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第21話 既視感
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14歳になったある夜、ディーンは身体に違和感を覚えいつもより早めにベッドに入った。
度々訪れる違和感に違いなかった。原因不明の身体の不調がディーンを襲った。
息苦しさは呼吸を速め朦朧としたい意識の中何度も目を覚ました。
「もう、いやだ……何で俺ばかり……」
苦しさでどうしようもない身体を持てあまし涙が滲む。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい……
目が覚めているのかどうかも解らない中、ただ苦しいという感覚だけが自分自身を覆っていた。
そんな時だった。
唇に柔らかい感触を感じ、何らかの液体が注ぎ込まれた。
ゴクリとその液体を飲み込むと身体の中に染み渡るように息苦しさが和らいだ。
銀色の髪を撫でる手の感触で誰かが傍にいるのだと分かった。
ボンヤリする意識を何とか退け、重たい瞼をそっと持ち上げる。
そこには、月明かりを背に緋色の瞳の美しい女性がディーンを心配げに見つめていた。
「これでもう大丈夫ね」
眼を細めて微笑むその女性の顔は何故か懐かしくて涙がでそうになった。
立ち去ろうとする少女の手首をディーンは咄嗟に掴んだ。
「君は……だれ?」
「誰でもないわ」
そっと額に唇を落とした後、女性はディーンの前から直ぐに立ち去ってしまった。
淡い記憶の欠片だけを残して。
朝、目が覚めたときディーンの身体は軽くなり昨日の苦しさが嘘のように消えていた。
しかし、心の中に得も言われぬ切なさだけが残っていた。
分けもなく涙が後から後から流れた。
「なぜこんなにも哀しいのだろう……?」
その哀愁は知らず知らずのうちに心の奥深くに染みこんでいった。
ディーンが17歳になり成人を祝うパーティーが大々的に開催されることになった。
皇城の中でも最も広く豪奢なパーティーホールには煌びやかに着飾ったスレイル帝國でも名だたる貴族達が続々訪れていた。
このパーティーでディーンは初めて1人の女性をエスコートをすることが決められていた。
マクベイ公爵家の長女ヒルデ・リア・マクベイ嬢、ディーンの婚約者候補である。
ファンファーレと共にパーティー会場に入場すると先ずは皇帝が話し始めた。
ディーンはパーティーに参加する蒼々たる顔ぶれを見渡した。
それは、瞳が掠った瞬間だった。
会場には煌びやかに着飾る令嬢達が溢れていたというのにそこだけがスポットライトが当たったように見えた。
漆黒の髪は光に反射して輝きを放ち、緋色の双眸は蠱惑的にディーンと視線が絡んだ。
既視感。
最初に感じた感覚だった。
涙が滲むような懐かしさ……あの夜のように……。
気がついたら、緋色の瞳の女性は会場から姿を消していた。
その後、ディーンは義務を果たすかのように婚約者候補のヒルデと最初のダンスを踊った。
そして直ぐに庭に向かい、その女性を捜した。
庭の四阿に佇む女性を見つけるとディーンはどう声を掛けるべきか悩んだ。
(あぁ、彼女の緋色の瞳はなんて美しいんだろう、あの時のように……)
そう思った瞬間
(あの時?、俺は彼女に会ったのは初めての筈、なぜあの時などと思ったのか?)
その考えはアメリアの前に立った瞬間に霧散した。
「どうして……」
戸惑いながら呟くアメリア。
「やぁ、君、以前私と会ったことはない?」
咄嗟に立ち上がりアメリアに向かってディーンは言葉を発した。
「えっ?」
近づきながら問いかけるディーンの問いにアメリアは言葉が出ない。
「あっ、心配することはない。別に口説いているわけではないから。でもどうしても君を見た瞬間話さなければならないと思ってしまったんだ。」
「私、殿下にお会いしたことは無いと思います」
ディーンは何とか言いつくろい、彼女の警戒を解こうと思ったが軽くあしらわれてしまった。
思案げに彼女の瞳の奥を見つめるディーン。
(なぜ、彼女の瞳は懐かしい……)
アメリアの緋色の瞳はディーンの心の奥底に埋もれた記憶を呼び覚ますようだった。
「そうか、では一曲だけでもダンスを踊ってくれないだろうか?」
我に返ったディーンは意を決して懇願した。
「ご令嬢、君の名は?」
ダンスが終わり手を離す前にディーンが彼女に問うた。アメリアはディーンの問いに答えようと口を開きかけた。
「ディーン殿下、こちらの方どなた?」
突然目の前に現れた女性の甲高い声に遮られ、アメリアは声を発することができなかった。
「はじめまして、わたくしディーン殿下の婚約者のマクベイ公爵家の長女ヒルデと申します。あなたはどちらのご令嬢かしら?」
牽制するように言い放った言葉は、2人の絆を阻むような威力を発した。
戸惑うディーンはどう彼女に声を掛けるべきか躊躇した。
その一瞬の間に彼女はその場から立ち去った。
アメリアの後ろ姿を呆然と見送ったディーンは、その時会ったばかりだというのに何故か彼女のことが気になって仕方が無かった。
