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12-王子の回想③
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もっと彼女と話をしたい。もっと一緒にいたい。そう思った俺は明らかにとってつけたような理由を述べて莉奈を俺の部屋に誘った。必至だった。酔って思考能力が下がった彼女につけ込んだ実感はあったがそれを無視するほど俺は彼女を手放したくなかった。
きっと俺自身酔っていたせいもあるのだろう。
「莉奈、そのお酒美味しそうだね。俺も一緒に飲みたいから俺の部屋で飲み直さないか? 帰りはちゃんとタクシー呼んであげるから」
そんな下心ありありに思える誘い文句を言い放った俺だったが、酔っているとは言え真面目な莉奈が簡単に乗ってくるとは思ってはいなかった。
「やだぁ、井上先生。そんな手には乗りませんよぉ。でも飲み直すのは賛成です。このお酒美味しいもの……」
お酒のせいで舌足らずの可愛らしい彼女に断られると余計にお持ち帰りしたくなった。言い訳になるかも知れないがこの時までは誓って莉奈に手を出すつもりじゃなかったんだ。ただ離れがたくてもう少しだけ一緒にいたいと思っただけだ。
「そうだよね。でも、俺は車だからさ、やっぱり俺の部屋に行こう」
「ふふふっ、仕方ないですねぇ。今回だけですよぉ」
思ったよりも簡単に誘いに乗った莉奈に危うく思いながらも相手は俺なので内心喜びの方が強かった。
家に連れ帰ると緊張感から俺もついつい飲み過ぎてしまった。莉奈とはたわいのない話をしていたのにあっという間に時間が過ぎていった。
莉奈は最初は俺のことを避けていると思っていた。案の定、その通りだったようだが……。でもこの流れならもしかしたら俺のことを受け入れてくれるのではないか。そんな僅かな期待を込めて莉奈を口説くことにした。
「倉橋さんは今付き合っている人とかいないの?」
「えーいませんよ。私は仕事に生きるのです。それに私と付き合いたいなんて人はいません。私は驚くほどもてないんですから」
「そんなことないよ。 倉橋さんは可愛いよ。俺と付き合わない? いや、俺にしときなよ」
ありきたりの言葉で甘い言葉を囁くと潤んだ瞳で莉奈は俺を見つめてきた。こんな顔を向けられて我慢出来るはずもなく莉奈の頬を手で触れた途端、唇を重ねていた。甘く柔らかな唇はアルコールのせいもあってか俺の僅かな理性も簡単に吹き飛んだ。
この時俺はもう既に莉奈の魅力に取り込まれていることに気付いた。もう、君は俺のものだ。その思いだけが心を覆い夢中で抱いた。だから俺は直ぐに気付かなかったんだ。莉奈が初めてだということに。
ああ、莉奈。ごめん、君をこんな形で抱いてしまって。許されないかも知れないけど、俺は一生君を大切にするよ。君だけを愛し、君だけのために何でもするよ。だから俺を愛して。
疲れて眠る莉奈に向かって俺は懇願するように抱きしめた。
それから俺は何を置いても莉奈を優先するようにした。そんな俺の心が伝わったのか莉奈は次第に俺に心を開くようになった。
恥ずかしそうに頬を染めながら愛しているとも言ってくれた。そんな彼女が愛しくて仕方が無かった。
だが、そんな幸せは長くは続かなかった。奇しくも俺の最も身近な身内によって壊されたのだ。いや、ここで人のせいにしてはいけないのだろう。元々は俺が逃げ続けていたのが原因なのだから。
まさかまだ母が俺と百合亜の結婚を望んでいようとはこの時まで俺は全く気がつかなかった。
ーー今日、斗真の家でご馳走作って待ってるねーー
その日、メールアプリに着信したメッセージを見て俺は勤務中だというのに顔が緩むのを押さえられなかった。
ご馳走……莉奈の言葉に俺は今日は自分の誕生日だと言うことを思い出した。そう言えば、莉奈が先日から俺の欲しい物を探っていたことを思い出した。
すれ違いざまに莉奈に目を向けると頬を染めて恥ずかしそうに目を逸らす可愛らしさに今すぐ家に連れ帰りたい衝動に襲われたほどだ。
仕事が終わると俺は待ちきれないと言わんばかりに病院を後にした。同僚がニヤニヤしながらこちらを見ていたことにも気がつかないほど俺は浮かれていた。
部屋の前に辿り着き、玄関の取っ手を引いて中に入った。気配を感じたのか奥からパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「ただ今、莉……」
笑顔を向けるその人物を目にした俺は口を噤んだ。
「百合……亜……なんでお前が……」
「嫌ですわ。婚約者である私が斗真の誕生日を祝うのは当然じゃない?」
コイツは何を言っているんだ? 婚約者って、俺はコイツと婚約した覚えはない。それよりも何で勝手に俺の部屋に入ってる?
