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第27話 捜索
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「たぶん、ルカがいなくなったのはこの場所だ。ポリーナがルカにあげたベリーのタルトが落ちていたんだ」
リラに案内されて薬屋の前に行くと最初にルカが攫われたことに気付いたフェリクスが苦渋に満ちた表情で説明してくれた。
「え? 薬屋の目と鼻の先じゃないか?」
「最初から狙われていたのか?」
リュークとカザンが納得がいかない気持ちを表した。
一介の薬屋の息子が早朝とは言え、そんなに人通りも少なくないこの場所でリスクを負ってまで攫う意味が分からなかったのだ。
しかもルカは目が見えない。人身売買だとしても瑕疵を背負った少年は商品に適しているとは言えない。
「まさか、この場所がバレたのか?」
リラが眉を顰め呟いた。
リュークとカザンはリラの言葉の意味が分からず顔を見合わせ首を傾げた。
「それよりも、時間がない。ルカを捜すぞ。リラさん、何かルカの持ち物があったら貸して欲しい」
「ルカの持ち物? ……わかった、ちょっと待っていろ」
リラはリュークの言葉に疑問を持ったが、今はルカを探すのが第一だと思い直ぐに薬屋の店舗の中に姿を消した。店舗の奥は住居スペースになっている。
「これでいいか?」
「ああ、十分だ。カザン、追えるか?」
リュークはリラから小さな帽子を受け取りカザンに渡した。
「まかせておけ」
その言葉と共にカザンの身体に魔力が廻り鳶色の瞳に金環が輝く。身体の表面に発した炎狼の魔力でカザンの髪の毛を揺らめかせていた。
リラとフェリクスがカザンの変化に目を丸くして固唾を呑んだ。
「「君は……」」
初めて見るその変化にリラもフェリクスも言葉がでない。
カザンはルカの帽子を自分の鼻に押し付け匂いを嗅いだ。
「カザンはとても鼻が利くんだ。見るからに変態っぽいけどな」
「変態は余計だ! 分かったぞ、こっちだ!」
からかうように言ったリュークの言葉に文句を言い返し、カザンは進むべき道を指し示した。
「フェリクス、何か連絡が入るかも知れないからここで待機してくれ。私はこのまま二人とルカを探しに行く」
「あっ、リラさんは馬に乗って僕たちについてきた方が良いかも……」
リラがフェリクスに一言告げると、リュークが思い出したように言った。
「馬? だが、荷馬車用の馬、一頭しかいないのだが……」
「ああ、俺達は大丈夫。走るから、とにかく早く行こう」
リラはリュークの言葉に、素直に厩から馬に乗ってカザンとリュークの後を追いかけることにした。
「こっちだ!」
カザンが迷いなく先に進み、リュークが後に続き、リラが騎乗して追いかける。
カザンとリュークはリラが自分達とはぐれないように速さを調節していたが、リラは騎乗しているというのに二人についていくのがやっとだった。
前世を思い出したルカだったがそれだけでこの状況を打開することは不可能に近かった。
ルカは自分が生まれたときから目が見えなかった訳ではなかったことを思い出していた。
あれはまだ2才にもなっていなかったころだったろうか?
