転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百四十話 姫様のお弁当

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『ん? ショウが来たみたいだぞ』
 翌朝、朝食をさっさと食べ終えて寛ぐグレンがピクリと反応して顔を上げた。

 私は最後の一口分だけ残っていたパンケーキを頬張ると紅茶で流し込んだ。

「あら? お弁当はもう作り終わったのに」
 昨日一緒に準備したから分かっている筈のショウに私は疑問の声を零した。

 直ぐに店の入り口のベルが鳴り、ショウが姿を現した。

「おはよう、カリン」
 満面の笑みで朝の挨拶の言葉を発するショウ。

「えっとぉ……ショウ? もう手伝って貰う事はないんだけど。昨日言っていたと思うけど私これからお弁当を届けに行かなきゃならないのよ」
「うん、知ってるよ。俺もクラレシア人達にお弁当を配るの手伝おうと思ってさ」

「うーん、それはありがたいけど……でもショウ、貴方の本業、冒険者の仕事は大丈夫なの?」

「ああ、心配しなくても大丈夫さ、冒険者は自由だからね。自分の好きなときに仕事を受ければいいのさ。金銭に余裕があれば尚更ね。俺は今まで結構稼いでいるし、実家暮らしで手伝いもしているから衣食住には困らないからね」

 ショウは何でもないことのように答えた。

「そういえばラルクは元気? 最近全然顔を見せないけど。昨日渡したお弁当は食べてくれたかしら?」

「ああ、あいつはもうすぐ入学試験だからな。最後の追い込みをかけているよ。もちろんお弁当はラルクも父さん達も美味しそうに食べてたよ。カリンにお礼を言って欲しいと言ってた。ああ、そうそう、お礼のお礼に色々食材を持って来たんだ」

 ショウはそう言うと外に飛び出していき、直ぐに荷馬車いっぱいの牛乳、卵、野菜、米、小麦、そしてバター、チーズ、ヨーグルトまで次々と運んで来た。

「こんなにたくさん!!」
「うん、持っていけって」
「お礼にしては多すぎるわ」

 私は時間停止機能付き食品庫があることをクランリー農場の人達に言ったのは間違いだったかしら? と今更ながら後悔した。

「いいんじゃないか? またなんか作れば」
「それはそうね」
 私はショウの言葉に「無言の催促かしら?」とも思った。

 食品庫の中に貰った食材を片付けるとアーニャに念話を送ってから私達はクラレシア人がいる工房地帯に向かった。グレンの背に乗っていくのでショウが乗ってきた荷馬車は私の家の脇に置いていく。

 外は肌寒く、木々が所々紅や黄色に色づいている。

「もう秋ね」
 と私がポツリと呟いたら
「いや、もう冬だよ」
 とショウが訂正した。

 この国の冬は雪が降るほど寒くはないと聞いていたけど、もう既に秋を超えて冬になっていたようだ。

 あっという間に工房地帯に着くと、門の入り口でアーニャ、ワシリー、エゴン、そしてその後ろにクラレシア人が待っていた。

 私が来る度に全員でお出迎えするのは本当にやめて欲しい。私はもう王女ではないのだから。

 それでも頭を下げていないだけマシだろうと思い直し私は彼らに向かって微笑んだ。

「カリン様、お待ちしておりました」
 私の姿を目にするとアーニャが駆け寄ってきた。

「アーニャ、今日はみんなに私の料理を持って来たの。本当は私の店に呼べれば良かったんだけど、人数が多いからお弁当にしたのよ」
 私はそう言ってバスケットからお弁当を一つ取りだしてアーニャに渡した。

「お弁当? これが?」
 アーニャは私の手から四角い箱を受け取ると首を傾げた。

「そう、私が作ったのよ。料理を持ち運び出来る様にこの箱に詰めてあるの。もちろん全員分あるからみんなに配るのを手伝って貰えるかしら?」
「それはもちろん構いませんが、あの……中身を見ても宜しいでしょうか?」

 アーニャはお弁当の中身が気になっているようで遠慮がちに私に尋ねた。

「いいわよ」
 と私の返事を聞くなり、アーニャがお弁当の蓋をそっと開けた。

「これは! なんと美しく彩られた料理なんだ!」
 綺麗に盛られた幕の内弁当の中身が露わになると、アーニャの瞳が輝いた。

 アーニャの後ろから覗き込むエゴンとワシリーもお弁当の中身を見るなりアーニャと同じ表情になる。

 その様子を見ていたクラレシアの民達は期待に満ちた表情を浮かべているのが分かった。

「ここではなんですから食堂に行きましょう」
 アーニャの言葉でみんなが工房で働く人達の為に作られた共同食堂に移動することになった。

 食堂の入り口で私とショウでクラレシアの人々にお弁当を配る。ワシリーとエゴンはお弁当を配られた人達を誘導し、アーニャは給仕係にお茶の指示を出した。

「皆さん、今日は私の作った料理を食べて貰おうとお弁当を作ってきました。よかったら食べた感想を貰えると嬉しいです。私が今度お店を出すときの参考にしたいと思います」
 みんなが席に着いたのを確認すると私はみんなの前でそう挨拶をした。

「「「姫様の料理……」」」
「「「姫様のお弁当……」」」

 彼方此方でそんな声が零れている。

 そっとお弁当の蓋を開ける面々を見ているだけで私の中に緊張が走った。

 みんな気に入ってくれるだろうか?

 そんな私の不安はお弁当の中を目にした途端瞳を輝かせ、更に一口食べた途端恍惚とした表情の彼らを目にして霧散したのだった。

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