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第4話 旅立ち【1】
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数日後、リュークの旅立ちの時が訪れた。
氷層天山の麓の村でリュークとソルガディオ、ルナシーラが向き合って別れの挨拶をしている。それを囲むように村人達が遠巻きに見ていた。
若者は働きに出ているため、ここに残っている村人は年寄りや女子供が殆どだ。
時折、暖かく心地よい風が吹き抜け、雲一つない空は旅立ちを祝福しているかのようだ。
銀髪を風に靡かせ、金色の瞳を細め愛しい息子を見つめる人外の美しさを持つソルガディオ、濡羽色の髪が陽の光に輝き神秘的な翡翠の瞳のルナシーラ、そしてその息子であるリュークはまだ幼い顔立ちながらもしっかりと二人の遺伝子を受け継いでいることはその容貌を見れば疑いようもない。
父親と同じ銀髪、母親と同じ翡翠の瞳は二人の特徴を反映するかの様にまだ幼さが残る顔立ちは美しく、人々を魅了する。きっと人間社会にいけば注目されること間違い無しだと思われた。
「リューク、これを身につけておけ」
ソルガディオが小さな翡翠色の魔石がついた耳飾りをリュークに渡した。
「これは?」
「いいから付けてみろ」
リュークはソルガディオに言われたとおり、片耳に付けた。するとリュークの髪色が亜麻色に変化した。
「変装の魔導具だ。魔力を解放しすぎると魔石が割れるから気を付けろ。まあ、その場合はお前なら魔石を作り出せるだろう」
ソルガディオの言葉にリュークが首を傾げた。
(魔石を作り出せるなんて言われても作り方なんて知らないんだけど。大体にして父様の教え方は分かりづらいんだよ。『バッとやってシュッとして』とか言われても説明になって無いことを本人は理解してないんだよな。俺が直ぐに作り出せなかったのは父様の教え方に問題が有るような気がするぞ)
心の中でソルガディオに魔石の作り方を教わったときの事を思い出してリュークは遠い目をした。
天才と呼ばれる物ほど人に何かを教えることは難しい。何故なら彼らは天才であるが故に直ぐに習得できてしまうからだ。だから他の者ができない事が不思議で仕方がないのだ。
幸いなことにリュークはソルガディオの血を引いているため天才の部類に入る。リューク本人は直ぐに魔石を作り出せなかったと思っているが、実際には三回目で作ることができたのだ。
常人なら何度やっても作り出せないのが当たり前であることにリュークは気付いていなかった。
「リュークの髪色は目立つからソルに作ってもらったのよ」
ルナシーラがリュークの様子を見て説明を加えた。どうやらどうして変装の魔導具を渡されたのかリュークが分かってないと思ったのだろう。
まあ、実際にその通りなのだが。
「目立つ?」
「ええ、ソルやリュークの様な銀髪の者はあまり人間にはいないの。高位貴族の中にはいるんだけど、こんなにキラキラと輝いてないのよ」
「ふーん、そうなのか?」
「だから、人前ではその耳飾りは外さないでね」
リュークはルナシーラの言っている意味が良く分かっていなかったが、敬愛する母親が言っている事なんだから間違いないと思って従うことにした。
ルナシーラは、リュークが何れ自分達の元を去ることを予測して人間社会の常識を教えて来たつもりであったが、そもそもルナシーラ自身が人間社会に疎かったため自分がずれていることにさえ気がついていない。
ソルガディオの美しさに見慣れていたルナシーラは自分の息子がそれなりに美麗であることを理解していても、人間社会でどれ程目立つ存在になるかは露程も予測していなかった。例え髪色だけを変えてもその美麗さを隠す事など出来ないことを。
「倅よ、もし何かあったらいつでも私達を頼るがよい」
「ああ、リューク、寂しくなるわ。くれぐれも気を付けてね。特に女性には要注意よ。貴方はソルに似てイケメンだから心配だわ」
「ルナ、リュークは大丈夫だと思うぞ。私と同じでたった一人の女性しか愛せないだろうから。私がルナだけを愛するように」
「ソル、私も貴方だけよ」
(また始まった……)
リュークは母様が瞳を潤ませて父様の首に腕を絡ませるのを見て遠い目をした。
(夫婦が仲が良いのは結構だ。だが、村人や息子の前ではいい加減辞めて貰いたい。これが始まったら二人の世界まっしぐらだ)
