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第六章 山口観光騒動記

第百九十六話 零夜と美津代

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 零夜達は防府にあるビジネスホテルに泊まる事になり、部屋割りを話し合った結果、この様になった。

・零夜
・ルリカ&美津代
・ミミ&キララ
・倫子&日和
・ヒカリ&ジェニー
・エヴァ&コーネリア
・アミリス&マーリン
・ソニア&杏
・ジャンヌ&マリー

 零夜は部屋に荷物を置いた後、まだ時間があるのでのんびりする事に。そのままテレビの電源を入れようとしたその時、ノックの音が聞こえる。

「?」

 零夜がドアを開けると、そこにはなんと美津代が立っていたのだ。先程の約束をする為に彼の部屋に来たのだろう。

「美津代さん」
「入っていいかな?」
「ええ。構いませんが」

 零夜は美津代を部屋の中に入れ、二人はベッドの上に座り込む。すると美津代が彼を抱き寄せたと同時に、そのままベッドの上に倒れ込む。

「先程は邪魔が入ったけど、今ならできるわ」
「今ならできるって……いや、アレは流石に早過ぎます!」

 美津代は笑顔で先程の続きをしようとするが、零夜は顔を赤くしながら慌ててしまう。いきなりここでは言えない事をすれば、暴走どころかホテル崩壊に繋がる恐れもあるのだ。

「そんな事はしないから。それは結婚してからだけど」
「そうですか……良かった……」

 美津代は苦笑いしながら否定し、零夜は安堵のため息をつく。すると彼女は零夜と自分の耳を密着させ、そのままムギュッと抱き締めていく。その温もりはとても温かく、落ち着きを実感するのだ。

「美津代さん……勇人さんの仇を取る事が出来て良かったですが、仇は取れても死んだ人は帰って来ないですね……」
「ええ……大切な人を失った悲しみは、今もまだ残っているの……」

 美津代の目には涙が浮かんでいて、今でも泣きそうになってしまう。勇人の事が頭に残っているとなると、悲しみが込み上げてしまうのも無理はない。

「あと、もう一つ……美津代さんは何故、俺の事を大切にしてくれるのでしょうか?前から気になっていました」

 零夜は気になった事を口に出し、美津代は苦笑いしながらも彼の頭をよしよしと撫でる。そのまま零夜から離れて起き上がったと同時に、彼の手を自身の胸に当て始めた。

「うん……あなたを見ると……勇人さんの面影が残っているから、好きになったの」
「えっ?俺が……勇人さんの面影が残っている?」

 美津代からの解答に、零夜は思わずキョトンとしてしまう。まさか自身が勇人の面影が残っていると言われても、容姿もそんなに似ていない。それどころか自身の何処に勇人と面影があるのか分からないのだ。

「そう。あなたは仲間を大切にする優しさ、そして何事にも懸命に立ち向かう覚悟がある。それは勇人さんも同じだったわ」
「面影を感じ取っていたのはそういう事だったのですね……」

 零夜は美津代が自身を好きになった理由が分かり、そのまま彼女から離れて自身の胸に左手を当て始める。自身が勇人と同じ性格である以上、彼が残してしまった最愛の人を守らなければならないだろう。

(勇人さんは美津代さんを愛していたが、突然の事件で帰らぬ人となってしまった。こうなると……俺がしっかりするしかない!)

