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第五章 ハルバータの姫君

第百七十六話 紅蓮丸の過去

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 紅蓮丸は元はといえば普通の人間で、その時の名前は哀川男児あいかわだんじだった。彼は小学校の頃、勉強も運動も何もできなくて、零夜と同じく神室に虐められていたのだ。
 そんなある日の朝、哀川はため息をつきながらトボトボと歩いていた。今日もまた神室の虐めに付き合わなければならない為、憂鬱な気分になるのも無理はないのだ。

「うう……何時になったらこんな虐めが終わるんだよ……もう勘弁して欲しいな……」

 哀川がため息をつきながら校門に入った途端、生徒達のざわつきが聞こえていた。どうやらある事が話題となっていて、ざわつくのも無理ないのだ。

「聞いたか?昨日、あの神室がやられてしまったそうだぞ」
「ああ。東という男が三人をぶっ飛ばしたみたいだ。虐められた仕返しをする為、格闘技を習っていたからな」
「それによって神室と他二人は、他の学校に転校する事になったわ。いい気味ね」
「この学校も平和になりそうだな!カカカ!」

 生徒達は零夜の事で話題となっていて、その話を聞いた哀川は驚きを隠せなかった。まさかあの神室がやられてしまい、転校するなんて思いもしなかっただろう。

(あの神室がやられるなんて……僕と同じく虐められていた東零夜が、彼等を倒してくれたのか……それに比べて僕は何をしているのだろうか……)

 哀川は心の中で零夜と自分を見比べて、今の姿にに情けなさを感じてしまう。そのまま悔しそうな表情をしながら、校舎の中へと駆け出したのだった。



 それから数日後、哀川は図書館に一人で行き、色んな本を読み始めた。自分自身を変える為にも、色々勉強する必要があったのだろう。

(自身を変えるには何かが必要だ。切欠の物があれば良いのだが、なかなか見つからないな……ん?)

 哀川は心から思いながら次の本を探そうとしたその時、一冊の本を見つける。それはファンタジー世界を元にした小説であり、試しに読み始める事にした。
 すると、読む度に理解していくだけでなく、ファンタジー世界の面白さにのめり込んでしまった。同時に彼はファンタジー世界を好きになってしまい、新たな夢も浮かび上がってきたのだ。

「これ……滅茶苦茶面白いじゃないか!読む度に想像が膨らむし、僕もこの様な小説を書ける為に頑張らないと!」

 哀川は自らファンタジー小説を書く決断をしたと同時に、図書館内にあるファンタジー小説を次々と読みまくった。自らの新たな夢を叶える為だけでなく、自分を変えようとする為にも……



 それから哀川は勉強と運動も次第に上達していき、学年では十位以内という成績まで残した。其の為、虐めもすっかり無くなったどころか、友だちが多くできてしまった。まさかファンタジー小説による努力があったからこそ、ここまでになるとは思ってもいなかっただろう。

(まあ、こんな展開になるのは想定外だったけどね……でも、まだまだこれから!僕の夢は止まらない!)

 哀川は心の中でそう思ったと同時に、夢に向かってそのまま前進し始める。自身をここまで導いてくれたファンタジー小説に感謝しつつ、今度は自分が恩返しをする番だと決意したのだった。



 それから月日が流れ、哀川は高校生になった。彼は文芸部に所属していて、ファンタジー小説コンテストに向けて執筆活動をしていた。文章については上達していて、その内容に部員達からも人目置かれていた。

「なかなかやるじゃないか!もしかすると優勝できるんじゃないか?」
「いや、まだこれからですよ。ビシバシ行かないと意味無いですからね」

 先輩からの褒め言葉に哀川が苦笑いしたその時、部員の一人が慌てながら駆け付けてきた。顔には大量の汗が流れていて、何かあったのかも知れないだろう。

「大変だ!先程ニュースで交通事故が起こったが、神室とその二人が死んでしまったそうだ!」
「確か小学校時代に東にやられたあの男か!いなくなったと思ったら、まさか別の所にいたとは……」
「偶然な展開もあり得ますね」

 部員からの報告に部室内がざわつく中、哀川は冷静な表情で話を聞いていた。かつて自分を虐めたあの男が死んでしまったのは想定外だが、何かしらの罰が当たったのだろうかと感じている。

