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第四章 エルフの森の怪物騒動

第百四十四話 新たな目標

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 エルフの森から帰還してから数日後、ヒーローアイランドにある海岸では、零夜が立ちながら海を見ていた。その様子だと、エムールから言われた事を考えていたのだろう。

(エムール様が言った通り、俺にはまだ見ぬ力がある……しかし、それを覚醒させるには様々な経験が必要となるのか……)

 零夜が心の中で真剣な表情で考えていくが、まだ何もかも分からずに悩み続けていく。やはりどう解釈しようとしても、中々答えは出にくい物だと実感するのも無理はない。
 零夜がため息をついたその時、ルリカが姿を現して彼の隣に移動してきた。この様子だと零夜が悩んでいるのを見て、我慢できないと感じていたのだろう。

「零夜様、エムール様から言われた事を考えていたのですか?」
「ああ……まだ見ぬ力があると聞いているけど、それがどんなのか分からない。経験は大事だと言われているが……」

 零夜は真剣な表情で再び考えようとするが、ルリカが彼を優しく抱き締める。それは太陽の様な温もりだけでなく、聖母の様な優しさもあるのだ。

「ルリカ?」
「私も一時期その様な事がありました。光太郎さんと共に旅をしていた頃、自身には何が必要なのかと悩んでいたのです。当時の私は戦力としては足手まといでしたので……」

 ルリカは自らの過去をポツリポツリと零夜に話し始める。
 当時、彼女は光太郎と共に行動していたが、ドジや失敗で足手まといとなってしまい、彼の迷惑になっていたのだ。これでは戦力どころかいらない人材になるのも無理はないだろう。その時から自分は何が足りないのか。どうすれば強くなれるのかを考える様になり、色々試行錯誤していたら、失敗ばかりで迷惑をかけていたのだ。

「その事を光太郎さんに話したら、彼は優しく私の頭を撫でながらこう言いました。「自分なりに強くなる。それが唯一の方法だ」と」
「……!」

 ルリカの話を聞いた零夜は、ある事が脳裏に浮かんでいた。それは自身が選ばれし戦士になる前の頃、プロレス道場に通っていた彼はどの様なレスラーになればいいのか悩んでいたのだ。
 プロレスラーについてはベビーフェイスやヒールは勿論だが、コミカル、真面目、ハイフライヤー、策略家、ルチャリブレ、武術家、覆面レスラー、忍者など様々なスタイルが多くある。しかし、零夜としてはどれも多過ぎて大混乱。その事を倫子に話したら、こうアドバイスしてくれた。

『大丈夫。零夜君は自身のプロレスを目指せばええんよ』

 倫子のアドバイスによって零夜の悩みは解消され、自身はハイフライヤーを得意とするレスラーになる事を決意したのだった。

(あの時もそうだったな……それが切欠で今の俺がいる……大事な事を忘れそうになったぜ……)

 零夜は過去の事を思い出した後、ルリカを優しく抱き返した。自身の悩みを聞いてくれた事がとても嬉しく、傍にいて良かったと思っているだろう。

「ありがとな、ルリカ。お陰で大事な事を思い出す事ができたぜ。俺は俺の道を突き進み、皆と共にアークスレイヤーの野望を終わらせる!」
「その意気です!私もサポートしながら立ち向かいます!」

 零夜の決意にルリカも同意しながら笑顔を見せたその時、アミリスとマーリンが姿を現す。彼女達も零夜が心配だからこそ、ルリカと同じく駆け付けてきたのだろう。

「アミリス、マーリン!」
「零夜が心配だから来たけど、その様子だと大丈夫みたいね」
「ええ。それだけじゃなく、皆があなたを心配していたのよ」
「えっ?それって……」

 零夜が言い切ろうとしたその時、ミミも別方向から姿を現して駆け寄ってきた。彼女だけでなく、キララ、倫子、日和、ヒカリ、ジェニー、エヴァ、コーネリア、ソニア、杏、ジャンヌ、マリー、美津代も同行しているのだ。
 どうやら彼女達も零夜の事が気になっていたので、心配するのも無理なかったのだろう。

