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第四章 エルフの森の怪物騒動

第百十四話 襲撃の盗賊団

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 零夜達はグラディアスにある通り道に転移し、辺りを見回した直後にどうするか考え始めた。

「さて、目的地についてはエルフの森だが、アミリスは道を知っているのか?」
「ええ。私が案内するから!」

 アミリスが皆を連れて先に進もうとしたその時、ある事を思い出して立ち止まってしまう。

「どうした?」
「何か忘れ物でもしたの?」

 アミリスが立ち止まったのを見て、零夜達は気になる表情で彼女に視線を移していた。何かあったに違いない。

「弓矢の弦を確認するのを忘れていた……ちょっと弦は変え時かな……」
「「「ららーっ!」」」

 アミリスが苦笑いしながら説明し、それに零夜達は盛大にズッコケてしまう。彼女は天才かと思ったが、たまにドジをしてしまう一面もあったのだ。
 人間誰も忘れてしまう事もあるので仕方がないが、任務の最中にこんな展開になるのは想定外である。

「だったら事前に準備してよ……」
「弓矢の弦を扱うお店も近くに無いし、どうするの?」
「しょうがない。奥の手を使いますか」

 アミリスはため息をついた後、アイテムポーチの中に手を突っ込み始める。ゴソゴソとアイテムを探り始め、そこから一匹の蜘蛛を取り出した。

「「「きゃあああああ!!」」」

 蜘蛛を見たヒカリ、倫子、ミミ、美津代、日和、夢子、アナ、メイリーは思わずバタバタと逃げて茂みの中に隠れてしまう。
 それを見た零夜は苦笑いをしてしまい、風子達は疑問に感じながら首を傾げてしまう。

「?なんで逃げたの?」
「あー……五人共虫が苦手だから……」
「夢子も虫嫌いだからな……」
「あの二人、虫は駄目なのよね……」

 アミリスはキョトンとしながら疑問に感じるが、零夜、風子、キララの説明に納得の表情をしていた。その様な事は知らずに蜘蛛を取り出せば、罪悪感を感じるのも無理はない。
 
「驚かせてごめんね。この蜘蛛は毒は無いし、無害だから」
「けど、蜘蛛は嫌や!ウチ等は虫が苦手やから!」

 アミリスの説明に倫子はガタガタ震えながら反論し、ヒカリ達もブンブンと頭を頷きながら同意する。過去に何かあったに違いないが、虫が苦手なのは確実だ。

「無理もないよね……で、その蜘蛛を使ってどうするの?」

 トラマツは倫子達の様子に呆れた後、アミリスの方に視線を移しながら質問する。弓矢の弦を作るのに、蜘蛛をどう使うのか気になるのも無理はない。

「今からやるから見ててね」

 アミリスはウインクしながら答えた後、弓の弦作りの作業を開始する。
 まずは蜘蛛の背中を押して糸を出し、ある程度出したら蜘蛛をポーチの中に入れた。

「もう蜘蛛はいなくなったわ!」
「ふう……助かった……」

 アミリスの合図と同時に、倫子達は茂みの中から一斉に出てきた。そのまま彼女の元に駆け寄り、蜘蛛がいない事に安堵する。
 アミリスはそのまま蜘蛛の糸を引っ張って強度を確認し、輪っかを作る様にグルグルと巻き始める。こうして蜘蛛の糸の弦が完成し、そのままアイテムポーチの中に入れた。

「なるほど。こんなやり方もあるのね」

 作業の様子を見たミミが納得しながら微笑む中、向こうから馬車が見えた。それを見た夢子は千里眼を使い、行き先と情報などを確認し始める。
 夢子は風子に仕えるメイドだが、文武両道の最強メイドと言われている。名門大学である東京大学卒業は勿論、英検一級や情報処理などの多くの資格を持っている。更には通訳や解読も担当しているのだ。

「分かりました!行き先はエルフの森の近くであるカルスト村です。しかも馬車は多くの人を乗せる事が出来ます!」
「よくやったぞ、夢子。では、移動手段はあの馬車に乗る事にするが、後は多くが入れるかだな」

 風子は馬車に乗る事を考えるが、現在いる人数を確認する。人間などの種族は彼女を含めて二十六人。更にトラマツ、ノースマン、サンペイの三匹は馬車に乗れるのか気になるところだ。

「俺は馬車がなくても大丈夫だ。スピードが速いし、スタミナもあるからな」
「オイラも同じだよ」
「じゃあ、僕はノースマンの背中に乗るか」

 ノースマンとトラマツは自分の力で歩く事になり、トラマツはノースマンの背中に乗って移動する事を決断する。
 零夜達は馬車に乗って移動する事を選択し、空いている席を確認して次々と馬車に乗り込む。因みに馬車の収容人数は四十人の為、彼等は全員乗る事ができた。

