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第九十五話 ショウ・クランリーの諜報
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「うん、僕もショウの意見には賛成だよ。でも、一人で突っ走らないでね。作戦はこっちで考えるから。ショウは激情的に行動を起こしそうだからくれぐれも自重するようにね」
「……わかってる。それで、シャロンはどうするんだ? 拘束するのか?」
「それなんだけどねぇ。ドメル帝国の捕獲した諜報員さぁ、自害じゃなかったんだよねぇ」
「自害じゃない? どういうことだ?」
「最初はさぁ、所持していた毒を服用したんだろうと思ったんだよねぇ。体内から毒物が検出されたから。でも念のため魔導体内検査機にかけたらさあ、破壊された微小カプセルが首から発見されたんだよね」
「微小カプセル? なんだそれ?」
俺はアークの言っている意味が理解できず疑問を投げかけた。
「麦粒よりも小さなカプセルなんだけどね。思うがままに操るために身体に埋め込む装置のようだね」
「埋め込む……何の為に……?」
「憶測なんだけどほぼ間違いないだろうね。正確には情報漏洩防止の為と洗脳の為のようだね。敵に機密事項や任務内容を話そうとするとカプセルが破裂する様になっていたんだよね。更にカプセルから魔力信号が流れて忠実性を高めていた可能性が高いと言う結果が出たよ」
「まさか! 自国の諜報員だろ? そこまでするのか?」
ドメル帝国の非道なやり方は俺も耳にしたことはある。しかし、それは他国民に対してだ。自国民に対してそんなやり方をするとは信じられない。
「うん、そうだよねぇ。僕もさあ、最初に聞いたときは信じられなかったよ。ドメル帝国はきっとそこまで追い詰められた状況なんだろうね」
「じゃあ、シャロンは……」
「捉えることも考えたけど、そうすると情報を話そうとした途端同じように死んじゃうだろうね。だから、このまま泳がせて更に情報を引き出してくれる? ショウの力でさぁ」
「分かった……」
俺は渋々だが、頷くよりほかなかった。あの女と話すのは苛つくが、ドメル帝国に生殺与奪の権を握られているなら哀れにも思わなくもない。
……いや、カリンのことを考えたらやはり殺したいほどむかつく。
だが先ずは情報を得るのが先だ。ここで俺があの女を殺したってカリンの過去が変わるわけではない。
「と言うことで、引き続きよろしく。くれぐれもシャロンを殺さないように」
アークはそう言葉を落として俺の部屋から消えていった。
またあの女に接触しなければならないと思うと憂鬱になるが仕方が無い。まだカリンを攫う目的が何なのか突き止めていないのだから。
そうして俺はその後もシャロンに会い、情報を蓄積していった。
シャロンと会っている内に気付いたんだが、どうやらシャロンはクラレシア神聖王国に対して強い恨みを抱いているようだった。
「クラレシアのせいで私達は魔法が使えない。クラレシアが私達の魔力を奪ったせいで」
シャロンの心から度々そんな声が聞こえた。
なぜそんなにクラレシアに恨みを抱いているのか?
ドメル帝国の民はみんなシャロンと同じようにクラレシアに対して同じように恨みを抱いているのか?
だとしたらその原因は何なのか?
アークにその事を報告したら、どうやらドメル帝国は幼少時からクラレシア神聖王国を忌避させるような教育を施しているらしいとのことだった。
俺は知らなかったが、ティディアール王国の王族教育の際にも世界史でドメル帝国とクラレシア神聖王国の因縁を含んだような内容もあったそうだ。
その内容は、あまりにも伝説めいていたためそれ程注視していなかったけど、何か関連があるかも知れないから調査するとアークは言った。
シャロンから手に入れた情報からは、ドメル帝国皇帝の目的は皇族に魔力が強い血筋を手に入れることだということが分かった。
ドメル帝国の国民は、皇族、貴族、平民に関わらず少量の魔力しか持たず魔法を使える者がほとんどいない。
しかし、昔からそうじゃ無かったらしい。魔法を使えない子供が生まれるようになったのは約200年前からだということだ。
200年前……何が有ったのか俺には思い当たらないがドメル帝国は魔法を使える者を欲している。それも他国より大きな魔力を持つ者を。
もしかしたら、200年前にドメル帝国とクラレシア神聖王国の間で何かがあったのかも知れない。
これまでも他国の強い魔力持ちとドメル帝国の貴族との婚姻を試みたようだが、彼らの子供達は何れも今までと変わらず少量の魔力しか持たなかったらしい。
そこで、ドメル帝国は考えた。もしかしたら、魔力を低下させる原因となったらしいクラレシアの血を取り込めば良いのではないかと。
そう、クラレシアの民を殺さないように捉えたのは彼らの血筋を取り込むことが目的だったのだ。
争いに免疫のないクラレシアの民は最初こそ戸惑い簡単に囚われてしまったが、大きな魔力と多彩な魔術を駆使して殆どの者が逃げおおせたとの事だ。
どうやらその裏にはクラレシアの三剣士の活躍があったらしい。
俺は、カリンを攫う真の目的はドメル帝国の王太子との間に子をもうけることだと言うことを知ると居ても立ってもいられなくなった。
だめだ……衝動的に動いてはいけない。
そう自分自身に言い聞かせ何とか抑えることに努めた。
カリン…………。
俺は無性にカリンの声が聞きたくなり、魔通器に手を伸ばした。
「やあ、カリン。元気だったか? と言ってもあれからそんなに経ってないけど……」
