かるわ、食料も少なくなるわ、挙句の果てには狙っていた勇気の盾もファンクに奪われる始末……まさにこれは不幸な気持ちに遭ったのは同情せざるを得ないだろう。
 しかし、フローラは冷静に首を横に振っていた。
「アンタね……そんな事誰も分かる理由ないでしょ!私達だって強くなる為に頑張っているんだから!アンタ達の考えを押し付けられるのは御免だからね!」
「っ!テメェ!」
 フローラからの指摘にオットーは逆ギレしてしまい、斧を振りかざしながら彼女に襲い掛かる。
 オットーはブチ切れてしまうと周囲を見ずに目の前の敵を倒しに行く悪い癖がある。その為、危険人物として言われていて、前にいたパーティーもそれが元でクビとなってしまった。
 まさに問題児だが、よくバリウスがスカウトしたなと疑問に感じるのも無理はないのだ。
「おっと!」
 しかし、フローラは巧みなサイドステップで回避し、オットーが振り下ろした斧は空を切ってしまった。
 するとフローラはその隙を見逃さず、大剣を両手で構えて駆け出したと同時に跳躍。そのまま地面に向けて振り下ろそうとしていた。
「振動波動斬!」
 フローラが大剣を地面に当てた直後、大きな波動の波が発生してオットーに襲い掛かる。
 波動は進む事にスピードと威力が増していき、そのままオットーに直撃してしまった。
「ぐわああああああ!!」
 オットーは悲鳴を上げながら全身にダメージを受けてしまい、そのまま仰向けに倒れて動けなくなってしまった。
 よって、この瞬間……フローラが見事勝利したのだ。
「オットー……アンタは馬鹿さ加減も程々にしなさいよ。それがアンタの悪い癖だから」
 フローラはオットーにそう言い残し、その場から移動する。この事を言われていたオットーは、ただ悔しそうな表情をするしかなかったのだった。
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