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第六章 山口観光騒動記

第百八十五話 旅行の始まり

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 そして旅行当日、零夜達は既に準備を終えて出発しようとしていた。見送りにはメディア達がいて、彼等の旅の安全を心から願っていたのだ。

「皆、気を付けてね!」
「ええ。必ず戻ってきます!」

 メディアの見送りに零夜は笑顔で応え、彼等はそのまま山口県へと転移した。するとサンペイが慌てた様子で駆け付けてきて、皆が彼の方に視線を移す。

「どうしたの?」
「大変だ!アークスレイヤーが仕事人を派遣したそうだ!目的は零夜達の始末だ!」
「「「ええっ!?」」」

 サンペイからの報告に、メディア達は驚きを隠せずにいた。まさかアークスレイヤーが刺客を放っていただけでなく、仕事人まで用意していたとは想定外だろう。このままでは観光は大変な事になる。

「となると、ここは通信で敵が来る事を伝えた方がいいわね。トラマツ、ノースマン。彼等の事をお願いするわ!」
「「はっ!」」

 メディアは零夜達の身に危険な展開がすると感じ取り、トラマツとノースマンに零夜達への連絡をお願いする。それに彼等は承諾したと同時に、すぐに任務へと駆け出し始めたのだった。



 さて、山口県に到着した零夜達は、辺りを見回しながら着いた事を確認する。今いる場所は岩国であり、人があまりいない場所に到着しているのだ。

「よし。無事に岩国に着いたみたいだな。じゃあ、今から……「わーい!」エヴァァァァァァァ!」

 零夜が言い切ろうとしたその時、エヴァが彼の手を引っ張りながら何処かに向かおうとしていた。それに零夜が叫んだと同時に、マーリン達が慌てながら止めに向かい始めた。



「全く……遊びに来たんじゃないんだよ……」

 エヴァはミミ達に捕まってしまい、零夜から注意を受けていた。彼女の身体は縄で縛られていて、不満そうな表情をするのも無理ない。

「今回は課題の為の観光!勝手な行動は厳禁だから!」
「だって、零夜と遊びに行きたかったんだもん……」
「だからと言って二人きりは駄目だからね!」

 零夜とミミからの指摘にエヴァは頬を膨らましていて、ヒカリがよしよしと彼女の頭を撫でていた。勝手な行動は厳禁となる為、注意されるのは当然と言えるだろう。

「ともかく岩国に着いたからな。まずは目的地となる錦帯橋へ向かうぞ」
「そうだな。確かソフトクリームのお店があると言っていたが、どんな店だ?」

 ソニアの指示に杏も頷く中、彼女はソフトクリームの店が気になっていた。錦帯橋周辺には多くの種類のソフトクリームがある店が二つあり、多くの客が多く寄っているのだ。

「確か……あそこにあるぞ」

 零夜が指差す方を見ると、錦帯橋の向かい側に二つのソフトクリーム店があった。一つは岩国城側にあり、もう一つはバス停側にあったのだ。

「二つあるのですね……まあ、商売としてはライバルがある方が燃え上がりますし」
「で、店の名前は何なの?」
「看板があるわ」 

 ジャンヌは苦笑いしながら店の様子を確認していて、マリーは店の名前についてミミに質問する。彼女は看板を指差しながら説明し、そこには「ソフトクリーム東風」と「西雲食事処」と書いてあったのだ。
 因みにソフトクリーム東風は岩国城、西雲食事処はバス停にある。

「どちらも種類が多い分、どれにしようか迷うかというところよ。まあ、店によって種類は色々違うけどね」
「なるほどね……じゃあ、錦帯橋を渡ってから東風に行きましょう!」

