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第二章 田舎娘とお猫様の初めての都会
田舎娘は、最後の仕上げをする
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「アイラー! リオン連れて来たよー!」
そんな声と共に、サディさんがリオン様を連れて厨房までやって来た。いやちょっと待って。あなたたち私から見たら上司? とお客様だから。厨房に入って来るのはさすがにおかしいでしょ。
だけどそんなことなど、サディさんが気にするはずもない。彼女は半歩後ろに立っていたリオン様の頭を撫でながら、あっはっは、と笑っていた。
……神王様相手になんとも不敬な態度ではあるが、それがサディさんらしいといえばサディさんらしい。サディさんから更に一歩後ろに下がったリオン様も、彼女のことを半眼で見つめている。あの目は『こいつだから仕方がない』とでも思っているのだろうか。
リオン様は短く溜め息をつくと、物珍しそうに厨房内をぐるりと見回した。
「魔王の専属シェフとはどういうものかと思っていたが、なかなか設備は整っているようだな」
神王様らしく威厳のある物言いだけれど、ふんふんと厨房内に漂う匂いを嗅いで目を輝かせているその姿は子供らしく見えて可愛らしい。だからだろうか、私の緊張も少し解れてリオン様の言葉に返事をすることができた。
「はい。私も初めて見た時は驚きました。ですが、このような立派な厨房で料理をすることができて、私もとても楽しいですし、やりがいもあります」
「おお、それは良かった! それで、今日のメニューはいったいなんだい?」
サディさんの脳内はもうご飯のことでいっぱいらしい。今にもよだれを垂らしそうな表情を浮かべているけれど、そんな顔ですら様になるから美形というのは本当にずるいと思う。
私は苦笑しつつ、サディさんの質問に答えた。
「今日はおこ……じゃなかった、オムライスとハンバーグ、お魚のフライと、お野菜のスープ、そしてデザートにプリンをご用意しました」
いけないいけない、うっかりお子様ランチと口に出すところだった。
言葉に詰まったことを疑問に思われたらどう言い訳しようかと考えていたけれど、サディさんとリオン様は特にそれについては言ってこなかった。むしろ、私が並べたメニューの方が気になっているようだ。
「ハンバーグと魚のフライは分かるけど、オムライスとプリンは聞いたことがないなぁ」
「ぼくも初めて聞いた。なんだそれは? お前が元いた世界の料理なのか?」
「あ、はい。オムライスはお米……は、この世界ではなんというのか分からないですけど、白い小さな粒の穀物を炊いて、それをチッケの肉やオリヨンと共に炒めて、ケチャップというママトを加工した調味料で味付けをしたものを卵で包んだ料理です」
私のこの説明では上手く伝わらなかったようで、二人とも首を傾げていた。リオン様に至ってはこちらを訝しげに見つめてくる。きっと何か変なものでも食べさせられるのではないのかと疑っているのだろう。
「何度も味見はしました。きちんと美味しくできています」
こんな言葉では不安は拭えないだろうけれど、私だって自身の料理の腕はそれなりだと自負している。絶品とまではいかなくとも、普通に美味しい、くらいのものはできているはずだ。
「それでは今から最後の準備をしますので、お二人はお隣の部屋でお待ちください」
「はーい。それじゃ行こうか、坊ちゃん」
「お前、ジャルおじさんが帰って来たら言いつけてやるからな」
サディさんとリオン様は気安い様子で隣の部屋へと向かった。
よし、それじゃあ作業開始だ。
スープはいつでも出せるし、魚のフライ、ハンバーグは先にある程度火を通している。チキンライス……じゃなかった、チッケライスも先ほど温めたから、今からやるべきは卵で包む準備だ。
私は一時期、美味しいオムレツ作りに凝っていたことがある。それこそ毎日のように作っていたせいで、一人暮らしのくせに十個入りの卵二パックを一週間で使い切ってしまうくらいに。
