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第百八話 パスティナ領③
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メラニーは母親のスティファニーの指示で一旦、邸に戻ることになった。タングスティン領への出発までにはまだ数週間ある。準備が整うまで父親のマーカスにも冒険者として護衛に付くことを了承して貰わなければならない。
いくらスティファニーが承諾したとしても最終決定権は領主である父親のマーカスにあるのだ。ティアにも一旦自宅に戻って貰い、出発の予定が立ち次第連絡すると告げた。
そわそわしながらマーカスの帰宅を待つメラニー。
「きっと大丈夫ですよ。奥様が上手く説得していると思いますよ。何だかんだ言っても旦那様は奥様に甘いところがありますから」
ベッキーの言葉に同意するものの、メラニーは実際にマーカスの口から許しの言葉を聞かない限り安心出来ない。不安な気持ちは何故か悪い方へと思考が誘導されてしまうものだ。
いつもだったらベッドに入る時間だったが、メラニーは夜半前にも関わらずマーカスの帰宅を待っていた。マーカスの帰宅が告げられるとメラニーは急いで執務室に向かった。
執務室のドアの前に立つと躊躇して中々ノックをすることが出来ないメラニー。
どうしよう、反対されたら。
メラニーの心の中にそんな思いが後から後から沸き上がってくる。
意を決してドアをノックする。
コンコンコン。
「メラニーか? 入れ」
メラニーはマーカスの言葉に従ってそっとドアを開けて怖ず怖ずと部屋の中に足を踏み入れた。
「まあ、そこへ座れ」
メラニーはマーカスの言葉に逆らわず大人しく示された執務机の前にある椅子に腰をかけた。
「さて、話はステファニーから聞いた。冒険者として難民の護衛の任務に就きたいそうだな。はぁ……」
マーカスが言葉を述べた後深い溜息を吐いた。
「お父様……私……」
「ああ、分かっている。お前が好きでもない人と婚約することに乗り気じゃないことは。だが、ぼやぼやしていると行き遅れてしまうことは理解しているか? お前はもう18になったんだ。早めに相手を決めておかないと条件の良い相手がどんどんいなくなってしまうんだよ。若い方が婚約には有利なんだ」
メラニーはマーカスの言葉を受け下唇を噛んだ。
お父様の言葉はもっともだわ。でもやっぱり私は好きな人と結婚したい。
メラニーの心の中に諦めきれない気持ちが燻っていた。
「今回の依頼が最後だ。戻ってきたら私が選んだ釣書の中から婚約者を選んで貰う」
マーカスがメラニーに向かって言った。メラニーはもうこれ以上マーカスの言うことをはね除けることは出来ないと悟った。
「分かりました。今回の依頼が終わったらお父様の言うとおりにいたします。今回の依頼、受ける事を許して頂きありがとうございます」
メラニーは不本意ながらマーカスの言うことに従うことを決めた。
メラニー、ベッキー、ティアの三人は女性冒険者パーティー乾坤の戦乙女として再び始動することが決まった。クラレシア人の護衛としてタングスティン領へ向かうのは数週間後。
護衛依頼を受けることが決まったところでメラニーはカリン宛に手紙をしたためた。
クラレシア人の護衛任務でタングスティン領に行くこと。連絡をせずに自宅に帰ってきてしまった事への謝罪、こんどはきちんと料金を支払ってまたパンケーキを食べさせて欲しいことなどを書き綴っていく。
メラニーは書き終わると、額にスズランの花のマークがある水色の宅送鳥に手紙を託した。カリンからの返事が待ち遠しい。
手紙を書いたせいかメラニーはカリンと初めて出会ったときのことを思い出した。特にカリンが作ったパンケーキの味が頭を過ぎると涎が出そうになった。
「ああ、もう一度あのパンケーキの味を堪能したいわね」
「そうですねぇ、あれは絶品でした」
メラニーが思わず零した言葉にベッキーが同意した。
二人は同時に顔を見合わせて溜息を吐いた。
同時刻、ティナも自宅でカリンが作ったパンケーキの味を思い出していた。
