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11-王子の回想②
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何としてでも彼女とゆっくり話をしてみたい。
そんな小さな願いは直ぐに叶えられることになった。歓迎会が行われたその夜に急患が入り呼び出されたのだ。本来なら待機医がいるから勤務明けの医師が呼び出されることは滅多にない。
この夜は急患が相次ぎ、しかも歓迎会で他の医師達は既にアルコールが入っていた。俺だけがまだ飲む前……と言うか烏龍茶を飲んでいたのだ。理由は車で来ていたと言う単純な理由なのだが。
本来なら歓迎会と言うことで車出勤は控えるのだろうが、俺は最初から酒を飲むつもりはなかった。他の女性陣がギラギラした眼で俺を見ていたから危機感を感じたのだ。
だがそれは思わぬ幸運をもたらした。呼び出しを受けて病院に到着すると莉奈がテキパキと対処をしていた。患者の状態を報告され、カルテを渡されると直ぐに病棟に向かった。
幸いにして患者は対応が早かったために事なきを得た。
「井上先生って、イケメンなだけじゃなく本当に腕も一流なんですねぇ」
「え? イケメンって……」
ホッとして病室を出た瞬間、莉奈が言葉を零しその内容に絶句した。
いや、イケメンなだけって莉奈は今まで俺のことをそう思っていたのか? それにしても本人に対してその言い方はどうなんだ? どうやら莉奈は思ったことをそのまま口に出してしまう性格らしい。そう思ったら凄く可笑しくなってしまった。
「ふっ、ふははははっ……君って面白いね」
俺は何とはなしに莉奈にそう言いながら何故か気分が向上するのを感じた。
それから俺は益々もっと莉奈と話したい気持ちが強くなった。隙を見ては彼女に話しかけるが、それは業務上の域を出ることは無い。
莉奈は他の医師や同僚と話すように俺に対しても淡々と話すのだ。もちろんそれは勤務中であるのだから当然なのだが、俺は何故か彼女に避けられている様な気がしていた。
これでは埒があかない。少し強引な手ではあるが俺はすれ違いざまに待ち合わせ場所と時間を明記したメモを莉奈に押しつけた。
莉奈は怪訝な顔をして立ち止まっていたが俺は構わずその場所から立ち去った。突っ返されない為に。
待ち合わせ場所で待っている間、俺の心臓は今までにないくらいドキドキと高鳴っていた。
中学生かっ! と自分自身に突っ込みたくなるくらいの緊張感で今にも意識を失うのではとさえ思ったほどだ。
車から右斜め前方に目を向けると一人の女性が近づいてくることに気がついた。
彼女だ!
俺は緊張を隠すようにゆっくりと車から降りた。
「よかった、来てくれた」
心からの安堵が自然に言葉になって零れた。
「あんな風に書かれたら来ない訳にはいきません」
瞳を逸らしながら言葉を発する莉奈から目を反らせなかった。どうしようもなく彼女が可愛く思えた。
「それでも嬉しいよ。君は俺に全然興味が無いようだからね」
「女性全てが貴方に興味を持つなんて思っていたら傲慢ではないでしょうか?」
「まったく、君の言うとおりだね。でも俺はそんな風には全然思ってないよ」
俺は彼女には好かれてはいないだろうと思っていたから莉奈と話せるだけで嬉しくて仕方が無かった。莉奈が言っていることは本心だろう。
だから俺も本心で話そう。君だけには。例え目をそらされても君とこうして話せるだけで俺は嬉しかったから。
「さあ、乗って」
出来るだけ莉奈が不快にならないように俺は誠心誠意尽くそうと思った。これ以上嫌われないために。
「強引で悪かった。こうでもしないと君を誘っても来てくれないかと思ったから。何か予定とか有ったのなら申し訳無い」
「今更です」
莉奈は中々俺に心を開いてはくれなかった。俺は自分自身に言い聞かせた。
これからだ。これから誠心誠意尽くせばきっともっと仲良くなれる筈だと。
「お詫びに今日は美味しいものをご馳走するよ」
そう言って俺は莉奈を事前にサーチしていた人気の和風レストランに連れて行くことにした。
「どうしたの? 和食じゃない方がよかった?」
俺がそう聞くと莉奈は首を左右に振って否定した。どうやら気に入らなかった訳ではなかった様だ。
「実はさぁ、俺も初めてなんだよね。この店に来るの。いや、それだけじゃない。日本に帰ってきたから食事に誘ったのも君だけなんだ」
「あんなに女性に囲まれているのに?」
莉奈の言葉に一瞬思考が停止してしまった。きっと莉奈は本当にそう思ったからそう言ったのだろう。本当に裏表がないことに可笑しくなってしまった。
「くっ、くくくくっ……やっぱり君は面白いや」
俺が堪えきれず笑うと、莉奈は怪訝な顔で見つめていた。
「さて、飲み物は何が良い? お酒、飲めるよね。俺は車だから飲めないけど、君は飲んでもいいよ。帰りは送るから」
「じゃあ、遠慮なく」
席に案内されてから、飲み物と料理を次々と注文した。莉奈は気持ちが良いくらい遠慮などせずに食べてくれた。お酒もかなりいける口の様でかなり急ピッチで飲んでいく。
俺はついつい調子に乗ってその後も俺の部屋で飲まないかと誘ってしまった。もちろん、全く下心がなかったと言えば嘘になる。
