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第10話 反撃
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「なんだと?! ドラキュリア一族が消えただと?」
レスターは怒りに震えていた。
レイナードの風魔法に攻撃されたとき重傷を負ったものの騎士達を盾に何とかその場から逃げる事が出来た。王宮の筆頭治癒師の治療を受け、何とか回復していたが、怒りは収まらない。
邸に戻り治療が済むと、即座にアメリアの確保とドラキュリア一族の殲滅の命を下した。
しかし、ドラキュリア伯爵の本邸はもぬけの殻。
誰一人行方が掴めぬ有様だった。
「チッ」
レスターは思わず舌打ちしながら考えを巡らせた。
(あの様子ではディーンは助からなかっただろう。しかし、それにしてもドラキュリア一族はどこに行ったんだ? 消えたのは五人。突然その人数が跡形もなく消えるなんてあり得ない。他国に行ったとしても検問にさえ引っかからないなんておかしい。いったいどこに隠れているというのか?)
邪魔なドラキュリア一族がいなくなったのはレスターにしても願ってもないことだったが、アメリアまで消えるのは想定外だった。
その上、五人の行方をどんなに調べても掴めないのが不気味だった。
レイナードに襲撃された場所を後で確認に行かせたが、ディーンの亡骸も消えていたことが気がかりだ。
氷の刃で胸を貫通させたのだから間違っても生きていることは無いだろうが、死体を確認しないことには安心できない。
中々捗らない捜索にレスターの心の中にはいも言われぬ不安が押し寄せてくる。
拳を握りしめ、僅かにワインが残っていたグラスを壁に投げつけた。グラスが飛び散り、白い壁が流れ出た血のように赤く染まった。
「あらあら、子供じゃないんだから、癇癪を起こしてもあなたの憂いが消えることはありませんよ」
その声の方にレスターはゆっくり振り向いた。
バルコニーの扉を背に見覚えのある女性が立っていた。
「おっ、お前は……まさか……アメリア……なのか?」
半信半疑でレスターは問いかけた。何故なら、見慣れた金髪と翠の瞳は黒髪と紅い瞳に変化していたからだ。
しかし、顔立ちはどう見てもアメリアだった。
「ええ、私よ。でも以前の私とちょっと違うかもね。ふふふ……」
妖艶に微笑むアメリアは、以前の清純さが消え、何故か背筋が凍るほどの脅威を感じた。
それでも、レスターは怯まない。この邸にすんなり侵入するために変装したのだろう。
そう思った。
「やあ、アメリア待っていたよ。でも驚いたな、まさか君から来てくれるなんてね」
そう言って、魔方陣を展開しアメリアの周りに結界を張った。
「さあ、これで君はもう逃げられないよ」
「あら、それはどうかしら?」
レスターは勝利を確信し顔に愉悦が浮かんだが、アメリアは答えるや否や魔方陣から外に移動した。
「なんだと?」
レスターの瞳が驚きに見開いた。
「クスクス……ごめんなさいね、あなたの魔法、私には聞かないみたい、うふふ、じゃあ次は私の番ね」
アメリアは右手を挙げ、レスターに向かって掌を翳した。するとレスターの力がどんどん抜けて床に跪き、片手をついた。
「こっ、これはっ! 力が入らない……何をした?」
震える声で問い詰めるレスター。
「あら、ちょっと生命エネルギーを頂いただけよ。まだ何もしていないわ、まだね……ふふふ」
アメリアの口が弧を描き憎しみの瞳は獲物を捕らえたように紅く光った。
「さあ、それでは本番と行きましょうか?」
「何をする?!」
「だってね、私の大切なディーンを殺したあなたを放って置くほど私は聖人じゃないのよ」
掠れた声を上げるレスターをよそに容赦なくアメリアは神の恩寵である異能を発動すると、どこからともなく漂ってきた黒い霧がレスターを覆った。
「クスクス……あなたの身体の時を100年程進めたのよ。でも大丈夫、直ぐには死なないわ。あと50年位は寿命があるみたいだもの。残念だけど、それまでその姿で頑張ってね」
黒い霧が晴れると、そこには骸骨とも思えるほどの今にも死にそうな老人が呆然と床に座っていた。その姿は、髪の毛が殆ど抜け、目はくぼみ、その姿はアンデッドと見紛う程だった。
「さあ、お父様達の方はどうなったかしら?」
アメリアはそう言って妖艶に微笑むのだった。
レスターは怒りに震えていた。
レイナードの風魔法に攻撃されたとき重傷を負ったものの騎士達を盾に何とかその場から逃げる事が出来た。王宮の筆頭治癒師の治療を受け、何とか回復していたが、怒りは収まらない。
邸に戻り治療が済むと、即座にアメリアの確保とドラキュリア一族の殲滅の命を下した。
しかし、ドラキュリア伯爵の本邸はもぬけの殻。
誰一人行方が掴めぬ有様だった。
「チッ」
レスターは思わず舌打ちしながら考えを巡らせた。
(あの様子ではディーンは助からなかっただろう。しかし、それにしてもドラキュリア一族はどこに行ったんだ? 消えたのは五人。突然その人数が跡形もなく消えるなんてあり得ない。他国に行ったとしても検問にさえ引っかからないなんておかしい。いったいどこに隠れているというのか?)