 ミミの説明を聞いたマリーは、まずは東風に行く事を提案。それに皆も同意し、錦帯橋を渡る為にチケットを買いに向かい出した。



 錦帯橋の真下では、仕事人の一人が零夜達が来た事を確認していた。仕事人はそのまますぐにリーダーの男に連絡する。

「来ました。ブレイブペガサスです」
『そうか。では、お前のやり方で奴等を始末しろ』
「了解しました。岩国と柳井エリアはこの私にお任せを」

 仕事人はリーダーとの連絡を切ったと同時に、すぐにその場から移動する。零夜達を始末する為に……



 錦帯橋のチケットを買った零夜達は、歩きながら橋を渡る。錦帯橋の橋はアーチ型の橋となっているので、所々に階段があるのだ。

「凄い……錦帯橋ってアーチ型になっているんだ……」
「ああ。日本三名橋や日本三大奇橋に数えられており、名勝に指定されているからな」

 キララが橋を渡りながら錦帯橋の凄さを実感していて、零夜がそれについて説明する。錦帯橋は日本の名橋の一つであり、凌雲橋りょううんばし五竜橋ごりゅうばし帯雲橋たいうんばし算盤橋そろばんばしなどとも呼ばれているのだ。

「そうなのですね。あと、ここでは桜の名所と聞いていますし、日本さくら名所百選に選定されています。春になったら皆で見に行きましょう!」

 ルリカは錦帯橋の桜が見事だと調べていて、春に桜を見に行く事を提案。それに皆も同意する中、アミリスが敵の気配を察していた。

「どうした?」
「何か敵の気配がするわ。しかも、こちらに近付いて来る!」
「「「!?」」」

 アミリスの察知能力に全員が警戒態勢に入る中、橋の下から仕事人が飛び出してきた。彼はローブを脱ぎ去ると、その姿は背中に黒い羽が生えていて、忍者の服を着ていた。まさにアサシンと言えるべきだろう。

「何者だ!?」
「俺は仕事人の一人、影の鳥丸だ!」

 鳥丸は自ら自己紹介したと同時に、戦闘態勢に入る。するとウインドウが飛び出し、彼のデータが映り出した。

影の鳥丸
神出鬼没で不意打ち攻撃をするトリッキー戦士。
空を飛ぶ事を得意とするだけでなく、影になって姿を消す事が可能である。

「まさか観光途中に敵が出てくるなんて……」
「恐らくアークスレイヤーの仕業だけど、立ち向かうからには要注意よ!」

 マーリンが呆然とするが、コーネリアの忠告に全員が戦闘態勢に入る。折角の旅行なのに奇襲とはあり得ないが、こうなると戦うしかないだろう。
 すると鳥丸が倫子の背後に移動し、彼女は危機感を察して後ろを向く。しかし、背後には誰もいなくなっていて、鳥丸の姿もなかった。

「いない?」

 倫子が鳥丸を見失ってしまい、キョロキョロと辺りを見回し始める。そう。鳥丸は倫子の影と同化して姿を消したのだ。

(フッフッフ……この俺を倒す事は不可能だ……せいぜい足掻が良い……)

 鳥丸が心の中でニヤリと笑っていたその時、そこに子犬が通り掛かる。種類はペキニーズだが、野良犬である事に間違いない。

「あっ、子犬」
「可愛いですね」

 倫子達が子犬の姿に興味を持つ中、突如影となった鳥丸の上でピタッと止まってしまう。子犬はそのまま……ジョーッと小便をしてしまったのだ。

「ギャアアアアアアアア!!」

 小便をかけられた鳥丸は悲鳴で影から元の姿になり、そのまま橋の下の川にドボンと飛び込んでしまった。この様子に零夜達は唖然としていて、子犬は倫子が優しく抱っこしている。
 鳥丸は姿を消す為に影となって消えるのは良かった。しかし、通り掛かる人達に潰されるだけでなく、水などを掛けられたりするのが欠点である。其の為、小便をかけられるのも無理ないのだ。

「……なんだこれ?」
「「「さあ……」」」

 零夜からの質問にミミ達が唖然とする中、鳥丸は川の底から姿を現した。小便の匂いは消えているが、身体は水で濡れている。しかも羽まで濡れているとなると、動きが鈍くなるだろう。

「クソッ!犬のせいでびしょ濡れになったが、勝負はこれからだ!」

 鳥丸は零夜達に宣言したと同時に、再び戦闘態勢に入る。彼との戦いは始まったばかりなのだ。
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