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番外編 逃がさないけどね ~一ノ瀬君side~ その19
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「…怒ってないの?」
俺の顔色を窺うように、彼女が尋ねてきた。
「何で怒るんです?確かにちょっと虚しくなったんで拗ねちゃいましたけど。元々怒ってはいませんよ」
「えっ?でも…怒ってたから、別れ話を受け入れたんじゃ…」
は?……何言ってんの?別れ話を受け入れたって…いつ?誰が?
「はあ!?俺、別れ話を受け入れた記憶なんかありませんけど!真緒さんは、俺と別れたつもりでいたんですか?」
おいおい、マジかよ?既に俺と別れたつもりでいたわけ?あっぶねー。今日無理してでも会いに来て良かったわ…。原口さん、マジ感謝!あとで幻の酒でも奢ってやらなきゃ。…あ、勿論中村つきで。
「えっ?だってあの時、私が別れ話を持ち掛けたら『分かりました』って言ってたし。しかもその後、一人で部屋を出てっちゃったし。次の日の夜になっても帰って来なかったし。だから…」
次の日の夜って…。あの日、やっぱり俺の帰りを待っていてくれたのか!夜って事は、もしかして入れ違いだった?ちょっと…いや、かなり嬉しい!
それに困ったような顔して首を傾げているのも可愛い。俺とは違って、これが計算じゃないのだから恐ろしいわ。
……って、さすがにコレはそんな事で誤魔化されていい案件じゃないよね?
「あれはそういう意味での『分かりました』じゃありません!勝手に勘違いしないで下さい!しかも俺、『距離をあけましょう』としか言ってませんよ!
大体、貴女がいつまでも意地張ってるからいけないんですよ!どう考えたって俺の事が好きなくせに、認めようともしないし。今回の事だって、真緒さんがとても辛そうだったから、見るに見かねて距離をあける提案をしたんですよ!まったく。俺から離れられるわけがないのに無理しちゃって。どうせ、また一人でろくでもないない事考えてたんでしょ?」
「ろくでもないって…。ねえ、前から思ってたけど、一ノ瀬君てすっごい自信家だよね?」
「そうでもなけりゃ、真緒さんと一緒にはいられませんよ」
人一倍臆病な彼女には、自信家な俺が相応しいのだと言外に匂わせて、俺は不敵に笑った。
精一杯の見栄、というか強がりだった。確かに俺は何でもある程度こなす自信があるし、そこそこモテる自覚もある。自己肯定感が高いから、自信家と言えば、自信家なのだろう。けれど、それは彼女に関する事以外に限られる。
彼女が俺との年の差を気にしているように、本当は俺だって気にしている。彼女が若くて可愛い子にコンプレックスを抱いているように、俺だって大人の余裕を感じさせるあの男を意識している。
仕方ないだろう?誰だって、恋をすれば不安になるものなのじゃないのか?
「ねえ一ノ瀬君。一つ聞いてもいい?」
「何です?」
「一ノ瀬君にとっての『幸せ』って何?実は紗耶香にすごく怒られちゃって…。私、一ノ瀬君の『幸せ』を勝手に決めつけちゃっていたから。だから本人に直接確かめようと思ったの。ねえ、一ノ瀬君はどんな時に『幸せ』を感じるの?」
「俺にとっての『幸せ』ですか?」
俺の『幸せ』、ね。俺はポケットの中身を服の上からそっと撫ぜた。
「それって正直に答えたら、なんか特典でも付いてくるんですか?」
「特典?特典かどうかは分からないけれど。私ができる事なら何でもするよ。一ノ瀬君の『幸せ』がきっと私の『幸せ』だから」
「じゃあ、何の問題もないですね」
よし!言質は取った。
不思議そうに首を傾げている彼女の腕を引いてベッドの上に座らせると、俺はその前に跪いた。そして、ポケットの中から例の必需品を取り出すと彼女の前へと差し出した。
「じゃあ真緒さん。俺の『幸せ』の為にも、貴女の『幸せ』の為にも、俺と結婚してください」
些細な感情の揺らぎも見逃さぬよう、彼女の瞳を覗き込みながら求婚の言葉を口にする。彼女の隣に腰をおろし、指輪を台座から外して、それを彼女の左手の薬指に嵌めた。
「俺はこの先、真緒さんとずっと一緒にいたいと思ってます。前にも言ったと思いますが。俺、貴女の事を一生逃がす気ないので、もうこの辺でおとなしく捕まっといてくれませんか?」
…まあ、逃す気なんて毛頭ありませんけど。
そうして俺は彼女を確実に囲い込むべく、例の作戦…プロポーズ大作戦を実行に移したのだ。
俺の顔色を窺うように、彼女が尋ねてきた。
「何で怒るんです?確かにちょっと虚しくなったんで拗ねちゃいましたけど。元々怒ってはいませんよ」
「えっ?でも…怒ってたから、別れ話を受け入れたんじゃ…」
は?……何言ってんの?別れ話を受け入れたって…いつ?誰が?
