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第五章 ハルバータの姫君

第百六十一話 勝利の後に

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 シルバーファングとの戦いに勝利した零夜達は、ルリカ達と合流する為に通路を歩いていた。今回の戦いは危なげなく終わる事ができたので、余裕の足取りで歩いていたのだ。

「上手く勝てて良かった!」
「アタイとしては物足りないけどな……」

 アミリスは笑顔で喜んで歩くが、ソニアは不満そうな表情で両手で頭を抑えながら歩いていた。零夜がキャプテンであるヴィリアンを倒してしまった事で、戦えずじまいで力を発揮できなかったのだ。当然こうなるのも無理はない。

「まあまあ。これでハインがアメリア様を馬鹿にする事はないかも知れませんね。彼の表情は大量の冷や汗を流していましたし」
「そうだな。ハインの奴もこれで懲りたかな?」

 ジャンヌの笑顔に零夜も同意する中、ルリカ達が彼等の元に駆け付けてきた。そのままそれぞれのパートナー達の元へと駆け寄り、抱き合いながら喜びを分かち合い始めた。

「零夜様!凄かったです!感動しました!」
「大した事じゃないけどな」

 ルリカは零夜にスリスリと抱き着きながら、彼の活躍を褒めまくっていた。当然零夜が苦笑いをするのも無理なく、顔は少し赤らめていた。

「お疲れ様、ミミ!」
「ええ。ありがとう」

 キララは自ら用意したドリンクをミミに渡し、彼女はお礼を言った後に飲み始める。そのドリンクは美津代が用意してくれたスポーツドリンクで、身体に良い成分が含まれているのだ。

「藍原さん、お疲れ様でした!」
「日和ちゃん、ありがとう!」

 日和はタオルを倫子に手渡し、彼女はそのまま身体を拭き始める。今回は少し動いていた為、出ていた汗の量はいつもより少なかったのだ。

「ヒカリさん、無事で良かったです!」
「ありがとう、よしよし」

 ジェニーはヒカリに抱き着きながら無事を喜んでいて、スリスリと身体を擦り付け始める。それにヒカリも優しくジェニーの体を撫で始め、ゆっくりと落ち着かせ始めた。

「凄かったわ、エヴァ!」
「余裕だったけどね」

 コーネリアはエヴァの活躍に興味を示していて、彼女も笑顔で返していた。今回はあまりにも弱かったので、早く終わらせる事が出来たのだ。

「やったね、アミリス!」
「ええ!」

 アミリスとマーリンはハイタッチしながら喜びを分かち合い、お互い笑顔で応えていた。彼女達は親友でありながらパートナー関係なので、これで十分である。

「お疲れさん。今回は大した事なかったな」
「ああ。まだまだ物足りないぜ」

 ソニアと杏は談笑しながら、今回の試合の感想を語り合っていた。シルバーファングは大した敵ではなかったので、物足りなさが伝わっているようだ。

「やったわね、ジャンヌ!」
「ありがとうございます!」

 マリーはジャンヌを抱き寄せたと同時に、彼女の頭を優しく撫で始める。ジャンヌも笑顔になってマリーに抱き着いていて、まるで親子の様な関係と見えるのも無理ないだろう。

「皆、お疲れ様!今回の試合、とてもスカッとしたわ!」

 美津代は零夜達に労いの声を掛け、戦ったメンバーの頭を撫で始める。零夜達からすれば恥ずかしさを感じるのも無理ないが、美津代なりのスキンシップだからこそ欠かせないのだ。

「恥ずかしいですよ……俺、二十五なのに……」

 美津代に頭を撫でられていた零夜は、恥ずかしさでそっぽを向いてしまう。その様子にルリカが微笑んでいたのだ。

「やれやれ。零夜も大変だと思うが、今回の戦いは見事だった!あのシルバーファングを倒した事で、ヴァルムントの国民もお前達を支持する様になった」
「その証拠にお前達に対する声援もあったからな。実に良かったぞ」

 トラマツもノースマンは今回の戦いの感想を告げ始め、その内容に零夜達は納得の表情をする。完全アウェイの中でもいつも通りに戦った事で、無事に圧勝する事が出来たのだ。

「大した事じゃないけどな。だが、俺達にとっては話にもならなかったのは確かだ」
「どんな奴かと期待した部分もあったけど、少しガッカリしたわね……」

 その一方では、零夜とミミがシルバーウルフの事について酷評を言い始めた。シルバーウルフはアークスレイヤーを倒した実力は確かだが、その戦いぶりはレベルが低過ぎた。だから零夜達に倒されてしまうのも無理ないのだ。

「確かにそうだけど、アメリア姫に勝利を捧げる事が出来て良かったじゃないか。それに……彼女も来ているし」
「「「?」」」

 零夜達がトラマツの指差す方をよく見ると、なんとアメリアが笑顔を見せながら姿を現していた。零夜達がシルバーファングを倒した事に笑顔が止まらず、彼等にお礼を言いに来ていたのだ。

「皆様、ありがとうございます!貴方方がいなかったら、私はどうなるかと思いました!」
「いえいえ。別に大した事じゃないですよ」

 アメリアの一礼に対し、零夜達は苦笑いしながら応える。まだ照れ臭い部分もあるので、苦笑いしてしまうのも無理ないのだ。

「そうだ。父上が勝利した皆様を夕食に誘おうとしています。良かったら参加しますか?」

 アメリアは笑顔で零夜達に提案し、その話を聞いた彼等は参加する事を決断。食事まで用意してくれるとなると、参加せずにはいられないのだ。

「参加します!わざわざ夕食まで用意してくれるなんてありがたいです!」
「いえいえ。大した事ではありませんよ。さあ、ご案内します!」

 零夜が代表して一礼し、アメリアは笑顔で応える。そのまま彼女は零夜達を連れ始め、目的地である城へと向かったのだった。



 その頃、シオンはゲルダと共にベンチに座っていた。今回の戦いで無様な試合をした挙げ句、意見の違いで仲間達と別れてしまったのだ。これに関してはお互い悪いと言えるが。

「まさか私達が負けてしまうとは……実力が足りないせいだな……」

 シオンは自らの力の無さに悔んでいて、ゲルダは彼女を慰めていた。確かに実力差が十分にあった以上、無様な敗北を晒してしまった。これに関しては自らにも責任があるだろう。

「確かにそうね。けど、この悔しさをバネにして強くなるのみ。私達だけでも頑張りましょう!」
「そうだな……奴等が戻ってくるまで、強くならないとな」

 ゲルダの励ましにシオンは立ち直り、強くなる事を改めて心から誓った。無様な敗北を二度としない為にも、更に強くなる為にも。
 しかし、この時の彼女達は悲劇的な展開になる事をまだ知らなかった。仲間達が二度と戻ってこない事を……
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