転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百四話 ショウ・クランリーの憂鬱

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 サラド公国で必要な情報を集めた俺達は今後の計画を練るためアークトゥルス殿下……アークとその影達四人と共にホテルの一室で話し合いをしていた。

 ドメル帝国のハニトラ要員シャロンと接触する内に新たな情報が入った。どうやらドメル帝国を捨てた帝国人の中に諜報員が紛れ込んでいるらしい。ドメル帝国は侵略戦争後から相次ぐ自然災害の発生や干ばつにより平民を中心に生活に支障が出ているとの情報を得ていた。

 生きることさえままならなくなった人々は助けを求めて周辺諸国へ逃げ出す人も多いと聞く。だが、例え平民とは言え、クラレシア神聖王国を侵略した国の者を受け入れる国は少ない。その中でも寛大な措置を施しているのは我がティディアール王国である。

 ティディアール王国国王バリディッシュ・ズィー・ディディアールは賢王であり、慈悲深いと言うことは他国でも周知の事実である。その為、多くのドメル帝国人がティディアール王国に入国し、既にいくつかの難民キャンプが設営されているのだ。

「それでだな、どうやらタングスティン領のヨダの町周辺ではいくつかの食品工房建設を計画しており、人材確保の為に難民キャンプにも声をかけているそうだ」
「難民キャンプ? まさか、クラレシア人の難民キャンプだけではなくドメル人の難民キャンプもとは言わないよな?」
「ああ、そのまさかだ」
「なんだと?! ウォルフ様は何を考えているんだ?」

 俺は思わぬアークの言葉に立ち上がり詰め寄った。

「ショウ、まあ落ち着け。何の措置も講じずドメル人を使うわけではないそうだよ。魔法で隷属契約を施してからだと言っていたからな」
「それでも、難民キャンプには諜報員も紛れ込んでいるとの情報があるじゃないか! ヨダの町にはカリンがいるんだぞ! もしカリンが見つかったら……」

 俺はその先の予測を考えたくもなくて口を噤んだ。

 カリンは記憶を失っている。そのことはアークも知っている筈だ。例えドメル人に隷属契約を施していたとしても俺達が知らない魔導具を所持して契約をどうにかすることも可能だとしたら……。

 考えたくもないのに俺の中で最悪の未来が頭を過ぎった。

「うーん、でもそれは大丈夫なんじゃないか? お姫様には強い守りがいるようだからね」

 アークの言葉に身体がビクリと反応した。強い守り……まさか! アークの瞳を凝視したまま金縛りに会ったように微動だにできない。アークは神獣グレンのことを知っているのか? ウォルフ様が陛下には話してないようだと父さんは言っていた。

「クスッ、僕があの尊い神の使徒のことを知っているのが不思議だという顔だね。君は忘れてない? 僕は君と同じ力があるってことを」

 ウォルフ様が陛下にお会いしたときに心の声を聞いたのか? でも、心の声を聞くには相手を視認出来る位置にいる必要がある。その時、アークもウォルフ様とお会いしたのだろうか?

「ウォルフ様が陛下と話をしているときにアークもその場所にいたのか?」
「直接会った訳じゃないけどね。それ程距離が離れていなくてどこにいるか分かれば心の声を聞くことは出来る。君と違って僕はずっと幼少期から訓練していたからね」

 そうか、俺はなるべく自分の力を使わないようにしていたけど、アークはなるべく自分の力を使うようにして強化してきたという訳か。

 その時にウォルフ様の心の声を聞いたと言うことか。だからグレンが神獣であることを知っていると。

「まぁ、だからといってなんの対策も講じない訳じゃ無いさ。君は幸いにも冒険者として登録している。パスティナ領からタングスティン領まで難民達を連れて行くために護衛としてシルバーランク以上の冒険者を雇うそうだよ。君も参加したらいいんじゃないかな」

 なるほど、アークは最初から難民達の護衛に参加させようと思ったのか。きっと俺は、クラレシア人ではなくドメル人の難民の担当になるのだろう。そして、道中で不審な動きをするものがいれば捕縛するなり排除するなりしろと言うことか。まあ、排除よりも捕縛なんだろうが。

 ドメル人の諜報員はきっと例外なく微小カプセルを体内に埋め込まれているだろう。カプセルが破裂する前に情報を入手する必要があるな。

「はぁ、分かった。じゃあ俺はこれからパスティナ領に向かうとしよう」
「うん、頼むね。パスティナ領には取り纏めの為に王宮からも数名の兵が行っていると思うから伝令を出しておくよ。僕たちは一旦王宮に帰って今後の作戦を練ることにするよ。まあ、王太子の兄上がいるから大丈夫だと思うけどね」

 第一王子で王太子のアヴィオール殿下はご多分に漏れず聡明だと聞く。王太子に限らずティディアール王国の王族は代々民からの信頼も厚い。ここまで王国が発展してきたのは彼らの手腕によるものだと公然の事実である。

 俺は自分の部屋に戻るとこれからの任務を思い、深い溜息を吐いた。他人の心の声を意識的に聞くのはかなり精神を消耗する。自分への批判や自国への批判、罵詈雑言を心で直接受け入れるようなものだ。仕事とは言え、自分の力を疎む気持ちは嫌でも強まってしまう。

 それに反して、アークはどこか自分の力を楽しんでいるように感じた。俺と同じ力を持つのに何故あれほど飄々としていられるのか。俺はアークの本心がどこにあるのか全く掴めなかった。

 まあ、王族ともなれば他人に表情や本心を読まれるのはあるまじき事なのだろうが。

 俺は、サラド公国を発つ前に、心に癒しを求めあの美しい瑠璃色の瞳の少女を想った。そして、不意に魔通器のボタンを押した。

「カリン、元気か? 今いいかな?」
「ショウ、私は元気よ。ショウも元気そうね。仕事は順調なの?」
 俺はカリンの元気そうな声を聞いて安堵した。

「ああ、でもこれからちょっと忙しくなるから暫く連絡できないと思う。でも必ず帰るから待ってて欲しい」
「もちろん、待ってるわ。無理しないように頑張ってね」

 その何気ない言葉は俺の心に勇気を与えてくれたのだった。
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