邪魔なドラキュリア一族がいなくなったのはレスターにしても願ってもないことだったが、アメリアまで消えるのは想定外だった。
その上、五人の行方をどんなに調べても掴めないのが不気味だった。
レイナードに襲撃された場所を後で確認に行かせたが、ディーンの亡骸も消えていたことが気がかりだ。
氷の刃で胸を貫通させたのだから間違っても生きていることは無いだろうが、死体を確認しないことには安心できない。
中々捗らない捜索にレスターの心の中にはいも言われぬ不安が押し寄せてくる。
拳を握りしめ、僅かにワインが残っていたグラスを壁に投げつけた。グラスが飛び散り、白い壁が流れ出た血のように赤く染まった。
「あらあら、子供じゃないんだから、癇癪を起こしてもあなたの憂いが消えることはありませんよ」
その声の方にレスターはゆっくり振り向いた。
バルコニーの扉を背に見覚えのある女性が立っていた。
「おっ、お前は……まさか……アメリア……なのか?」
半信半疑でレスターは問いかけた。何故なら、見慣れた金髪と翠の瞳は黒髪と紅い瞳に変化していたからだ。
しかし、顔立ちはどう見てもアメリアだった。
「ええ、私よ。でも以前の私とちょっと違うかもね。ふふふ……」
妖艶に微笑むアメリアは、以前の清純さが消え、何故か背筋が凍るほどの脅威を感じた。
それでも、レスターは怯まない。この邸にすんなり侵入するために変装したのだろう。
そう思った。
「やあ、アメリア待っていたよ。でも驚いたな、まさか君から来てくれるなんてね」
そう言って、魔方陣を展開しアメリアの周りに結界を張った。
「さあ、これで君はもう逃げられないよ」
「あら、それはどうかしら?」
レスターは勝利を確信し顔に愉悦が浮かんだが、アメリアは答えるや否や魔方陣から外に移動した。
「なんだと?」
レスターの瞳が驚きに見開いた。
「クスクス……ごめんなさいね、あなたの魔法、私には聞かないみたい、うふふ、じゃあ次は私の番ね」
アメリアは右手を挙げ、レスターに向かって掌を翳した。するとレスターの力がどんどん抜けて床に跪き、片手をついた。
「こっ、これはっ! 力が入らない……何をした?」
震える声で問い詰めるレスター。
「あら、ちょっと生命エネルギーを頂いただけよ。まだ何もしていないわ、まだね……ふふふ」
アメリアの口が弧を描き憎しみの瞳は獲物を捕らえたように紅く光った。
「さあ、それでは本番と行きましょうか?」
「何をする?!」
「だってね、私の大切なディーンを殺したあなたを放って置くほど私は聖人じゃないのよ」
掠れた声を上げるレスターをよそに容赦なくアメリアは神の恩寵である異能を発動すると、どこからともなく漂ってきた黒い霧がレスターを覆った。
「クスクス……あなたの身体の時を100年程進めたのよ。でも大丈夫、直ぐには死なないわ。あと50年位は寿命があるみたいだもの。残念だけど、それまでその姿で頑張ってね」
黒い霧が晴れると、そこには骸骨とも思えるほどの今にも死にそうな老人が呆然と床に座っていた。その姿は、髪の毛が殆ど抜け、目はくぼみ、その姿はアンデッドと見紛う程だった。
「さあ、お父様達の方はどうなったかしら?」
アメリアはそう言って妖艶に微笑むのだった。
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