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第五章 ハルバータの姫君

第百七十四話 紅蓮丸からの真実

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 零夜達は紅蓮丸、レジー達はネオマギアスの討伐へ向かい、激しい二つの戦いが始まりを告げられたのだ。
 ネオマギアスは零夜の特殊撒菱によって弱体化していて、レジー達は次々と攻撃を当ててダメージを与えている。彼の撒菱が無かったら、どうなっていたか分からなかっただろう。

「零夜さんの撒菱が無ければ、我々はピンチだったのかも知れませんな。その分、我々がやらなければなるまい」
「ええ。その点は零夜に感謝しないとね。私も負けられないんだから!」

 レジーの意見にエヴァも同意し、そのまま空を飛んでネオマギアスを持ち上げようとする。彼女の怪力は特殊である為、ネオマギアスでさえも両手で軽々持ち上げたのだ。

「おお、なんと!あのネオマギアスを持ち上げるとは!」
「こんなの軽い軽い!せーの!ほい!」

 エヴァの怪力にレジーが驚いた直後、エヴァはネオマギアスを上空に放り投げた。その真上には日和が既に待ち構えていて、強烈な踵落としを決めようとしている。

「これでも喰らいなさい!メテオストライク!」

 日和の踵落としがネオマギアスの脳天に直撃し、全身の神経に響き渡る大ダメージを与える事に成功。そのままネオマギアスの仮面が破壊され、素顔も明らかになってしまった。

「素顔が現れたけど……全然変わってないみたいね……」

 日和は真顔でネオマギアスの姿を見つめるが、その顔はマギアスと変わっていなかった。前の頃の面影が残っている為、そうなるのも無理なかった。
 ネオマギアスはそのまま地面に不時着してしまい、全身を強打して痙攣してしまう。いくら大型のモンスターでも、地面に不時着すれば痛いのも当然である。

「だが、今がチャンスだ!一気に攻めて倒せ!」
「「「おう!」」」

 トラマツの合図と同時にミミ達は一斉に頷き、地面に墜落したネオマギアスに集中攻撃を浴びせる。ネオマギアスは何もできずに攻撃を喰らう事しかできず、ただダメージを受けていくのみだ。

(ネオマギアスはこのまま行けば勝てるが、問題は紅蓮丸だ。奴は目的の為ならどんな手段でも構わないが、果たしてどうなるのか……)

 トラマツは紅蓮丸の元に向かった零夜達を心配しつつも、自分のやるべき事に集中し始める。ネオマギアスがまだ倒れてない以上、油断は禁物と言えるだろう。



 零夜達は紅蓮丸とベクトルが戦っている場所に辿り着くと、彼等の戦いは互角の展開となっていた。紅蓮丸は百鬼夜行、ベクトルは二本のサーベル「アルファ&ベータ」を構えながら、激闘を繰り広げている。刀と剣がぶつかり合う度に、激しい火花を散らしているのだ。

「凄い戦いだ……我々が介入しようとしても、返り討ちに遭うだろう……私の剣も……まだ未熟と言えるからな……」

 シオンは二人の激闘を見ながら、自身の剣術が弱い事を実感する。彼等のレベルは彼女の想像を遥かに超えていて、自分に自信を失いそうになった。
 その様子を見た零夜は、彼女を肩を叩きながら落ち着かせ始める。

「零夜?」
「シオン、確かに未熟なのは分かる。だが、それをバネにして強くなるのが今のお前の役目じゃないのか?」
「あ……」

 零夜からのアドバイスに、シオンの思わず安堵の表情になる。彼女は誰かにアドバイスを貰った事は久々に感じているが、シルバーファングにいた頃はその様な事はなかった。しかし、今は零夜からアドバイスを貰ったので、その事がとても嬉しかったのだろう。

「そうだったな……私ならまだやれるし、こんなところをハインに見られたら心配するな。アドバイス、礼を言うぞ」
「気にするなよ。さっ、始めるとするか!」
「ああ!」

 零夜達はそのままベクトルと紅蓮丸に向かって駆け出したと同時に、そのまま彼等の前に立ちはだかる。これ以上二人の悪行を見過ごせる理由にはいかず、意地でも止めようとしているのだ。

「貴様等か……真剣勝負の邪魔をする気か?」

 ベクトルは真剣な表情をしながら零夜達を睨みつけるが、彼等は一歩も引かずに前を向いていた。するとアメリアが前に出たと同時に、紅蓮丸に視線を移す。

「紅蓮丸。私はあなたに聞きたい事があります。あなたは何故、ハインお兄様とメルトを殺したのですか?その理由を知りたいのです」

 アメリアは真剣な表情をしながら、紅蓮丸に対して質問する。何故ハインとメルトが殺されなければならなかった理由を知りたいのは勿論、紅蓮丸の真意を知りたいのが本当の気持ちである。
 それを聞いた紅蓮丸は頷いたと同時に、その理由を話す。

「奴等を殺した理由だが……彼奴等の心には邪悪な心があった……」
「邪悪な心……?二人にその様な物があったのですか?」

 紅蓮丸からの説明にアメリアはキョトンとしていて、零夜達も真剣な表情で彼の話を聞いていた。紅蓮丸が言っていた邪悪な心について気になるのも無理なく、話を聞き逃す理由にはいかないだろう。

「そうだ。俺は人の心に邪悪さがあるかどうかを見極める事ができる。俺はそいつ等が本格的に悪事を仕出かす前に、始末しなければならないんだよ……」
「始末だと!?じゃあ、ハインはそれによってやられたのか!?」

 紅蓮丸の話にシオンは驚きを隠せず、彼に対して質問をしてきた。それに紅蓮丸はコクリと頷きながら、冷静に前を向く。

「そうだ。奴等が王になれば、ヴァルムント王国はとんでもない未来へと進む事になる。だからこそ、出る杭は早めに打たなければ意味がない。その為にも始末させてもらった」

 紅蓮丸からの衝撃の説明に、ベクトル以外その場にいる全員が驚きを隠せずにいた。
 紅蓮丸はヴァルムントを事前調査していて、この国の未来はどうなるのか気になっていた。王位継承にはハイン、メルト、アメリアの三人が該当していて、紅蓮丸は彼等の行動や噂などを情報収集を行っていた。隅々まで調べたその結果、ハインとメルトに邪悪な心があると判明。それによって今に至るのだ。

「そんな理由で……ハインお兄様やメルトが……うう……」

 紅蓮丸からの真実にアメリアの目から涙がこぼれてしまい、そのままヒックヒックと泣いてしまった。それだけでなく、シオン、シナモン、ゲルダ、ジャミルまでも同様に泣いてしまい、支えてくれた二人の死に我慢できずにいたのだろう。

「それが君の答えなのかね。私としては美しくないのだが」

 ベクトルは紅蓮丸の話を否定していて、そのやり方が気に食わなかったのだろう。まだ悪事をしていないのにも関わらず、人の命を奪うのはどうかと思っているに違いない。

「いいさ。それが俺の信念だ。相手を悲しませようが、俺としては構わない……」

 紅蓮丸がベクトルの指摘に横を向いたその時、零夜が彼の顔面に右ストレートを浴びせたのだ。

「ぐはっ!」
「「「!?」」」

 パンチを喰らってしまった紅蓮丸は地面に背中を打ち付けられてしまい、衝撃的な展開に誰もが驚きを隠せなかった。全員が零夜の方を振り向いた途端……彼は鬼の様な怒りで紅蓮丸を睨みつけていた……
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