転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第五十八話 厄介な訪問者

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 カリンが出店の準備に勤しんでいる頃、クランリー農場の執務室ではダンテが頭を抱えていた。

「何も領主自ら訪れなくてもいいだろう……」
「まぁ、気にするな。今回はお忍びだ」
「いや、気にするだろ! いくらお忍びでもあんな馬車で来たらみんな驚くだろ!」
「なんだ? 先触れは出しておいたぞ」
「とにかく、あの馬車はダメだ! いくら家紋がなくても貴族の馬車だと直ぐに分かる」

 ダンテは嘆息した。

 言い合いをしている相手はタングスティン領主ウォルフ・タングスティンである。

 ウォルフが乗ってきた馬車はお忍び用で家紋が付いてないと言えど、どう見ても貴族の馬車にしか見えない豪華さだった。

 ダンテは何故ウォルフ自らここに来たのか大体見当がついていた。粗方カリン目当てだろう。カリンが出店することを知って、お忍びで接触を図ろうという魂胆であることはいくら鈍いダンテでも察しがつく。

「まぁいい。それは後だ。先ず座ってくれ。それで? 陛下に報告したのか?」
 ダンテはウォルフが腰掛けるのを確認すると話し始めた。

「ああ、トーシャの根のことはな。ヨダの町の者が偶々発見したと言って何とか誤魔化した」
「カリンのことはまだ話してないのか?」
「まだ話してない。カリンという少女がクラレシア神聖王国の王族であることは我々の憶測でしかないからな。それに、神獣のことを話してみろ。陛下が信じると思うか? 俺の頭が逝かれたのではないかと思われかねない」
「ふむ、それもそうだな。それにしてもよく誤魔化せたな」

「誤魔化したと言うか陛下が引いたんだな。まだ定かでは無いことを報告出来ない旨を伝えた。俺は陛下の信頼が厚いからな」
「そうか、でもいつまでも報告しないわけにはいくまい」
「そうだな……」
 ウォルトはダンテの言葉に溜息を吐いた。

「兎に角、トーシャの根のことはこちらで対処することで話はついた。だが突然トーシャの根から採取した砂糖を売り出すわけにもいかない。徐々に進めて行くしかあるまい。取り敢えず三年間は秘匿事項だ」

「具体的には?」
「トーシャの根を採取できる者を限定する。それとトーシャの根を切る為のナイフだな。ナイフの制作権はお前の義弟が経営するパルトナ商会と契約したと言うことだったな」
「ああ、その通りだ」

「ならば、先ずはそのナイフを俺から発注しよう。独占契約を結ぶんだ。そのナイフが手に入らなければいくらトーシャの根を採取してもどうにもならんだろう」
「ふむ、それで?」
 ダンテはウォルフに先を促した。

「後は、そうだなトーシャの根から採取した砂糖は三年間はこの領地内でしか取引出来ないようにする。それでだな、ダンテ、トーシャの根から採取した砂糖の結晶を商品化するための工房をこの地に建設したいと思うのだがどうだろうか?」

「この地……と言うと、ヨダの町にか? ヨダの町にはそんなスペースは無いぞ」
「町中ではない、町の外だ。ヨダの町とお前の農場の間に工房を作る。トーシャは今のところガイストの森でしか生息が確認されていない。近い場所に工房があった方がいいだろう」
 ダンテはウォルフの言葉を聞いて逡巡する。

「だが……人手はどうする? すぐには集まらないんじゃないか?」
「なぁに、王都の北の方では難民を受け入れすぎて人手が有り余っているそうだ」
「難民? 元クラレシア神聖王国の民か? クラレシアの国民は元々少なく、犠牲者も多かったと言うからそれ程難民がいるとは思えないが」
「いや、クラレシアではない。ドメル帝国の民だ。北の方ではどうやら国境を越えて来る者が多く、その対応に追われているようだ」

「ドメル帝国? それ程ドメル帝国の現状は酷いのか?」
「ああ、そのようだな。王都に行ったときに息子に聞いたんだがドメル帝国の難民達はみんなやせ細っていつ死んでもおかしくないらしい。俺の息子は王都で外務の官僚をしているから詳しいんだ」

「なるほど。愚かな君主の下では一番下の者が割を食う。とは言え、ドメルの民全員を信じることは出来ないな」
「ああ、だからドメルの民には仕事を提供する代わりに血の契約をして貰おうと思う」
「血の契約? 本気か?」
「ああ仕方が無い。優先するのは難民よりも自国の民だ」

 ダンテはウォルフの答えは当然だと思った。どんなに強い権力を掲げていてもこの世界の全ての人間を救うなど不可能なのだ。それは例え王族であってもだ。

 それ故守るべき優先順位を決めることは権力者として背負うべき業であることは十分理解できた。

 ダンテはその事を難なく言い放つ親友に尊敬の念を抱いた。

 しかし、血の契約とは元々奴隷を懐柔する為の契約だ。契約内容によっては命をかけさせる物もある。


「だが、大丈夫なのか? ドメル帝国の者は魔力を殆ど持たないと言うが……」

 ダンテの懸念はドメル帝国の国民は生命維持をする最低限の魔力しか持たないと言うことだった。だからドメル帝国の民は魔法が使えない。

 魔法が使えなければ魔導具を動かすために魔力が蓄積された魔鉱石が必要である。

 その弱点を払拭するためにドメル帝国は魔鉱石を用いた魔導具の開発に注力した。ドメル帝国には魔鉱石鉱山が多かったこともそれを加速させた。
 
「まぁ、それも何とかなるだろう。ヨダの町にエミュウ・グランディアがいるだろう? ドメル帝国出身の天才魔導具師だ。彼女に協力を仰ごうと思う。彼女はそこで特級魔導具師だったようだからな」

「なんだ、お前も彼女の事を知っていたのか?」
「ああ、お前の導きでこの町で魔導具屋を営んでいるんだろ?」

「ああ、冒険者時代に助けられたことがあるからな。よく知っているな」
「おいおい、俺を誰だと思う? 一応この土地の領主だぞ。他国の者がこの土地に足を踏み入れた時点で情報が入ってくる」

 ダンテはウォルフが意外と情報通であることに驚きを隠せなかった。とは言え、これくらいの情報を得られないようでは領主は勤まらないだろうが。

 それでも、ウォルフの大ざっぱな性格を知っているダンテは細かいことまで把握しているウォルフに違和感を覚えたのだ。

「まぁ、このことは先日王都に行ったときに息子に聞いて初めて分かったのだがな。ハハハッ」

 やっぱりウォルフはウォルフだったことにダンテは心なしか安心するのだった。
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