「まさか馬車で移動するなんてね。でも、この馬車はとても大きいし、席も多くあるなんて驚いたわ」 
「まるでバスみたいね」

 ヒカリと倫子の話を聞いたエヴァ達異世界組は、数日前の事を思い出す。
 渋谷の街を歩いていた頃、バスと言う乗り物を初めて見ていた。それはとても大きくて、馬の力を借りなくても自動で動いていた。当初は驚きを隠せずにいたが、改めて見ると便利な物だなと実感しているのだ。

「バスか……見たのは覚えているけど、一度乗ってみるのもありかもね」
「そうね。けど、一先ずはカルスト村。そこはエルフの森に繋がる村として知られているの。アルバータドラゴンの襲撃が来る前に急がないと!」

 アミリスの決意に零夜達も一斉に頷く中、馬車に何者かが近付いてくる。よく見るとアークスレイヤーの兵士達だ。

「あれはアークスレイヤー!」
「まさかここまで追ってくるとはね……警戒しておかないと!」

 エヴァの合図と同時に彼女達が身構える中、兵士の一人が零夜達の姿に気付き始める。

「あっ、こいつ等!ベクトル様とべムール様、更にはアビス様を殺した……」

 兵士の一人が叫ぼうとしたその時、空から一人の女性盗賊が姿を現す。彼女は紫色の髪をしていて、へそ出しの赤いアラビア服を着ていた。

「ちょっと待ちな!そいつはアタイの獲物だ!」
「何だ?グハッ!」

 女性盗賊は盗賊の剣を構えながら兵士達に襲い掛かり、一人を右斜一閃の斬撃で倒してしまう。

「こいつ等、襲撃してきたぞ!」
「こんな時に盗賊だなんてツイてないぜ!」
「あわわ!」

 残りの三人の兵士達は悪態をつきながらも、剣を引き抜いて女性盗賊との戦いに向かい出した。すると、彼女の仲間である五人の盗賊達が姿を現した為、乱戦の展開となってしまった。

「アークスレイヤーだけでなく、盗賊達まで来るなんて!」
「巻き込まれる前に急がないと!」

 倫子がすぐに馬車の運転席に向かおうとしたその時、女性盗賊が馬車の中に入ってきた。お客達は突然の侵入者に驚きを隠せずにいて、零夜達は戦闘態勢に入っていた。
 
「まさか入ってくるとは……その様子だと兵士達を倒し終えたという事か!」
「皆さん、逃げてください!」

 ソニアは冷や汗を流しながら女性盗賊に視線を移し、ジャンヌの合図で乗客達は一斉に馬車から降りまくる。そのまま彼等は森の中へと一目散に逃げてしまい、トラマツ、ノースマン、サンペイ、美津代は馬車の中に入っていく。

「乗客は全員逃げたな。すぐに戦闘態勢に入れ!」

 トラマツの合図で零夜達は武器を構え、警戒態勢を取りながらタイミングを合わせようとしていた。その様子を見た女性盗賊は武器を下ろし、冷静な表情で零夜達に視線を移す。

「アンタ等には用はないよ。私は金持ちを狙っているのでね」

 女性盗賊はすぐに馬車の中を確認しようとしたその時、アークスレイヤーの増援が次々と駆け付けてきた。しかもその人数は五十人ぐらいで、倒せるのも一苦労だ。

「ライカ、追っ手が来るぞ!」
「チッ!」

 ライカと呼ばれた女性盗賊は急いで馬車から降りた後、すぐに兵士達との戦いへ向かい出す。多勢に無勢としか言えないこの戦いだが、どれだけ耐え切るかがカギとなるだろう。

「今の内に!」

 その様子を見た倫子は馬車の運転席に移動し、鞭を構えながら馬に振るい始める。同時に馬は叫び声を上げて全速力で駆け出し、馬車がいきなり揺れた事で零夜達はバランスを崩れそうになる。

「早く座って!揺れるわ!」
「分かった!」

 マリーの合図で零夜達は武器を収め、一斉にそれぞれの席に座り始める。そのまま馬車はあっという間に走り去り、残ったのはライカ率いる盗賊達とアークスレイヤーの兵士達だけとなった。

「彼奴等……!」

 ライカは悔しそうな表情をしながら走り去る馬車を睨みつけ、そのまま兵士達との戦いに身を投じたのだった。
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