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第四章 エルフの森の怪物騒動

第百二十一話 追憶のベルセルク(その一)

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 数十年前、エムールは当時の長老であるマスルの補佐として働いていた。その時は髪も黒くてモテまくり、皆から慕われているのだ。

「エムール様、お疲れ様です!」

 その日もエルフの女性がエムールの元に駆け付け、その場でペコリと一礼をしていた。

「おお。調子はどうかな?」
「はい!大丈夫です!では、仕事に戻ります」

 女性は笑顔で仕事に戻り始めたその時、エムールの部下であるモスラーが駆け付けてきた。彼は若いエルフだが、頭脳明晰で仕事も上手くやっている。まさに頼りになる存在だ。

「エムール様、畑の調子ですが、現在は良好です」
「そうか。他の所に異常はないかね?」
「特にはないですが、新たな作物を出して欲しいとの要望があります」

 モスラーは資料に目を通しながら説明し、それを聞いたエムールは真剣な表情をする。するとある閃きが彼の頭の中に走り、その内容を伝え始める。
 
「なるほど。確か新しい野菜があると聞いていたな。それを埋めたらどうだ?」
「デカカボチャですね。早速伝えます!」

 エムールの説明を聞いたモスラーは、納得した後にそのまま畑の方に向かい出す。彼の後ろ姿を見ていたエムールは、晴天の空を見上げながら笑顔となっていた。

「今日も異常なし。このまま平和で行きたい物だ」

 エムールはこの世界が永久の平和で行きたいと思っていたが、その先にとんでもない事態が起こる事をまだ知らなかった。



 エルフの森から離れた砂漠。そこにある隠れ家では、一人の魔術師がとあるモンスターを製造していた。その服装は紫のローブを纏っていて、顔は白い仮面で隠されていた。

「ヒヒヒ……これさえあれば……後はバッチリだ。俺をコケにした仲間に復讐する為にも……必ず成功してみせる!」

 魔術師は一滴の血を壺釜の中に入れたその時、壺釜の中からモンスターが姿を現す。それは頭に悪魔の角が2本生えていて、背中には悪魔の羽、顔は人間、身体は雪男で、長い尻尾が生えていた。
 この姿こそ、最凶の怪物であるベルセルクだ。

「完成したぞ!これぞ破壊のモンスター、ベルセルクだ!」
「グオオオオオ!!」

 ベルセルクは咆哮を上げて胸を叩きながらドラミングをしていた。まるでゴリラ其の物だが、強そうな雰囲気を漂わせている。それと同時に外では雷の音が鳴り始めたのだ。



 それから数日後、エムールはモスラーと共に果樹園に向かい、作物の状況を確認していた。今年もバッチリだが、桃については大量に生産して困っていた。
 桃が大量に入っている箱は数多くあり、消費するにも時間が掛かりそうだ。
 
「桃がこんなにも生産するとは予想外だな……ふむ……」

 圧倒的な量を見たエムール達は驚きを隠せず、彼はため息をつきながら桃を何処に送るのか考え始める。他の国々に送ってもこんなにもいらないと言われ、半分ぐらいが残されたままで腐ってしまう可能性もあるからだ。

「仕方があるまい。フリューキンに送るとしよう……」

 エムールは彼の親友であるフリューキンに桃を送る事を決断し、モスラーがそれに反応してエムールに視線を移してきた。
 
「そう言えば、エムール様は魔術協会の会長であるフリューキン様と知り合いでしたね。確か魔術学院の同級生だとか」
「ああ。彼は今頃どうしているのか……」

 エムールがフリューキンの事を思い出しながら、晴れ渡った空を見上げていた。すると……何処からか盆踊り系の音楽が聞こえ始め、その音楽に彼は不快感を感じていた。

「この音楽……奴しかいない!」

 エムールが音楽のした方を見ると、ふんどしを履いた中年男が踊りながら歩いていた。筋肉質で高身長なのに、頭の中はとんでもなく馬鹿な事を考えている残念男だ。

「フリーマン!変な音楽が聞こえたが、お前の仕業か!私の森で何をしている!」

 エムールが盛大にフリーマンに対して大声で叫んだ直後、彼は後ろを振り向いてエムールに視線を移してきた。
 
「おお、エムールか。私はふんどし踊りを広める為、いつも踊っているのだが……」
「お前な!不老不死のアンデッドになったからとは言え、この踊りを広めるのは止めろ!バカが続出したらどう責任を取るつもりだ!」