「でもそのおかげで、綺麗なオムレツを作れるようになったんだよね」
その技術を応用していろんな具材を包んでいた。チキンライスだってもちろん包んでいる。つまり、オムライスは得意料理の一つでもあるのだ。
今日はお子様ランチのオムライスだから、気持ち小さめでいい。それでも卵は一人三つ使う。使い過ぎとか言われるかもしれないけれど、これが美味しいのだから仕方がない。
卵以外にもミルクも必要だ。このミルクの水分がオムレツ作りにいい効果を生み出すのだ。
ボウルに卵を三つ割り、ミルクを少量加えてしっかりとかき混ぜる。
「うーん、フォークやスプーンで混ぜるのもいいんだけど、やっぱり菜箸が欲しいなぁ」
前世が日本人であるためか、調理の際は菜箸がやはり使いやすく感じてしまう。物としては気持ち長い棒二本だから、誰かに言ったら作ってくれないだろうか。
まあ、今はそんな贅沢なことは言わないでおこう。それよりもオムライス作りに集中しなくては。
卵液の準備が終わったら、少し小さめのフライパンを強火で熱し、そこに多めの油を引く。目安としてはフォークの先端に付けた卵液がジュウッと音を立てる程度。そうなったら一度火を弱めて、卵液を一気に注ぎ入れる。ここからは時間との勝負だ。
「とにかくフライパンを揺らしながら卵を混ぜる!」
完全に固まらないように注意しながらひたすら混ぜる。ある程度卵の表面が固まったら一度火から上げて、そこにチッケライスを適量盛る。あとはこれを包むだけだ。
再び弱火でフライパンを熱し、頃合いを見ながら卵を返す。私はまず手前から奥側に向けて返し、卵の先端をフライパンの縁で焼いて固めてから、今度は手前に返し形を整えるという方法を採っている。
オムレツというものは手首をトントンと叩いて返すものだと思っていたから、このやり方を知った時はなかなかに衝撃的だった。
「でも、それでオムレツが得意料理になるんだから、人生分からないものだよね」
今世では卵はなかなかの貴重品だったから、そんな贅沢なものは作れなかったけれど。
「ふふ、これだけ卵もあるんだし、今度はケーキも焼いてみようかな」
ハンドミキサーなんて便利なものはないから、腕が大変なことになりそうだけどね。
そんなことを言っているうちに、綺麗なオムライスができあがった。あとはこれを大きめのお皿に移してケチャップを適量かけたら完成だ。
「よし、あとはハンバーグとフライ、スープを準備して……完成!」
本当はサラダも作った方が良かったのだろうけれど、これはあくまでお子様ランチ、そんな野暮なことは言うまい。一応、スープの方を野菜たっぷりにしているし。
さて、あとはこの料理を隣の部屋に運ぶだけ。ちなみに、そのためのワゴンが部屋の隅に置いてあるのはすでに確認済みだ。私はそのワゴンを引っ張り出そうと取っ手に手を掛ける。
……あれ、なんだか重い。
「え、なんで……って、マロン! あなたこんなところで寝てたの!」
ワゴンの下の、ナフキンや予備の食器なんかを置いておくスペースで、私の可愛いマロンが丸くなって――俗に言う『アンモニャイト』の形で、スヤスヤと眠っていた。
うう、こんなに心地良さそうに眠っているマロンを退かすのは気が引ける。だけど、ここは心を鬼にして接しないと。
「マロン、ここで寝ちゃだめだよ」
「ゥニャァ」
マロンの体に触ると彼女は不満げな声を漏らした。
「もう、ごめんね。マロンはベッドで寝ててね」
よしよしと頭を撫でてやれば、しょうがないとでも思っているのかフスッ、と鼻から空気を漏らす。そしてのそりと起き上がると、トコトコとマロン用の寝床へと歩いて行った。
「うん、これやっぱり私の言葉理解してるよね」
なんだろう、ちょっと嬉しいな。
少しだけ幸せな気分に浸りながらも、私は手早くワゴンを拭き上げる。ここに来て動物の毛の料理への混入は許されない。
ワゴンが綺麗になったことを確認してから料理を乗せる。ほかほかと湯気を立てる自信作は、我ながらとても美味しそうだ。
「お二人の口に合うといいな」
