吸血鬼恋物語ーもう一度あなたに逢いたくてー

梅丸

文字の大きさ
上 下
24 / 24

第24話 永遠の時を

しおりを挟む
「さあ、告白して頂きましょう。本当のことを」
 そうディーンがヘレンの方に向かって告げた。

「そうよ、私がディーンを殺そうとしたのよ。小さい頃から何度も何度も毒を盛って病気に見せかけて殺そうとしたのに何故か朝になると復活していたから、睡眠薬を呑ませて寝ているすきに従者に頼んで魔窟の森に捨てるように命じたのよ。ソフィアの時には病気に見せかけて上手く殺せたのにあなたは何てしぶといのよ。魔窟の森から無事に帰ってくるし、マクベイ嬢に惚れ薬だと偽って毒を盛るようにしむけたのに何故生きているのよ!」

 言い切ったヘレン皇妃はハッとして両手で口を抑えた。
「ヘレン、まさか其方がそこまで手を下していたとは……」

 絶句する皇帝陛下。
 室内にいたものはあまりの驚愕に第一皇子クラウスを始め誰1人として発することができない。
 しかし、ヘレン皇妃が公で告白したことをもう覆すことはできなかった。

「なっ、なぜ……?」
「私の異能は真実の追究者。私の追求から逃れることはできないのですよ」

「異能……? 何を分けの分からないことを。お前さえいなければ! 何故私の邪魔をする! このまま破滅するならばお前を道連れにしてやる!」
 ヘレン王妃がそう叫ぶと魔力が高まった。

 室内を稲妻が走った。
 しかし、ディーンには何も影響は無かった。

「あらあら、大変なことになっているわね」
 ディーンの後ろから素っ頓狂な声を出して笑みながら顔を覗いたのはアメリアだった。
「クスクス、ディーン、あんまり遅いから迎えに来たわ」
 アメリアの目にはディーンしか映っていないようだった。

「アメリア嬢、どうやってここまで、ここには関係者以外通さないように命令していた筈だが?」
「あら、皆さんには眠って頂いたわ」

 皇帝陛下の言葉にアメリアは臆面もなくにこやかに返事をした。

「眠って……?」
「ええ、こんな感じに!」
 アメリアの言葉と同時にどこからともなく黒い霧が辺りを覆い、謁見室にいた衛兵達が次々に床に倒れていった。
「なっ何を! 私の前で無礼な!」

 皇帝陛下が声を上げ、咄嗟に魔法を発動させた。

 炎の塊がアメリアだけに向かって飛んでいったが到達する前に霧散した。

「クスクス、今何かしたかしら?」
 アメリアの双眸が緋色に光る。

「ああ、だから人間っていやよ。何でも権力で封じ込めようとするのね。ディーンを守れなかったくせに!」

 皇帝陛下に怒りの目を向けるアメリア。

 アメリアを凝視する皇帝陛下。

「私利私欲のためにディーンを殺そうとしたヘレン王妃もそれを見て見ぬ振りした第一皇子、そして波風を立てるのが嫌でヘレン王妃を好きにさせてきた皇帝陛下も同罪ね。ねぇ、陛下周りを見てみて、みんな死んだように眠っているわね。この人達本当に眠っていると思う?この状況、200年前にもあったこと知らない?この地がスメリア帝國となるまえのアテナ王国で……」

 アメリアがそこまで言うと皇帝陛下は思い当たったようにハッと顔を向けた。
「まっ、まさか」

 その場は異様な光景が広がっていた。
 床に伏せる衛兵や重鎮達は身動き一つしない。
 皇妃ヘレン、第一皇子クラウス、皇帝陛下は顔を真っ青にしてただアメリアとディーンの方を見つめるばかりだった。

 200年前に起こった原因不明の流行病。
 王家を中心に謎の衰弱、気がついたら王城にいる多くの人が眠るように床に伏せっていたという。
 そして今、アメリアが発生させた黒い霧は謁見の間にいる重鎮や衛兵を覆い床に倒れさせていった。

「私の正式な名は、アメリア・ドラキュリア。200年前に没落したドラキュリア伯爵家の長女よ」
「バッ、バケモノ!」

「あら、酷い言われようね。吸血鬼ヴァンパイアと言って欲しいわ。そして、ディーンは200年前死んだディーン・バラリアン公爵の次男の生まれ変わり、そこの皇妃のおかげで死にそうになってめでたく私と同じ吸血鬼ヴァンパイアになったのよ」

 一呼吸置いて周りを見渡し、言葉を続ける。

「何か勘違いしているようだけど、吸血鬼ヴァンパイアはバケモノではなく冥府の神の眷属よ。つまり私たちは神の御使い。あなたたち人間の管理者のようなものよ。」

「そういうことだ」
 アメリアの説明が終わるとディーンが一歩前に踏み出した。

「そこでだ。俺はもう人外だからこのまま死んだことにして皇太子には兄上になって貰おう」
「なっ、今更なぜ私が!」
「まぁ、表向きはだが」
「表向き?どういうことだ?」
「兄上は可もなく不可もなく只玉座に座っていればいい。何かあれば私が支持をだそう」
「そっ、其方は私を傀儡の王にするつもりかっ?」
「察しがいいようで嬉しいよ、兄上」
 ディーンの言葉に渋面を作り何も言えなくなった第一皇子クラウスは反論の余地がなかった。
「ディーン、これで一件落着ね」
「ああ」

 微笑み会うディーンとアメリア。

「あっそうそう、ヘレン皇妃にはお仕置きしなくちゃね」
「ひっ!」
 屈託のない笑顔に只ならぬ雰囲気を察知してヘレン王妃は声にならない悲鳴を上げた。

 するとヘレン王妃の周りに黒い霧が纏わり付いた。
 黒い霧はどんどん濃くなりヘレン王妃を飲み込むかのように見えた。
 その刹那、そこにぺったりと座り込んでいたのは2歳にも満たない幼児だった。

「あら、折角小さくしてあげたのに可愛くないわね」
 アメリアの言葉に一同は息を呑んだ。

「私の異能は時の操者、ヘレン王妃の時間をちょっとだけ戻したの。これでおいたはできないわね。その姿はずっと変わらないけど寿命が来たら死んじゃうから気を付けてね」
「さあ、アメリア行こうか」

 2人は手を取り合いその場から立ち去った。




 黒曜石オブシディアンの居城の一番高い塔の部屋で向き合う2人。
 月明かりが部屋に差し込み互いの瞳を緋色に輝かせていた。
「ディーン、後悔していない?」
「どうして?後悔するわけがない。君は俺をずっと待っていてくれた。そして、俺の魂はずっと君を求めていたんだ」
「ディーン」
 頬を撫でるディーンの手にアメリアの手が絡む。
 互いに潤んだ瞳は逸らすことがない。
「今度は俺から君に200年分の口づけを、そして永遠の愛を捧げよう」
 2人の影は一つに重なり、お互いを確かめ合う。
 空白の200年を埋めるように、これからの永遠の時に思いを馳せて…………
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...