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第4話 玄の書

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 ある夜、ドラキュリア伯爵邸では家族の者しか入れない秘密の部屋で家族会議が開かれていた。
 その部屋は、結界が張られた本邸の地下室から秘密路で繋がれた場所にあった。

 招集したのは当然のことながらドラキュリア伯爵家当主フレデリックである。

 冥界神ハデスによってもたらされた神の書である「玄の書」が突然明滅し封印が解かれた為、緊急に対策する必要があったのだ。

 なぜなら、封印が解かれたと言うことはドラキュリア一族の危機を察知したことを意味するからだ。

「玄の書」はドラキュリア一族の当主のみに伝わる神書であり、一族の絶滅を避けるべく冥界神との血の契約について示されていると言われている。

 神力によって成されるその契約は一族の当主にのみ伝えられていた。

 今までどんなにその硬い表紙を開こうとしても開くことが出来なかった「玄の書」はその事が嘘のようにひとりでにページが捲られたのだった。

 そこには光を帯びた文字でこう書かれていた。


 ーーーー血の儀式を遂行せよ さもなくば血が途絶えるのを覚悟せよーーーー



 それは冥界神ハデスの啓示であった。

 これは由々しき事態である。もし、このまま何もしなければドラキュリア一族は神の啓示の通り滅びの一途を辿るであろうことは明白であったのだから。

 ドラキュリア一族の本家であるドラキュリア伯爵の家族が顔を揃えていた。

 そこに座するのは、ドラキュリア伯爵家当主フレデリック、その夫人のミルドレッド、嫡男のレイナード、長女のアメリア、次女のメイファの五人である。

 白い壁で覆われた会議室には10人程が座れる楕円形の黒いテーブルがあり、その奥には「玄の祭壇」があった。
 
 「玄の祭壇」の中央の高い位置には黒曜石で造られた冥界の神ハデスの像があり、その両側には同じく黒曜石で造られた柱がある。

 その中央にある腰ほどの高さの黒曜石の台座には神書である「玄の書」が開かれたままで置かれていた。
 
「玄の書」は台座の上で未だに明滅している。この明滅が切れるまでに血の儀式を終えなければ一族が滅びることになるのだ。


 会議室の上座には短めの金髪に深緑の瞳を持つドラキュリア伯爵家当主フレデリックが座っている。アメリアの容貌はフレデリックの血を濃く受け継いでいた。

 隣に麻色の髪と薄茶の瞳のドラキュリア伯爵夫人ミルドレット、フレデリックと向かい合って座るのは麻色の髪と深緑の瞳のレイナードである。

 その隣にはアメリア、アメリアより二つ年下のレイナードと同じ色を持つメイファが続いて座っていた。

 緊張の面持ちで当主の言葉を待つ面々。

 これから話される言葉は、明るい話では無いことだけは確かだと誰もが分かっていた。

 ここ最近、フレデリックが何らかの対策に追われて食事は疎か睡眠さえ碌に取れてないことはその顔色を見れば明白だった。

 伯爵夫人のミルドレッドは夫のことが心配で仕方が無かったが、よっぽどの事態であることを肌で感じていたので何も言うことは出来なかった。

 空気の流れさえ感じられるほどの静寂の中、フレデリックが覚悟を決めたように重い口を開いた。

「…………ダリル一家が殺された……」



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