 エムールは正当な理由でフリーマンにツッコミを入れ、モスラーもため息を付く。
 ふんどし踊りという馬鹿な踊りが広まれば、アホンダラが続出してグラディアスはバカの世界となってしまう。それを阻止しようとエムール達は動いているが、フリーマンはなかなか止めてくれない。

「何をいうか!ふんどし踊りが終われば、一種の文化が損失してしまう!だからこそ私の手で広めるのだ!」
「止めろ!それはマジで止めろ!バカを増やして世界を滅ぼす気か!」

 エムールが怒りの表情をしながら、フリーマンの馬鹿な野望を止めようとする。その為なら本気で殴り飛ばしても構わないぐらいだ。
 ギャーギャー騒ぎまくっていたその時、ねじり鉢巻で赤褌の男がダッシュで駆けつけてきた。

「てぇへんだ、てぇへんだ!緊急事態でーい!」
「飛脚のタメゾウ!何があったんだ!?」

 ねじり鉢巻の男はタメゾウと言い、荷物や情報をお届けする光速の飛脚と言われていた。今は死んでいるが、息子であるタメキチが跡を継いでいるのだ。
 タメゾウは到着したと同時に、息を一つも切らさずにエムール達の方を向く。どうやら何かあったに違いない。

「魔術協会で事故が起こりやがった!新種のモンスターによる襲撃で多くが亡くなってしまったんでい!」
「「「!?」」」

 タメゾウからの報告にエムール達は驚きを隠せず、すぐに顔を見合わせる。こうなってしまった以上、争っている暇はない。親友であるフリューキンのピンチには黙っていないのだ。

「すぐに魔術協会に向かうぞ!」
「「「おう!」」」

 エムール、モスラー、フリーマン、タメゾウの四人は、全速力でそのまま魔術協会へ向かい出した。フリューキンが無事である事を祈りながら……



 エムール達は空を飛びながら魔術協会の場所に辿り着くと、そこは既に瓦礫となっていて、多くの遺体が転がっていた。あまりにも酷い光景としか言えず、二十人以上は亡くなっている。

「酷い有様だな……」

 エムールはフリューキンを探しに駆け出そうとしたその時、紫色の髪の男性が駆け付けてきた。
 彼こそフリューキンであり、当時の魔術協会会長である。今では故人となっていてこの世にはいない。

「フリューキン、無事だったか!」
「ああ。だが、多くの仲間と部下が死んでしまった……」

 エムールはフリューキンが無事である事に安堵するが、彼は仲間と部下を失って俯いていた。モンスターの襲撃を事前に読み取れば、こんな事にはならなかったのだろう。
 するとモスラーが遺体に手を当てて原因を確認し、その内容を読み取り終えていた。

「エムール様!調べによりますと、一人の魔術師であるハルベルトによって産み出されたモンスターの仕業です!名前はベルセルクとの事です」 
「やはり異端として追い出した奴か……これは早急に緊急会議だな」

 フリューキンは真剣な表情で今後の事を考え、急遽緊急会議を開く事を決断。非常事態となった以上、そうするしか方法はないみたいだ。
 
「やむを得ないが、すぐに多くの種族を集めるぞ!タメゾウ、伝言を!」
「任せな!」

 タメゾウは光の速さで多くの種族達に情報を伝え、エムール達は会場の確保に向かい始める。それと同時にベルセルクとの戦いが始まりを告げようとしているのだった。
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