リュークは二人の様子に溜息を吐いた。
(まだ救いは、村人達が温かい眼差しで二人を見ていることだろうか……)
氷層天山の麓の村でリュークとソルガディオ、ルナシーラが向き合って別れの挨拶をしている。それを囲むように村人達が遠巻きに見ていた。
若者は働きに出ているため、ここに残っている村人は年寄りや女子供が殆どだ。
時折、暖かく心地よい風が吹き抜け、雲一つない空は旅立ちを祝福しているかのようだ。
銀髪を風に靡かせ、金色の瞳を細め愛しい息子を見つめる人外の美しさを持つソルガディオ、濡羽色の髪が陽の光に輝き神秘的な翡翠の瞳のルナシーラ、そしてその息子であるリュークはまだ幼い顔立ちながらもしっかりと二人の遺伝子を受け継いでいることはその容貌を見れば疑いようもない。
父親と同じ銀髪、母親と同じ翡翠の瞳は二人の特徴を反映するかの様にまだ幼さが残る顔立ちは美しく、人々を魅了する。きっと人間社会にいけば注目されること間違い無しだと思われた。
「リューク、これを身につけておけ」
ソルガディオが小さな翡翠色の魔石がついた耳飾りをリュークに渡した。
「これは?」
「いいから付けてみろ」
リュークはソルガディオに言われたとおり、片耳に付けた。するとリュークの髪色が亜麻色に変化した。
「変装の魔導具だ。魔力を解放しすぎると魔石が割れるから気を付けろ。まあ、その場合はお前なら魔石を作り出せるだろう」
ソルガディオの言葉にリュークが首を傾げた。
(魔石を作り出せるなんて言われても作り方なんて知らないんだけど。大体にして父様の教え方は分かりづらいんだよ。『バッとやってシュッとして』とか言われても説明になって無いことを本人は理解してないんだよな。俺が直ぐに作り出せなかったのは父様の教え方に問題が有るような気がするぞ)
心の中でソルガディオに魔石の作り方を教わったときの事を思い出してリュークは遠い目をした。
天才と呼ばれる物ほど人に何かを教えることは難しい。何故なら彼らは天才であるが故に直ぐに習得できてしまうからだ。だから他の者ができない事が不思議で仕方がないのだ。
幸いなことにリュークはソルガディオの血を引いているため天才の部類に入る。リューク本人は直ぐに魔石を作り出せなかったと思っているが、実際には三回目で作ることができたのだ。
常人なら何度やっても作り出せないのが当たり前であることにリュークは気付いていなかった。
「リュークの髪色は目立つからソルに作ってもらったのよ」
ルナシーラがリュークの様子を見て説明を加えた。どうやらどうして変装の魔導具を渡されたのかリュークが分かってないと思ったのだろう。
まあ、実際にその通りなのだが。
「目立つ?」
「ええ、ソルやリュークの様な銀髪の者はあまり人間にはいないの。高位貴族の中にはいるんだけど、こんなにキラキラと輝いてないのよ」
「ふーん、そうなのか?」
「だから、人前ではその耳飾りは外さないでね」
リュークはルナシーラの言っている意味が良く分かっていなかったが、敬愛する母親が言っている事なんだから間違いないと思って従うことにした。
ルナシーラは、リュークが何れ自分達の元を去ることを予測して人間社会の常識を教えて来たつもりであったが、そもそもルナシーラ自身が人間社会に疎かったため自分がずれていることにさえ気がついていない。
ソルガディオの美しさに見慣れていたルナシーラは自分の息子がそれなりに美麗であることを理解していても、人間社会でどれ程目立つ存在になるかは露程も予測していなかった。例え髪色だけを変えてもその美麗さを隠す事など出来ないことを。
「倅よ、もし何かあったらいつでも私達を頼るがよい」
「ああ、リューク、寂しくなるわ。くれぐれも気を付けてね。特に女性には要注意よ。貴方はソルに似てイケメンだから心配だわ」
「ルナ、リュークは大丈夫だと思うぞ。私と同じでたった一人の女性しか愛せないだろうから。私がルナだけを愛するように」
「ソル、私も貴方だけよ」
(また始まった……)
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(夫婦が仲が良いのは結構だ。だが、村人や息子の前ではいい加減辞めて貰いたい。これが始まったら二人の世界まっしぐらだ)
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