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第百二十九話 再会
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前世の事や今世で私がやらかした最大の失敗をダンテさん達に告白してから数日後、アーニャ達と改めて会うことになった。
私はもう体調もすっかり良いので森の家に帰ると固辞したが、ダンテさん達は私を一人に出来ないと言って頑なに反対した。私は結局折れて、クランリー家でお世話になることになった。
黙ってお世話になるのは申し訳ないので、私は食事の支度を手伝わせて貰う事にした。最初は、それさえも拒否されていたのだが、手伝わせて貰えないなら帰ると脅し……説得して色々なレパートリーを披露させて貰った。
みんな何を作っても美味しそうに食べてくれるからとても作りがいがある。
「凄く美味しい。やっぱりカリンは天才だな」
私が作ったハンバーグを口にしながらショウがいつもの様にほめ言葉を零す。以前と変わらないその様子に私の心に安心感が広がった。
「うん、カリン、美味いよ。カリンの店の開店が待ち遠しいな」
「本当ね。このハンバーグ、カリンちゃんに教えてもらってから私も良く作るんだけど、やっぱりカリンちゃんが作った方が美味しく感じるわね。何故かしら?」
ダンテさんとセレンさんにもお褒めの言葉を頂き何故か瞳が潤んできた。
私が色々告白したのにこの人達は今までと何一つ変わらない。温かな雰囲気に包まれて不安や恐れが消えていく。
これから私がやらなければならないこと……私が犯してしまった大きな罪を償うためにクラレシアの人々に何が出来るか? 彼らは私を許してくれるだろうか?
ベアトリーチェの記憶が戻ってからずっと私の中で渦巻いていたものが少しずつ凪いでいくような気がした。
新たに設けられたクラレシアの騎士達との邂逅の場。
クランリー家の応接室で私はそわそわしながら彼らを待っていた。ベアトリーチェの記憶が戻ったとしてもまだまだ私の中ではカリンの記憶の方が強い。
まだカリンとベアトリーチェの記憶がちゃんと融合していないのだろう。
緊張が体を強ばらせ、掌には汗が滲んでくる。ベアトリーチェとしては生まれてからずっと傍にいてくれた私の侍女兼護衛のアーニャに会いたい気持ちはある。でも、その思いをベアトリーチェの心に深く刻まれた罪悪感が打ち消しているようで不安の方が大きい。
「大丈夫だ、カリン。私達がいる」
傍から見たら私の緊張が伝わったのかも知れない。ダンテさんが私を安心させるように優しく頭を撫でてくれた。ダンテさんの優しさが伝わるような大きくて暖かい手の温もりが不思議と私の心を落ち着かせてくれる。
「俺もいるから忘れるな」
そんな様子を見ていたショウが少し機嫌悪そうにぶっきらぼうに言った。
「お前、もしかして私に焼き餅妬いているのか?」
ダンテさんがニヤリとしてショウに突っ込んだ。
「そんなんじゃない」
ショウはプイッと顔を横に向けて否定する。
「クスクスクスッ」
つい笑いが零れる。私の心を和ませるためにダンテさんが態とショウにそんなことを言ったのだろうと思い、彼の心遣いに感謝した。
穏やかな空気の中、チリンとドアベルの音が聞こえた。
「あら、いらしたようね。お出迎えに言ってくるからちょっと待っててね」
お茶の準備をしていたセレンさんが応接室にいた私達にそう言葉を残して立ち去った。
私は立ち上がり、心を落ち着かせるために胸に手を当てて空気をゆっくり吸い込み深呼吸をする。
応接室の扉が開き、セレンさんの後ろに懐かしい面々が顔を覗かせた。
クラレシアの騎士服を身に纏った、アーニャ、ワシリー、エゴンである。
三人は私の姿が目に入ると直ぐに目の前まで来て跪いた。
「ベアトリーチェ様、ご無事でなによりです」
「アーニャ……」
私が小さく呟くとアーニャが顔を上げて嬉しそうに微笑んだ。彼女の瞳が徐々に潤んで大粒の涙が零れる。
「ベアトリーチェ様……よくご無事で……」
「ベアトリーチェ様……」
ワシリーとエゴンも感極まって瞳が潤んでいく。
私は顔を上げるように言い、彼らに近づいた。
「心配をかけてごめんなさい……私の……せいで……」
震える声でやっと声を押し出すように呟いた。言いたいことは沢山あるのにそれ以上言葉にできない。涙が頬を伝いベアトリーチェだった頃の気持ちが蘇ってきた。
本当に本当にごめんなさい。私のせいで…………
後から後から流れる涙を拭うことも忘れて私は唯々罪悪感に押しつぶされそうになった。
クラレシア神聖王国最後の王女として前向きに頑張ろうと思ったのに過去の過ちが重い枷となって心の中にのしかかって来る。
「ベアトリーチェ様、それ以上ご自分を責めないで下さい。貴方だけの責任ではありません」
不意に暖かい腕の温もりを感じた。私はいつの間にかアーニャの腕の中に居た。
「ベアトリーチェ様、我々はベアトリーチェ様のせいだと思ってはいません。もちろん、クラレシアの民だって」
「そうです。私達はあまりにも油断しすぎていたのです。神の結界を過信し、それだけに頼りきって突然の襲撃に対応出来なかったのは私達の責任です。何としても貴方を守らねばならなかったのに」
エゴンとワシリーが顔を歪めて苦しそうに言葉を発した。自分達を戒めるように。
私と同じように彼らも罪悪感に苛まれてきたのかも知れない。
「エゴン……ワシリー……」
アーニャの腕の中で私は二人に顔を向けた。
……………………。
束の間の静寂が流れた。
「さあ、よろしかったらお茶を飲んで少し落ち着きませんか?」
穏やかな声が静かな空間を心地よく揺らし、重い空気が一瞬で霧散したのだった。
私はもう体調もすっかり良いので森の家に帰ると固辞したが、ダンテさん達は私を一人に出来ないと言って頑なに反対した。私は結局折れて、クランリー家でお世話になることになった。
黙ってお世話になるのは申し訳ないので、私は食事の支度を手伝わせて貰う事にした。最初は、それさえも拒否されていたのだが、手伝わせて貰えないなら帰ると脅し……説得して色々なレパートリーを披露させて貰った。
みんな何を作っても美味しそうに食べてくれるからとても作りがいがある。
「凄く美味しい。やっぱりカリンは天才だな」
私が作ったハンバーグを口にしながらショウがいつもの様にほめ言葉を零す。以前と変わらないその様子に私の心に安心感が広がった。
「うん、カリン、美味いよ。カリンの店の開店が待ち遠しいな」
「本当ね。このハンバーグ、カリンちゃんに教えてもらってから私も良く作るんだけど、やっぱりカリンちゃんが作った方が美味しく感じるわね。何故かしら?」
ダンテさんとセレンさんにもお褒めの言葉を頂き何故か瞳が潤んできた。
私が色々告白したのにこの人達は今までと何一つ変わらない。温かな雰囲気に包まれて不安や恐れが消えていく。
これから私がやらなければならないこと……私が犯してしまった大きな罪を償うためにクラレシアの人々に何が出来るか? 彼らは私を許してくれるだろうか?
