吸血鬼恋物語ーもう一度あなたに逢いたくてー

梅丸みかん

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第8話 残酷な告知

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 程なくして馬車が止まるとレイナードは馬車から降りてディーンを担ぎアメリアを誘導した。

「ここだ」

 岩壁がある場所まで行くと目で一点を示した。

 レイナードはそこに手を翳し魔力を流した。

 すると、岩壁の一部に空洞が現れた。

 よく見ると奥まで道が続いているのがわかる。

 アメリアは驚きに目を瞬いた。

「我が邸は王家の騎士団に包囲されている。だが心配することはない。この秘密の通路を通れば、目的の部屋に辿り付ける。急ぐぞ」

 魔法灯の僅かな光りで照らされた薄暗い通路をディーンを担いでレイナードはグングン進んでいく。

 アメリアは小走りになりながらもその後に続いた。
 レイナードの後ろを追うアメリアのすすり泣く声が聞こえるが、レイナードはとにかく先を急ぐことを優先した。



 暫く進むと、魔方陣が描かれた大きな扉の前に辿り着いた。

 レイナードは手を翳して魔力を注ぎ込んだ。

 扉がゆっくりと開かれた。

 そこは白い壁に覆われた本邸の地下室、玄の祭壇がある会議室だった。



 二人の姿に気がつくと、フレデリック、ミルドレッド、メイファの三人が心配そうな面持ちを向けていた。

 泣きはらして今にも倒れそうなアメリア、血だらけで担ぎ込まれたディーン。

 三人はその様子に何があったのか大体のことを察したようだった。

「まさか! ディーンお兄様は……」
 メイファが震える声で呟いた。その先の言葉を口にすることが出来ない。

「いや、まだ息はある……」
 レイナードが暗い表情で零した声は通常なら聞き取れないほど小さかったが、三人の耳にはしっかりと届いていた。

 レイナードは部屋に入ると傍にある長いすにディーンを横たえた。

 その横にアメリアが跪き不安げにディーンに目を向けた。

「お母様、ディーンに治癒魔法を…… お願い」

 アメリアはミルドレッドの方に振り向くと涙を堪えて縋った。ミルドレッドはこのアテナ王国で最も治癒魔法に長けていた。

 ディーンの様子を覗うミルドレッド。

 青白いディーンの顔は生気を失い、命の灯火が消えかかっていることは誰が見ても明らかだった。

 ミルドレッドの顔が苦痛に歪む。これから娘に残酷な告知をしなければならないことを思って。

「ああ、アメリア。もう、私の手には負えないわ……」

 ミルドレッドは首を左右に振ると声を振り絞るように呟いた。

 アメリアを抱きしめるミルドレッド。

 これまで二人の中を知るからこそ、アメリアにとってこの宣言がどれ程残酷で無慈悲なものかミルドレッドには分かっていた。

 ミルドレッドは自分の力が及ばないことに無力感を抱いた。

 死者を生き返らせることなど神ではない限り誰にも不可能であった。ディーンの命の灯火はたった今消えてしまったのだった。



「うそよ…… うそだわ…… ディーンが死ぬなんて、そんなこと……」

 アメリアの泣き声が辺りに響いた。

 この世の終わりが来た様な悲痛な叫び声は、周りの人たちも見るに耐えず慰めの言葉さえかけることが出来なかった。

「ディーンを失って私はこれからどうやって生きていけばいいの? もう生きている意味が無いわ……」

「アメリア!」

 アメリアの呟きにそう言って頬を叩いたのは母親のミルドレッドだった。

「あなたがここで死んでしまったらディーンは無駄死にしたことになるのよ!」

 目を大きく見開くアメリアに涙を流しながらミルドレッドは諭した。



「ねぇ、アメリア、これから私たちは古の魔方陣を展開して冥府の神と血の契約を行うわ。ディーンを失ったあなたが絶望するのは分かるけど、でも希望が無いわけじゃないわ」

「どういうこと……?」

 ミルドレッドの言葉にアメイアは疑問を投げかけた。



 
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