「ショウ! 元気そうね。私は元気よ。今どこにいるの? 危険なことはないのかしら?」
カリンの元気そうな声が俺の耳に届くと心に柔らかな光が差すのを感じたのだった。
「……わかってる。それで、シャロンはどうするんだ? 拘束するのか?」
「それなんだけどねぇ。ドメル帝国の捕獲した諜報員さぁ、自害じゃなかったんだよねぇ」
「自害じゃない? どういうことだ?」
「最初はさぁ、所持していた毒を服用したんだろうと思ったんだよねぇ。体内から毒物が検出されたから。でも念のため魔導体内検査機にかけたらさあ、破壊された微小カプセルが首から発見されたんだよね」
「微小カプセル? なんだそれ?」
俺はアークの言っている意味が理解できず疑問を投げかけた。
「麦粒よりも小さなカプセルなんだけどね。思うがままに操るために身体に埋め込む装置のようだね」
「埋め込む……何の為に……?」
「憶測なんだけどほぼ間違いないだろうね。正確には情報漏洩防止の為と洗脳の為のようだね。敵に機密事項や任務内容を話そうとするとカプセルが破裂する様になっていたんだよね。更にカプセルから魔力信号が流れて忠実性を高めていた可能性が高いと言う結果が出たよ」
「まさか! 自国の諜報員だろ? そこまでするのか?」
ドメル帝国の非道なやり方は俺も耳にしたことはある。しかし、それは他国民に対してだ。自国民に対してそんなやり方をするとは信じられない。
「うん、そうだよねぇ。僕もさあ、最初に聞いたときは信じられなかったよ。ドメル帝国はきっとそこまで追い詰められた状況なんだろうね」
「じゃあ、シャロンは……」
「捉えることも考えたけど、そうすると情報を話そうとした途端同じように死んじゃうだろうね。だから、このまま泳がせて更に情報を引き出してくれる? ショウの力でさぁ」
「分かった……」
俺は渋々だが、頷くよりほかなかった。あの女と話すのは苛つくが、ドメル帝国に生殺与奪の権を握られているなら哀れにも思わなくもない。
……いや、カリンのことを考えたらやはり殺したいほどむかつく。
だが先ずは情報を得るのが先だ。ここで俺があの女を殺したってカリンの過去が変わるわけではない。
「と言うことで、引き続きよろしく。くれぐれもシャロンを殺さないように」
アークはそう言葉を落として俺の部屋から消えていった。
またあの女に接触しなければならないと思うと憂鬱になるが仕方が無い。まだカリンを攫う目的が何なのか突き止めていないのだから。
そうして俺はその後もシャロンに会い、情報を蓄積していった。
シャロンと会っている内に気付いたんだが、どうやらシャロンはクラレシア神聖王国に対して強い恨みを抱いているようだった。
「クラレシアのせいで私達は魔法が使えない。クラレシアが私達の魔力を奪ったせいで」
シャロンの心から度々そんな声が聞こえた。
なぜそんなにクラレシアに恨みを抱いているのか?
ドメル帝国の民はみんなシャロンと同じようにクラレシアに対して同じように恨みを抱いているのか?
だとしたらその原因は何なのか?
アークにその事を報告したら、どうやらドメル帝国は幼少時からクラレシア神聖王国を忌避させるような教育を施しているらしいとのことだった。
俺は知らなかったが、ティディアール王国の王族教育の際にも世界史でドメル帝国とクラレシア神聖王国の因縁を含んだような内容もあったそうだ。
その内容は、あまりにも伝説めいていたためそれ程注視していなかったけど、何か関連があるかも知れないから調査するとアークは言った。
シャロンから手に入れた情報からは、ドメル帝国皇帝の目的は皇族に魔力が強い血筋を手に入れることだということが分かった。
ドメル帝国の国民は、皇族、貴族、平民に関わらず少量の魔力しか持たず魔法を使える者がほとんどいない。
しかし、昔からそうじゃ無かったらしい。魔法を使えない子供が生まれるようになったのは約200年前からだということだ。
200年前……何が有ったのか俺には思い当たらないがドメル帝国は魔法を使える者を欲している。それも他国より大きな魔力を持つ者を。
もしかしたら、200年前にドメル帝国とクラレシア神聖王国の間で何かがあったのかも知れない。
これまでも他国の強い魔力持ちとドメル帝国の貴族との婚姻を試みたようだが、彼らの子供達は何れも今までと変わらず少量の魔力しか持たなかったらしい。
そこで、ドメル帝国は考えた。もしかしたら、魔力を低下させる原因となったらしいクラレシアの血を取り込めば良いのではないかと。
そう、クラレシアの民を殺さないように捉えたのは彼らの血筋を取り込むことが目的だったのだ。
争いに免疫のないクラレシアの民は最初こそ戸惑い簡単に囚われてしまったが、大きな魔力と多彩な魔術を駆使して殆どの者が逃げおおせたとの事だ。
どうやらその裏にはクラレシアの三剣士の活躍があったらしい。
俺は、カリンを攫う真の目的はドメル帝国の王太子との間に子をもうけることだと言うことを知ると居ても立ってもいられなくなった。
だめだ……衝動的に動いてはいけない。
そう自分自身に言い聞かせ何とか抑えることに努めた。
カリン…………。
俺は無性にカリンの声が聞きたくなり、魔通器に手を伸ばした。
「やあ、カリン。元気だったか? と言ってもあれからそんなに経ってないけど……」
「ショウ! 元気そうね。私は元気よ。今どこにいるの? 危険なことはないのかしら?」
カリンの元気そうな声が俺の耳に届くと心に柔らかな光が差すのを感じたのだった。
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