ヒーローズエイト〜神に選ばれし８人の戦士達による新八犬伝最強救世主伝説〜

第三章 花咲くロベリア革命

第八十六話 仕組まれた罠

　マーリンのバブーフの激しい格闘戦が始まりを告げられ、彼の炎の拳が彼女に襲い掛かる。

「ふっ！」

　マーリンはアクロバティックな動きで回避したと同時に、指から水を放出して火を消し始める。しかし、焼け石に水なのであまり効果はない。

「何度やっても無駄だ！」

　バブーフは両手から炎を出してそのまま真上に上げたその時、マーリンはそれを見逃さず胸の鎧の罅に狙いを定める。

「アクアキャノン！」

　マーリンの指から放たれた水流は、バブーフの鎧に直撃。しかも罅に激突していたので効果ありだ。

「ふん！その程度が効くか！」
「それはどうかしら？」

　バブーフの余裕の表情に、マーリンがニヤリと笑ったその時だ。彼の鎧に次々と罅が入り、炎も次第に沈静化していく。それと同時に鎧も弱体化してしまい、炎の効果がなくなってしまったのだ。

「馬鹿な！俺の鎧が！」

　予想外の展開に驚きを隠せないバブーフに、零夜が彼に視線を合わせながら説明する。

「知っているか？鋼鉄は熱に弱い。そこに水で急速に冷やせば割れてしまう……鎧も熱には耐えきれなかったみたいだな！」

　そう。零夜は鎧に罅が入っているところを見て、その隙を見逃さずにいた。手入れをしていなかったバブーフにも原因があるので、自業自得の部分が半分あるのも無理はない。
　鎧の罅は次第に広くなっていき、最後の一撃で破壊されるのも時間の問題。次の攻撃が決まれば敗北は濃厚だ。
　ジャンヌはそれを見逃さずに武器を変化させ、水の槍であるアクアトライデントに変えていく。この一撃で戦いを終わらせるつもりだろう。
　
「止めは私が参ります！アクアランスブレイク！」

　ジャンヌは全速力で駆け出したと同時に、水の槍攻撃をバブーフの鎧の罅に炸裂させる。そのまま鎧の罅は広くなってしまい、鎧は破壊されて塵となって消滅してしまった。

「俺の鎧が……粉々に……」

　バブーフは鎧を破壊されたショックで呆然としてしまい、服も元に戻っていく。それを見た零夜達は一斉に彼の周りを囲み始め、逃げられないようにしていく。

「これでお前も終わりだな。すぐに諦めろ」

　零夜は村雨の先をバブーフに向け、ミミ達もそれぞれの武器の先を彼に向ける。鎧も壊れた以上、この状況を打破するのは難しい。まさに絶体絶命其の物だ。

「誰が諦めるか！」

　バブーフは悪あがきとして零夜に襲い掛かろうとするが、マーリンが立ちはだかって強烈な膝蹴りを彼の顎に直撃させる。まさに強烈な一撃で、普通の人ならノックアウトだ。
　顎にダメージを受けたバブーフは怯んでしまい、マーリンは止めを刺そうと蹴りの態勢に入る。

「いい加減倒れなさい！シードラキック！」

　そのまま水のオーラを纏ったハイキックが炸裂し、バブーフは脳震盪を起こして崩れてしまう。
　
「くっ……くそっ……」

　バブーフが前のめりに倒れた直後、炎の壁が消えてしまう。同時にシュヴァリア率いるレジスタンスも駆け付け、零夜達の元に駆け付けてきた。

「シュヴァリアさん！」
「後は私達に任せろ」

　シュヴァリアは零夜達に笑顔を向けた後、メガホンを構えながらこの街の住民達に宣言し始める。

「皆の者！シャングリはジャコバンズが占領していたが、バブーフが降伏した事でシャングリは我々レジスタンスの物となった！残党達は武器を捨てて降伏せよ！そして、住民達の安全や権利は我々が保証するので安心してくれたまえ！」

