転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第六十九話 嬉しい誤算

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 クッキー、パウンドケーキ、アップルパイ、シュークリーム、マドレーヌにプリン……

 私はここ二週間程毎日お菓子を作り続けている。

 時々、私を心配する手紙が届くがみんなには暫く一人になりたいと伝えた。みんなが私を心配してくれるのはありがたいと思う。

 でも、今は一人になりたかった。

 とは言え、ボーッとしていると余計な事を考えてしまうのでこうしてお菓子作りをしている。

 そう言えば、前世でもストレス解消にお菓子作りに励んでいたっけ……

 その度に友人達に食べるのを手伝って貰っていたことを思い出した。

 今は時間停止機能付きの食品庫があるのでストックしておけば腐ることもない。そのせいで自重がなくなった。

「それにしてもちょっと作り過ぎかなぁ」

 作ったお菓子を並べ、私はここでふと気付いた。何かが足りない……

 そうだ! お菓子の定番チョコレートがない! 前世でも私はチョコレートが好きでいつも常備していた。

 なんで忘れていたのだろうか?

 そう思ったらどうしてもチョコレートが食べたくなった。チョコレートを使ったお菓子も作りたい。

 チョコレートケーキ、チョコレートパイ、ブラウニー、チョコクッキー……

 この世界にチョコレートってあるのかしら?

 早速タブレットで検索してみる。

 ーーーー アスティアーテにはチョコレートは存在せず ーーーー

 …………存在せず? え? ないの? この世界にチョコレートは存在しないの?

 呆然としてしまった。なんと、この世界にはチョコレートが無いらしい。

 無いとなると余計に食べたくなる。

 私は前世でよく食べていたあのチョコレートの口の中に広がるカカオの風味と滑らかに溶けながら広がる甘さを思い出しながら愕然とした。

 ん? カカオ? もしかしてチョコレートと言う物が無くてもカカオならあるんじゃ……

 直ぐにタブレットで検索する。

 ーー地球にあったカカオと似たものはこの世界にあるのかしら?ーー

 ーーーー カクオの実、強い苦みがある。疲労回復、滋養強壮として薬屋で売られている。ティディアール王国ではカザフ領で一番多く生息 ーーーー

 カカオじゃなくてカクオ? いや、もうカカオで良くない?

 と思ったが勝手に名称を変える訳にはいかないだろう。

 カザフ領と言えば隣の領地だったわよね。じゃあ、もしかしたらヨダの町でも売っているかも知れない。たしかヨダの町にも薬屋があったはず。

 そう思ってタブレットに尋ねたらやっぱりその薬屋で手に入ることが分かった。

 よし、明日にでも行ってみよう。私は前世で食べたチョコレートの美味しさを思い出しながら自然に顔がにやけてくるのを抑えられなかった。

 

 早速翌日グレンの背に乗って、ヨダの町にある「最もよく効く薬屋」と言う看板がある薬屋に訪れた。もちろん、グレンの結界魔法によって誰にも認識されないまま目的地に辿り着いた。

 グレンには店の外に待機して貰い、早速薬屋の店内に足を踏み入れた。

 それ程広くない店内に入ると白髪のお婆さんが優しげな笑顔で迎え入れてくれた。

 薬師だと言うお婆さんは、私がカクオが欲しいと言ったら少し驚いていた。

「あの、カクオって何か問題があるんですか?」
 お婆さんの態度を不思議に思った私は首を傾げて尋ねた。

「いやいや、何も問題はないよ。只ね、カクオは格安だがかなり苦いと言うことを知っているかい? 同じ効能があるこっちの薬草の方がおすすめだよ。値段もそれ程高くはないしね」
 そう言ってお婆さんは薬草の入った瓶を取りだした。
 
 お婆さんは善意で私に他の薬草を勧めたが、私は効能を求めてカクオが欲しいのではない。あくまでもチョコレートを作る為なのだ。

 それにしてもカクオが格安なんて嬉しい誤算だ。

 薬屋にあったカクオは1㎏ほどしか無かったけど、全部買ったとしても100ロンと聞いてあまりの安さにでビックリした。砂糖とは雲泥の差だ。

 私の驚きを見たお婆さんは

「カクオは苦すぎてあんまり売れないんだよ。同じ効能を持つ苦みのない薬草があるからね。ちょっと高くてもみんなそっちを買っていくんだよ。でも、この瓶には状態維持の魔法が付与されているから悪くはなっていないから大丈夫だよ」

 お婆さんはカクオが入った瓶を持ち上げた。その言葉を聞いて安心した私はこの店にあるカクオ全てを購入することにした。

 念のため、お婆さんに全部買ったら他の人が困らないか尋ねたら、ここ3ヶ月程誰も買ってないから却ってありがたいと言っていた。

 瓶に入った不揃いに割られたカクオの塊はこのままお湯に溶かして飲むのだとお婆さんが教えてくれた。

 かなり細かく砕いて固めているので口の中に残ることもなく、苦ささえ我慢すれば飲めないことはないそうだ。

 どうやらエミュウさんが身体に浸透するように粒子を最大限細かくできる粉砕器を発明してくれたらしい。

 エミュウさんに作ってもらった粉砕器によって仕事がかなり楽になったと満面の笑みで喜ぶ薬師のお婆さん。

 流石エミュウさんである。

 彼方此方でエミュウさんの天才ぶりを聞いて私も何か欲しい物があったらエミュウさんに作ってもらおうと心の隅に書き留めた。

 お金を払っているときにお婆さんの後ろの棚をふと見ると何やら前世でも良く見たものが瓶の中に入っていることに気付いた。

「あっ、あの、あの瓶のもの見せて貰っていいですか?」
 私はその瓶の中の正体に期待がふくらみ思わず高い声を出してしまった。

「ええ、もちろんいいわよ。でも、お嬢さんにはあまり必要無いと思うわよ。これは、二日酔いとか眠気覚ましのクスリだからね。まあ、香りはいいんだけどね」
 そう言ってお婆さんは黒っぽい豆のようなものが入った瓶を私の前に差し出し蓋を開けた。

 その途端、前世で嗅いだ懐かしい独特の芳香が鼻を刺激した。

 ああ、やっぱり。これは前世のコーヒーと同じ香だ。

 この豆は、コーフィーと言うらしい。微妙に発音が違うがこれもコーヒーでいいんじゃね? と心の中で突っ込んでしまった。

 もちろん、コーフィーも買ったのは当然だ。でもカクオに比べてかなり高かった。どうやらコーフィーは海外から輸入しているらしい。

 割と需要もあるそうだったので全部買うわけには行かないと思い中袋一つを購入した。量は300グラムくらいで金額は500ロンだった。

 カクオやコーフィーを喜々として買う私にお婆さんは訝しげな顔をしていたけどそんな事は気にしない。

 美味しいものを作る為にはそれは私にとって些末なことである。

 私は、思わぬ食材ゲットに喜々として家路を急ぐのだった。
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