吸血鬼恋物語ーもう一度あなたに逢いたくてー

梅丸

文字の大きさ
上 下
8 / 24

第8話 残酷な告知

しおりを挟む
 程なくして馬車が止まるとレイナードは馬車から降りてディーンを担ぎアメリアを誘導した。

「ここだ」

 岩壁がある場所まで行くと目で一点を示した。

 レイナードはそこに手を翳し魔力を流した。

 すると、岩壁の一部に空洞が現れた。

 よく見ると奥まで道が続いているのがわかる。

 アメリアは驚きに目を瞬いた。

「我が邸は王家の騎士団に包囲されている。だが心配することはない。この秘密の通路を通れば、目的の部屋に辿り付ける。急ぐぞ」

 魔法灯の僅かな光りで照らされた薄暗い通路をディーンを担いでレイナードはグングン進んでいく。

 アメリアは小走りになりながらもその後に続いた。
 レイナードの後ろを追うアメリアのすすり泣く声が聞こえるが、レイナードはとにかく先を急ぐことを優先した。



 暫く進むと、魔方陣が描かれた大きな扉の前に辿り着いた。

 レイナードは手を翳して魔力を注ぎ込んだ。

 扉がゆっくりと開かれた。

 そこは白い壁に覆われた本邸の地下室、玄の祭壇がある会議室だった。



 二人の姿に気がつくと、フレデリック、ミルドレッド、メイファの三人が心配そうな面持ちを向けていた。

 泣きはらして今にも倒れそうなアメリア、血だらけで担ぎ込まれたディーン。

 三人はその様子に何があったのか大体のことを察したようだった。

「まさか! ディーンお兄様は……」
 メイファが震える声で呟いた。その先の言葉を口にすることが出来ない。

「いや、まだ息はある……」
 レイナードが暗い表情で零した声は通常なら聞き取れないほど小さかったが、三人の耳にはしっかりと届いていた。

 レイナードは部屋に入ると傍にある長いすにディーンを横たえた。

 その横にアメリアが跪き不安げにディーンに目を向けた。

「お母様、ディーンに治癒魔法を…… お願い」

 アメリアはミルドレッドの方に振り向くと涙を堪えて縋った。ミルドレッドはこのアテナ王国で最も治癒魔法に長けていた。

 ディーンの様子を覗うミルドレッド。

 青白いディーンの顔は生気を失い、命の灯火が消えかかっていることは誰が見ても明らかだった。

 ミルドレッドの顔が苦痛に歪む。これから娘に残酷な告知をしなければならないことを思って。

「ああ、アメリア。もう、私の手には負えないわ……」

 ミルドレッドは首を左右に振ると声を振り絞るように呟いた。

 アメリアを抱きしめるミルドレッド。

 これまで二人の中を知るからこそ、アメリアにとってこの宣言がどれ程残酷で無慈悲なものかミルドレッドには分かっていた。

 ミルドレッドは自分の力が及ばないことに無力感を抱いた。

 死者を生き返らせることなど神ではない限り誰にも不可能であった。ディーンの命の灯火はたった今消えてしまったのだった。



「うそよ…… うそだわ…… ディーンが死ぬなんて、そんなこと……」

 アメリアの泣き声が辺りに響いた。

 この世の終わりが来た様な悲痛な叫び声は、周りの人たちも見るに耐えず慰めの言葉さえかけることが出来なかった。

「ディーンを失って私はこれからどうやって生きていけばいいの? もう生きている意味が無いわ……」

「アメリア!」

 アメリアの呟きにそう言って頬を叩いたのは母親のミルドレッドだった。

「あなたがここで死んでしまったらディーンは無駄死にしたことになるのよ!」

 目を大きく見開くアメリアに涙を流しながらミルドレッドは諭した。



「ねぇ、アメリア、これから私たちは古の魔方陣を展開して冥府の神と血の契約を行うわ。ディーンを失ったあなたが絶望するのは分かるけど、でも希望が無いわけじゃないわ」

「どういうこと……?」

 ミルドレッドの言葉にアメイアは疑問を投げかけた。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

予知姫と年下婚約者

チャーコ
恋愛
未来予知の夢、予知夢を視る女の子のお話です。下がってしまった未来予知の的中率を上げる為、五歳年下の美少年と婚約します。 本編と特別編の間に、番外編の別視点を入れました。また「予知姫と年下婚約者 小話集」も閑話として投稿しました。そちらをお読みいただきますと、他の視点からお話がわかると思いますので、どうぞよろしくお願いします。 ※他サイトにも掲載しています。 ※表紙絵はあっきコタロウさんに描いていただきました。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

処理中です...