上 下
28 / 28

第27話 捜索

しおりを挟む
「たぶん、ルカがいなくなったのはこの場所だ。ポリーナがルカにあげたベリーのタルトが落ちていたんだ」

 リラに案内されて薬屋の前に行くと最初にルカが攫われたことに気付いたフェリクスが苦渋に満ちた表情で説明してくれた。

「え? 薬屋の目と鼻の先じゃないか?」
「最初から狙われていたのか?」
 リュークとカザンが納得がいかない気持ちを表した。

 一介の薬屋の息子が早朝とは言え、そんなに人通りも少なくないこの場所でリスクを負ってまで攫う意味が分からなかったのだ。

 しかもルカは目が見えない。人身売買だとしても瑕疵を背負った少年は商品に適しているとは言えない。

「まさか、この場所がバレたのか?」
 リラが眉を顰め呟いた。

 リュークとカザンはリラの言葉の意味が分からず顔を見合わせ首を傾げた。

「それよりも、時間がない。ルカを捜すぞ。リラさん、何かルカの持ち物があったら貸して欲しい」
「ルカの持ち物? ……わかった、ちょっと待っていろ」

 リラはリュークの言葉に疑問を持ったが、今はルカを探すのが第一だと思い直ぐに薬屋の店舗の中に姿を消した。店舗の奥は住居スペースになっている。

「これでいいか?」
「ああ、十分だ。カザン、追えるか?」
 リュークはリラから小さな帽子を受け取りカザンに渡した。

「まかせておけ」
 その言葉と共にカザンの身体に魔力が廻り鳶色の瞳に金環が輝く。身体の表面に発した炎狼の魔力でカザンの髪の毛を揺らめかせていた。

 リラとフェリクスがカザンの変化に目を丸くして固唾を呑んだ。

「「君は……」」
 初めて見るその変化にリラもフェリクスも言葉がでない。

 カザンはルカの帽子を自分の鼻に押し付け匂いを嗅いだ。

「カザンはとても鼻が利くんだ。見るからに変態っぽいけどな」
「変態は余計だ! 分かったぞ、こっちだ!」
 からかうように言ったリュークの言葉に文句を言い返し、カザンは進むべき道を指し示した。
 
「フェリクス、何か連絡が入るかも知れないからここで待機してくれ。私はこのまま二人とルカを探しに行く」
「あっ、リラさんは馬に乗って僕たちについてきた方が良いかも……」
 リラがフェリクスに一言告げると、リュークが思い出したように言った。

「馬? だが、荷馬車用の馬、一頭しかいないのだが……」
「ああ、俺達は大丈夫。走るから、とにかく早く行こう」
 リラはリュークの言葉に、素直に厩から馬に乗ってカザンとリュークの後を追いかけることにした。
 

「こっちだ!」
 カザンが迷いなく先に進み、リュークが後に続き、リラが騎乗して追いかける。

 カザンとリュークはリラが自分達とはぐれないように速さを調節していたが、リラは騎乗しているというのに二人についていくのがやっとだった。

 

 前世を思い出したルカだったがそれだけでこの状況を打開することは不可能に近かった。

 ルカは自分が生まれたときから目が見えなかった訳ではなかったことを思い出していた。

 あれはまだ2才にもなっていなかったころだったろうか?

 広い室内は手彫りの家具と精巧な金箔仕上げのテーブルと椅子、曲線的で優美なロココ調の家具はどう見ても権力と富を象徴していた。

 特に白い大理石で作られた暖炉やその上に飾られた神話や歴史的な出来事が描かれたタペストリーの壁装飾を思い出すと、どう考えても特権階級の家であることは確かだった。

 子供の目線では気がつかなかったルカだったが、前世の華原の目線から思い出し、自分が何らかの政争に巻き込まれているのかもしれないことを推測した。
 
(このままでは僕は殺されてしまうかもしれない)

 前世を思い出しても暗闇に閉ざされたルカの瞳ではどうすることも出来なかった。

(せめて、目が見えれば……)

 ルカは絶望感に包まれた。

 何とか誘拐犯の気配を探ろうと周辺に意識を向ける。三人の男達の魔力を感じるがそれほど大きい物ではない。

 それでも大人の男だというだけでルカが彼らを欺いて逃げ出すことなんて不可能だろう。

 為す術が見つからないことを覚った瞬間、遠くの方からこの場所に向けてすごい勢いで近づいてくる大きな魔力派を感じてルカはハッとした。

 一つはずっとそばで自分を守ってくれた魔力派、後の二つは最近知ったそれよりも数段強い魔力派である。

 ルカは、絶望の中に自分を救ってくれる希望の光を見つけ、出来るだけ男達に感づかれないようにその時を待つのだった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

なぜか俺だけモテない異世界転生記。

一ノ瀬遊
ファンタジー
日本で生まれ日本で育ったこの物語の主人公、高崎コウが不慮?の事故で死んでしまう。 しかし、神様に気に入られ異世界クラウディアに送られた。 現世で超器用貧乏であった彼が異世界で取得したスキルは、 彼だけの唯一無二のユニークスキル『ミヨウミマネ』であった。 人やモンスターのスキルを見よう見まねして習得して、世界最強を目指していくお話。 そして、コウは強くカッコよくなってハーレムやムフフな事を望むがどういう訳か全然モテない。 バチくそモテない。 寄ってくるのは男だけ。 何でだ?何かの呪いなのか!? ウオォォォ!! プリーズ、モテ期ィィ!! 果たしてこの主人公は世界最強になり、モテモテハーレム道を開けるのか!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...