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第八章 激闘!トーナメントバトル

第二百五十四話 トーナメント前日の夜

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 神々の緊急会議から数日後、この日はトーナメント前日となっていた。零夜達はヒーローアイランドにある訓練場で、トーナメントに向けての最後の練習に取り組んでいた。連携確認、必殺技の威力、策略、基礎上昇の訓練などを念入りに行ない、能力をパワーアップしているのだ。

「はっ!よっ!ほっ!」

 零夜は木人人形を相手に次々と必殺技を繰り出し、強烈な空中回し蹴りで倒す事に成功。ミミ達も木人人形を見事倒す事に成功し、この日の訓練は終わりを告げられたのだ。

「よし!今回はここまでだ。後は明日に備えて体力を回復させ、ゆっくり休むとしよう」
「そうね。じゃあ、片付けに入らないと!」

 訓練が終わりを告げ、全員が片付けに入り始める。後は明日の戦いに備えてゆっくり休むのみで、それぞれの時間を過ごそうとしていた。音楽を聴いたり、ゲームをしたり、テレビを見たり、絵を描こうとする者もいる。
 この様子をメディアは微笑みながら見ていて、リリアはメモを取りながら零夜達の様子を確認する。書かれている内容は彼等の行動記録であり、全体的に良好という結果となっていたのだ。

「零夜さん達の仕上がりは万全。後はトーナメントでその実力を発揮できるかです」
「ええ。カーン様から合体技の件についても伝えたし、取得する事も問題なくできた。けど、私達の目的はザルバッグ。何が何でもトーナメントに優勝してもらわないと」

 メディアの決意にリリアも笑顔で頷き、零夜達の元に歩み寄る。同時に空は真っ赤な夕焼けとなっていて、彼等を照らしていたのだった。

 ※

 その夜、ヒーローアイランドの海岸では、倫子が寂しそうな表情を浮かべながら海を眺めていた。様子からすればトーナメントに対する不安が残っていて、心配してしまうのも無理はない。
 すると零夜が海岸に姿を現して、倫子の姿を見つける。彼女の行動を察していたのか分からないが、偶然と言えるのは確かだ。

「倫子さん……不安なのですか?」

 零夜は心配の表情で倫子に声を掛け、彼女は彼の声に気付いて振り向いた。その目には涙が浮かべられていて、不安な様子が丸分かりだ。

「うん……ウチはプロレスラーとして活動していたけど、いつの間にか多くの世界を救う戦士になってしまった……けど、ウチは嫌なんよ。本当は……選ばれし戦士になりたくなかった!」
「えっ!?」

 倫子からの衝撃発言を聞いた零夜は、驚きを隠せないのも無理なかった。まさか彼女が選ばれし戦士になりたくなかった事は想定外と言えるが、本当の気持ちを知る事ができたのは確かだろう。

「メディア様から選ばれた以上は戦うしかないけど、ザルバッグと戦う事になるのは不安で怖いんよ……下手したら死んでしまうし……ヒック……仲間だって失ってしまう……」

 倫子は身体を震わせながら本心を伝え、途中から嗚咽も出てしまった。その様子だと泣いているのは確実だと言えるが、何よりも彼女は仲間がいなくなる事を恐れているのだ。

「ウチ……この戦いに不安になってきた……どうすれば良いか……分からないよ……」

 倫子は大粒の涙をこぼしながら泣いてしまい、つなぎ服を摘んでヒックヒックと嗚咽し始めた。彼女は戦いの経験で成長しているが、泣き虫の性格は最初から変わっていないのだ。
 すると零夜が倫子を優しく抱き寄せ、ポンポンと背中を撫でる。話を聞いた以上は黙っている筈もなく、彼女を落ち着かせようと決意したのだ。

「俺も不安になる時もありました。弱くなって逃げ出したい気持ちもあったが、皆がいたからこそ今の俺がいます。倫子さん達が側に居てくれたからこそ、俺はここまで進む事ができた」
「零夜君も……そんな事があったん?」

 倫子は涙目で零夜に視線を移しつつ、彼に質問をした。それにコクリと彼は頷き、倫子の頭を優しく撫で始める。

「ええ。倫子さんも不安な気持ちもあるかも知れませんが、あなたは一人ではない事は確かです。辛くなった時には俺を頼って下さい。何時でも力になりますから」
「零夜君……うわあああああ!!」

 零夜の笑顔に倫子は我慢できず、赤ん坊の様に大泣きしてしまった。今まで溜まっていた感情が爆発してしまい、嬉しさのあまり大泣きしてしまったのだ。
 零夜の優しさと温もりに包まれている倫子は、自身が泣き止むまでずっと抱き着いていたのだった。

 ※

「大変ですー!」
「皆、起きなさーい!倫子さんと零夜を探すわよ!」

 翌朝、ヒーローアイランドでは零夜と倫子がいない事に大騒ぎとなってしまい、日和とミミの合図で捜索が始まった。朝起きた時に二人がいなかったので、皆はヒーローアイランド中を探し回りながら捜索していた。

「一体何処にいるのかしら?」
「確か海岸に……あ!」

 アミリスが驚きながら指差す先には、零夜が倫子と共に抱き合いながら寝ていたのだ。しかも一本の樹を背もたれにして、仲睦まじい様子となっていた。

「見つかったけど、仲睦まじく寝ているわね……」
「折角だから起こさないと」

 アミリスとマーリンは寝ている零夜と倫子の元に駆け寄り、彼等をゆさゆさ揺らしながら起こし始める。そのまま目が覚めた零夜は、アミリスとマーリンに視線を移していた。

「おはよう、零夜。トーナメントの朝からいい雰囲気ね」
「アミリス、マーリン……あ」

 零夜が隣に視線を移すと、倫子が眠ったまま彼を抱き締めていた。人差し指をチュパチュパ咥えているのを見ると、まさに甘えている性格が表面に出ているとしか言えない。

「こ、これはその……!」
「大丈夫。言わないから」
「いや、だからこれは……」

 零夜がバタバタ慌て出したその時、彼の背後から頭をがぶりと噛み付いてきた。よく見ると……後ろからエヴァが怒りの表情で噛み付いていたのだ。

「ぎゃあああああああ!」

 零夜は今まで飛び上がってしまい、倫子は彼から離れて倒れてしまう。同時に彼女も目が覚めたと同時に、アミリスとマーリンに視線を移す。

「おはよう。二人で何していたの?」
「へ?ウチ、昨夜の事覚えてへんけど……」
「二人で抱き合っていたみたいだけど、あれが証拠だからね」

 倫子はキョトンとした表情で、目をこすりながら質問に答えていた。マーリンが呆れながら向こうを指さすと、零夜はエヴァに噛みつかれながら走り回っていた。
 エヴァの噛みつきも更に威力が増している為、零夜の頭からは血が流れ出るのも当然である。下手したら大量出血で倒れる事も。

「ウチ、悪い事をした?」
「十分にね。ほら、さっさと皆のところに向かうわよ」
「うん」

 マーリンは倫子の手を取って、彼女が見つかった事を皆に伝えに向かい出す。零夜はまだエヴァに噛み付かれていて、走り回りながら彼女を振り払おうとしていた。この騒動が収まったのは数分後であり、トーナメントの朝は波乱の展開となったのだった。
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