ヒーローズエイト〜神に選ばれし8人の戦士達による新八犬伝最強救世主伝説〜

蒼月丸

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第四章 エルフの森の怪物騒動

第百十話 突然の再会

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 控室では倫子がヒックヒックと泣いていて、零夜が彼女を抱き寄せながら慰めていた。六人タッグ王座を手に入れなかった事が悔しいだけでなく、黒田と室山を残してダイナマイツを去った申し訳無さもあった。
 いくら用意されたストーリーを実行しても、悔しさと申し訳なさの感情は消える事はなかったのだ。

「元気出してくださいよ。こうなる運命だったのは分かっていましたし……」
「だっで……六人タッグ取れなぐで悔じいんだもん……ぞれに……黒田さんと室山君に申じ訳ない事を…うあ゙ーん!」

 零夜が倫子を慰めるが、彼女は大声で泣いてしまった。顔は既に涙と鼻水で濡れていて、完全にマジ泣きしている姿が見える。
 その様子を見たエヴァは倫子に近付き、よしよしと彼女の頭を撫でながら慰める。

「大丈夫。私達が傍にいるから。ね?」
「ううーっ……」

 倫子は鼻水をすすりながらも落ち着きを取り戻し、エヴァが優しく彼女の涙と鼻水をティッシュで拭き取る。その直後にドアのノックが聞こえ始め、零夜達は音のした方へと視線を移す。

「大丈夫ですが……」

 零夜の合図と同時に扉が開かれ、雷電と一人の女性が姿を現す。その女性を見た零夜、倫子、エヴァの三人は驚きを隠せずにいた。

「ぽ、ポーラさん!?」

 なんと姿を現した女性は、零夜が娼館で出会ったポーラだった。彼等は予想外の展開に驚きを隠せない中、彼女は零夜に近付いてムギュッと抱き締めたのだ。

「久し振り、零夜!」
「ポーラさん、どうしてここに!?」

 零夜はポーラの姿に驚きながらも、彼女の温もりを感じ取っていた。彼女はロベリアから去って一人で冒険をしていたが、この世界に来たのは想定外だと言えるだろう。

「私、零夜がこの世界にいると聞いて会いに来たの。今は一人の女性が提供してくれた部屋で暮らしているわ!」
「そ、そうだったのか……」

 ポーラの笑顔の説明に零夜が苦笑いした直後、エヴァが背後から彼の頭をガブリと噛みついてしまう。嫉妬心が強いとこんな展開になるのは無理もないが、これはいくらなんでもやり過ぎと言えるだろう。

「ぎゃああああ!噛みつくなー!」
「良い関係しないでー!」
「落ち着いて、エヴァちゃん!」

 エヴァは嫉妬で暴走してしまい、倫子が慌てながら彼女を引き剥がそうと引っ張り始める。それに雷電が唖然とするのも無理なく、騒動が終わったのはそれから数分後の事だった。



「なるほど。つまり零夜とポーラはそんな関係だったのか」

 その後、零夜からの話に雷電達は納得の表情をしていて、彼はポーラに治癒させて貰いながら渋い顔をしていた。
 因みにエヴァは嫉妬のあまり頬を膨らましていて、倫子がよしよしと彼女の頭を撫でていた。

「ええ。事実ですよ。ロベリアに関しては平和になりましたが、まだまだ奴等の猛攻は止まりませんからね。この地球に来るのも時間の問題かも知れません」

 零夜の真剣な説明に、その場は緊迫感で包まれてしまう。アークスレイヤーは目的の為なら容赦なく動き出すだけでなく、神出鬼没で襲い掛かる事も。奴等の動向に関しては要注意と言えるが、この地球にも攻めてくる可能性は高いだろう。
 
「そうね。それに私は零夜と別チームだけど、選ばれし戦士として負ける理由にはいかないからね。それに……この世界に来たのはもう一つ理由があるの」
「もう一つの理由?」