広い室内は手彫りの家具と精巧な金箔仕上げのテーブルと椅子、曲線的で優美なロココ調の家具はどう見ても権力と富を象徴していた。
特に白い大理石で作られた暖炉やその上に飾られた神話や歴史的な出来事が描かれたタペストリーの壁装飾を思い出すと、どう考えても特権階級の家であることは確かだった。
子供の目線では気がつかなかったルカだったが、前世の華原の目線から思い出し、自分が何らかの政争に巻き込まれているのかもしれないことを推測した。
(このままでは僕は殺されてしまうかもしれない)
前世を思い出しても暗闇に閉ざされたルカの瞳ではどうすることも出来なかった。
(せめて、目が見えれば……)
ルカは絶望感に包まれた。
何とか誘拐犯の気配を探ろうと周辺に意識を向ける。三人の男達の魔力を感じるがそれほど大きい物ではない。
それでも大人の男だというだけでルカが彼らを欺いて逃げ出すことなんて不可能だろう。
為す術が見つからないことを覚った瞬間、遠くの方からこの場所に向けてすごい勢いで近づいてくる大きな魔力派を感じてルカはハッとした。
一つはずっとそばで自分を守ってくれた魔力派、後の二つは最近知ったそれよりも数段強い魔力派である。
ルカは、絶望の中に自分を救ってくれる希望の光を見つけ、出来るだけ男達に感づかれないようにその時を待つのだった。
リラに案内されて薬屋の前に行くと最初にルカが攫われたことに気付いたフェリクスが苦渋に満ちた表情で説明してくれた。
「え? 薬屋の目と鼻の先じゃないか?」
「最初から狙われていたのか?」
リュークとカザンが納得がいかない気持ちを表した。
一介の薬屋の息子が早朝とは言え、そんなに人通りも少なくないこの場所でリスクを負ってまで攫う意味が分からなかったのだ。
しかもルカは目が見えない。人身売買だとしても瑕疵を背負った少年は商品に適しているとは言えない。
「まさか、この場所がバレたのか?」
リラが眉を顰め呟いた。
リュークとカザンはリラの言葉の意味が分からず顔を見合わせ首を傾げた。
「それよりも、時間がない。ルカを捜すぞ。リラさん、何かルカの持ち物があったら貸して欲しい」
「ルカの持ち物? ……わかった、ちょっと待っていろ」
リラはリュークの言葉に疑問を持ったが、今はルカを探すのが第一だと思い直ぐに薬屋の店舗の中に姿を消した。店舗の奥は住居スペースになっている。
「これでいいか?」
「ああ、十分だ。カザン、追えるか?」
リュークはリラから小さな帽子を受け取りカザンに渡した。
「まかせておけ」
その言葉と共にカザンの身体に魔力が廻り鳶色の瞳に金環が輝く。身体の表面に発した炎狼の魔力でカザンの髪の毛を揺らめかせていた。
リラとフェリクスがカザンの変化に目を丸くして固唾を呑んだ。
「「君は……」」
初めて見るその変化にリラもフェリクスも言葉がでない。
カザンはルカの帽子を自分の鼻に押し付け匂いを嗅いだ。
「カザンはとても鼻が利くんだ。見るからに変態っぽいけどな」
「変態は余計だ! 分かったぞ、こっちだ!」
からかうように言ったリュークの言葉に文句を言い返し、カザンは進むべき道を指し示した。
「フェリクス、何か連絡が入るかも知れないからここで待機してくれ。私はこのまま二人とルカを探しに行く」
「あっ、リラさんは馬に乗って僕たちについてきた方が良いかも……」
リラがフェリクスに一言告げると、リュークが思い出したように言った。
「馬? だが、荷馬車用の馬、一頭しかいないのだが……」
「ああ、俺達は大丈夫。走るから、とにかく早く行こう」
リラはリュークの言葉に、素直に厩から馬に乗ってカザンとリュークの後を追いかけることにした。
「こっちだ!」
カザンが迷いなく先に進み、リュークが後に続き、リラが騎乗して追いかける。
カザンとリュークはリラが自分達とはぐれないように速さを調節していたが、リラは騎乗しているというのに二人についていくのがやっとだった。
前世を思い出したルカだったがそれだけでこの状況を打開することは不可能に近かった。
ルカは自分が生まれたときから目が見えなかった訳ではなかったことを思い出していた。
あれはまだ2才にもなっていなかったころだったろうか?
広い室内は手彫りの家具と精巧な金箔仕上げのテーブルと椅子、曲線的で優美なロココ調の家具はどう見ても権力と富を象徴していた。
特に白い大理石で作られた暖炉やその上に飾られた神話や歴史的な出来事が描かれたタペストリーの壁装飾を思い出すと、どう考えても特権階級の家であることは確かだった。
子供の目線では気がつかなかったルカだったが、前世の華原の目線から思い出し、自分が何らかの政争に巻き込まれているのかもしれないことを推測した。
(このままでは僕は殺されてしまうかもしれない)
前世を思い出しても暗闇に閉ざされたルカの瞳ではどうすることも出来なかった。
(せめて、目が見えれば……)
ルカは絶望感に包まれた。
何とか誘拐犯の気配を探ろうと周辺に意識を向ける。三人の男達の魔力を感じるがそれほど大きい物ではない。
それでも大人の男だというだけでルカが彼らを欺いて逃げ出すことなんて不可能だろう。
為す術が見つからないことを覚った瞬間、遠くの方からこの場所に向けてすごい勢いで近づいてくる大きな魔力派を感じてルカはハッとした。
一つはずっとそばで自分を守ってくれた魔力派、後の二つは最近知ったそれよりも数段強い魔力派である。
ルカは、絶望の中に自分を救ってくれる希望の光を見つけ、出来るだけ男達に感づかれないようにその時を待つのだった。
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