転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第七十三話 え? これも領主案件?

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 女子会の翌日、ダンテさんから手紙が届いた。話があるから時間がある時に来て欲しいとのことだった。

 時間なんてたっぷりある。まだお店をオープンしているわけではないし、どちらかと言うと暇を持てあましていると言った方が良いかも知れない。

 と言うわけで、早速明日行くと返事を書いた。

 最近はお菓子作りに励んでいたせいかお土産もたくさん持って行くことが出来る。みんなは喜んでくれるだろうか?

 私はみんなが喜んでお菓子を食べている姿を想像して自然に頬が緩んで来るのを感じた。
 

 一晩明けてクランリー農場に行く準備をする。

 外に出ると、木々の合間からキラキラと陽光が降り注いでいる。森に漂うマイナスイオンの気配を感じて思いっきり深呼吸をした。

 見上げると空が大分高くなっているようで秋に近づいていることが窺い知れる。

 私はグレンの背に跨りクランリー農場へ出発した。

 森を抜けると見慣れた草原が広がり、時折吹く風が草むらを揺らしていた。私はこの景色を楽しみたくてグレンにゆっくりと進むようにお願いした。

 前世に近いのに前世と違う景色は夢の中に迷い込んでしまったようだ。

 この世界で生きていくと決めたけど、私はこの世界のことをまだ全然知らない。この身体の出自さえも。

 クラレシア神聖王国の出身だということだけは分かった。そして、その国がもう既に無くなってしまったことも。

 その事を聞いた私は涙を流した。きっとこの身体に刻み込まれた記憶がそうさせたのだろう。

 どれだけ哀しい思いをしてきたのか分からないけど、私が頑なにこの身体の情報を拒否するのはそれがあまりに辛すぎるせいで自然と抑制がかかっているのかも知れないと思った。

 グレンは私が教えて欲しいと言えば何でも教えてくれる。きっと、この身体の出自のことも聞けば教えてくれるだろう。

 でも、グレンは聞けば教えてくれるが私が何も聞かなければ自ら進んで教えることはない。

 只、確かなことはグレンはいつだって私を優先してくれると言うことだ。

 私を守り私を幸せにする為に。

 暫く進むとクランリー農場を囲む金属製のポールが見えてきた。私は近くまで行くとポールに魔力を流した。するとポールの一部が地面に吸い込まれる。

 ダンテさんに魔力を登録して貰ったお陰で私もこうしてクランリー農場の敷地内に自由に出入りすることが出来るのだ。

 少し進むと相変わらず前世に比べてかなり大きい牛たちが草を食んでいた。牧歌的な風景に癒されながらダンテさん達が住む家に辿り着いた。

「カリンちゃん、いらっしゃい。待っていたわ」
 セレンさんが私の顔を見るなり優しく抱きしめてくれる。

 リビングに行くとマギー婆ちゃんがお茶の準備をしていた。
「カリンちゃん、待っていたよ。さあ、座って休んどくれ、今お茶を入れるからね。他のみんなも直ぐに来ると思うよ」
 マギー婆ちゃんがそう言うやいなや複数の足音が聞こえた。

「カリン、良く来たなぁ。もっとしょっちゅう来ても構わないんだよ」
 ロイ爺ちゃんが私に笑顔を向けながら声をかける。

「やあ、カリン待っていたんだ。先ずは座ってお茶でも飲んで休め、後でゆっくり話そう」
「ありがとう……」
 ダンテさんが私を見るとソファーに促した。

 この農場の人達はどうしてこんなに私に優しく微笑んでくれるのだろう? この世界に来たときは一人だったけど、もう今は私は一人じゃないんだと感じて胸が熱くなった。

 私の国が既に無いとしてもきっと大丈夫。私にはこんなに優しくしてくれる人達がいる。

 そう思うとたとえ哀しみに襲われても立ち直ることが出来る様な気がした。

「あれ? ショウとラルクはいないんですか?」
 私は二人の姿が見えないことに気付いて尋ねた。

「ええ、二人とも今はヨダの町に買い物に行っているの。カリンちゃんが来ることは知っているから直ぐに戻ってくると思うわよ」
「そうなのね」
 セレンさんの言葉に軽く頷き、私は早速お土産を渡すことにした。

「あの、私お菓子をたくさん作ってきたんです。よかったら皆さんでどうぞ」
 そう言ってお菓子の入った箱を次々とテーブルの上に並べた。

「まぁ、いいの? こんなにたくさん嬉しいわ」
 セレンさんはお菓子の箱を一つ手に取り中を覗いた。

「あら? この黒っぽいお菓子は何かしら?」
「どれどれ……おや? これもお菓子なのかい?」
 セレンさんの言葉を聞いてマギー婆ちゃんも箱の中を覗いた。

 マギー婆ちゃんは焦茶色の小さな塊を一つ摘み上げ首を傾げている。

「それはチョコレートって言うお菓子です。よかったら食べて見て下さい。気に入って貰えると思います」
 私がそう言うと、マギー婆ちゃんは摘んでいたチョコレートを口に入れた。

「こっ、これは! もしかしてカクオを使っているんじゃないかい?」
 流石元薬師だけある。マギー婆ちゃんは直ぐに材料を言い当てた。

「当たりです! それはカクオで作りました」
「何と! あの苦くて飲むのに一苦労するカクオがこんなにまろやかな甘さになるとは!」
 マギー婆ちゃんは目を丸くして驚いている。

「カクオ……どれ、私にも一つくれ」
「私も一つ頂くわ」
「儂も貰おうか」
 そう言って、ダンテさん、セレンさん、ロイ爺ちゃんがチョコレートを一口食べた。

 三人はマギー婆ちゃんと同じように目を丸くして驚いた顔をしていた。

「まぁ、本当に甘くて美味しいわね。口の中で溶けて甘さが広がるわ。カクオの風味が苦みよりも香ばしさに変わってとても美味しい」
「うん、ホントに美味いなぁ。この年でこんな美味いものに巡り会えるなんてなぁ」

 セレンさんが食レポをし、ロイ爺ちゃんは感慨深げに頷いている。

「カクオがこんなお菓子に……。もしこれが世間に知れたらカクオの値段が跳ね上がるぞ。これは兄上に報告案件だな」
 ダンテさんは何やらブツブツと言いながら考え込んでいる。

「あのぅ、報告案件とは……?」
 私はダンテさんの言ったことが気になって尋ねた。

「ああ、それはカクオの原産はカザフ領だからだ。カザフ領は私の出身地。今は私の兄が領主を務めているんだ。今までは、カクオは薬としてしか認識されていなかった。しかし、こんなお菓子が作れることを知ったらその認識が変わるからな。その事については、先ずはカリンの許可も貰うつもりだから安心してくれ」

「許可? 別に許可なんて必要無いですよ。どんどん認識されてチョコレートがこの世界に溢れたほうが私も嬉しいし」

 そう、それなら態々私が作らなくてもいいしね。それに、色々な人のアイデアが交ざれば色々なチョコレートが誕生するかも知れない。
 それはそれで嬉しい。

 そう思っていたのだがダンテさんは

「いや、そう言うわけにはいかない。重要な情報には報奨金が発生するからな。後でじっくり話す必要があるな。まぁ、心配するな悪いようにはしない」

 私はチョコレートを作ったことがこんなに大事になるとは思っていなかった。

 また面倒くさいことになったなぁと心の中で溜息を吐いた私だった。
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