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第六章 山口観光騒動記

第二百七話 五重塔の刺客

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 零夜達は彼とミミの家で一泊し、翌朝を迎えた。零夜はいつもの日課であるランニングを行い、ルリカ達も後に続いて共に行動している。朝の日差しが彼等を照らし出し、穏やかな風が吹いているのだ。

「美津代さんは朝食の準備をしているし、早めにランニングを終わらせて戻るぞ!」
「「「おう!」」」

 零夜の掛け声にミミ達も一斉に応え、その後ろでは修吾が自転車に乗りながらこの様子を見ていた。零夜が選ばれし戦士となってからリーダーシップを発揮する様になり、山口から上京した時よりも逞しく成長したと実感しているのだ。

(修行の為に山口から上京させたが、まさかここまで逞しくなるとはな。それに仲間も増えたのは良い事だが、女性だらけなのが問題点だな)

 修吾は心の中で思った後、すぐにメガホンを構えながら零夜達に呼びかける。ランニングで間違った道を進んでいないか、確認する為だ。

「スピード上げろ!時間は待ってくれないぞ!」
「「「はい(おう)!」」」

 修吾の掛け声で零夜達の走るスピードは上がり始め、ランニングは無事に早く終わりを告げられた。この後も筋トレやストレッチを行い、そのまま朝食に入ったのだった。



 朝食を食べた零夜達は、目的地である瑠璃光寺五重塔へと向かっていた。これを観光すれば課題クリアとなるが、刺客や殿町がいるので油断はならないだろう。

「五重塔って法隆寺の五重塔とか色々あるけど、今回の瑠璃光寺の五重塔は凄いところなの?」
「ええ。山口の五重塔も凄いところと言われているわ。それがあそこよ」

 アミリスの質問にユナが応え、彼女が指差す方に視線を移す。目の前には五重塔が建てられているが……何故か修復中で布が巻かれていたのだ。

「そうか……今、修復中だったわね。修復中の前はどんなのだったの?」
「一応、スマホで写真を撮っているから。これがその写真よ」
「「「おおーっ……」」」

 アミは修復中前のスマホ画面の五重塔の写真を、初めて見るエヴァ達に見せる。それは見事な雰囲気を漂わせていて、画面越しからでもその魅力が伝わってくる。それにエヴァ達も見惚れるのも無理なく、零夜達は苦笑いをしていた。

「まあ、俺達は前に行った事あるから分かるけどな」
「そうね。修復前に私達五人で行ったし、その後も皆ではしゃいでいたからね」
「ええ。その時の写真も残っているからね。これがその写真よ」

 美津代はスマホを取り出し、その時の写真を皆に見せる。五人が仲良く写っているが、ミミと美津代が零夜に抱き着いているのが見えた。今となってはいい思い出だが、これを見せたという事は……当然二人の怒りが黙っていられないのだ。