ドキドキとうるさい心臓を落ち着かせるように二回深呼吸して、私はリオン様とサディさんの待つ隣の部屋への扉を開けた。
そんな声と共に、サディさんがリオン様を連れて厨房までやって来た。いやちょっと待って。あなたたち私から見たら上司? とお客様だから。厨房に入って来るのはさすがにおかしいでしょ。
だけどそんなことなど、サディさんが気にするはずもない。彼女は半歩後ろに立っていたリオン様の頭を撫でながら、あっはっは、と笑っていた。
……神王様相手になんとも不敬な態度ではあるが、それがサディさんらしいといえばサディさんらしい。サディさんから更に一歩後ろに下がったリオン様も、彼女のことを半眼で見つめている。あの目は『こいつだから仕方がない』とでも思っているのだろうか。
リオン様は短く溜め息をつくと、物珍しそうに厨房内をぐるりと見回した。
「魔王の専属シェフとはどういうものかと思っていたが、なかなか設備は整っているようだな」
神王様らしく威厳のある物言いだけれど、ふんふんと厨房内に漂う匂いを嗅いで目を輝かせているその姿は子供らしく見えて可愛らしい。だからだろうか、私の緊張も少し解れてリオン様の言葉に返事をすることができた。
「はい。私も初めて見た時は驚きました。ですが、このような立派な厨房で料理をすることができて、私もとても楽しいですし、やりがいもあります」
「おお、それは良かった! それで、今日のメニューはいったいなんだい?」
サディさんの脳内はもうご飯のことでいっぱいらしい。今にもよだれを垂らしそうな表情を浮かべているけれど、そんな顔ですら様になるから美形というのは本当にずるいと思う。
私は苦笑しつつ、サディさんの質問に答えた。
「今日はおこ……じゃなかった、オムライスとハンバーグ、お魚のフライと、お野菜のスープ、そしてデザートにプリンをご用意しました」
いけないいけない、うっかりお子様ランチと口に出すところだった。
言葉に詰まったことを疑問に思われたらどう言い訳しようかと考えていたけれど、サディさんとリオン様は特にそれについては言ってこなかった。むしろ、私が並べたメニューの方が気になっているようだ。
「ハンバーグと魚のフライは分かるけど、オムライスとプリンは聞いたことがないなぁ」
「ぼくも初めて聞いた。なんだそれは? お前が元いた世界の料理なのか?」
「あ、はい。オムライスはお米……は、この世界ではなんというのか分からないですけど、白い小さな粒の穀物を炊いて、それをチッケの肉やオリヨンと共に炒めて、ケチャップというママトを加工した調味料で味付けをしたものを卵で包んだ料理です」
私のこの説明では上手く伝わらなかったようで、二人とも首を傾げていた。リオン様に至ってはこちらを訝しげに見つめてくる。きっと何か変なものでも食べさせられるのではないのかと疑っているのだろう。
「何度も味見はしました。きちんと美味しくできています」
こんな言葉では不安は拭えないだろうけれど、私だって自身の料理の腕はそれなりだと自負している。絶品とまではいかなくとも、普通に美味しい、くらいのものはできているはずだ。
「それでは今から最後の準備をしますので、お二人はお隣の部屋でお待ちください」
「はーい。それじゃ行こうか、坊ちゃん」
「お前、ジャルおじさんが帰って来たら言いつけてやるからな」
サディさんとリオン様は気安い様子で隣の部屋へと向かった。
よし、それじゃあ作業開始だ。
スープはいつでも出せるし、魚のフライ、ハンバーグは先にある程度火を通している。チキンライス……じゃなかった、チッケライスも先ほど温めたから、今からやるべきは卵で包む準備だ。
私は一時期、美味しいオムレツ作りに凝っていたことがある。それこそ毎日のように作っていたせいで、一人暮らしのくせに十個入りの卵二パックを一週間で使い切ってしまうくらいに。
「でもそのおかげで、綺麗なオムレツを作れるようになったんだよね」
その技術を応用していろんな具材を包んでいた。チキンライスだってもちろん包んでいる。つまり、オムライスは得意料理の一つでもあるのだ。
