真偽

真偽

｢実は僕、人間じゃないんだ｣
 仕事の昼休憩。炎天下の昼下がり。蝉が忙しなく叫ぶ往来を避け何気なく立ち寄ったカフェ。目の前に座る彼はそう言い、薄く笑った。
｢人間じゃ、ない｣
 私は恐怖した。彼は一体、なにを言っているのか。私の恐怖を見透かしたように薄く微笑む彼は続ける。人間では無いと言うならなんだ。機械か？
｢そう、人間じゃない。ならなんだい？機械生命体？精神異常者の戯言？そもそも人間の定義ってなんだい？｣
私の思考を読んだかのような言葉と問いに、私は困惑した。人間の定義。今まで考えて来なかった。考えようともしなかった問いだ。
｢人間は、人間と思えば人間なのでは？違うんですか？｣
私はそう返すしかなかった。背中に感じる妙な寒気。私の中で何かが羽化するような気味の悪さと嫌悪感をコーヒーで飲み込んだ。
｢そうだね。でも僕は人間か？それとも誰かの創造物か？君は、どっちなんだい？｣
｢創造物？｣
｢そう。僕はね、気付いたんだ。この世界は誰かに観測されて生み出された世界だ。ここで生きる僕らは、ただのキャラクターに過ぎない。この思考だって、その誰かが考えたものかもしれない。君も、そうなんだよ｣
私は逃げた。逃げた。込み上げてくる吐き気を抑え、一心不乱に。蝉の声と夏の陽射しが脳を焼く。創造物。人間。創造物。人間。創造物。人間。創造物。人間。創造物。私は一体何者なのか。私は本当に私なのか。回る思考は、意識とともに途切れた。
私は病院に運ばれた。医師はここは精神病院で、私は支離滅裂なことを叫び暴れたと言う。私は隔離室に入れられていた。
それから数日が経過し、友人が見舞いに来た。
｢私、気付いたの｣
私の口は言葉を紡ぐ。鏡に移る私が笑みを浮かべる。
｢実は私、人間じゃないの｣
彼女は後ずさる。恐怖と困惑をその両の目に浮かべながら。
彼女の瞳に映る私は、人間と創造物。果たしてどちらなのだろうか。

アナタなら、知っているのでしょう？