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第3話 陰謀
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「アメリア!」
その声の主は黒曜石の居城の塔の天辺にある部屋の扉を勢いよく開けた。
「お父様、娘とは言え淑女の部屋にノックもせずお入りになるのは止めて下さい」
アメリアは、扉の方に振り返るとこの城の当主で父親でもあるフレデリック・オーレス・ドラキュリアに顔を向け眉を顰めた。
漆黒の短髪に整った口ひげ、アメリアと同じ妖しげに揺れる紅い双眸は二人が同種で有ることが窺い知れた。
「ほう、淑女と言うのは見ず知らずの男を自室に連れ込むのか?」
フレデリックは、嘲笑うように頬を緩めて切り返す。
「見ず知らずではありません。この方はずっと前からの私の思い人。命の危機から救ったのです」
「そうか……いつもは感じない気配を感じて心配したのだ。許せ」
「私を心配して下さるのは嬉しいのですが、ちょっとやそっとじゃ誰も私達を傷つける事なんてできないこと、ご存知でしょう? お父様も同じですもの」
アメリアはフレデリックの言葉を咎めるように言った。
「ああ、そうだなお前はいつまで経っても変わらないから忘れてしまうよ。まぁ、上手く行くと良いな」
フレデリックは訳知り顔で苦笑するとアメリアの部屋から立ち去った。
アメリアは、ホッと息をつき、長いすに横たわるディーンの傍に膝をついて顔を覗き込んだ。
「ディーン……ごめんなさい、あなたを守ると誓ったのに……もう少しであなたを死なせるところだったわ」
ディーンの頬に手を添えながら呟くアメリアは後悔の念に囚われていた。
アメリアが知っている懐かしい輝く銀髪、そして閉じられた瞼の奥には深い海のような瞳が隠れていることを知っている。
その懐かしい瞳が再度アメリアを写すことを期待しながら、苦渋に満ちた表情でその寝顔を見つめた。
(はたしてディーンは今の自分を受け入れてくれるのだろうか?)
不安な気持ちが後から後からこみ上がってくる。その気持ちを何とか抑えながらディーンの目覚めを待つ。
今世に出会う前のディーンに思いを馳せながら‥‥‥‥
約200年前。
17歳を迎えたばかりのアメリアは絶望に打ちひしがれていた。
「ディーン、私の為に…… 」
冷たくなった亡骸に縋り付き、アメリアは身を震わせて滂沱の涙を流すのだった。
——————
王家の裏切り。
それが全ての発端だった。
現スレイル帝國国土の一部は、嘗てアテナ王国として栄えていた。
その中で最も魔力量が高いと評価されていたドラキュリア伯爵家は伯爵といえどアテナ王国では、高い地位を確立していた。
ドラキュリア伯爵家に生まれてくる子供は全て他の貴族を凌駕するほどの魔力量を誇り、その地位を徐々に高めていった。
一方、王家や高位貴族にに生まれてくる子供達は何故か魔力量に恵まれず、それが年々謙虚に現れていった。その為、常にドラキュリア伯爵の発言を無視することができなかった。
階級制度に比重を置き、全てのことに於いて貴族は優遇される。高官は高位貴族で固められ、法に対しても貴族は優遇されることが多い、それがアテナ王国の常識だった。
この古い体質に対し、ドラキュリア伯爵は貴族も平民も平等にすることを進言していた。
つまり、役職は全て身分に偏らず、能力で配属する、罪に於いても平民と同じように貴族ばかりか王族に対しても平等に裁かれるべきだと主張していた。
でなければ国は廃れる。優秀な人材には身分に関係無く相応しい職を与えるべきだと。
ドラキュリア伯爵はその裏に隠れた汚職や能力にそぐわぬ世襲制度をどうにかして改善して行きたいと考えていたのだ。
それを面白く思わなかったのは王族だけではなく、殆どの貴族達だった。その為、王族や高位貴族がドラキュリア伯爵を排除するよう結託するようになった。
そのことをドラキュリア伯爵当主であるフレデリックもうすうす感づいていたが、8割以上の貴族が王家に荷担していたためどうすることも出来なかった。
その中でもアテナ王国で王族の次に権力を誇るバラリアン公爵家がこの陰謀の中心となっていた。
王家の策略は秘密裏に進められ、とうとうドラキュリア一族を滅ばすために動き始めた。
アテナ王国国王エンディバルロ13世は、”影”の情報でバラリアン公爵家を継いだばかりのレスターが弟ディーンの婚約者であるドラキュリア伯爵令嬢長女アメリアに懸想していることを掴んだ。
王家はこれを利用してレスターにドラキュリア伯爵家を排除するよう命令した。
褒美はアメリアとバラリアン公爵家の優遇。
ドラキュリア伯爵家が断絶となってもアメリアだけには何の咎も受けさせずレスターとの婚姻を約束した。
レスターは他の貴族達の協力も仰ぎ、王家にドラキュリア伯爵家が謀反を企んでいるという架空の証拠を捏造した。
王家はその証拠を真実であると公表し、ドラキュリア伯爵一族を捉えるよう周りを固めた。