今日はお子様ランチのオムライスだから、気持ち小さめでいい。それでも卵は一人三つ使う。使い過ぎとか言われるかもしれないけれど、これが美味しいのだから仕方がない。
卵以外にもミルクも必要だ。このミルクの水分がオムレツ作りにいい効果を生み出すのだ。
ボウルに卵を三つ割り、ミルクを少量加えてしっかりとかき混ぜる。
「うーん、フォークやスプーンで混ぜるのもいいんだけど、やっぱり菜箸が欲しいなぁ」
前世が日本人であるためか、調理の際は菜箸がやはり使いやすく感じてしまう。物としては気持ち長い棒二本だから、誰かに言ったら作ってくれないだろうか。
まあ、今はそんな贅沢なことは言わないでおこう。それよりもオムライス作りに集中しなくては。
卵液の準備が終わったら、少し小さめのフライパンを強火で熱し、そこに多めの油を引く。目安としてはフォークの先端に付けた卵液がジュウッと音を立てる程度。そうなったら一度火を弱めて、卵液を一気に注ぎ入れる。ここからは時間との勝負だ。
「とにかくフライパンを揺らしながら卵を混ぜる!」
完全に固まらないように注意しながらひたすら混ぜる。ある程度卵の表面が固まったら一度火から上げて、そこにチッケライスを適量盛る。あとはこれを包むだけだ。
再び弱火でフライパンを熱し、頃合いを見ながら卵を返す。私はまず手前から奥側に向けて返し、卵の先端をフライパンの縁で焼いて固めてから、今度は手前に返し形を整えるという方法を採っている。
オムレツというものは手首をトントンと叩いて返すものだと思っていたから、このやり方を知った時はなかなかに衝撃的だった。
「でも、それでオムレツが得意料理になるんだから、人生分からないものだよね」
今世では卵はなかなかの貴重品だったから、そんな贅沢なものは作れなかったけれど。
「ふふ、これだけ卵もあるんだし、今度はケーキも焼いてみようかな」
ハンドミキサーなんて便利なものはないから、腕が大変なことになりそうだけどね。
そんなことを言っているうちに、綺麗なオムライスができあがった。あとはこれを大きめのお皿に移してケチャップを適量かけたら完成だ。
「よし、あとはハンバーグとフライ、スープを準備して……完成!」
本当はサラダも作った方が良かったのだろうけれど、これはあくまでお子様ランチ、そんな野暮なことは言うまい。一応、スープの方を野菜たっぷりにしているし。
さて、あとはこの料理を隣の部屋に運ぶだけ。ちなみに、そのためのワゴンが部屋の隅に置いてあるのはすでに確認済みだ。私はそのワゴンを引っ張り出そうと取っ手に手を掛ける。
……あれ、なんだか重い。
「え、なんで……って、マロン! あなたこんなところで寝てたの!」
ワゴンの下の、ナフキンや予備の食器なんかを置いておくスペースで、私の可愛いマロンが丸くなって――俗に言う『アンモニャイト』の形で、スヤスヤと眠っていた。
うう、こんなに心地良さそうに眠っているマロンを退かすのは気が引ける。だけど、ここは心を鬼にして接しないと。
「マロン、ここで寝ちゃだめだよ」
「ゥニャァ」
マロンの体に触ると彼女は不満げな声を漏らした。
「もう、ごめんね。マロンはベッドで寝ててね」
よしよしと頭を撫でてやれば、しょうがないとでも思っているのかフスッ、と鼻から空気を漏らす。そしてのそりと起き上がると、トコトコとマロン用の寝床へと歩いて行った。
「うん、これやっぱり私の言葉理解してるよね」
なんだろう、ちょっと嬉しいな。
少しだけ幸せな気分に浸りながらも、私は手早くワゴンを拭き上げる。ここに来て動物の毛の料理への混入は許されない。
ワゴンが綺麗になったことを確認してから料理を乗せる。ほかほかと湯気を立てる自信作は、我ながらとても美味しそうだ。
「お二人の口に合うといいな」
ドキドキとうるさい心臓を落ち着かせるように二回深呼吸して、私はリオン様とサディさんの待つ隣の部屋への扉を開けた。
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