「はあ!?俺、別れ話を受け入れた記憶なんかありませんけど!真緒さんは、俺と別れたつもりでいたんですか?」
おいおい、マジかよ?既に俺と別れたつもりでいたわけ?あっぶねー。今日無理してでも会いに来て良かったわ…。原口さん、マジ感謝!あとで幻の酒でも奢ってやらなきゃ。…あ、勿論中村つきで。
「えっ?だってあの時、私が別れ話を持ち掛けたら『分かりました』って言ってたし。しかもその後、一人で部屋を出てっちゃったし。次の日の夜になっても帰って来なかったし。だから…」
次の日の夜って…。あの日、やっぱり俺の帰りを待っていてくれたのか!夜って事は、もしかして入れ違いだった?ちょっと…いや、かなり嬉しい!
それに困ったような顔して首を傾げているのも可愛い。俺とは違って、これが計算じゃないのだから恐ろしいわ。
……って、さすがにコレはそんな事で誤魔化されていい案件じゃないよね?
「あれはそういう意味での『分かりました』じゃありません!勝手に勘違いしないで下さい!しかも俺、『距離をあけましょう』としか言ってませんよ!
大体、貴女がいつまでも意地張ってるからいけないんですよ!どう考えたって俺の事が好きなくせに、認めようともしないし。今回の事だって、真緒さんがとても辛そうだったから、見るに見かねて距離をあける提案をしたんですよ!まったく。俺から離れられるわけがないのに無理しちゃって。どうせ、また一人でろくでもないない事考えてたんでしょ?」
「ろくでもないって…。ねえ、前から思ってたけど、一ノ瀬君てすっごい自信家だよね?」
「そうでもなけりゃ、真緒さんと一緒にはいられませんよ」
人一倍臆病な彼女には、自信家な俺が相応しいのだと言外に匂わせて、俺は不敵に笑った。
精一杯の見栄、というか強がりだった。確かに俺は何でもある程度こなす自信があるし、そこそこモテる自覚もある。自己肯定感が高いから、自信家と言えば、自信家なのだろう。けれど、それは彼女に関する事以外に限られる。
彼女が俺との年の差を気にしているように、本当は俺だって気にしている。彼女が若くて可愛い子にコンプレックスを抱いているように、俺だって大人の余裕を感じさせるあの男を意識している。
仕方ないだろう?誰だって、恋をすれば不安になるものなのじゃないのか?
「ねえ一ノ瀬君。一つ聞いてもいい?」
「何です?」
「一ノ瀬君にとっての『幸せ』って何?実は紗耶香にすごく怒られちゃって…。私、一ノ瀬君の『幸せ』を勝手に決めつけちゃっていたから。だから本人に直接確かめようと思ったの。ねえ、一ノ瀬君はどんな時に『幸せ』を感じるの?」
「俺にとっての『幸せ』ですか?」
俺の『幸せ』、ね。俺はポケットの中身を服の上からそっと撫ぜた。
「それって正直に答えたら、なんか特典でも付いてくるんですか?」
「特典?特典かどうかは分からないけれど。私ができる事なら何でもするよ。一ノ瀬君の『幸せ』がきっと私の『幸せ』だから」
「じゃあ、何の問題もないですね」
よし!言質は取った。
不思議そうに首を傾げている彼女の腕を引いてベッドの上に座らせると、俺はその前に跪いた。そして、ポケットの中から例の必需品を取り出すと彼女の前へと差し出した。
「じゃあ真緒さん。俺の『幸せ』の為にも、貴女の『幸せ』の為にも、俺と結婚してください」
些細な感情の揺らぎも見逃さぬよう、彼女の瞳を覗き込みながら求婚の言葉を口にする。彼女の隣に腰をおろし、指輪を台座から外して、それを彼女の左手の薬指に嵌めた。
「俺はこの先、真緒さんとずっと一緒にいたいと思ってます。前にも言ったと思いますが。俺、貴女の事を一生逃がす気ないので、もうこの辺でおとなしく捕まっといてくれませんか?」
…まあ、逃す気なんて毛頭ありませんけど。
そうして俺は彼女を確実に囲い込むべく、例の作戦…プロポーズ大作戦を実行に移したのだ。
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