 ポーラからの説明に零夜達は気になり、全員が彼女に視線を移す。そのまま彼女が真剣な表情でその理由を話した途端、予想外の展開に全員が驚いたのも無理なかった……



「「「ええっ!?私達の中に選ばれし戦士達がいるの!?」」」

 それから翌日、ヒーローアイランドにある広場では、ポーラの突然の話に皆がびっくり仰天で驚いていた。
 救出されていた元奴隷達の中に、選ばれし戦士が数名いるのも有り得なくはない。しかし、いきなりの展開は予想外と言えるし、中には尻餅をついた人達までもいたのだ。

「そうなの。私は数日前の夢の中で、女神アミール様からのお告げを聞いていたわ。あなた達の中に私の仲間が数名いると……」

 ポーラは真剣な表情をしながら、数日前の夢で起きた事を説明する。その話に誰もが信じられない表情をしてしまい、ざわつきも隠せなかった。
 一体誰なのか誰もが気になる中、突然二人がまっすぐに挙手をしていた。挙手していた人物をよく見ると、アナとメイリーの二人が真剣な表情をしながら今の行動をしていたのだ。

「へ?アナ、メイリー……もしかして、アミールという女神と夢の中で出会ったの?」

 キララが気になる表情でアナとメイリーに質問し、彼女達はコクリと頷きながら承諾する。それを聞いたポーラは彼女達の元に駆け寄ってきた。

「あなた達……もしかしてアミール様と夢の中で出会ったの?」
「ええ。私達も夢の中でアミール様と出会ったわ。私達も選ばれし戦士である事には間違いないけど、その夢を見てから落ち着かなかったわ」
「いずれキララと別れる日が来ると感じています。せっかく再会したのに、別れる事になるのが辛くて……」

 アナは俯きながらも説明し、メイリーに至っては涙目になっていた。彼女達はあの夢を見てからこの数日間、落ち着かない様子で皆から心配されていた時期もあった。それがまさかこの様な事になるとは、誰もが驚きを隠せずにいただろう。
 せっかく救出されてキララと再会したのに、今後はポーラと共に行動しなくてはならない。この様な別れ方になるのは辛過ぎるが、仕方がない事なのだ。

「アナとメイリーが選ばれし戦士である事には納得したけど……こんな展開で別れるなんて……絶対に嫌だ……!」

 キララも大粒の涙をこぼしながら、アナとメイリーの二人と別れる事を嫌がっていた。そのまま三人は抱き合いながら大泣きしてしまい、零夜達はどうすれば良いのか困り果ててしまう。
 その様子を見たポーラは彼女達に視線を移し、キララの頭をよしよしと撫でる。

「その事だけど……私が今居るのは東京にある高級マンションなの。それにあなた達の島にも時々寄るから、離れ離れになる事は無いから」
「「「へ!?」」」

 ポーラからの説明にキララ達は驚いてしまうが、離れ離れにならずに済んだ事にヘナヘナと座り込んでしまった。もしそうでなかったら、彼女達の大泣きは延々と続いていたのだろう。

「それを早く言ってよ……」
「でも、良かった……離れ離れにならずに済んで……」
「私もホッとしました……」

 キララ達は安堵した表情でため息をついてしまい、その様子に零夜達は苦笑いをしていた。一時はどうなるかと思ったが、万事解決と言ってもいいだろう。

「取り敢えずは落ち着いたから良いとしても、まさかポーラさんが高級マンションに住むとは驚きました。でも、一体誰が提供してくれたのですか?」

 零夜がポーラに気になる事を質問したその時だった。


「それは私が提供したが……」
「!?そ、その声は……もしや!?」


 零夜が突然ハッとなって声のした方を向くと、一人の女性が姿を現した。年齢は二十六で、黒いロングポニーテール。青い袴ジーンズと袖無し巫女服という変わったスタイルをしていた。

「あ、あなたは……!夏原風子なつはらふうこさん!」
「まさかお前も選ばれし戦士とは驚いたが、これも運命かも知れないな」

 風子の笑みに零夜が冷や汗を流す中、エヴァが気になる表情で彼に質問してくる。

「知り合いなの?」
「俺が働いている会社のご令嬢だ。しかも……この世界では最強クラスと言われる……月華の女侍だ!」
「「「ええーっ!?」」」

 零夜の説明を聞いたエヴァ達は一斉に驚いてしまい、倫子達に至ってはポカンとしてしまったのも無理ない。それと同時に、新たなライバルチームも誕生してしまったのだった。
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