「零夜様、この写真は何ですか?ミミさんと美津代さんと抱いているのですが……」
「零夜……アンタという人は……」

 ルリカとエヴァは怒りのオーラを出しながら、零夜にズンズンと接近してくる。当然ミミ達はガタガタ震えながら後退してしまい、ユナ達はあらあらと真顔で見ていた。

「おい!これはお前達と出会う前に撮った写真だから……!少しは落ち着け……」

 零夜が必死で言い訳をしようとしたが、エヴァがそれを聞かずにガブリと噛み付いてしまった。当然痛いのは確定だが、狼族の獣人の噛みつきはたまった物ではないのだ。

「ぎゃああああああ!!噛みつくのは止めてェェェェェェ!!」
「嫌~!絶対許さない~!」

 零夜の悲鳴にエヴァが反論したその時、全員が敵の気配を察する。恐らく殿町が仕掛けた最後の刺客であるだろう。

「敵が来るぞ!すぐに戦闘態勢に入れ!」

 エヴァに噛み付かれたままの零夜の合図と同時に、最後の刺客が姿を現す。その姿は黒いアイマスクを付けていて、スーツ姿の男なのだ。

「ここまで多くの刺客を倒すとはな。私の名はダンディの栗田!最後の刺客だ!」

 栗田が零夜達に対して自己紹介をした直後、ウインドウが姿を現す。そこには栗田の紹介が載せられていたのだ。

ダンディの栗田
ナルシストだが、女性の服を脱がす事に関しては天下一品。
恥ずかしさで戦力を減少させるトンデモ変態であるが、その実力は最強クラスである。

「脱がし屋の変態じゃねーか!こんな奴が最強でありながら、最後の刺客だなんて認められるか!」

 零夜がツッコみながら叫んだ直後、ルリカが栗田に近付いてきた。誰もが自殺行為だと考えたその時、彼女は彼の顔面に向けてパンチを打ち込んできた。

「フン!」
「げぼら!?」

 ルリカのパンチは栗田の顔面を見事凹ましてしまい、零夜達は驚きを隠せずに唖然とするしかなかった。そのぐらいの事ならエヴァ、キララ、マーリン、倫子、ヒヨリは余裕でできるが、ルリカがパンチで顔面を凹ましてしまったのは想定外と言えるだろう。

「私は今、機嫌が悪いのです。邪魔するんじゃねーよ!」
「キャラ崩壊起こしているわよ!本当に大丈夫なの!?」

 更にルリカはキャラ崩壊を起こしてしまい、キララは慌てながら止めに向かい出す。普段ならこんな言葉は使わない筈だが、今回はあの写真を見てしまったストレスが原因であるのだ。
 当然パンチを喰らった栗田は顔面を凹まされていて、そのまま仰向けにバタンと倒れて消滅してしまった。最強の刺客と言われた割には、呆気なくやられてしまった。これに関しては期待外れと言っても良いだろう。

「なんとか刺客は倒したが……とんでもなくバカな奴までいたとはな……」
「ああ……これなら又之助の方がマシだぜ……」

 ソニアと杏が盛大なため息をついてしまい、刺客達のバカな行動に呆れるしかなかった。すると零夜はルリカに近付いたと同時に、彼女を抱き寄せ始めたのだ。

「ふえっ!?」

 ルリカは突然の展開で驚きを隠せない中、零夜は優しく彼女の頭を撫でる。するとルリカのストレスが少しずつ軽減していき、すっかり大人しくなってしまったのだ。

「落ち着いたか?」
「すいません、零夜様……気持ち良くて天にも登っちゃいます~……」

 ルリカは幸せ絶頂となってしまい、その証拠に尻尾をブンブン強く振っている。ご主人である零夜に抱き寄せられただけでなく、頭を撫でてもらったのがとても嬉しかったのだろう。

「はい、目を覚まして!まだ敵が残っているわよ!」
「ひゃっ!」

 ミミの呼びかけを聞いたルリカは、慌てながら零夜から離れてしまう。まだ殿町がいるとなると油断はできない為、深呼吸しながら落ち着きを取り戻し始めた。

「エヴァも噛み付いている場合じゃないでしょ!早く離れなさい!」
「んや!」

 エヴァも零夜にまだ噛み付いていて、ミミの呼びかけにも嫌がっている。嫉妬の影響でここまでやるとは異常過ぎるかも知れないが、このまま放って置く理由にもいかないのだ。

「ここはお尻を叩くしかないみたいね。こらっ!」
「んひゃっ!」

 美津代はバットを構えながらエヴァのお尻を叩き、彼女は悲鳴を上げながら零夜から離れてしまう。同時にミミが零夜に近付き、彼の頭の傷を治療し始める。今の行為はファインプレーと言えるだろう。

「すいません、わざわざ……」
「気にしないの。エヴァ、零夜の頭に噛み付くのは止めなさい!」
「だって……」

 ミミの注意にエヴァが涙目となったその時、零夜が危機感を感じて彼女を抱き寄せてしまう。同時に殿町が零夜達の前に姿を現し、彼の仲間も次々と駆けつけてきたのだ。

「久しぶりだな、東!小学校以来だな」
「俺も待っていたぜ……殿町!」

 零夜と殿町は再会したと同時に、バチバチ火花を散らしながら睨み合っていた。小学校時代での因縁が今、この場において蘇ろうとしているのだった。
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