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第四章 お猫様とご主人さま

お猫様は、性悪なオスを観察する【ΦωΦ】

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     ΦωΦ

 ジャルの攻撃をまともに喰らったウォルフは、勢いよく後方へと吹き飛ばされる。その距離およそジャルの身長二十個分くらい。地面に落ちたと思ったら、ニンゲンの形をしているヤツがおおよそしてはいけないようなバウンドを六回くらいして、そのまま倒れ伏した。
 ウォルフがそのまま大人しく倒れてくれればいいんだけど、なんとなくそんなことはないだろうっていう確信があった。だからアタシたちは慎重に、そろそろとウォルフの元へ歩を進める。そうしたら案の定、ウォルフが勢いよく顔を上げた。

「ぶっは! 今のはさすがに効いた! マジ痛ってぇ!」
「……効いたのならば、そのまま気を失ってくれればいいものを」
「ふへぇ、相変わらずオレに対しては辛辣だよねぇ」
「優しくして欲しいのならば、それなりの態度を取ることだな」
「それはそれでなんかヤだな」

 全身のバネを利用して立ち上がったウォルフは、赤くなっている左頬に手を当てる。すると、みるみるうちに奴のダメージが回復していった。見たところ神力を怪我したところに注いだみたいだ。怪我があっという間に治るのは便利だと思う反面、今は心底ムカつく。黙って怪我したままでいればいいのに。
 ウォルフは二回殴られた頬をペチペチと軽く叩いて、うんと小さく頷いた。

「よしよし、治った治った。さあて、それじゃ次はオレの番ね」

 奴はそう言ってニヤリと笑うと、ゆらりと右手を挙げた。それはアタシが傷付けた方の手だ。もう血は出ていないみたいだけれど、細くて赤い線がうっすらと走っている。アレが、アタシの爪が残した傷跡だ。次はガッツリ噛んで穴を空けてやらなきゃ。
 そんなことより、ウォルフはいったい何をするつもりのかしら。指先に神力を集めているみたいだけれど、その指はアタシたちを向いているようで微妙にずれている。

「それじゃ、昔よりも強くなったお前がどれだけ耐えられるか、確認させてもらおうかな」

 ウォルフはそんなことを言いながら、神力を集めた指先で円を描いた。すると、金色の光が弾丸となってジャルに放たれる。この光の軌道を見たジャルは、サッと顔色を変えた。
 ジャルは左の掌に瞬時に魔力を集めると、左手を伸ばして金色の弾丸を受け止め消滅させる。
 攻撃を無効化されたというのに、ウォルフは嫌味な笑みを浮かべていた。

「……っ! ウォルフ!」
「へへ、なかなかいいプレゼントだと思わないか?」
「戯言はいい! お前、私ではなくアイラさんを狙ったな!?」
「そうだぜ?」

 二人のやり取りを聞いて、頭を殴られたような気分だった。
 この性悪オスは、ご主人さまを攻撃したの?

「ジャルを直接攻撃するより、こっちの方が長く遊べそうじゃん? オレの攻撃だから無視することもできないだろ?」
「本当に、お前は性格が悪い……!」
「褒め言葉ありがとー」

 ウォルフは軽い調子で返事をして、金色の弾丸をとても数えられないくらいにたくさん生み出す。そしてそれらをバラバラに、ご主人さまたちのところだけでなく、アタシたちにも向かって射出し始めた。

「マロンちゃん、私より後ろに下がってください!」

 ジャルの言葉に従って下がると、アタシの目の前に魔力でできている盾が現れた。その盾に阻まれて金色の弾丸が霧散する。この弾が命中していたらと想像して、ブルリと身震いを一つした。
 アタシの前に立つジャルは、ウォルフの攻撃からアタシたちを庇いつつ魔力を後方に飛ばす。これはいったいなんなのかと思っていると、ジャルが小さく何か呟いていた。

「ダニー、結界の強化を。ウォルフが意図的にそちらに攻撃を仕掛けている。現時点ではすべて防いでいるが、ウォルフのことだ、他にも何か企んでいる可能性がある」

 どうやらこの魔力はダニーへ連絡するためのもののようだ。ダニーとサディがご主人さまを守ってくれているから、確かにこのウォルフの攻撃内容は共有しておくべきだろう。アタシもウォルフがこのまま攻撃し続けるだけで満足するとは思えないし。
 アタシはアタシでウォルフを観察しておかなきゃ。金色の光が邪魔だけれど、それでもアタシはウォルフの神力の流れが見えてるから。今はまだ右の指先にしか神力は込められていないみたいだけど、油断は禁物よね。
 できることなら、ジャルに守られるだけじゃなくてアタシも奴に一泡吹かせたい。だけど、アタシにはウォルフの攻撃を防ぐ方法がない。

「ニャ」

 もう、嫌になっちゃうわ。

 そんなことを考えていたアタシの視界の端に、奇妙なものが映った。よくよく目を凝らして見ると、それは薄く引き伸ばされた神力のようだった。

「ニャア!」

 ウォルフが何かをしようとしているとジャルに伝えるけれど、彼は金色の弾丸を防ぐのに手一杯でアタシの声に気付いていない。もちろんジャルもウォルフの動きを注視しているけれど、彼には神力が分からないはず。だから、ここはアタシが動くしかない。
 アタシはなるべくウォルフよりも後ろに立つようにしながら、怪しい神力の動く先へと移動する。

「ンニャン!」

 タイミングを見計らって薄く引き伸ばされた神力に噛みついて、勢いのままに引きちぎる。その時うっかり、ウォルフの神力を飲み込んでしまった。

 ぺっぺ、なんてこと! すっごくまずいわ!
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