転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百十二話 ショウ・クランリーの懸念

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 難民キャンプには50人弱のドメル人が生活しているという。クラレシア人と異なり、ドメル人の魔力量は生命維持に必要な分しか備わってないため、働く場所は限られてくる。

 更にクラレシアを侵略した国の人間と言うだけで、比較的温厚な国民性を持つティディアール王国の者にさえ受け入れられるのは難しい。

 働く場所を確保するのは今後も困難を極めると予想されていた。

 そんな時にタングスティン領からの人材募集案件が届いたのだ。ドメル人難民でも隷属契約を施せば受け入れ可能と言うことはパスティナ領主マーカスにとっても僥倖だったと言えよう。

 俺は、マーカス様から貰った許可証を提示しキャンプ内に入った。ドメル人難民達の多くは生気がなく、配給される粗末な食事に頼って何とか生きているといった感じだった。

 ドメル人の難民キャンプはクラレシア人の難民キャンプよりも厳重な警備が敷かれていた。受け入れ時の難民審査も厳しく、一人一人余すことなく情報を聴取される。ドメル人難民の中には間諜も潜んでいる可能性もあるためだ。

 一人一人余すことなく彼らを完全に掌握しなければ足下を掬われるかも知れない。どんな魔導具を隠し持っているか分からないからどんな見落としも許されない。

 まるで凶悪犯が収容されているとでも思わせるような結界が施された柵で囲い、勝手に彼方此方を彷徨かれないような監視体制。出入り口は一カ所しかなく、そこには王城から派遣された兵士が随時見張っていた。


 ゆっくりとキャンプ内を覗いながら歩を進めていると、難民達はテントの中から不安そうに顔だけ出して息を潜めて俺がキャンプの傍を通るのをただ見つめている。
 彼らの心の中からは不安と恐れを表すような言葉ばかりが聞こえてきた。

 マーカス様に事前に教えてもらっていた西にある大きめのテントを目指す。そこは居住用ではなくて難民の適性検査と職業訓練を行っている場所らしい。

 そのテントに近づくと難民がいくつかの塊になって話をしているようだった。一つ一つの塊は家族なのだろうか?

『畜生! クラレシアの難民に近づけやしない! 王女を捜さなければまた陛下にドヤされる』

 心の声を拾うべく、スキル発動を全開にしていたらそんな言葉が頭に飛び込んできた。不自然にならないよう周辺を注視し、声の主を捜す。

 黄色がかった金髪に薄茶の瞳、俺よりも10才は年上に見える男がゆっくりと一つのテントへ入って行くのが見えた。その後ろから、薄茶色の髪の男が続いた。

 見つけた!

 俺はそのテントまでゆっくりと近づいた。テントの上には番号が振ってある。この番号が分かればこのテントで生活している者の人数と身元が分かるはずだ。ここに受け入れる段階で名簿に載せられているはずなのだから。

 最も、その身元が偽りかどうかは分からないが。

 俺は、難民の中にドメル帝国の間諜が紛れ込んでいることをアークに連絡することにした。

 俺の腕に銀色に輝くバングルに魔力を流しながらアークに念話と間者の映像を送った。サラド公国でアークと別れる際に、手渡されたものだ。

 このバングルは魔力を登録したもの同士で念話ばかりか映像も送る事が出来ると言う優れものだ。

「ちょっと時間かかるかも知れないけど、今からそっちに行くから。今、ドメル帝国に来てるんだよねぇ~。潜入させていた影からの連絡で家にもちょっかいだそうとしてたことが分かってさ~。もう面倒だから制圧することにしたんだ。それ済ませてから直ぐにそっちに行くよ」

 何でもないことのように宣うアークの言葉に唖然として言葉を失った。

「えっ? 制圧? え? こんなに早く?」
「うん、もうね、彼方此方で暴動も勃発して国として機能してないほど低迷していたからねぇ~。本当はこのままにしても勝手に滅んでいくだろうとは思ったんだけどね、僕の国に密入国して裏から何やらしようと画策していたからさ。入国してしまってからじゃまた面倒な事になるからその前にケリをつけたいと思ったわけ」

 相変わらず飄々とした物言いで何でもないことのように話すアークにおれは「そうか」としか言葉を返すことが出来なかった。

 ドメル人難民に紛れている間者の事をマーカス様にどう説明すればいいのかと考えていたら、アークの方から宅送鳥でマーカス様に連絡するとの事だった。

 それよりも俺はアークが言った最後の言葉が気になった。

「それよりもさ~お姫様のことなんだけど、本当かどうかは分からないんだけどとんでもないこと聞いちゃったんだよね。まぁ、ドメル帝国皇帝の心の声なんだけど。うーん、どうしよう? これってショウに言っちゃっていいのかなぁ?」

 アークの言葉は珍しく躊躇っているようだった。でも、ここまで思わせぶりな言い回しをするのだからきっと俺には言うつもりなのだろう。

「カリンの事? 何のことだ?」
「まぁ、そっちに行ってから教えるよ。ドメル人だけじゃなくてクラレシア人の声も聞いた方がいいだろうからね。どちらの声も聞かないと判断がつきにくい事だからね。じゃあ直ぐに行くから待っててねぇ~」
「おっ、おい! ちょっと待て……」

 俺は一方的に通信を切ったアークに苛立ちながら、彼がこの場所に来るのを待たざるを得なかった。
 その後、何度もドメル人難民キャンプに足を運び他に間者がいないか探った。結局、間者と判定できたのは全部で4人だった。

 アークの言葉が気になった俺はクラレシア人難民キャンプにも足を運んで心の声を読み取ろうとしたがそれは叶わなかった。何故ならクラレシア人は常に防御魔法を身に纏っているせいだった。

 もしかしてクラレシア人であるカリンの心の声が聞こえなかったのは神獣のせいばかりではないのかも知れないと俺はこの時思った。

 クラレシア人難民キャンプに向かっているとき、ショウは見覚えのある女性冒険者達の姿を目にした。以前、チラリと目にした事はあるが面と向かって話したことはない。カリンと出会うまでは他人を避けるように仕事をしていたのだ。

 確か……乾坤の戦乙女というゴールドランク冒険者パーティだったよな。

 そう思って声をかけたら、その中の一員であるメラニーと言う魔法師が領主マーカス様の娘だと知って驚いた。

 それよりも俺は、アークがドメル帝国皇帝のカリンに関する心の声が何なのかずっと頭の中で気になっていた。
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