ディーンは、名前さえも聞くことが出来なかったと心の中に後悔が残り、この夜から緋色の瞳の少女を一時も忘れる事ができなくなったのだった。
度々訪れる違和感に違いなかった。原因不明の身体の不調がディーンを襲った。
息苦しさは呼吸を速め朦朧としたい意識の中何度も目を覚ました。
「もう、いやだ……何で俺ばかり……」
苦しさでどうしようもない身体を持てあまし涙が滲む。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい……
目が覚めているのかどうかも解らない中、ただ苦しいという感覚だけが自分自身を覆っていた。
そんな時だった。
唇に柔らかい感触を感じ、何らかの液体が注ぎ込まれた。
ゴクリとその液体を飲み込むと身体の中に染み渡るように息苦しさが和らいだ。
銀色の髪を撫でる手の感触で誰かが傍にいるのだと分かった。
ボンヤリする意識を何とか退け、重たい瞼をそっと持ち上げる。
そこには、月明かりを背に緋色の瞳の美しい女性がディーンを心配げに見つめていた。
「これでもう大丈夫ね」
眼を細めて微笑むその女性の顔は何故か懐かしくて涙がでそうになった。
立ち去ろうとする少女の手首をディーンは咄嗟に掴んだ。
「君は……だれ?」
「誰でもないわ」
そっと額に唇を落とした後、女性はディーンの前から直ぐに立ち去ってしまった。
淡い記憶の欠片だけを残して。
朝、目が覚めたときディーンの身体は軽くなり昨日の苦しさが嘘のように消えていた。
しかし、心の中に得も言われぬ切なさだけが残っていた。
分けもなく涙が後から後から流れた。
「なぜこんなにも哀しいのだろう……?」
その哀愁は知らず知らずのうちに心の奥深くに染みこんでいった。
ディーンが17歳になり成人を祝うパーティーが大々的に開催されることになった。
皇城の中でも最も広く豪奢なパーティーホールには煌びやかに着飾ったスレイル帝國でも名だたる貴族達が続々訪れていた。
このパーティーでディーンは初めて1人の女性をエスコートをすることが決められていた。
マクベイ公爵家の長女ヒルデ・リア・マクベイ嬢、ディーンの婚約者候補である。
ファンファーレと共にパーティー会場に入場すると先ずは皇帝が話し始めた。
ディーンはパーティーに参加する蒼々たる顔ぶれを見渡した。
それは、瞳が掠った瞬間だった。
会場には煌びやかに着飾る令嬢達が溢れていたというのにそこだけがスポットライトが当たったように見えた。
漆黒の髪は光に反射して輝きを放ち、緋色の双眸は蠱惑的にディーンと視線が絡んだ。
既視感。
最初に感じた感覚だった。
涙が滲むような懐かしさ……あの夜のように……。
気がついたら、緋色の瞳の女性は会場から姿を消していた。
その後、ディーンは義務を果たすかのように婚約者候補のヒルデと最初のダンスを踊った。
そして直ぐに庭に向かい、その女性を捜した。
庭の四阿に佇む女性を見つけるとディーンはどう声を掛けるべきか悩んだ。
(あぁ、彼女の緋色の瞳はなんて美しいんだろう、あの時のように……)
そう思った瞬間
(あの時?、俺は彼女に会ったのは初めての筈、なぜあの時などと思ったのか?)
その考えはアメリアの前に立った瞬間に霧散した。
「どうして……」
戸惑いながら呟くアメリア。
「やぁ、君、以前私と会ったことはない?」
咄嗟に立ち上がりアメリアに向かってディーンは言葉を発した。
「えっ?」
近づきながら問いかけるディーンの問いにアメリアは言葉が出ない。
「あっ、心配することはない。別に口説いているわけではないから。でもどうしても君を見た瞬間話さなければならないと思ってしまったんだ。」
「私、殿下にお会いしたことは無いと思います」
ディーンは何とか言いつくろい、彼女の警戒を解こうと思ったが軽くあしらわれてしまった。
思案げに彼女の瞳の奥を見つめるディーン。
(なぜ、彼女の瞳は懐かしい……)
アメリアの緋色の瞳はディーンの心の奥底に埋もれた記憶を呼び覚ますようだった。
「そうか、では一曲だけでもダンスを踊ってくれないだろうか?」
我に返ったディーンは意を決して懇願した。
「ご令嬢、君の名は?」
ダンスが終わり手を離す前にディーンが彼女に問うた。アメリアはディーンの問いに答えようと口を開きかけた。
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「はじめまして、わたくしディーン殿下の婚約者のマクベイ公爵家の長女ヒルデと申します。あなたはどちらのご令嬢かしら?」
牽制するように言い放った言葉は、2人の絆を阻むような威力を発した。
戸惑うディーンはどう彼女に声を掛けるべきか躊躇した。
その一瞬の間に彼女はその場から立ち去った。
アメリアの後ろ姿を呆然と見送ったディーンは、その時会ったばかりだというのに何故か彼女のことが気になって仕方が無かった。
ディーンは、名前さえも聞くことが出来なかったと心の中に後悔が残り、この夜から緋色の瞳の少女を一時も忘れる事ができなくなったのだった。
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