それでもまさかあんな事になるとは! まぁ、俺にしてみれば嬉しい誤算だったのだが……。
そんな小さな願いは直ぐに叶えられることになった。歓迎会が行われたその夜に急患が入り呼び出されたのだ。本来なら待機医がいるから勤務明けの医師が呼び出されることは滅多にない。
この夜は急患が相次ぎ、しかも歓迎会で他の医師達は既にアルコールが入っていた。俺だけがまだ飲む前……と言うか烏龍茶を飲んでいたのだ。理由は車で来ていたと言う単純な理由なのだが。
本来なら歓迎会と言うことで車出勤は控えるのだろうが、俺は最初から酒を飲むつもりはなかった。他の女性陣がギラギラした眼で俺を見ていたから危機感を感じたのだ。
だがそれは思わぬ幸運をもたらした。呼び出しを受けて病院に到着すると莉奈がテキパキと対処をしていた。患者の状態を報告され、カルテを渡されると直ぐに病棟に向かった。
幸いにして患者は対応が早かったために事なきを得た。
「井上先生って、イケメンなだけじゃなく本当に腕も一流なんですねぇ」
「え? イケメンって……」
ホッとして病室を出た瞬間、莉奈が言葉を零しその内容に絶句した。
いや、イケメンなだけって莉奈は今まで俺のことをそう思っていたのか? それにしても本人に対してその言い方はどうなんだ? どうやら莉奈は思ったことをそのまま口に出してしまう性格らしい。そう思ったら凄く可笑しくなってしまった。
「ふっ、ふははははっ……君って面白いね」
俺は何とはなしに莉奈にそう言いながら何故か気分が向上するのを感じた。
それから俺は益々もっと莉奈と話したい気持ちが強くなった。隙を見ては彼女に話しかけるが、それは業務上の域を出ることは無い。
莉奈は他の医師や同僚と話すように俺に対しても淡々と話すのだ。もちろんそれは勤務中であるのだから当然なのだが、俺は何故か彼女に避けられている様な気がしていた。
これでは埒があかない。少し強引な手ではあるが俺はすれ違いざまに待ち合わせ場所と時間を明記したメモを莉奈に押しつけた。
莉奈は怪訝な顔をして立ち止まっていたが俺は構わずその場所から立ち去った。突っ返されない為に。
待ち合わせ場所で待っている間、俺の心臓は今までにないくらいドキドキと高鳴っていた。
中学生かっ! と自分自身に突っ込みたくなるくらいの緊張感で今にも意識を失うのではとさえ思ったほどだ。
車から右斜め前方に目を向けると一人の女性が近づいてくることに気がついた。
彼女だ!
俺は緊張を隠すようにゆっくりと車から降りた。
「よかった、来てくれた」
心からの安堵が自然に言葉になって零れた。
「あんな風に書かれたら来ない訳にはいきません」
瞳を逸らしながら言葉を発する莉奈から目を反らせなかった。どうしようもなく彼女が可愛く思えた。
「それでも嬉しいよ。君は俺に全然興味が無いようだからね」
「女性全てが貴方に興味を持つなんて思っていたら傲慢ではないでしょうか?」
「まったく、君の言うとおりだね。でも俺はそんな風には全然思ってないよ」
俺は彼女には好かれてはいないだろうと思っていたから莉奈と話せるだけで嬉しくて仕方が無かった。莉奈が言っていることは本心だろう。
だから俺も本心で話そう。君だけには。例え目をそらされても君とこうして話せるだけで俺は嬉しかったから。
「さあ、乗って」
出来るだけ莉奈が不快にならないように俺は誠心誠意尽くそうと思った。これ以上嫌われないために。
「強引で悪かった。こうでもしないと君を誘っても来てくれないかと思ったから。何か予定とか有ったのなら申し訳無い」
「今更です」
莉奈は中々俺に心を開いてはくれなかった。俺は自分自身に言い聞かせた。
これからだ。これから誠心誠意尽くせばきっともっと仲良くなれる筈だと。
「お詫びに今日は美味しいものをご馳走するよ」
そう言って俺は莉奈を事前にサーチしていた人気の和風レストランに連れて行くことにした。
「どうしたの? 和食じゃない方がよかった?」
俺がそう聞くと莉奈は首を左右に振って否定した。どうやら気に入らなかった訳ではなかった様だ。
「実はさぁ、俺も初めてなんだよね。この店に来るの。いや、それだけじゃない。日本に帰ってきたから食事に誘ったのも君だけなんだ」
「あんなに女性に囲まれているのに?」
莉奈の言葉に一瞬思考が停止してしまった。きっと莉奈は本当にそう思ったからそう言ったのだろう。本当に裏表がないことに可笑しくなってしまった。
「くっ、くくくくっ……やっぱり君は面白いや」
俺が堪えきれず笑うと、莉奈は怪訝な顔で見つめていた。
「さて、飲み物は何が良い? お酒、飲めるよね。俺は車だから飲めないけど、君は飲んでもいいよ。帰りは送るから」
「じゃあ、遠慮なく」
席に案内されてから、飲み物と料理を次々と注文した。莉奈は気持ちが良いくらい遠慮などせずに食べてくれた。お酒もかなりいける口の様でかなり急ピッチで飲んでいく。
俺はついつい調子に乗ってその後も俺の部屋で飲まないかと誘ってしまった。もちろん、全く下心がなかったと言えば嘘になる。
それでもまさかあんな事になるとは! まぁ、俺にしてみれば嬉しい誤算だったのだが……。
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