(まさか神室が死んでしまうとは……罰が当たったんじゃないのだろうか……いや、ファンタジー世界でよく見る転生もあり得るからな……)

 哀川は心からそう疑問に感じた後、自らのやるべき事に集中した。自分を虐めた神室についてはどうでも良いらしく、急いで作品を仕上げようと考えたのだった。



 それから数日後、コンテストに作品を出品し終えた哀川は、通学路を歩きながら家に帰っていた。後は作品が発表されるのを待つばかりだ。

「これでやるべき事は終わった。後は作品発表だが、当たるのだろうか……」

 哀川が自分の作品が受賞できるのか心配になった直後、彼は十字路の中央に差し掛かっていたその時だった。

「ん?」

 なんと東側から脇見運転の車、西側からスピード違反の車、北側から飲酒運転の車、南側から走り屋ごっこの車が一斉に飛び出して、哀川に向けて襲い掛かってきたのだ。

「しまっ……!」

 哀川は気付くが既に遅し。彼は四台の車による交通事故に巻き込まれ、そのまま帰らぬ人となってしまった。十六歳という若過ぎる死であり、悲しみの声が広がったのは無理なかった……



「う……」

 哀川が目を覚ました途端、そこは真っ黒な空間だった。彼の目の前には一人の男が立っていて、一礼した後に接近してきた。

「目が覚めたかね?」
「あなたは?」
「私の名前は神様であるヴァルモだ。今回、君が死んだのは交通事故の様だったが、奴等もまた事故で死んでいたそうだ……残念ながらお前も奴等も、二度と生き返る事はないだろう……」
「そ、そんな……」

 ヴァルモからの説明に哀川は驚きを隠せず、自ら死んでいた事を自覚した。小説家になる道は奴等によって踏みにじられてしまい、まさかの事故で死んでしまう羽目になってしまった。そう考えてくると怒りが湧きそうになり、悔しさまで滲み出てしまう。
 その様子を見たヴァルモは、彼に対してある物を渡す。それは鉄の仮面と妖刀だ。

「そこで私からプレゼントだ。君の人生を奪った奴等に対し、復讐できる特典を与えよう。だが、それを手にすれば元には戻れない……どうする?」

 ヴァルモの真剣な表情での質問に、哀川は迷わず鉄の仮面と妖刀を手にする。その様子だと復讐心がとても高く、自身の夢をぶち壊した奴等を許せないだろう。
 其れ等の武器を装着した彼は、ヴァルモに視線を移しながら決意を述べ始める。

「僕……いや……俺はやる!彼奴等を許す理由にはいかないからな!」
「そうか……なら、良しとしよう!今日からお前は紅蓮丸!さあ、存分に異世界を渡り歩け!」

 ヴァルモは哀川に新たな名前である紅蓮丸という名前を与えたと同時に、彼をそのまま異世界に送り始める。これが哀川改め紅蓮丸の誕生となったのだった。



 その後、紅蓮丸は自身の夢をぶち壊した四人を探しまくり、見つけたと同時に容赦なく殺しまくった。彼等も武器を持ちながら抵抗していくが、紅蓮丸の持つ妖刀には太刀打ちできず、次々とやられてしまったのだ。
 最後の一人を倒し終えた紅蓮丸は復讐を終え、今後どうするか考えていた。手元にあるスキルを確認してみると、違う世界に行けるスキルが追加されていた。自身の転移魔術により、様々な世界へと渡り歩く事ができるのだ。

「このまま異世界を渡って修行するのも良いかもな……ん?」

 紅蓮丸が修行しようかと考えたその時、とあるニュースに視線を移す。それはアークスレイヤーと選ばれし戦士達の戦いが発生していて、各世界での激闘が行われていた。しかし、選ばれし戦士達の中には粗暴の悪い人達も出る恐れもあるので、厳しいルールも設けられているとの事。
 それを見た紅蓮丸は今の各世界の現状を調べ、冷静に考えていた。

「最近では勇者パーティー追放の世界や、悪徳勇者も出ている世界もある……アークスレイヤーだけでなく、奴等を野放しにすれば大変な事になるだろう。だったら俺が……粛清させるしかないな!」

 紅蓮丸は決意を固めたと同時に立ち上がり、そのまま別の世界へと転移。其れ等が原因で今に至る事になったのだった。
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