ベアトリーチェの記憶が戻ってからずっと私の中で渦巻いていたものが少しずつ凪いでいくような気がした。
新たに設けられたクラレシアの騎士達との邂逅の場。
クランリー家の応接室で私はそわそわしながら彼らを待っていた。ベアトリーチェの記憶が戻ったとしてもまだまだ私の中ではカリンの記憶の方が強い。
まだカリンとベアトリーチェの記憶がちゃんと融合していないのだろう。
緊張が体を強ばらせ、掌には汗が滲んでくる。ベアトリーチェとしては生まれてからずっと傍にいてくれた私の侍女兼護衛のアーニャに会いたい気持ちはある。でも、その思いをベアトリーチェの心に深く刻まれた罪悪感が打ち消しているようで不安の方が大きい。
「大丈夫だ、カリン。私達がいる」
傍から見たら私の緊張が伝わったのかも知れない。ダンテさんが私を安心させるように優しく頭を撫でてくれた。ダンテさんの優しさが伝わるような大きくて暖かい手の温もりが不思議と私の心を落ち着かせてくれる。
「俺もいるから忘れるな」
そんな様子を見ていたショウが少し機嫌悪そうにぶっきらぼうに言った。
「お前、もしかして私に焼き餅妬いているのか?」
ダンテさんがニヤリとしてショウに突っ込んだ。
「そんなんじゃない」
ショウはプイッと顔を横に向けて否定する。
「クスクスクスッ」
つい笑いが零れる。私の心を和ませるためにダンテさんが態とショウにそんなことを言ったのだろうと思い、彼の心遣いに感謝した。
穏やかな空気の中、チリンとドアベルの音が聞こえた。
「あら、いらしたようね。お出迎えに言ってくるからちょっと待っててね」
お茶の準備をしていたセレンさんが応接室にいた私達にそう言葉を残して立ち去った。
私は立ち上がり、心を落ち着かせるために胸に手を当てて空気をゆっくり吸い込み深呼吸をする。
応接室の扉が開き、セレンさんの後ろに懐かしい面々が顔を覗かせた。
クラレシアの騎士服を身に纏った、アーニャ、ワシリー、エゴンである。
三人は私の姿が目に入ると直ぐに目の前まで来て跪いた。
「ベアトリーチェ様、ご無事でなによりです」
「アーニャ……」
私が小さく呟くとアーニャが顔を上げて嬉しそうに微笑んだ。彼女の瞳が徐々に潤んで大粒の涙が零れる。
「ベアトリーチェ様……よくご無事で……」
「ベアトリーチェ様……」
ワシリーとエゴンも感極まって瞳が潤んでいく。
私は顔を上げるように言い、彼らに近づいた。
「心配をかけてごめんなさい……私の……せいで……」
震える声でやっと声を押し出すように呟いた。言いたいことは沢山あるのにそれ以上言葉にできない。涙が頬を伝いベアトリーチェだった頃の気持ちが蘇ってきた。
本当に本当にごめんなさい。私のせいで…………
後から後から流れる涙を拭うことも忘れて私は唯々罪悪感に押しつぶされそうになった。
クラレシア神聖王国最後の王女として前向きに頑張ろうと思ったのに過去の過ちが重い枷となって心の中にのしかかって来る。
「ベアトリーチェ様、それ以上ご自分を責めないで下さい。貴方だけの責任ではありません」
不意に暖かい腕の温もりを感じた。私はいつの間にかアーニャの腕の中に居た。
「ベアトリーチェ様、我々はベアトリーチェ様のせいだと思ってはいません。もちろん、クラレシアの民だって」
「そうです。私達はあまりにも油断しすぎていたのです。神の結界を過信し、それだけに頼りきって突然の襲撃に対応出来なかったのは私達の責任です。何としても貴方を守らねばならなかったのに」
エゴンとワシリーが顔を歪めて苦しそうに言葉を発した。自分達を戒めるように。
私と同じように彼らも罪悪感に苛まれてきたのかも知れない。
「エゴン……ワシリー……」
アーニャの腕の中で私は二人に顔を向けた。
……………………。
束の間の静寂が流れた。
「さあ、よろしかったらお茶を飲んで少し落ち着きませんか?」
穏やかな声が静かな空間を心地よく揺らし、重い空気が一瞬で霧散したのだった。
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