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第百二十六話 目覚め
しおりを挟む ベアトリーチェがメディアーナが発動させた魔術によって光りに包まれた瞬間、目の前の映像が消えた。気がつくと私は再び真っ白な世界に包まれていた。
クラレシア神聖王国女王メディアーナ、そして私のお母様。
前世の私は奄美根花櫚‥‥‥だけど現世はベアトリーチェとしてこの世に生を受けた。
私は本当に記憶喪失だったのだ。
なぜベアトリーチェの記憶を無くしてしまったのか?
なぜ私は前世の記憶を取り戻しカリンとして生きることになったのか?
頭の中がぐるぐるして考えが纏まらない。
私は13才まで、ベアトリーチェとして生きていた。お母様がドメル帝国から命を賭して私を逃がしてくれるまで。
カリンの記憶はその時まで蘇っていなかった。
お母様の魔術によってクラレシアに転移させられたカリンの記憶がない私は自分の罪の重さに絶えきれず生きる気力をなくしていた。
カリンの記憶が蘇ったのは、その後。
私が生きる気力をなくして意識を失った後、ラシフィーヌ様の元に召喚されてからだ。だが、その反動か、その時私はベアトリーチェの記憶を無くしていた。
もしかしたら私はあの時一度死んだのかも知れない。そう、前世で言えば臨死体験というものだ。
では、何故あの時あのまま命を失わなかったのか?
考えられるのはラシフィーヌ様が私の命を繋ぎ止めた? 私が精霊姫だから……
ああ、そうだ。私にはお母様から伝えられていたお役目が有ったのだった。精霊姫としてのお役目が。
だからラシフィーヌ様は私の生きる力を取り戻すために私の前世の記憶を呼び覚ましたのだろう。きっとベアトリーチェの記憶を失ったのはその反動なのだと思う。
それが故意なのかそうではないのかは分からないけど……
ベアトリーチェの記憶はあまりにも重たい。
お母様……私のせいで死んでしまったお母様。いいえ、お母様だけではない。クラレシアの民達は私のせいで生活を脅かされ、命を失った者もいるだろう。
忘れていた罪悪感が首を擡げて私に襲いかかるようだ。
ああ、それよりも私は今後どうすれば良いのか?
取り返しのつかない大罪を犯してしまったベアトリーチェとしての私は、そのあまりの罪深さに心が死んでしまい生きる気力を失った。
弱かったのだ。
周りに守られ、悪を知らず人を疑うことも、傷付けられた経験もなかった11才の少女の心はたった一つ、最大の間違いを犯した。
ただ知らなかっただけ。
そんな言葉も通じぬ程の間違いは、自国を滅ぼすことになってしまったのだ。
私は逡巡する。
でも、でも……
後悔ばかりでは何も解決しない。
犯した罪をなかった事には出来ないけど、これから出来るだけのことをしていこう。
前世だってそうだったではないか?
ベアトリーチェほどの大きな罪を犯したことはなかったけど、間違ったことなんていくらでもあった。
その度に、反省をしても後悔はしないと自分の中にルールを作っていた。反省は前に進むためで、後悔は過去を引きずることだから。
さあ、前を向けカリン。
ベアトリーチェの罪は私の罪。
だけど、いいえ、だからこそ前を向くのだ。
今私には地球で40年近く生きたカリンとしての記憶がある。きっと大丈夫。例え許してくれなくても、恨まれても私は進むことしか出来ないのだから。
そう思った瞬間、目の前に光りに包まれた扉が現れた。
私はゆっくりとその扉を開けた。
体の奥底から今まで閉じ込められていた魔力が解放される。今まで滞っていた血液が廻り始める様に体が徐々に暖かくなって来た。重い瞼をゆっくりと持ちあげると、柔らかな光と共に心配そうに覗き込むセレンさんの顔があった。
「カリンちゃん! ああ、よかった。カリンちゃん、目が覚めたのね。カリンちゃん、3日間も眠っていたのよ」
瞳に涙を滲ませながら優しく微笑むセレンさんに私はホッと安堵した。
「セレン……さん……」
ずっと眠っていたせいか声が掠れている。
「カリンちゃん、ちょっと待ってね」
セレンさんはそう言うと私をゆっくりと抱き起こし、ベッドヘッドと背中の間にクッションを挟んで座らせてくれた。
セレンさんは一度その場から立ち去ると、直ぐに水が入ったグラスを持って来て飲ませてくれる。
「カリン、目が覚めたのか?」
「カリン!」
私の目覚めを感じ取ったのか、グラスの中が空になった瞬間ダンテさんとショウがバタバタと部屋に入ってきた。
二人の方に目を向けると、ダンテさんは心配そうな顔で、ショウは瞳を潤ませて私が座るベッドの傍まで近づいて来た。
「あらあら、いくらカリンちゃんが目覚めたからと言ってレディの部屋に勝手に入るのはいけないわね」
セレンさんは二人を窘めると困ったように眉を下げた。
「あっ、あのう……セレンさん、ダンテさん、ショウ、心配かけてしまってごめんなさい。私はもう大丈夫です……クゥゥゥ……あっ……」
三人に謝罪の言葉を述べた瞬間、私のお腹の音が鳴って恥ずかしさに俯く私。
きっと私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。
「カリンちゃん、お腹が空いたのね。よかったわ、お腹が空いたと言うことは元気だと言うことだもの。ちょっと待っててね。直ぐにパンがゆを作って来るから」
セレンさんが私に声をかけて部屋を立ち去った。
「カリン。目覚めてくれて本当によかった」
「カリン……よかっ……た……」
セレンさんの姿が見えなくなると、ダンテさんが目を細めて安堵の表情をしながら私の顔を覗き、ショウは途中から言葉にならないようで、ベッドの脇に立ったままただ大粒の涙をぽろぽろ零したのだった。
クラレシア神聖王国女王メディアーナ、そして私のお母様。
前世の私は奄美根花櫚‥‥‥だけど現世はベアトリーチェとしてこの世に生を受けた。
私は本当に記憶喪失だったのだ。
なぜベアトリーチェの記憶を無くしてしまったのか?