　住民達はシュヴァリアの演説に次々と駆けつけまくり、一斉に拍手をし始めた。バブーフの手から解放された事がとても嬉しく、喜ばずにはいられなかったのだろう。

「凄いぞレジスタンス！あのジャコバンズを倒すとは……」
「倒したのは選ばれし戦士達だそうだ！」
「格好良いぞ！」

　住民達からの称賛の声に、零夜は思わず照れ臭くなってしまう。それを見た倫子は、彼の頭を撫でながら落ち着かせていた。

「わざわざすみません……」
「何言っているの。零夜君のアドバイスが無かったら、勝つ事はできなかったんだから。それに、日和ちゃんのお陰で火傷も無くなっているからね」
「それを聞いて安心しました」

　倫子の笑顔に零夜が安堵のため息をつく中、コーネリアは怒りの表情でバブーフに近付く。どうやら何か言いたげな事があるだろう。

「アンタに聞きたい事があるわ。孤児院を別働隊が襲撃しようとしているのは本当の事なの？」

　コーネリアからの怒りの質問に、バブーフは首を横に振りながら否定していた。どうやらこの事についてはあまり知らないのだろう。

「そいつは知らないな……俺はその事については何も知らない……ただ、それだけの事だ……」

　バフーフは自ら発火してしまい、危険を察したコーネリアはすぐに彼から離れる。発火した炎はバブーフを包み込んでいき、そのまま塵となって消滅してしまった。

「もし、その話が本当なら、急いで孤児院に行かないとまずい事になるな……」
「となると……皆殺されているかもな……」

　杏とソニアの真剣な推測に、倫子達は思わず冷や汗を流しながらブルッと震えてしまう。その事が現実となったらショックとしか言えないだろう。

「なんて事を言うのよ！余計ビックリして心臓飛び出すじゃない！」
「わ、悪い……」

　ヒカリはソニアと杏に詰め寄りながら抗議していて、彼女達は苦笑いしながら返すしかなかった。
　
「ともかく、アーニャ、サーシャ、アンジェリックの三人が心配だ！すぐに孤児院の方へ向かうぞ！」

　ノースマンの合図に零夜達は頷き、急いで空を飛びながら急いで孤児院に向かっていた。早く急がなければノア達が大変な事になるだろう。

「よし！我々はこのシャングリの解放手続きを行う。ジャコバンズの党員達については護送車に入れておけ」
「はっ！」

　シュヴァリアの合図でレジスタンスメンバーは党員達を護送車に連行し始め、彼はシャングリの住民達に今後の方針についてを説明し始める。

（残るは五つか……しかし、孤児院の皆が心配だ。何事もなければいいが……）

　シュヴァリアは不安な表情をしながら青い空を見上げていて、孤児達の事を心配していた。それが現実となってしまう事を、この時はまだ知らなかった……

※

「バブーフが死んだか……」

　アークスレイヤーロベリア支部基地では、アビスが兵士からバブーフ死亡の報告を受けていた。零夜達を甘く見ていたのが敗因だが、彼は冷静に頷いていた。

「シャングリはレジスタンスによって解放されたが、今はまだ序の口だ。ところで……雷轟達は孤児院を制圧したのか気になるが……」

　アビスが真剣な表情で兵士の方を向いたその時、別の兵士が報告をしに駆けつけてきた。

「申し上げます！雷轟様が……孤児院を制圧する事に成功しました！子供達は全員死亡、コルディは軽傷、孤児院に関しても燃やし尽くし、食料や金貨も強奪しました！」
「そうか。後で雷轟には褒美を渡すとしよう。勿論報告したお前達にも褒美を与えないとな」
「「ありがとうございます！」」

　アビスは満足そうな笑みを浮かべながら、雷轟と兵士二人に褒美を渡す事を決断。兵士二人は一礼しながらお礼を言った後、その場から立ち去った。

「さて、選ばれし戦士達はどう立ち上がるかだな。これからが楽しみだ」

　アビスは邪悪な笑みを浮かべながら今後の展開を予測しつつ、そのまま椅子に座って紅茶を飲んだのだった。