 零夜は決意を固めたと同時に、美津代の両肩に手を置く。そして真剣な表情をしながらある決断を告げ始める。

「俺、決意しました。勇人さんの思いを引き継ぎ、あなたを支えます。あの様な悲劇を起こさない為にも!」
「零夜君……うわああああ……!」

 零夜の真剣な決意に美津代は我慢できず、大泣きしながら彼に抱き着いた。自身を受け入れてくれた事は勿論であり、勇人の意志を引き継ぐ事に嬉しさを感じていたのだ。

「大丈夫。俺が傍にいますから。大丈夫ですよ」
「ヒッ……ヒッ……」

 零夜は美津代が泣き止むまで傍にいて、彼女の頭を撫でながら慰めたのだった。



「もう落ち着いたわ。ありがとう」

 それから数分後、美津代はようやく泣き止み、立ち上がったと同時にストレッチを行う。思いっきり泣いた分、勇人の分まで生きる事を決意しただけでなく、零夜と結婚する為に新たな道を模索するだろう。

(良かった……美津代さんが立ち直ってくれて……)

 この様子に零夜は安堵の表情を浮かべる中、美津代はストレッチを終えて彼の上に乗っかってきた。しかも、零夜の頭を胸の中に埋めていて、逃げられない様にムギュッと抱き締めていた。

「よしよし。良い子良い子」

 美津代は零夜の頭を撫でながら、よしよしとあやしていた。まるでお母さん的存在であり、その優しさが身にしみているだろう。
 しかし、零夜は恥ずかしがるのも無理はない。二十五歳なのにそこまであやすのは恥ずかしいと感じたのだろう。
 
「恥ずかしいから止めてくださいよ……それよりも夕食を食べに向かいませんか?」

 零夜からの提案に美津代は時計に視線を移す。今は午後六時ぐらいで、夕食の会場に行くまであと十五分ぐらいだ。

「そうね。ルリカちゃんも心配しているし、先に部屋に戻って準備するわ。あと、私の悩みを聞いてくれてありがとう」

 美津代は笑顔でお礼を言い、零夜の唇にキスをしたのだ。いきなりの不意打ち展開になったが、誰もいないので酷い目に遭う事はないだろう。
 そのまま美津代はルリカと同室の部屋に向かい、残ったのは零夜のみとなった。

「まさかキスされるとは……けど、今は夕食に行く準備をしないとな!」

 零夜は苦笑いしながらも気を切り替え、すぐに夕食の会場に行く準備を始めた。今回の会場は居酒屋「HOFU」であり、様々な料理が出てくるのが特徴である。

「よし!準備完了!」

 零夜は必要最低限の物を用意したと同時に、そのまま集合場所へと向かいながら部屋を出たのだった。



 さて、防府にある別のホテルの部屋では、神室と殿町が真剣に話をしていた。今日一日で四人が倒されてしまい、頼りになる早川も消滅してしまったのだ。

「今回の件で四人が死亡。残りはあと三人となったな。後の奴等は本当に大丈夫だろうな?」

 神室は真剣な表情で殿町を睨み付けていて、若干苛ついている様子が伺える。殿町は冷や汗を流しながらも頷いていて、そのぐらいの覚悟があると言えるだろう。

「はい。残りの三人については既に配置に付いています。更に奴等は最後に山口市に向かうと予測していますので、最強の刺客を用意しています!」

 殿町は真剣に残る刺客について説明し、それに神室は納得の表情をする。特に山口市には最強の刺客がいるとなると、頼りになるのは当然と言えるだろう。
 だが、それでも失敗したらどう責任を取るかが問題であり、神室も気になっているのだ。

「もし、失敗したらどうするつもりだ?」
「その時は俺が向かいます!特に東とは因縁がありますので、奴は俺が倒しに向かいます!」

 神室の質問に殿町は真剣な表情で答えるが、その答えに神室が反応して殿町の胸倉を掴んだ。零夜の名前を口にした以上、黙ってはいられないだろう。

「お前な……東を倒すのは俺の役目だ。先に倒したら……殺すからな!!」
「りょ、了解です……善処します……」

 神室の睨みに対し、殿町は震えながらも承諾。それを見た神室は殿町を解放したと同時に、ベッドの上に仰向けダイブした。

(東とは俺が決着を着ける時。他の奴等に殺されたら許さねえからな……)

 神室は東との決着を望む為、彼に対して心からエールを送った。それを知らない殿町は、ゴホゴホと咳き込んでいたのだった。
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