「いや……鍵は? この部屋の鍵はどうしたんだ?」
「あら、貴方のお母様が下さったのよ。斗真の誕生日を祝ってくれって」
母さんが? そういやこのマンションを契約した際に俺が一人暮らしだから何か有ったときの為にとカードキーを渡していたんだっけ。それにしても勝手に他人にカードキーを渡すなんて……ああそうか。母さんは昔から百合亜と俺を結婚させたかったようだったな。だからもしかして既成事実でも作らせようとしたのか……それよりも……
きっと俺自身酔っていたせいもあるのだろう。
「莉奈、そのお酒美味しそうだね。俺も一緒に飲みたいから俺の部屋で飲み直さないか? 帰りはちゃんとタクシー呼んであげるから」
そんな下心ありありに思える誘い文句を言い放った俺だったが、酔っているとは言え真面目な莉奈が簡単に乗ってくるとは思ってはいなかった。
「やだぁ、井上先生。そんな手には乗りませんよぉ。でも飲み直すのは賛成です。このお酒美味しいもの……」
お酒のせいで舌足らずの可愛らしい彼女に断られると余計にお持ち帰りしたくなった。言い訳になるかも知れないがこの時までは誓って莉奈に手を出すつもりじゃなかったんだ。ただ離れがたくてもう少しだけ一緒にいたいと思っただけだ。
「そうだよね。でも、俺は車だからさ、やっぱり俺の部屋に行こう」
「ふふふっ、仕方ないですねぇ。今回だけですよぉ」
思ったよりも簡単に誘いに乗った莉奈に危うく思いながらも相手は俺なので内心喜びの方が強かった。
家に連れ帰ると緊張感から俺もついつい飲み過ぎてしまった。莉奈とはたわいのない話をしていたのにあっという間に時間が過ぎていった。
莉奈は最初は俺のことを避けていると思っていた。案の定、その通りだったようだが……。でもこの流れならもしかしたら俺のことを受け入れてくれるのではないか。そんな僅かな期待を込めて莉奈を口説くことにした。
「倉橋さんは今付き合っている人とかいないの?」
「えーいませんよ。私は仕事に生きるのです。それに私と付き合いたいなんて人はいません。私は驚くほどもてないんですから」
「そんなことないよ。 倉橋さんは可愛いよ。俺と付き合わない? いや、俺にしときなよ」
ありきたりの言葉で甘い言葉を囁くと潤んだ瞳で莉奈は俺を見つめてきた。こんな顔を向けられて我慢出来るはずもなく莉奈の頬を手で触れた途端、唇を重ねていた。甘く柔らかな唇はアルコールのせいもあってか俺の僅かな理性も簡単に吹き飛んだ。
この時俺はもう既に莉奈の魅力に取り込まれていることに気付いた。もう、君は俺のものだ。その思いだけが心を覆い夢中で抱いた。だから俺は直ぐに気付かなかったんだ。莉奈が初めてだということに。
ああ、莉奈。ごめん、君をこんな形で抱いてしまって。許されないかも知れないけど、俺は一生君を大切にするよ。君だけを愛し、君だけのために何でもするよ。だから俺を愛して。
疲れて眠る莉奈に向かって俺は懇願するように抱きしめた。
それから俺は何を置いても莉奈を優先するようにした。そんな俺の心が伝わったのか莉奈は次第に俺に心を開くようになった。
恥ずかしそうに頬を染めながら愛しているとも言ってくれた。そんな彼女が愛しくて仕方が無かった。
だが、そんな幸せは長くは続かなかった。奇しくも俺の最も身近な身内によって壊されたのだ。いや、ここで人のせいにしてはいけないのだろう。元々は俺が逃げ続けていたのが原因なのだから。
まさかまだ母が俺と百合亜の結婚を望んでいようとはこの時まで俺は全く気がつかなかった。
ーー今日、斗真の家でご馳走作って待ってるねーー
その日、メールアプリに着信したメッセージを見て俺は勤務中だというのに顔が緩むのを押さえられなかった。
ご馳走……莉奈の言葉に俺は今日は自分の誕生日だと言うことを思い出した。そう言えば、莉奈が先日から俺の欲しい物を探っていたことを思い出した。
すれ違いざまに莉奈に目を向けると頬を染めて恥ずかしそうに目を逸らす可愛らしさに今すぐ家に連れ帰りたい衝動に襲われたほどだ。
仕事が終わると俺は待ちきれないと言わんばかりに病院を後にした。同僚がニヤニヤしながらこちらを見ていたことにも気がつかないほど俺は浮かれていた。
部屋の前に辿り着き、玄関の取っ手を引いて中に入った。気配を感じたのか奥からパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「ただ今、莉……」
笑顔を向けるその人物を目にした俺は口を噤んだ。
「百合……亜……なんでお前が……」
「嫌ですわ。婚約者である私が斗真の誕生日を祝うのは当然じゃない?」
コイツは何を言っているんだ? 婚約者って、俺はコイツと婚約した覚えはない。それよりも何で勝手に俺の部屋に入ってる?
「いや……鍵は? この部屋の鍵はどうしたんだ?」
「あら、貴方のお母様が下さったのよ。斗真の誕生日を祝ってくれって」
母さんが? そういやこのマンションを契約した際に俺が一人暮らしだから何か有ったときの為にとカードキーを渡していたんだっけ。それにしても勝手に他人にカードキーを渡すなんて……ああそうか。母さんは昔から百合亜と俺を結婚させたかったようだったな。だからもしかして既成事実でも作らせようとしたのか……それよりも……
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