アメリアの婚約者、ディーン・バラリアンはレスターの行動を怪しんでいた。しかし、次男であるディーンには中々その真意が掴めなかったため、レスターの動向を監視することしか出来なかった。
その声の主は黒曜石の居城の塔の天辺にある部屋の扉を勢いよく開けた。
「お父様、娘とは言え淑女の部屋にノックもせずお入りになるのは止めて下さい」
アメリアは、扉の方に振り返るとこの城の当主で父親でもあるフレデリック・オーレス・ドラキュリアに顔を向け眉を顰めた。
漆黒の短髪に整った口ひげ、アメリアと同じ妖しげに揺れる紅い双眸は二人が同種で有ることが窺い知れた。
「ほう、淑女と言うのは見ず知らずの男を自室に連れ込むのか?」
フレデリックは、嘲笑うように頬を緩めて切り返す。
「見ず知らずではありません。この方はずっと前からの私の思い人。命の危機から救ったのです」
「そうか……いつもは感じない気配を感じて心配したのだ。許せ」
「私を心配して下さるのは嬉しいのですが、ちょっとやそっとじゃ誰も私達を傷つける事なんてできないこと、ご存知でしょう? お父様も同じですもの」
アメリアはフレデリックの言葉を咎めるように言った。
「ああ、そうだなお前はいつまで経っても変わらないから忘れてしまうよ。まぁ、上手く行くと良いな」
フレデリックは訳知り顔で苦笑するとアメリアの部屋から立ち去った。
アメリアは、ホッと息をつき、長いすに横たわるディーンの傍に膝をついて顔を覗き込んだ。
「ディーン……ごめんなさい、あなたを守ると誓ったのに……もう少しであなたを死なせるところだったわ」
ディーンの頬に手を添えながら呟くアメリアは後悔の念に囚われていた。
アメリアが知っている懐かしい輝く銀髪、そして閉じられた瞼の奥には深い海のような瞳が隠れていることを知っている。
その懐かしい瞳が再度アメリアを写すことを期待しながら、苦渋に満ちた表情でその寝顔を見つめた。
(はたしてディーンは今の自分を受け入れてくれるのだろうか?)
不安な気持ちが後から後からこみ上がってくる。その気持ちを何とか抑えながらディーンの目覚めを待つ。
今世に出会う前のディーンに思いを馳せながら‥‥‥‥
約200年前。
17歳を迎えたばかりのアメリアは絶望に打ちひしがれていた。
「ディーン、私の為に…… 」
冷たくなった亡骸に縋り付き、アメリアは身を震わせて滂沱の涙を流すのだった。
——————
王家の裏切り。
それが全ての発端だった。
現スレイル帝國国土の一部は、嘗てアテナ王国として栄えていた。
その中で最も魔力量が高いと評価されていたドラキュリア伯爵家は伯爵といえどアテナ王国では、高い地位を確立していた。
ドラキュリア伯爵家に生まれてくる子供は全て他の貴族を凌駕するほどの魔力量を誇り、その地位を徐々に高めていった。
一方、王家や高位貴族にに生まれてくる子供達は何故か魔力量に恵まれず、それが年々謙虚に現れていった。その為、常にドラキュリア伯爵の発言を無視することができなかった。
階級制度に比重を置き、全てのことに於いて貴族は優遇される。高官は高位貴族で固められ、法に対しても貴族は優遇されることが多い、それがアテナ王国の常識だった。
この古い体質に対し、ドラキュリア伯爵は貴族も平民も平等にすることを進言していた。
つまり、役職は全て身分に偏らず、能力で配属する、罪に於いても平民と同じように貴族ばかりか王族に対しても平等に裁かれるべきだと主張していた。
でなければ国は廃れる。優秀な人材には身分に関係無く相応しい職を与えるべきだと。
ドラキュリア伯爵はその裏に隠れた汚職や能力にそぐわぬ世襲制度をどうにかして改善して行きたいと考えていたのだ。
それを面白く思わなかったのは王族だけではなく、殆どの貴族達だった。その為、王族や高位貴族がドラキュリア伯爵を排除するよう結託するようになった。
そのことをドラキュリア伯爵当主であるフレデリックもうすうす感づいていたが、8割以上の貴族が王家に荷担していたためどうすることも出来なかった。
その中でもアテナ王国で王族の次に権力を誇るバラリアン公爵家がこの陰謀の中心となっていた。
王家の策略は秘密裏に進められ、とうとうドラキュリア一族を滅ばすために動き始めた。
アテナ王国国王エンディバルロ13世は、”影”の情報でバラリアン公爵家を継いだばかりのレスターが弟ディーンの婚約者であるドラキュリア伯爵令嬢長女アメリアに懸想していることを掴んだ。
王家はこれを利用してレスターにドラキュリア伯爵家を排除するよう命令した。
褒美はアメリアとバラリアン公爵家の優遇。
ドラキュリア伯爵家が断絶となってもアメリアだけには何の咎も受けさせずレスターとの婚姻を約束した。
レスターは他の貴族達の協力も仰ぎ、王家にドラキュリア伯爵家が謀反を企んでいるという架空の証拠を捏造した。
王家はその証拠を真実であると公表し、ドラキュリア伯爵一族を捉えるよう周りを固めた。
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