「ああ、もう一度あのパンケーキを食べたいわ」
溜息を吐きながら頭の中にフワフワパンケーキの画像と味を思い浮かべるティナの思いはメラニー、ベッキーと考えがオーバーラップしていたのだった。
いくらスティファニーが承諾したとしても最終決定権は領主である父親のマーカスにあるのだ。ティアにも一旦自宅に戻って貰い、出発の予定が立ち次第連絡すると告げた。
そわそわしながらマーカスの帰宅を待つメラニー。
「きっと大丈夫ですよ。奥様が上手く説得していると思いますよ。何だかんだ言っても旦那様は奥様に甘いところがありますから」
ベッキーの言葉に同意するものの、メラニーは実際にマーカスの口から許しの言葉を聞かない限り安心出来ない。不安な気持ちは何故か悪い方へと思考が誘導されてしまうものだ。
いつもだったらベッドに入る時間だったが、メラニーは夜半前にも関わらずマーカスの帰宅を待っていた。マーカスの帰宅が告げられるとメラニーは急いで執務室に向かった。
執務室のドアの前に立つと躊躇して中々ノックをすることが出来ないメラニー。
どうしよう、反対されたら。
メラニーの心の中にそんな思いが後から後から沸き上がってくる。
意を決してドアをノックする。
コンコンコン。
「メラニーか? 入れ」
メラニーはマーカスの言葉に従ってそっとドアを開けて怖ず怖ずと部屋の中に足を踏み入れた。
「まあ、そこへ座れ」
メラニーはマーカスの言葉に逆らわず大人しく示された執務机の前にある椅子に腰をかけた。
「さて、話はステファニーから聞いた。冒険者として難民の護衛の任務に就きたいそうだな。はぁ……」
マーカスが言葉を述べた後深い溜息を吐いた。
「お父様……私……」
「ああ、分かっている。お前が好きでもない人と婚約することに乗り気じゃないことは。だが、ぼやぼやしていると行き遅れてしまうことは理解しているか? お前はもう18になったんだ。早めに相手を決めておかないと条件の良い相手がどんどんいなくなってしまうんだよ。若い方が婚約には有利なんだ」
メラニーはマーカスの言葉を受け下唇を噛んだ。
お父様の言葉はもっともだわ。でもやっぱり私は好きな人と結婚したい。
メラニーの心の中に諦めきれない気持ちが燻っていた。
「今回の依頼が最後だ。戻ってきたら私が選んだ釣書の中から婚約者を選んで貰う」
マーカスがメラニーに向かって言った。メラニーはもうこれ以上マーカスの言うことをはね除けることは出来ないと悟った。
「分かりました。今回の依頼が終わったらお父様の言うとおりにいたします。今回の依頼、受ける事を許して頂きありがとうございます」
メラニーは不本意ながらマーカスの言うことに従うことを決めた。
メラニー、ベッキー、ティアの三人は女性冒険者パーティー乾坤の戦乙女として再び始動することが決まった。クラレシア人の護衛としてタングスティン領へ向かうのは数週間後。
護衛依頼を受けることが決まったところでメラニーはカリン宛に手紙をしたためた。
クラレシア人の護衛任務でタングスティン領に行くこと。連絡をせずに自宅に帰ってきてしまった事への謝罪、こんどはきちんと料金を支払ってまたパンケーキを食べさせて欲しいことなどを書き綴っていく。
メラニーは書き終わると、額にスズランの花のマークがある水色の宅送鳥に手紙を託した。カリンからの返事が待ち遠しい。
手紙を書いたせいかメラニーはカリンと初めて出会ったときのことを思い出した。特にカリンが作ったパンケーキの味が頭を過ぎると涎が出そうになった。
「ああ、もう一度あのパンケーキの味を堪能したいわね」
「そうですねぇ、あれは絶品でした」
メラニーが思わず零した言葉にベッキーが同意した。
二人は同時に顔を見合わせて溜息を吐いた。
同時刻、ティナも自宅でカリンが作ったパンケーキの味を思い出していた。
「ああ、もう一度あのパンケーキを食べたいわ」
溜息を吐きながら頭の中にフワフワパンケーキの画像と味を思い浮かべるティナの思いはメラニー、ベッキーと考えがオーバーラップしていたのだった。
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