なぜ私は前世の記憶を取り戻しカリンとして生きることになったのか?
頭の中がぐるぐるして考えが纏まらない。
私は13才まで、ベアトリーチェとして生きていた。お母様がドメル帝国から命を賭して私を逃がしてくれるまで。
カリンの記憶はその時まで蘇っていなかった。
お母様の魔術によってクラレシアに転移させられたカリンの記憶がない私は自分の罪の重さに絶えきれず生きる気力をなくしていた。
カリンの記憶が蘇ったのは、その後。
私が生きる気力をなくして意識を失った後、ラシフィーヌ様の元に召喚されてからだ。だが、その反動か、その時私はベアトリーチェの記憶を無くしていた。
もしかしたら私はあの時一度死んだのかも知れない。そう、前世で言えば臨死体験というものだ。
では、何故あの時あのまま命を失わなかったのか?
考えられるのはラシフィーヌ様が私の命を繋ぎ止めた? 私が精霊姫だから……
ああ、そうだ。私にはお母様から伝えられていたお役目が有ったのだった。精霊姫としてのお役目が。
だからラシフィーヌ様は私の生きる力を取り戻すために私の前世の記憶を呼び覚ましたのだろう。きっとベアトリーチェの記憶を失ったのはその反動なのだと思う。
それが故意なのかそうではないのかは分からないけど……
ベアトリーチェの記憶はあまりにも重たい。
お母様……私のせいで死んでしまったお母様。いいえ、お母様だけではない。クラレシアの民達は私のせいで生活を脅かされ、命を失った者もいるだろう。
忘れていた罪悪感が首を擡げて私に襲いかかるようだ。
ああ、それよりも私は今後どうすれば良いのか?
取り返しのつかない大罪を犯してしまったベアトリーチェとしての私は、そのあまりの罪深さに心が死んでしまい生きる気力を失った。
弱かったのだ。
周りに守られ、悪を知らず人を疑うことも、傷付けられた経験もなかった11才の少女の心はたった一つ、最大の間違いを犯した。
ただ知らなかっただけ。
そんな言葉も通じぬ程の間違いは、自国を滅ぼすことになってしまったのだ。
私は逡巡する。
でも、でも……
後悔ばかりでは何も解決しない。
犯した罪をなかった事には出来ないけど、これから出来るだけのことをしていこう。
前世だってそうだったではないか?
ベアトリーチェほどの大きな罪を犯したことはなかったけど、間違ったことなんていくらでもあった。
その度に、反省をしても後悔はしないと自分の中にルールを作っていた。反省は前に進むためで、後悔は過去を引きずることだから。
さあ、前を向けカリン。
ベアトリーチェの罪は私の罪。
だけど、いいえ、だからこそ前を向くのだ。
今私には地球で40年近く生きたカリンとしての記憶がある。きっと大丈夫。例え許してくれなくても、恨まれても私は進むことしか出来ないのだから。
そう思った瞬間、目の前に光りに包まれた扉が現れた。
私はゆっくりとその扉を開けた。
体の奥底から今まで閉じ込められていた魔力が解放される。今まで滞っていた血液が廻り始める様に体が徐々に暖かくなって来た。重い瞼をゆっくりと持ちあげると、柔らかな光と共に心配そうに覗き込むセレンさんの顔があった。
「カリンちゃん! ああ、よかった。カリンちゃん、目が覚めたのね。カリンちゃん、3日間も眠っていたのよ」
瞳に涙を滲ませながら優しく微笑むセレンさんに私はホッと安堵した。
「セレン……さん……」
ずっと眠っていたせいか声が掠れている。
「カリンちゃん、ちょっと待ってね」
セレンさんはそう言うと私をゆっくりと抱き起こし、ベッドヘッドと背中の間にクッションを挟んで座らせてくれた。
セレンさんは一度その場から立ち去ると、直ぐに水が入ったグラスを持って来て飲ませてくれる。
「カリン、目が覚めたのか?」
「カリン!」
私の目覚めを感じ取ったのか、グラスの中が空になった瞬間ダンテさんとショウがバタバタと部屋に入ってきた。
二人の方に目を向けると、ダンテさんは心配そうな顔で、ショウは瞳を潤ませて私が座るベッドの傍まで近づいて来た。
「あらあら、いくらカリンちゃんが目覚めたからと言ってレディの部屋に勝手に入るのはいけないわね」
セレンさんは二人を窘めると困ったように眉を下げた。
「あっ、あのう……セレンさん、ダンテさん、ショウ、心配かけてしまってごめんなさい。私はもう大丈夫です……クゥゥゥ……あっ……」
三人に謝罪の言葉を述べた瞬間、私のお腹の音が鳴って恥ずかしさに俯く私。
きっと私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。
「カリンちゃん、お腹が空いたのね。よかったわ、お腹が空いたと言うことは元気だと言うことだもの。ちょっと待っててね。直ぐにパンがゆを作って来るから」
セレンさんが私に声をかけて部屋を立ち去った。
「カリン。目覚めてくれて本当によかった」
「カリン……よかっ……た……」
セレンさんの姿が見えなくなると、ダンテさんが目を細めて安堵の表情をしながら私の顔を覗き、ショウは途中から言葉にならないようで、ベッドの脇に立ったままただ大粒の涙をぽろぽろ零したのだった。
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