「皆!」
「心配したから見に来たけど、その必要はないみたいね。ルリカが先に動いたのは見過ごせないけど」

 ミミはジト目でルリカの方を見つめ、彼女は口笛を吹きながら横を向いていた。抜け駆けをされた事を根に持っているが、ルリカにとっては器具耳持たずだ。

「でも、零夜君が無事に悩みを解決して良かったわ。私としても気がかりだったからね」
「私もよ。零夜君は私達のリーダーなんだから、ビシッと決めておかないと!」

 美津代は安堵のため息をつき、倫子は彼に近付いて彼の肩を叩く。リーダーである零夜がいるからこそ今の自分達がいるので、彼が落ち込んだらその時は支える事を決断しているのだ。
 零夜は皆から心配されていた事を実感し、全員に視線を合わせる。

「すいません。俺の為にそこまで……」

 零夜はすまなさそうな表情で謝罪するが、ヒカリと日和は笑顔で彼の肩に手を置く。

「気にしないで。皆、零夜君の事を信じているし、私達は最後まで付いていくから」
「だからいつも通り前を向いて」
「そうだな!」

 ヒカリと日和の笑顔のエールで、零夜はすぐに気合を入れ直す。そのままバングルを起動させ、すぐにウインドウを開きながら課題を確認する。
 零夜率いるブレイブペガサスの残る課題は二つ。山口県観光とアルメリアスの紋章を手に入れる事だ。
 山口県観光は難易度はとても低く、指定された場所を観光する事。これに関しては問題ないだろう。
 アルメリアスの紋章はハルバータのトンガラ渓谷にあるが、そこは凶悪な魔獣が潜んでいてかなり手強いと噂されている。難易度高めの課題でありながら、危険度も高いのが特徴だ。

「アルメリアスの紋章はレベル五十以上でないと行けないけど、今のアタイ等のレベルは五十五となっているな」
「じゃあ、紋章に関しては大丈夫みたいですね」

 ソニアは課題の内容を見ながら、自身達のレベルが規定以上である事を確認。それを聞いたジャンヌ達は喜んでいて、ようやくハルバータのトンガラ渓谷に行けるのだと実感していた。
 トンガラ渓谷にいる魔獣はレベル五十以上あるので、それ以下だと倒せるのは不可能。しかしレベルが五十を超えたという事は、戦える準備ができた証でもあるのだ。

「山口県の観光にも興味あるけど、あそこは一番最後で良いかも知れないわね」
「そうね。楽な方を先にやるよりは、困難の方を先に選ぶ。そうした方が私達らしいからね」

 マリーの提案にコーネリア達も笑顔で同意する。確かに楽な方を先にやるよりは、困難な方を先に選ぶ。そのやり方こそブレイブペガサスの信念でもあり、強みでもあるのだ。

「なら、次の目的地はハルバータに決定だな。しかし油断は禁物。その為にもトレーニングしておかないとな!」

 零夜は目的地を決めたと同時に、すぐにランニングを開始する。ここで休んでいる暇はなく、更に強くなる為にもレベルアップは欠かせない。まさに努力の塊その物だ。

「待ってよ、零夜!」
「あいつ、行動力早いな……」
「けど、それが唯一の取り柄かも知れませんね」
「プロレス馬鹿なのはたまにキズだけど……」

 エヴァ達も後を追いかけながら走り始め、杏は零夜の行動に唖然としてしまう。ジェニーとキララも苦笑いしつつも、零夜のランニングに付き合う事になった。

「やっぱり零夜はこうでないとな」
「そうだな。一時はどうなるかと思ったが、その心配は必要なかったな」
「オイラ達も出来る限りの事はしておかないとな」

 トラマツ、ノースマン、サンペイはこの光景を見ていて、零夜の悩みが解決した事に微笑んでいた。そのまま彼等は零夜達のランニングしている姿を見ながら、彼等のこれからの物語に期待していたのだった。



 一方、ライカは風子が提供しているマンションに住む事になり、彼女はここで自身の仲間を探していた。すると、この地球に一気に五人の仲間がいる事が明らかになったのだ。

「見つかったか!なら、動くなら今しかないな!」

 ライカは笑みを浮かべながら決意した直後、風子に相談しようと部屋から飛び出したのだった。
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